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29 金の魔力持ちは、翻弄される、、、

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どうかこの想いが届いてほしい•••
目が涙で滲む。祈るような気持ちで見ているしかできない。何度も恐怖が迫り上げてきて、身体の震えが止まらない•••

「アーシャ、僕たちが見てるから、少し隣の部屋で休んで。」
フェンリルが私を気遣い、声を掛けてくれる。

「殿下、少し休まれたほうが、、」
シルヴィオも、昨晩から椅子やら冷たいタオルやらいろいろ用意してくれてありがたいのだけど、、

「心配かけてごめんなさい•••でも、カイルが目を覚ますまでは、そばにいてあげたいの•••。」

エドゥアルト王子からもらった解毒薬は、昨晩カイルに飲ませた。私たちが到着した時、カイルの顔は血の気が失せ、呼吸も耳を近づけてやっと微かな息を聞き取れる程度だった•••診察した医師の説明によると、カイルの体温は下がる一方、、呼吸困難な状態、意識はおそらく朦朧としており、このままでは今晩命を落としてもおかしくない状態だと言うことだった•••医師の言葉を聞いた瞬間、フェンリルは束の間茫然と立ち尽くし、シルヴィオも拳を握り締め、何かを耐え忍ぶように唇を震わせた•••

昨日は一日中、カイルの怪我を聞きつけた城の騎士たち、それにカイルに恋心を寄せているご令嬢らなどが多く見舞いに訪れたそうだが、カイルの肩の怪我が回復したことについてはすぐに秘匿事項とされたため、カイルの両親にのみ面会が許された。両親等は能力については知らなかったようで驚き、そして毒の件を聞き、母親は泣き崩れたと言う•••• 私のせいだ•••!!! 私があの晩、、•••カイルは私を庇って•••


手を触ったらとても冷たくて、すぐに両手で包み込んだ•••少しでも温められたら、、とささやかな願いと共に、夜を過ごした••
窓の隙間から朝日が差し込み始め、カイルの顔がよりはっきりと見える•••



「こうして見ると今にも目を覚ましそうだ•••」
ポツリとフェンリルが溢した言葉にシルヴィオも私も頷く。

「ああ、昨晩のことが夢のようだ•••」
シルヴィオは目を細めて穏やかに言うが、本当に昨日今日は生きた心地がしなかった•••
あれほどの刺し傷が綺麗に治ったかと思えば、昨晩は毒で瀕死の重体だったのに、エドゥアルト王子から貰った解毒薬のおかげで、一晩でここまで回復を見せた。

確かに、昨晩よりカイルの顔色が大分良くなった?••••それに手•••手から伝わる体温も、今は温かく感じる•••




「•••」

!?


!カイル!?カイルが何かを語るように口を動かしているが声にまでなっていない•••!? 目が今にも開きそう??な動きを見せるけれど眩しいのか、開きそうで開かない•••

全員が固唾をのんで見守る中•••


•••ゆっくりとカイルの瞳が開いていく•••まだ意識がはっきりとしていないのか、、、どこを見ているか定まらない感じだけれど•••カイルの瞳が開いた•••!!!?

「カイル••!?」
フェンリルがその第一声を発した途端、シルヴィオの大声が続いた••!!
「ッカイル!!大丈夫か•••?」

「!!!! カイル••!!!!」
私はまた、自分の目に涙が溜まるのを感じた•••

シルヴィオが、水の入ったグラスをカイルの口元に近づける。

「カイル、飲めるか?」

ゴクゴクッと、水を少しづつ口に飲み込んだカイルの喉がなる。呼吸を少しずつ整え、カイルが何事か話そうとしているが、、まだうまく言葉になっていない•••

「ッ•••」


「カイル、無理して話さなくていいわ•••!!! 」

「ゆっくりでいい。」
そう言いながら、シルヴィオが、優しくカイルの背中をさする。


「•••ッ•••ひ•••姫•••さ•••ま•••?? 」

カイルは驚いたように目を丸くし、部屋を見渡す。

「こ、•••ここは?」

「カイル、お前はナイフで左肩を刺された状態で騎士団に保護され、ここへ連れてこられたんだ。」
騎士団長であるシルヴィオが、簡潔に説明する。

「君は丸2日間寝ていたんだよ。」
フェンリルの言葉に、カイルが状況を把握しようと目を見開きしばし動きを止める•••

そして、掠れた声でポツッポツッと話し始める。

「姫••さま••心配かけてごめん•••。」

カイルは私の泣き腫らした顔を見て、小さな声で、でもはっきりと言う。


•••いつものカイルだ••! あまりの嬉しさに、自分が胸元の開いたドレス姿ということも忘れ、思わずカイルの首元に腕を回し抱きつく。

「でッ•••」
シルヴィオの片手が、アーシャを止めようと上がるが、嬉し泣きしているアーシャを無理に止めることははばかれ、そのまま手持ち無沙汰になる•••

カイルの耳がみるみる赤くなり、熱を持ってくる•••しまった•••!!!! 嬉しくてつい力を入れ過ぎて、ギュウッとカイルを押し潰してしまったわ••••

「ご、こめんね、カイル!!苦しかったわよね。」

そっとカイルの熱を持った頬に、手を当てる。大丈夫なのか、心配しすぎて、ついカイルをじっと見つめてしまう•••



「アーシャ、カイルが今晩眠れなくなるから、もうその辺で勘弁してあげて。」




やってしまった•••せっかくカイルの症状が回復しかけてるのに、、鍛えてる私がギュウギュウに首締めたら、さすがに苦しいわよね•••


フェンリルを見ると、、•••妖艶な笑みで私を見ていた••••ほんと! 無駄に色っぽすぎる•••今、必要•••???



