4 / 13
四 オレの名前を彼女が呼んだ日
しおりを挟む
睨むと、ニュルニュルと変な動きを見せたが、彼女から離れることはなかった。心配だけど、オレもまだ見えるだけで、特に何かできることはないんだよな。あッ、そう言えば、、!
「もしかして、この辺で道に迷ってたンすか?」
「んっ?だからよー!! この神社まで行きたいんけど、きみ、知ってん?」
カバンからパンフレットを取り出し広げたのを見たら、知ってるも何も、オレん家の真ん前の神社じゃねぇか。
「そこの角を曲がってください。アスファルトの道じゃなくて、木が生い茂る方のもう一本の道をそのまま進んだら、駐車場に出ますから。15分ぐらいです。そっからなら、神社の鳥居が見えるンで。」
「ふぅん、結構近いやし。きみ、うちに無理して敬語使わんくてよいんよ? そんなに年も変わらんど。・・・さっきは驚いたさぁね? 」
「別に驚いてません・・・。ーーー驚いてねぇし。」
もう二度と会うこともねぇのに、敬語使うかどうかなんてどうでもいいことなのに、何となく彼女の言う通りにした。
「ふふっ、うそちかー。」
一瞬、意味が分からなかったけど、彼女のからかうような表情と、”うそ”という単語が聞き取れ、理解する。うそって言われても言い返せない。ケンカ技ならそれなりに強いと自惚れていたけど、肝心なところで使えなかったのはカッコわりぃな、オレ。筋トレとか興味ねぇけど、もっと真剣に身体鍛えとけばよかった。
「うちは、しに驚いた!! ーーーねぇ、きみ、名前は?」
あれ、驚いてたのか?? 側から見てたら、涼しい顔してるようにしか見えなかったが。今だって目を細めながら、頬を緩ませ楽しそうに微笑んでる。
「名前? ・・・鹿乃江たくみ。」
「鹿乃江?? あっ、そっかぁ!! ふふっ!! ーーーたっくん!」
「は?」
いきなり何言ってんだ?? そんな子どもみたいな呼び方。
「たくっ!」
「なっ!」
「たくみ!」
「ちょっ!」
「たくみ、うん、これがいいはず! うちのことは、あいりでいいよー。」
1人でニコニコして、納得したように頷いてる。初対面でいきなり名前を呼び捨てにする奴なんて初めてだ。でも、目前の女性があんまりにも嬉しそうな顔をしていたので、呆気にとられたし照れはしたが、不思議と嫌な気分にはならなかった。
隣で、色艶の良い顔を綻ばせ笑ってる姿を見ると、本当に元気そうで、とてもじゃないけれど、すぐ死ぬようには見えねぇ。叔父に憑いてた『鬼』とは違って、その辺でたまに見るような危害も何も与えないタイプの霊なのか?
「たくみは今から学校行くば? 」
!?
いけねっ、すっかり忘れてた!! このままじゃ、2限に間に合わねぇ。焦って時計を見ると、走ればギリ間に合うか?? あ、でも、このビルのオーナーのこと待ってなっきゃならねぇんだよな。
「学校行って大丈夫!! うちの方から、ちゃんと説明しておこーねー。」
「でも・・・。」
迷うオレに、あいりは、何度も大丈夫だと言った。ここでオレが意地張っても、あんま意味ねぇ気がしてきた。今日、2限目に夏休み前の最後の補習があんだよな。落とすと、親父がまたうるせぇし。
オレはノートを一枚破り、その紙に名前と連絡先を書いてあいりに渡す。
「何かあったら、必ず電話くれ。別にいつかけてくれても構わねぇし。その時電話に出れなくても必ず後でかけ直す。」
そう言って、オレは椅子からたちあがり、もう一度礼を言う。
「さっきは助かった。ありがとう。ジュースも美味しかった。オレ、学校、行くから。」
あいりの綺麗な形の良い唇が弧を描き、渡した紙を折り目をつけ丁寧に折りたたむと、小首を傾げうんうんと頷いた。
「たくみは、さっき、うちのこと助けてくれたやんに。ふふっ、ありがとう!うちはここで少しのんびり休む~! ーーーーまたね!」
「ああ。」
ギラギラと照りつける日差しの中を、学校に向かって歩き出す。得体の知れない『鬼』が憑いてる彼女をこのままにして?? でも、陰陽師として半人前の今のオレに出来ることは残念ながら何もない、、、それに、口実は何であれ、連絡先を渡せた。何かあった時に、あいりがオレに連絡してくれたらいいなとオレは思った。そして、カバンの把っ手をギュッと強く握りしめ、後ろを振り返った。
「あいり、気をつけろよっ!!」
“何に”とはあえて言わなかった。彼女からはキョトンとした丸い目でオレを見ていたが、大きく手を振り、涼やかな声を張り上げた。
「たくみっ、ちばりよー!! またねー!!」
また、なんて、もう二度と会うこともないはずなのに、気づいたらオレも手を振りかえしてた。
「ああ、また!!」
