片道切符

「お待ちしておりました。どうぞ、こちらに」
 車掌の言葉に導かれるまま、三十歳も過ぎた俺はとある列車に乗り込んだ。列車内の乗車客は時代性も地域性もバラバラで、各車両の後ろには黒電話が置かれている。
 列車から降車する方法は、呼び鈴の鳴る黒電話を取ること。そして、この呼び鈴は戻ってほしい、という他者の叫びであるという。
 しかし、俺の心は黒電話から遠い所にあった。窓ガラスには、憂いを帯びた自分の瞳が
反射する。
 そんな俺の向かい側に、十五歳の少女が座った。
「あの、あんまりじろじろ見ないでください」
 不快そうに視線を向ける少女だったが、俺は視線を少女から逸らすことができない。
 ぎこちなく言葉を交わす俺と少女を運び、列車は終着駅に向かって走り続ける。
 そしてこの出会いが、真実の終着へと俺達を導くのであった。

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