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第二章 奪い合う世界
42話 夜明け③
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見習いとゴーレム達の戦いを背中で感じていたキュプレサスは、喧騒が収まった事で戦いが終結した事を悟った。
「終ったのだな……」
自らが作り出した上位モンスター、白炭のゴーレムの勝利を微塵も疑わない様子で、キュプレサスは西側に広がるのどかな森を眺めながらそう呟いた。
「残りは貴方だけよ!」
オレガノがキュプレサスに言い放った。
「何だと!? 貴様、なぜ生きている?」
キュプレサスは慌てた様子で、身体を捻った。
見れば、見習い達は誰一人欠ける事無く、自分の事を見据えていた。そして、その直ぐそばには、動かなくなった白炭のゴーレムの姿があった。
「あっ、死んでる!? 人間如きに負けたのか? このキュプレサスの支配下にありながら、敗北を喫するとは情けない。役立たずめ!」
キュプレサスは大地に根付いた体を右に捻り、左に捻り、もどかしそうにうごめきながらそう叫んだ。
「くそ! もういい、付き合っていられるかこんな戦い! お前達の相手はまた今度だ。キュプレサスには、先にやらねばならない事がある。そこを退け!」
「身勝手な事ばかり言って、自分に従わなければ、口も利けない様なゴーレムに変えようとする。そんな者の言う事何て誰も聞きはしないわよ」
オレガノはそう言うと、魔法陣を展開し、キュプレサスの方へと向けた。
「アトラス!」
後に続く様に、その場に居る見習い達全員が魔法陣を展開して行く。
「キュプレサス・ラッルー。よからぬ者、大人しくこのイバラの領域から去りなさい。ここはアイディ・クインの後継者達が庇護する領域、人の営みが根付く土地。好き勝手に振る舞っていい場所じゃない!」
キュプレサスはオレガノの言葉を笑い飛ばした。
「地上を徘徊する程度の存在が、このキュプレサスを追い出すだと? モンスターを排した程度でいい気になるなよ小娘共。お前達には、本格的にこのキュプレサスの力を見せつける必要がるようだな!」
キュプレサスはそう言うと、身体を大きく左右にくねらせながら、地面に埋まった自らの根っこを引き抜こうとし始めた。
「ちょっと待てよ、……今すぐこの足を――」
「ファイヤーボール!」
間髪を入れず、それぞれの魔法陣から飛び出した六つの火球が、キュプレサスに目掛け飛んで行った。
不意を突かれたせいかキュプレサスはそれを避けようともせず、全て身体で受け止めた。
火球は爆発し、その延焼によってキュプレサスの全身を炎で包んで行った。
「まだよ! 打ち続けて!」
クレスがそう指示を出した。その言葉に従うまでも無く、誰もが攻撃の手を緩める事無く、二発目、三発目と、ファイヤーボールの魔導を燃え盛る炎の中に打ち込んで行った。
やがて、魔導を行使し続けていた見習い達の中に息切れが目立ち始める。
燃え上がったキュプレサスは、その縦長の身体を主柱にする様に巨大な火柱へと変わっていた。
その様を見て、見習い達は漸く攻撃の手を止め始める。そして、燃え上がる火柱の様子をじっと見守り続けた。
この世の法理の外から来た存在、よからぬ者との戦いは、その場にいる誰もが未経験の事だった。その為、安々と決着がつくとは誰も考えていない。
「やったのか……?」
ピーターが、不安な気持ちを吐露する様な声でそう言った。
「分からない。気を抜かないで」
クレスが注意深く火柱を見つめながらそう言った。
燃え盛る炎の中から、薄ら笑いの様なクックックという声が聞こえ始めた。
「炎から生まれた訳でも無いのに、これだけの火力を生み出すとわ。これが魔導か……、どうやら人の営みとは、親和性さえシステム化しているらしい」
キュプレサスは感心した様にそう言うと、燃え上がる自分の枝葉をバサリ、バサリと一斉にはためかせた。まるで、海中を泳ぐクラゲの様に、キュプレサスの胴体を覆う枝葉は、下から膨れる様に持ち上がると、中に掻き込んだ空気を排出する様に一気に垂れ下げられしぼんだ。
周囲に熱い風が巻き上げられる。
目も開けてられない思いで、見習い達は顔を手で覆った。
「だが、所詮は人間の作った炎。この身を焼くには、明らかに力が足りない」
覆った手を取る見習い達。炎は完全に消し去られ、対峙するキュプレサスは不敵な笑みを浮かべながら、こちらを見ていた。
