女詫び

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女詫び・浅沼綾子編(1)

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女詫び・浅沼綾子


登場人物

浅沼綾子(42才。某地方都市警察の交通課長のベテラン婦警。責任感が強く活発な美人で署内でも注目されている人気者。)

浅沼庸一(40才。綾子の夫。同じく警察官で駐在所の勤務。優しい人柄で部下に慕われる。おしどり夫婦と言われる愛妻家。)

武田署長(57才。警察署長で浅沼夫婦の仲人。面倒見が良く浅沼夫婦とは家族のような付き合いを続けている。)

権藤勇美(66才。地元反社会勢力『宥和会』の会長。自分たちが必要悪であることを自認しており警察とも一線を引いた上で上手く付き合っている。)

伊東輝雄(65才。自分のことを<輝雄ちゃん>と名乗る。権藤の配下で一番の古株。Sっ気のある男色。)






女詫び・浅沼綾子(1)


宥和会は表向きは金融業を営む反社会勢力。いわゆる闇金である。その実は繁華街の商店からみかじめ料を徴収もするが困窮した店主には店の維持費を調達してやったり、揉め事を解決してやる等それなりに街の平穏の為に役立っている。
警察もそのことは承知で、素人に手を出さない限り宥和会のことはお目溢しをしていた。
また、警察が表立って取り締まれない事案を任せたりもして持ちつ持たれつの関係だった。

事件は週明けの月曜日に起きた。
地元宥和会と拮抗している隣町の菊遂会が兄弟杯を交わす為にやって来た日の事である。
折りも悪くその日は警察が駐車違反の一斉取り締まりをする駐禁週間の初日だった。
10台もの車で駆けつけ、権藤会長の自宅周辺に路上駐車した菊遂会の車は駐禁取締の餌食になってしまった。
実は宥和会会長権藤、地元警察署長武田、交通課長浅沼綾子の間で密約が交わされ、当日だけ権藤宅周辺の取締はしないことになっていた。
菊遂会と事を荒立てない為の約束だった。
綾子もそのことは了解し部下にも伝えていたのだが…新人若手警察官が気付かずにここぞとばかり菊遂会の車に駐禁のステッカーとご丁寧にチェーンまで装着してしまったのだ。

菊遂会はこの事態に大層腹を立てて兄弟杯の儀式はご破産になってしまった。
地元の警察も抑えられないのかと菊遂会に馬鹿にされ恥をかかされた結果になり宥和会の若い衆たちは威きりだった。
今にも騒ぎを起こしそうな配下を収めないと菊遂会との抗争に発展しかねない。
そうなれば地元の治安が乱れるのは必至だった。

今まで武田署長と権藤会長とはお互いの立場を理解した上でうまく付き合ってきた。
しかしこの事態に権藤の態度は豹変した。
事を解決する為に惨い提案を武田署長に突き付けたのだ。
武田署長は受け入れがたいその要求を何とか回避しようと代替案を試みたりしたが、頑として耳を貸さない権藤のその要求を受け入れざる得なかった。
それを拒んだら今まで平穏を保って来た街の治安が完全に覆されてしまう。

その提案とは…
交通課責任者の浅沼綾子課長に詫びを入れさせることだった。
裏社会において女性が詫びを入れることを『女詫び』という。
男であれば指を詰めて差し出す儀式で詫びるのだが…その代わりに…
女性の場合は衆目の面前で恥毛を剃り取られて詫びを入れるのである。
さらに今回は宥和会に恥をかかせたのだから責任者である綾子にも恥をかいてもらうと言い放たれた。
恥毛を剃られるということは組員たちの前で女性器を露出しなければならない。
しかしそれだけでは許せないと言うのである。
普通このような場合は組員たちに輪姦されてしまうこともある。
さすがにそこまではしないが、それなりに辱めを受けてもらうと押し切られた。

武田は苦渋に満ちた思いで綾子を署長室に呼んだ。
綾子は項垂れ、畏って部屋に入るなり謝罪の言葉を述べた。
「この度は誠に申し訳ありません。私の落ち度でこのようなことになってしまい、、。宥和会がこのまま引き下がるとは思えません。どうぞ私を解雇するなりして宥和会への謝罪とさせてください。」
綾子は自分の監督不行届がもたらしたこの有り得ない事態の責任を全て自分で背負う覚悟でいた。
綾子ならばそう言い出すだろうと武田はわかっていた。
それだけに権藤に押し切られた女詫びのことを伝えるのが辛く、躊躇われた。
しかし警察署長としてこの街の平安を維持するのが職責である。
その為には…。
武田は重い口を開き、ゆっくりと、出来るだけ綾子を脅かさないように説明した。
綾子は署長の話に驚愕の表情を浮かべ、蒼ざめ、口がきけなくなっていた。
武田が話し終えても所長の執務机の前に直立したまま微動だに出来ないでいた。
「大丈夫かい?浅沼君、、さ、こっちに来て腰掛けたまえ、、。」
綾子の様子に武田は署長室にある来客用のソファセットに導く。
綾子はふらふらとソファに腰掛けるが目を見開いたまま固まったままだ。
沈黙が続いた。
そして…両手で顔を覆い隠し…シクシクと泣き始めた。
武田は綾子が拒絶することが出来ずに受け入れたことを悟る。


女詫びの当日は権藤邸最寄りの駅で待ち合わせた。
公用車を使っての移動は運転手に知られるので避けた。
綾子は夫君の庸一に付き添われてやって来た。
庸一は綾子に打ち明けられて、とても一人で送り出すことは出来なかったのだ。
武田には予め同伴する了承を得ていた。
3人は殆ど言葉を交わすことも無く権藤邸へ向かった。
途中、巡回する古株の警官が自転車で通り過ぎる。
3人に気付いて振り返り「おや、3人お揃いでどちらへ?」と屈託のない笑顔で話しかけてくる。
「いや、今日はちょっと私用でね、まあ挨拶回りというところなんだ。お勤めご苦労さん。」
武田は何事も無いように笑顔で返す。
二人の仲人を務めたことは知られているので私用で挨拶回りという返事を訝しがることはない。
今日のことは3人だけの秘密だった。

綾子は署長に女詫びのことを告げられた夜、翌日早番で先に就寝している夫に気付かれぬように一晩中泣き明かした。
これは職務を全うする為にはどうしても避けられないことで、自分が招いた失態の責任を取れるのは自分でしかないと、答えは分かっていた。
しかし女詫びとは女性の尊厳を根こそぎ奪い取るような耐え難い儀式であることも知らされた。
大勢の男たちの前で裸になるなど考えられなかった。
しかもそれだけでは済まされない…。

そしてこの事を夫の庸一に隠し通す自信は無かった。
庸一は自分の妻がそのような辱めに遭うことを知ってどう受け止めるのか…。
自身に起こることへの恐怖もさる事ながら、何よりも自分が招いてしまった事態で夫の庸一が苦しみ、辛い思いをする事が居た堪れなかった。

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