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第1章
04.
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『アンカーを務めるのは樽井綾人だと伝えられた。彼が走っているところを見た事がある者はクラスに誰一人いなかったため、教室には不穏な空気が漂った。』──小説『赤い糸』第3章より
原因不明の生まれ変わり(?)をしてからかれこれ1週間が経とうとしている。
そこで私は1つ言いたい事がある。
それは───何故あの子に会えないのか、という事だ。
あの子というのは、大好きなキャラクターである「タルくん」の事だ。
今日は家でパウンドケーキ作りに挑戦しながら、頭の中はタルくんの事でいっぱいだ。
もしかして小学校では会えないのかもしれない、中学生になるまで大人しく待つか。
でも会いたい、動いて喋るタルくんを見たい……!
「美桜」
頭を悩ませていると、1つ年下の婚約者に名前を呼ばれた。
私は今、パウンドケーキを作っている。
何故か紺くんの家のキッチンで、作っている。
「まだぁ?早く食べたい」
「まだまだよ。だってまだ焼いてないんだもん」
「えー」と口を尖らせる紺くん。
1週間で分かったのは、私は1歳の時から紺くんと婚約していて、親同士の交流も深いこと。
だから、放課後に家にお邪魔することは珍しくない。
デートだとか兄は言うけれど、小3と小4(しかも中身19歳)に何を言ってるんだか、と呆れてしまう。
私は「弟におやつを作ってあげるお姉ちゃん」だ。
それから原作通り、舞台は裕福な家庭の坊ちゃん嬢ちゃんばかりが通う蕪木学院。
私は大手出版社KAGAYAの取締役会長の孫で、紺くんは百貨店業界の大手、三島百貨店の御曹司。
2人の婚約は完全に大人の都合、という事だ。
紺くんが生まれた瞬間決められたらしい。
勝手に決められた相手と結婚しろなんて、私だったら絶対嫌だし、紺くんだって嫌だった。
だから主人公を選んで、美桜との婚約を破棄した。
………でも。
でも美桜は、
「好きだったんだよね……」
生地を型に流しながら、無意識に呟いていた。
婚約しているのに片思いだなんて、辛すぎる。
「何を好きなの?」
小さな声だったのに、紺くんには聞こえたようだ。
「独り言だよ」と言って流す。
そしてふと、聞きたくなってしまった。
「ねぇねぇ紺くん」
「なに」
「好きな子いる?」
高校で主人公に会う前に、好きな子はいたのかシンプルに気になってしまった。
「………はぁ?」
しかし、紺くんの対応ですぐに後悔した。
たちまち不機嫌になり、刺すような目線を送ってくる。
反抗期の男の子にこんな事聞くもんじゃあなかった、反省反省。
冗談だよ、と言って逃げようとしたが、紺くんの方が早かった。
「僕たちって婚約者ってやつじゃないの?」
「……うん?ま、まぁそうね。でも好きな人は別にいるでしょ?」
紺くんはキョトンとしている。
好きな子、いないのかな。
私が小学生の頃なんて「好きな子は4人います」とか言ってたんだけど……。
「あのね、紺くんに気になる子がいたら、好きになって良いのよ。私の事は気にしないで。大切なのは紺くんの気持ちなんだからね!」
今のうちに言っておこう。
高校生になった紺くんが私に気を使わなくて良いように。
私は恋愛について語ってみたけれど、紺くんには何も響いていないような気がした。
原因不明の生まれ変わり(?)をしてからかれこれ1週間が経とうとしている。
そこで私は1つ言いたい事がある。
それは───何故あの子に会えないのか、という事だ。
あの子というのは、大好きなキャラクターである「タルくん」の事だ。
今日は家でパウンドケーキ作りに挑戦しながら、頭の中はタルくんの事でいっぱいだ。
もしかして小学校では会えないのかもしれない、中学生になるまで大人しく待つか。
でも会いたい、動いて喋るタルくんを見たい……!
「美桜」
頭を悩ませていると、1つ年下の婚約者に名前を呼ばれた。
私は今、パウンドケーキを作っている。
何故か紺くんの家のキッチンで、作っている。
「まだぁ?早く食べたい」
「まだまだよ。だってまだ焼いてないんだもん」
「えー」と口を尖らせる紺くん。
1週間で分かったのは、私は1歳の時から紺くんと婚約していて、親同士の交流も深いこと。
だから、放課後に家にお邪魔することは珍しくない。
デートだとか兄は言うけれど、小3と小4(しかも中身19歳)に何を言ってるんだか、と呆れてしまう。
私は「弟におやつを作ってあげるお姉ちゃん」だ。
それから原作通り、舞台は裕福な家庭の坊ちゃん嬢ちゃんばかりが通う蕪木学院。
私は大手出版社KAGAYAの取締役会長の孫で、紺くんは百貨店業界の大手、三島百貨店の御曹司。
2人の婚約は完全に大人の都合、という事だ。
紺くんが生まれた瞬間決められたらしい。
勝手に決められた相手と結婚しろなんて、私だったら絶対嫌だし、紺くんだって嫌だった。
だから主人公を選んで、美桜との婚約を破棄した。
………でも。
でも美桜は、
「好きだったんだよね……」
生地を型に流しながら、無意識に呟いていた。
婚約しているのに片思いだなんて、辛すぎる。
「何を好きなの?」
小さな声だったのに、紺くんには聞こえたようだ。
「独り言だよ」と言って流す。
そしてふと、聞きたくなってしまった。
「ねぇねぇ紺くん」
「なに」
「好きな子いる?」
高校で主人公に会う前に、好きな子はいたのかシンプルに気になってしまった。
「………はぁ?」
しかし、紺くんの対応ですぐに後悔した。
たちまち不機嫌になり、刺すような目線を送ってくる。
反抗期の男の子にこんな事聞くもんじゃあなかった、反省反省。
冗談だよ、と言って逃げようとしたが、紺くんの方が早かった。
「僕たちって婚約者ってやつじゃないの?」
「……うん?ま、まぁそうね。でも好きな人は別にいるでしょ?」
紺くんはキョトンとしている。
好きな子、いないのかな。
私が小学生の頃なんて「好きな子は4人います」とか言ってたんだけど……。
「あのね、紺くんに気になる子がいたら、好きになって良いのよ。私の事は気にしないで。大切なのは紺くんの気持ちなんだからね!」
今のうちに言っておこう。
高校生になった紺くんが私に気を使わなくて良いように。
私は恋愛について語ってみたけれど、紺くんには何も響いていないような気がした。
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