死神のRe:ベリオン

板垣弟

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1-1 死神と呼ばれた男

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「所詮はどこまでいっても外道てことかい····」

あどけなさが残る18才を迎えたばかりの少年はそうどこか寂しく呟くと、床に転がりながら悶え苦しむオークの喉を踏みつける。

その踵は、オークの喉に突き刺さっているダガーナイフの柄を強く押し込み、不快な頸椎を破壊する音を奏でながら、緑色の巨体を絶命させた。

歯並びの悪い口から吐き出される大量の血液が、凄味を帯び少年と、襲われる寸前だったのか、服が乱れ生肌露になっている少女へと豪雨のように降りかかる。

怯えた少女の翡翠のような美しい瞳に写っているのは生まれてこの方、この狭い村でずっと一緒だった幼なじみの姿形であったが、その中身になにか異質の、怪物じみたものを見いだしていた。そして、少女はその疑問を解決すべくすっとんきょうな質問をしてしまう。

「·····ベリオン、ベリオンだよね?」

きっと何時もの屈託のない笑顔で、つまらない優しいジョークで返してくれる、少女のそんな希望的観測はすぐに崩れることも知らずに。

「·····いや、俺はただのクズシュラウドさ」──


───惨劇の起こる半日前

「ん~~~、平和だねぇ~~~~」

午前の農作業を終え、煙草を吹かしながら草原に寝転ぶ、目付きが悪く頭も悪そうなこの少年の名は『ベリオン』。実際に頭は本当に悪く、肥料の原料が糞尿だったことを知るや否や、発酵させていないホヤホヤを畑に撒き散らしたり、30才まで高潔童貞を貫くと究極魔法アルティマが使えるようになると一時期信じていたりと生粋の馬鹿だ。

だが、この男の前世は何を隠そう悪逆非道の限りを尽くし、その超暴力だけで魔界を統べる一歩手前まで行った怪物、通称『死神シュラウド』その人なのである。もっとも、部下達『十戒』の反乱によって命を落としたルーザー敗北者ではあるが、その経緯いきさつを話し出すとは非常に長くなるのでまた今度にしたい。

「あーっ!! ここにいたのねベリオン!! てか、アンタ未成年なのにまたタバコなんか吸ってるのよ!!」

甲高い声を出し、近寄って来る童顔でありながらその胸に凶器巨乳を携えるこの少女の名は『アエリア』。ベリオンの数少ない同世代の女性であり、私の予測では恐らくベリオンに好意を寄せている。

「こまけぇこたぁいいんだよ、明日で『成人の儀』迎えるから別にいいじゃない~」

まるで反省してないベリオンの態度に、アエリアは容赦なく口元からタバコを取り上げる。

「タバコ吸っていい理由にもならないわよ!! ·····それよりも考え直してくれた?」

「·····考え直したって、何がだよ·····」

「とぼけないでよ·····、成人の儀を迎えたら私と一緒に王都に行って『冒険者』になろうって話よ·····」

『冒険者』

言うなれば開拓者であり、傭兵のような者でもあるが、アエリアは子供の時から冒険者になるのを夢みており、その将来の相棒にとベリオンをしつこく勧誘していたのである。

「·····悪いが返事は変わらない。俺は、この村で一生農民として暮らす。冒険者なんかにはならないよ」

何度も聞いた返事であるが、少女は改めて肩をガックリと落とす。泣く子も黙る悪逆非道の悪魔である前世を持っていながら、農民を目指すなど実に荒唐無稽な話であるが今のベリオンにとっては大真面目である。

「で、でも勿体ないわよ! 村の大人達数人がかりでも倒せない魔獣だって、ベリオンだと簡単に倒しちゃうのよ。冒険者になればきっと凄い活躍する筈なのに」

「今までのは偶然さ、こんな世間知らずが冒険者になってもダンジョンに迷ってのたれ死ぬだけさ」

ケラケラと笑って誤魔化しているが、過大な謙遜である。むしろ、わざと剣なり投げナイフなりで武装しそれとなく討伐しているが、ここいら近辺に住む魔獣程度だったら素手で殴り殺すことだって、このベリオンには朝飯前である。前世の魔族の肉体ほどではないが、それほど今世においても肉体、魔力共に一般人類の範疇を大幅に超越しており、私の見解からしても『冒険者』という職業は最適解であると思える。だが、そんなことはこの馬鹿ベリオンでも理解しており、それでも尚農民に、平穏な生活に強いこだわりを持っているのである。

「そんなことないわよ·····、私と一緒なら····」

さらに落ち込む少女は口から出掛けた言葉を飲み込む。建前としては宝の持ち腐れベリオンの実力を全面に出しているが、本音としてはベリオンとずっと側にいたいという乙女心が見え隠れしており、少年の体とオッサンの心を持つこの男も薄々勘づいていたが、

「おいおい、そんなショボくれた顔していると乳も萎むぞ~」

18になる少年とは思えないほどの下ネタを放つ幼なじみに、アエリアはその色白な頬を紅潮させる。

「いつもそうやってはぐらかして!! もう知らない、いつまでも染みったれた農民でもやってればいいわ!! この変態!! スケベ!! 童貞!!」

地団駄を踏みながら帰っていく幼なじみを、若干傷付いた童貞面持ちで見送るベリオン。だが、10メートル程度離れたところでアエリアはくるっとベリオンの方を見直し叫ぶ。

「あと、村長パパが今日中に来てくれって言ってたわよ!! この童貞!!!!」

そして再び地団駄を踏みながら、アエリアは去っていくのだった。

「····そんなに言わなくても童貞いいじゃない·····」

そう言いながら、ベリオンはポケットから出した煙草に火をつけると大きく吸い込み、その副流煙を全力で自身の右手のひらに───ッ!? ゲホごほごほ、ゴッホ!?!??

「てめえ、ちょっと笑ってただろ?」

『ゴホ、ゴッホ!?!? ふ、ふざけるないでください!? 私まで肺炎にするつもりですか!?』

「右腕だけのお前に肺なんてねーだろ」

紹介が遅れたが私の名は『アルム』。かつて死神シュラウドの右腕と呼ばれた天才軍師であり、頼れる上司と仲良く十戒に謀殺され、今は文字通りベリオンシュラウドの右腕に転生したナイスダンディボイス持ちの紳士である───
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