「カイルがこんなことになって、アーシャが泣いて大変だったからね。」
カイルが無事目を覚まし、ホッとしたのか、フェンリルが茶化すように笑う。



!?••••今も泣き腫らしたぐちゃぐちゃの顔のままだ•••今さらだけど、恥ずかしい••!!!

「フフッ!」
フェンリルは、薄紫の衣から腕を伸ばし、そっと私の涙を拭う。長くて白い指が、しっとりと吸い付くように優しく私の頬を触れていく•••


きっと手のかかる妹の世話を焼いている感覚なのでしょう•••?•••どうして私の胸の奥はチクッと痛むの?これは私の気持ち••?それともゲームの中の私•••? 


「殿下、よろしければこちらをお飲みになり、一息つきませんか?先ほど作ってもらいました。もちろん毒味は済んでいます。」

優しく笑んだシルヴィオが、お盆に乗ったグラスをだす。

シルヴィオは普段の騎士姿ではなく、昨晩のタキシード姿のままだから、お盆に乗せ差し出す姿が妙にさまになっている•••

「これは?」

「白桃のジュースだそうです。」

グラスを手に取り、一口口に含んだ。白桃だけでなく、冷たいミルクやシロップが入っていた••私も大分緊張していたのね••乾いてた喉が心地よく潤ってくる•••

「甘くて香りが良くて、とっても美味しいっ!」

フェンリルもグラスを傾け一口口に含む。
「甘くて美味しいね。この味はアーシャが好きそうな味だ。」

「だが、栄養補給にも良さそうだ。」
シルヴィオはいたって騎士らしい感想を述べる。

カイルが目を覚ましたことに、皆安堵し、そしてささやかに祝う。

「カイルも飲めるか?」
尋ねながらシルヴィオが、カイルが上体を起こす動作を手伝う。

「•••ああ、•••少しもらおう。」
カイルは落ち着いたのか、今は穏やかな呼吸で、顔色もだいぶ良い•••
整った顔に乱れた髪が何やら艶めかしく、今はその乱れた髪だけがこの2日間の闘病を表していた•••

だが、カイルがグラスを持った途端、手が震えてグラスが落ち•••!
かけた瞬間、シルヴィオがそのグラスを受け止める•••カイルは、見かけは至ってもう元気そうだが、昨晩までは死線を彷徨っていたのだ•••まだ完全に回復はしてないのだ•••

「•••ッ•••私がカイルの手伝いをするわ。」
シルヴィオは昨晩、見舞客の対応や騎士団とのやり取りをずっとしていた。フェンリルも医師や父上とのやり取りなどをしていた。私だけが解毒薬を飲ませただけで、後はずっとカイルの手を握っていることしか出来なかった••! だから自分ができることなら手伝いたい•••!

私はカイルの近くに座ると、解毒薬を飲ませる時に使用した少し大きめのスプーンに、白桃のジュースを掬い、カイルの口元までもっていった•••

「カイル、ゆっくり飲んでね。」


不器用な王女は、緊張のあまり自身のスプーンを持つ手が微かに震えるのを自覚しながら、目の前の青年がきちんと飲めるようにと、自然とその視線が青年の口元を凝視する•••

「ひ、姫•••さま•••?」
カイルの口元が微かに震え、頬がうっすらと赤くなる。先ほどまで気にならなかったはだけたシャツから覗く胸元が、急に熱を持った•••

あっいけない•••!! 私が不器用すぎて警戒されてる•••?? 大丈夫よ、こぼしたりしないから•••

「どうぞ、カイル!召し上がれ•••!」
私は小首をかしげカイルを見る。

シルヴィオは、目の前の青年に同情する•••
少なくとも殿下がそばについている間は、カイルの熱は下がりそうにないな•••と心の中で呟く•••

「カイル、君が飲まないなら僕がアーシャに直接飲ませてもらおうかな。」
フェンリルが悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

『なっ•••!』
カイルと私の声がかぶる•••何を言ってるの?? 

いつものようなカイルと私の反応に、フェンリルは微笑む••

気を取り直し、もう一度カイルの口元へスプーンを差し出すと、今度はカイルは大人しく飲んでくれた•••


グラスの半分ほどを飲み干したカイルが、自分の、今は傷跡も塞がった肩を見る。
「•••このこと、黙っていてごめん•••いつか姫さまが必要になった時に使いたかった•••こんな形じゃなく•••」
カイルが頭を垂らし、金の瞳を伏せる。

カイルが自分の能力を秘密にしていたのは当然だ。あまりにも希少だもの•••。

•••希少••?? •••幼い頃、似たような事を私は、経験したことが•••ある•••? 遠い日の思い出がよぎる•••けれどカイルの傷ついた姿に一瞬で意識が戻った。
「カイルは私を守って刺されたのよ•••!!! 私のほうこそ本当にごめんなさい•••」

カイルが頭を上げ、私を見つめ優しく笑う。
「姫さま、今度またああいうことがあった時、オレを盾にしてくれ。オレなら姫さまを守れる。」


!!

何を言ってるの!カイルを盾になんてするわけがない••!!! 私は思わずカイルの頬を両手で挟み込んで、声を張り上げる。

「カイルの大バカ•••!!! そんなことするわけないでしょう••!!! どうして分からないの?私がどうしてあんなに稽古したと思ってるのよ。私だけ守られるばかりじゃ嫌よ。カイルの怪我が治ろうが治るまいが、カイルが自ら傷つくのは私が許さないわよ!」

一気にまくしたて、手を下ろしカイルを見ると、カイルの透き通った瞳がまん丸になっていた•••少し声を張り上げすぎたかしら•••?




カイルは、目前で、その赤い唇を引き結び、薄桃色の眼差しを一心に向けるアーシャを見て思う•••


ああ、姫さまは本当に変わらない•••
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