【完結】陰陽師の跡取り息子は、年上女性に恋をする〜オレの『蒼の札』をあの人は断る

来海ありさ

文字の大きさ
上 下
6 / 13

六 再会

しおりを挟む
毎日、早朝と帰宅後に陰陽師の手ほどきを親父から受けてることは、学校ではこいつだけが知っている。

「カッケーじゃん。」


ああ、ゲームや漫画ではさいこっーにカッケーよな。オレだって、陰陽師を扱ったもの見ると、ワクワクするんだ。そして、必ずと言っていいほど、今の自分との差に、情けなくもなる。


今朝、会ったあの女性、、、気配で危機を察知して、素早い身のこなしで避けてた。華奢な感じだったのに、軽々とオレのこと一瞬で放り投げてた。ーーーあの人、ちょっとカッケーな。


オレはポケットから、映画の前売り券を一枚取り出すと、しんやの手に握らせた。

「コレ、お前にやる。誰か見つけて行ってくれ。オレやっぱ今日は家に帰るわ。」


「へっ?なんだよっ、どうした? あんなに楽しみにしてたじゃん!」


「ごめん、また今度誘って!」

陰陽師がどうとか、まだオレには分かんねーけど、今より強くなってみてぇ。オレは、逸る心を持て余すように、家に向かって走り出していた。


「あ、おいっ!」

久しぶりに内側から湧いてくるようなやる気に、走りながら笑いが漏れていた。振り返る時間も惜しいとばかりに、片腕を空に伸ばし、手を振る。
「ごめん!! また今度なー!」


こんなに走ったのはいつぶりだろう。店が立ち並ぶエリアを抜け、脇道に入ると、走るたびに、濃い草むらの匂いが立ち込め、セミの鳴き声の中を通り抜ける。

途中、路端の誰かの記念碑の傍を通り過ぎる時、いつも見る”霊のような存在”に、《いつもここで何してんだ? 暇じゃねーのか?》と初めて話しかけてみた。こう言う明るい感じの奴は、勝手に守り神みてぇなもんだと思ってる。ただ、こちらが意識を向けると、寄ってきたり、何かとめんどくせーから普段は無視してる。オレが話しかけてそのまま傍を走り抜けても、そいつはとくに寄ってくることもなかった。ただ、笑ってくれたような気がした。



「ただいまー。ーーー親父、いるか?」
玄関から自宅に入るが、誰も居ねえみたいだ。親父の仕事は、平日とか週末とか関係ねぇから、いつ家に居るのかオレもよく分かンねぇ。


居間に入るとテーブルの上に、親父の置き手紙があった。
『今日から二週間、今朝話していた須波の子どもがわが家に滞在する。武術の先生だ。離れにいるから、帰ったら挨拶してきなさい。』
蒼い筆ペンを走らせ、几帳面な字で書いてあった。

コレ、親父が持ってたのかよ! ずっと探してたのに!! 

オレは置き手紙のそばに転がっていた蒼の筆ペンをポケットに入れた。式札に術をかける時に、昔からこれを使わないとなぜか調子が悪い。


親父の親友の息子さんか。やっぱ、つえぇのかな。須波さんとは何度も会ったことあんけど、その息子さんとは一度も会ったことねーよ。親父は今日から稽古つけてもらえとか言ってたけど、あっちだって多分疲れてんだから、挨拶だけにしようか、さすがに。まあ、話ぐれぇは聞けるだろうけど。


サンダルを履いて、庭に出る。砂利の敷き詰められた道を進み、客用に新しくリフォームした離れの入り口に向かった。

「すんませーん。たくみです。今、大丈夫っすかー?」

中でガサゴソと音がするから、起きてたみたいだ。人の気配が近づいてきたかと思うと、ガララ、と引き戸が開いた。

「あっ、おかえりっ!!  ーーーたくみは今日は来ないかもって、鹿乃江さんは言ってたやんに、ちゃーんと来たさー!!」





「はぁああああああああ???」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

真理子とみどり沖縄で古書カフェ店をはじめました~もふもふや不思議な人が集う場所

なかじまあゆこ
キャラ文芸
真理子とみどり沖縄で古書カフェ店をはじめました!そこにやって来るお客様は不思議な動物や人達でした。 真理子はある日『沖縄で夢を売りませんか? 古書カフェ店の雇われ店長募集。もふもふ』と書かれている張り紙を見つけた。その張り紙を見た真理子は、店長にどうしてもなりたいと強く思った。 友達のみどりと一緒に古書カフェ店の店長として働くことになった真理子だけど……。雇い主は猫に似た不思議な雰囲気の漂う男性だった。 ドジな真理子としっかり者のみどりの沖縄古書カフェに集まる不思議な動物や人達のちょっと不思議な物語です。 どうぞよろしくお願いします(^-^)/

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

となりのソータロー

daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。 彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた… という噂を聞く。 そこは、ある事件のあった廃屋だった~

処理中です...