炎が効いていない。
長いスカートの様にはためかせているキュプレサスの枝木は、焦げ色一つ付く事無く、青々と茂ったままだ。
「キュプレサスは良い事を思いついた。人間達を支配する上での重要な手段。つまりは歩み寄りの方法をだ」
キュプレサスはそう言うと、自らの身体を大きく揺さぶり始めた。
「お前達は力を行使する際、必ずその技の名前を口にするな。キュプレサスもそれを見習ってやる。人間に対する歩み寄りの姿勢を示してやるぞ!」
地鳴りが聞こえ始める。
同時に足下から叩きつけられる様な振動を感じた。
キュプレサスの背後に広がる丘陵が崩れ、森に生える木々が薙ぎ倒され、土の地肌を顕わにしたのが見える。
見習い達はゾッとした。
液化した土砂が、倒れた木々や岩を巻き込み、盆地となるこの場所へ雪崩れ込んで来ているのだ。
「ランドスライドだ!」
キュプレサスは自らの行使を叫んだ。
「下がって!」
咄嗟にクレスが火伏の大樹の前へと飛び出した。
「ギンコ!」
刹那に行使されたクレスの魔導は、自身の目の前に魔法陣を展開させた。
あっという間も無く、魔法陣から樹木が伸び、大きく成長して行き、迫る土砂から見習い達を守る様に三本目の大樹がそびえた。
「ピーター!」
「おう!」
クレスの呼びかけに従い、ピーターも魔法陣を展開させた。
ピーターの魔法陣からは砂が噴き出して行く。それはすぐさま固まり、砂岩となって、大樹を補強した。
迫り来る土砂は、三本の大樹に激突して行く。
大樹を削る様な轟音と振動がその場に響き始めた。
クレスは、かざした右手を震わせながら、何とか大樹を維持しようと魔導を行使し続ける。
しかし、それも束の間の事だった。
大量の土砂に押される大樹は、根元にこびり付く砂岩にヒビを入れ、その勢いのまま傾き始めて行った。
「くそ! もたない。ラヴァーニャ!」
ピーターが叫んだ。
「オレガノ、全員集まって!」
ラヴァーニャは振り向き様にそう言うと、三人の後輩達をかき集める様に自分の下に引っ張る。
「アトラス!」
ラヴァーニャの背後、見習い達を守り続ける大樹の中腹辺りに魔法陣が出現する。それは、ガスの抜ける様な音を立て、中心に圧力の掛けられた空気の玉を作り出す。
ラヴァーニャの魔導の行使を見て取ると、ピーターはクレスを庇う様に抱きしめた。
「バースト!」
身体を貫く程の衝撃が走る。そう思わせる程の突風が、ラヴァーニャの魔法陣から吹き、大樹の中で守られていた者達を全員吹き飛ばした。
「終ったのだな……」
自らが作り出した上位モンスター、白炭のゴーレムの勝利を微塵も疑わない様子で、キュプレサスは西側に広がるのどかな森を眺めながらそう呟いた。
「残りは貴方だけよ!」
オレガノがキュプレサスに言い放った。
「何だと!? 貴様、なぜ生きている?」
キュプレサスは慌てた様子で、身体を捻った。
見れば、見習い達は誰一人欠ける事無く、自分の事を見据えていた。そして、その直ぐそばには、動かなくなった白炭のゴーレムの姿があった。
「あっ、死んでる!? 人間如きに負けたのか? このキュプレサスの支配下にありながら、敗北を喫するとは情けない。役立たずめ!」
キュプレサスは大地に根付いた体を右に捻り、左に捻り、もどかしそうにうごめきながらそう叫んだ。
「くそ! もういい、付き合っていられるかこんな戦い! お前達の相手はまた今度だ。キュプレサスには、先にやらねばならない事がある。そこを退け!」
「身勝手な事ばかり言って、自分に従わなければ、口も利けない様なゴーレムに変えようとする。そんな者の言う事何て誰も聞きはしないわよ」
オレガノはそう言うと、魔法陣を展開し、キュプレサスの方へと向けた。
「アトラス!」
後に続く様に、その場に居る見習い達全員が魔法陣を展開して行く。
「キュプレサス・ラッルー。よからぬ者、大人しくこのイバラの領域から去りなさい。ここはアイディ・クインの後継者達が庇護する領域、人の営みが根付く土地。好き勝手に振る舞っていい場所じゃない!」
キュプレサスはオレガノの言葉を笑い飛ばした。
「地上を徘徊する程度の存在が、このキュプレサスを追い出すだと? モンスターを排した程度でいい気になるなよ小娘共。お前達には、本格的にこのキュプレサスの力を見せつける必要がるようだな!」
キュプレサスはそう言うと、身体を大きく左右にくねらせながら、地面に埋まった自らの根っこを引き抜こうとし始めた。
「ちょっと待てよ、……今すぐこの足を――」
「ファイヤーボール!」
間髪を入れず、それぞれの魔法陣から飛び出した六つの火球が、キュプレサスに目掛け飛んで行った。
不意を突かれたせいかキュプレサスはそれを避けようともせず、全て身体で受け止めた。
火球は爆発し、その延焼によってキュプレサスの全身を炎で包んで行った。
「まだよ! 打ち続けて!」
クレスがそう指示を出した。その言葉に従うまでも無く、誰もが攻撃の手を緩める事無く、二発目、三発目と、ファイヤーボールの魔導を燃え盛る炎の中に打ち込んで行った。
やがて、魔導を行使し続けていた見習い達の中に息切れが目立ち始める。
燃え上がったキュプレサスは、その縦長の身体を主柱にする様に巨大な火柱へと変わっていた。
その様を見て、見習い達は漸く攻撃の手を止め始める。そして、燃え上がる火柱の様子をじっと見守り続けた。
この世の法理の外から来た存在、よからぬ者との戦いは、その場にいる誰もが未経験の事だった。その為、安々と決着がつくとは誰も考えていない。
「やったのか……?」
ピーターが、不安な気持ちを吐露する様な声でそう言った。
「分からない。気を抜かないで」
クレスが注意深く火柱を見つめながらそう言った。
燃え盛る炎の中から、薄ら笑いの様なクックックという声が聞こえ始めた。
「炎から生まれた訳でも無いのに、これだけの火力を生み出すとわ。これが魔導か……、どうやら人の営みとは、親和性さえシステム化しているらしい」
キュプレサスは感心した様にそう言うと、燃え上がる自分の枝葉をバサリ、バサリと一斉にはためかせた。まるで、海中を泳ぐクラゲの様に、キュプレサスの胴体を覆う枝葉は、下から膨れる様に持ち上がると、中に掻き込んだ空気を排出する様に一気に垂れ下げられしぼんだ。
周囲に熱い風が巻き上げられる。
目も開けてられない思いで、見習い達は顔を手で覆った。
「だが、所詮は人間の作った炎。この身を焼くには、明らかに力が足りない」
覆った手を取る見習い達。炎は完全に消し去られ、対峙するキュプレサスは不敵な笑みを浮かべながら、こちらを見ていた。
炎が効いていない。
長いスカートの様にはためかせているキュプレサスの枝木は、焦げ色一つ付く事無く、青々と茂ったままだ。
「キュプレサスは良い事を思いついた。人間達を支配する上での重要な手段。つまりは歩み寄りの方法をだ」
キュプレサスはそう言うと、自らの身体を大きく揺さぶり始めた。
「お前達は力を行使する際、必ずその技の名前を口にするな。キュプレサスもそれを見習ってやる。人間に対する歩み寄りの姿勢を示してやるぞ!」
地鳴りが聞こえ始める。
同時に足下から叩きつけられる様な振動を感じた。
キュプレサスの背後に広がる丘陵が崩れ、森に生える木々が薙ぎ倒され、土の地肌を顕わにしたのが見える。
見習い達はゾッとした。
液化した土砂が、倒れた木々や岩を巻き込み、盆地となるこの場所へ雪崩れ込んで来ているのだ。
「ランドスライドだ!」
キュプレサスは自らの行使を叫んだ。
「下がって!」
咄嗟にクレスが火伏の大樹の前へと飛び出した。
「ギンコ!」
刹那に行使されたクレスの魔導は、自身の目の前に魔法陣を展開させた。
あっという間も無く、魔法陣から樹木が伸び、大きく成長して行き、迫る土砂から見習い達を守る様に三本目の大樹がそびえた。
「ピーター!」
「おう!」
クレスの呼びかけに従い、ピーターも魔法陣を展開させた。
ピーターの魔法陣からは砂が噴き出して行く。それはすぐさま固まり、砂岩となって、大樹を補強した。
迫り来る土砂は、三本の大樹に激突して行く。
大樹を削る様な轟音と振動がその場に響き始めた。
クレスは、かざした右手を震わせながら、何とか大樹を維持しようと魔導を行使し続ける。
しかし、それも束の間の事だった。
大量の土砂に押される大樹は、根元にこびり付く砂岩にヒビを入れ、その勢いのまま傾き始めて行った。
「くそ! もたない。ラヴァーニャ!」
ピーターが叫んだ。
「オレガノ、全員集まって!」
ラヴァーニャは振り向き様にそう言うと、三人の後輩達をかき集める様に自分の下に引っ張る。
「アトラス!」
ラヴァーニャの背後、見習い達を守り続ける大樹の中腹辺りに魔法陣が出現する。それは、ガスの抜ける様な音を立て、中心に圧力の掛けられた空気の玉を作り出す。
ラヴァーニャの魔導の行使を見て取ると、ピーターはクレスを庇う様に抱きしめた。
「バースト!」
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