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九 蒼の札

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「親父ー。少しいいかぁ?」

「たくみか? どうした?」

居間で本を読んでた親父は、パタンッと本を閉じて顔を上げた。


ーーー言い出しづれぇな。自分からこんな事聞いたこともねぇから、親父がどんな反応するか予想つかねぇ。


「・・・。例えばだけど、人が死ぬ時に憑く『鬼』を祓う方法教えてくれ。」

自然と肩が上がり、声が上擦る。誰に憑いてるとか、追求されたらやべぇし、まさか大事にはならねぇよな。

「珍しいな。たくみの方からそんな事聞いてくるなんて。ーーー誰に憑いてる? お前の知り合いか?」

予想に反して、親父はそれ以上追求する様子でもなく、いつもの冷静な親父だった。


「んっ?まあ、うん。」

親父は『鬼』が見えねぇから信じてないとか?? それとも、仕事柄、こう言う話に慣れてるだけか??


「可哀想だが、人の生き死にをコントロールすることはできない。」

・・・ッ・・・

どっちでもなかった。陰陽師の仕事の範囲外だから、手を出すな、っつってるンだ。


「はぁっ?んじゃ、いったい、オレたちがやってるのは何なんだよ!」

あんなにちっちぇときから、遊ぶ時間も削って、いろいろ学んだのは何のためなんだよッ!


「少しでも良い気を呼び込み、大難を小難に。そして、陰の気を祓うことだ。」


ンなの、知ってらぁ。でも、、


「式神を使えば、身代わりにできんじゃねーのか?」



「・・・。人の生き死にの理は覆えせない。無理にでも干渉しようとするつもりなら、術者の命はないと思え。」

親父は顔に深い皺を刻み、苦しそうに、まるで自分自身に言い聞かせるように言い放った。かーさんが亡くなるっつー時、いつも冷静な親父が取り乱してたのは知ってる。陰陽師の術を使ってたのかどーかは分かんねーけど。

「そんな・・・。何だよ、それッ!! 大切な人、守れねぇなら意味ねぇじゃんッ!!」

ダンッとテーブルを叩いて、立ち上がる。親父にあたるのは八つ当たりだと分かっていても、苛立ちがおさまらなかった。

親父が何か口を開きかけていたが、そのまま居間をでて、自室へ戻った。




オレは机に座り、考えを整理するように目を閉じる。シンとした部屋の中で、窓の外から呑気な鳥の声だけが聞こえてきた。自分の息遣いだけが耳に響くようにまでなった頃、自分の中で心が決まり目を開けた時、いつの間にか一時間ほどが経っていた。

オレは、引き出しの中に大切にしまってあった箱を取り出す。そして和紙でできた式札を一枚取り出し、蒼の筆ペンで、一文字一文字時間をかけ丁寧に文字を書いていった。


【臨・りん
 兵・びょう
 闘・とう
 者・しゃ
 皆・かい
 陣・じん
 列・れつ
 在・ざい
 前・ぜん】


文字を書いた後、それらを読誦しながら、人差し指と中指の二本を刀に見立て格子を描いていく。これら格子が刃となり、危害を加えようとする『鬼』を、バラバラに切り裂く術をかけていく。


術を吹き込み式神となったこの札を、あいりに渡せば、きっとこの式神が守護の役目を果たしてくれるはずだ。


ーーー術が術者に跳ね返ってくるようなことにさえならなければ、きっとうまくいく。


親父が居ないところで、式神を使うのは初めてだった。だからと言って、別に考えなしにやったわけじゃない。オレだって死ぬのは嫌だしすげぇ怖い・・・。


でも、それ以上に、あいりが危険に晒される方が嫌だった。だからいつでもあいりに渡せるように、オレは守り袋を身につけとくためのポーチに式神を入れ、首から下げといた。





その日の夜はなかなか寝付けなかった。蒸し暑かったのもあるし、あいりのことが頭の中をグルグル回ってたのもある。


ーーー冷蔵庫にミカンジュース入ってたっけ? 


ベッドから起き上がり、ジュースを飲もうと台所へ向かう。夜中だからオヤジを起こさねぇように、静かに廊下を歩いた。台所で紙パックに入ったキンキンに冷えたミカンジュースを手に取り、ストローを刺す。口に含むと染み渡るようなほど良い甘さで、身体がシャキッとした。

ーーー部屋に戻ってゆっくり飲むか。

台所の電気を消し廊下に出ると、庭の人影があるのに気づく。

ーーー誰だ?
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