この時のオレは、本当にまた彼女に会えるなんて夢にも思っていなかったんだ。
「もしかして、この辺で道に迷ってたンすか?」
「んっ?だからよー!! この神社まで行きたいんけど、きみ、知ってん?」
カバンからパンフレットを取り出し広げたのを見たら、知ってるも何も、オレん家の真ん前の神社じゃねぇか。
「そこの角を曲がってください。アスファルトの道じゃなくて、木が生い茂る方のもう一本の道をそのまま進んだら、駐車場に出ますから。15分ぐらいです。そっからなら、神社の鳥居が見えるンで。」
「ふぅん、結構近いやし。きみ、うちに無理して敬語使わんくてよいんよ? そんなに年も変わらんど。・・・さっきは驚いたさぁね? 」
「別に驚いてません・・・。ーーー驚いてねぇし。」
もう二度と会うこともねぇのに、敬語使うかどうかなんてどうでもいいことなのに、何となく彼女の言う通りにした。
「ふふっ、うそちかー。」
一瞬、意味が分からなかったけど、彼女のからかうような表情と、”うそ”という単語が聞き取れ、理解する。うそって言われても言い返せない。ケンカ技ならそれなりに強いと自惚れていたけど、肝心なところで使えなかったのはカッコわりぃな、オレ。筋トレとか興味ねぇけど、もっと真剣に身体鍛えとけばよかった。
「うちは、しに驚いた!! ーーーねぇ、きみ、名前は?」
あれ、驚いてたのか?? 側から見てたら、涼しい顔してるようにしか見えなかったが。今だって目を細めながら、頬を緩ませ楽しそうに微笑んでる。
「名前? ・・・鹿乃江たくみ。」
「鹿乃江?? あっ、そっかぁ!! ふふっ!! ーーーたっくん!」
「は?」
いきなり何言ってんだ?? そんな子どもみたいな呼び方。
「たくっ!」
「なっ!」
「たくみ!」
「ちょっ!」
「たくみ、うん、これがいいはず! うちのことは、あいりでいいよー。」
1人でニコニコして、納得したように頷いてる。初対面でいきなり名前を呼び捨てにする奴なんて初めてだ。でも、目前の女性があんまりにも嬉しそうな顔をしていたので、呆気にとられたし照れはしたが、不思議と嫌な気分にはならなかった。
隣で、色艶の良い顔を綻ばせ笑ってる姿を見ると、本当に元気そうで、とてもじゃないけれど、すぐ死ぬようには見えねぇ。叔父に憑いてた『鬼』とは違って、その辺でたまに見るような危害も何も与えないタイプの霊なのか?
「たくみは今から学校行くば? 」
!?
いけねっ、すっかり忘れてた!! このままじゃ、2限に間に合わねぇ。焦って時計を見ると、走ればギリ間に合うか?? あ、でも、このビルのオーナーのこと待ってなっきゃならねぇんだよな。
「学校行って大丈夫!! うちの方から、ちゃんと説明しておこーねー。」
「でも・・・。」
迷うオレに、あいりは、何度も大丈夫だと言った。ここでオレが意地張っても、あんま意味ねぇ気がしてきた。今日、2限目に夏休み前の最後の補習があんだよな。落とすと、親父がまたうるせぇし。
オレはノートを一枚破り、その紙に名前と連絡先を書いてあいりに渡す。
「何かあったら、必ず電話くれ。別にいつかけてくれても構わねぇし。その時電話に出れなくても必ず後でかけ直す。」
そう言って、オレは椅子からたちあがり、もう一度礼を言う。
「さっきは助かった。ありがとう。ジュースも美味しかった。オレ、学校、行くから。」
あいりの綺麗な形の良い唇が弧を描き、渡した紙を折り目をつけ丁寧に折りたたむと、小首を傾げうんうんと頷いた。
「たくみは、さっき、うちのこと助けてくれたやんに。ふふっ、ありがとう!うちはここで少しのんびり休む~! ーーーーまたね!」
「ああ。」
ギラギラと照りつける日差しの中を、学校に向かって歩き出す。得体の知れない『鬼』が憑いてる彼女をこのままにして?? でも、陰陽師として半人前の今のオレに出来ることは残念ながら何もない、、、それに、口実は何であれ、連絡先を渡せた。何かあった時に、あいりがオレに連絡してくれたらいいなとオレは思った。そして、カバンの把っ手をギュッと強く握りしめ、後ろを振り返った。
「あいり、気をつけろよっ!!」
“何に”とはあえて言わなかった。彼女からはキョトンとした丸い目でオレを見ていたが、大きく手を振り、涼やかな声を張り上げた。
「たくみっ、ちばりよー!! またねー!!」
また、なんて、もう二度と会うこともないはずなのに、気づいたらオレも手を振りかえしてた。
「ああ、また!!」
この時のオレは、本当にまた彼女に会えるなんて夢にも思っていなかったんだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる