バスト・バースト!

世々良木夜風

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Burst10. キンリンの街

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「あっ、この服可愛い~~!!」
オトメが店先のウィンドウに飾られているマネキンを見て声をあげた。

二人は『キンリン』の街に着いた後、宿に一泊し、今日は息抜きにショッピングを楽しんでいる。
といっても、買っているのはマリアだけで、オトメには余計なものを買う余裕はないのだが...

「じゃあ、入ってみましょうか?私も興味があります」
「でもいいの?そんなに買ったら持ち歩けないんじゃ...」
「あと一着くらいは何とかなります!それよりオトメさん、試着してみては?きっと可愛いですよ!」

オトメは買うお金が無いので試着するのみだった。
しかし、値切るのが当たり前のこの世界で、マリアは言い値で服を買うので店の人は嫌な顔はしない。
オトメは少し申し訳なく思いながらも、マリアの好意に甘えていた。

店に入ろうとしたその時、オトメは少し離れた店に見知った姿を見つけた。
「あれ?あの子、この前、助けてくれた...」
『ケンドー』の『ドーギ』と『ハカマ』を身につけた少女がお店のショーウィンドウを憧れの目で見つめていた。

「こんにちは!この服が欲しいの?可愛いよね!」
オトメが少女に声をかける。すると、
「わ、私はこんな服になど興味はない!ただ、修行について考えていただけだ!」
その少女は赤くなり、ムキになって反論した。しかし、
「あっ、今はやりの『JKスタイル』ですね!人気の『チェックブレザー』じゃないですか。見る目ありますね!きっと似合いますよ。試着してみては?」
マリアがそう言うと、
「なるほど、『JKスタイル』というのか...私はこの...『ミニスカート』だっけ...が可愛いと思うのだが、どうだろうか?」
ノリノリで話に乗ってきた。
「はい。あなた、運動しているので足も細いと思いますし、きっと似合いますよ!」
袴の上からでは足が見えないが、少女の体つきから見るに無駄なお肉は一切ないように思われた。
「そ、そうか!では早速...」
お店に入ろうとした少女は、何かに気づいたように突然、振り返り、声をあげた。
「じゃな~~~~~~い!!私は修行の身だ!このような服にうつつを抜かしているヒマなど...」
「でも、可愛い下着つけてるよね?」
オトメが少女の道着の合わせ目を見て言う。
「こ、これは適当に買っただけだ!決して、セールの店に開店前から並んで、徹底的に選び倒した訳ではない!」
少女は断固とした口調で、カミングアウトをする。
「でも、隠さないの?下着出てたら恥ずかしいんじゃ...」
「隠す?これは大事なところを隠すためのものだろう。何故、それを更に隠さないといけないのだ?」
「そ、それは...」
オトメはそう言われると何で隠しているのか分からなくなった。
「ふふふ。女の子は下着を見られたら恥ずかしがるものですよ!もっと女の子らしくなる為に、この服を買うのもいいのではないですか?それも一つの修行ですよ!」
マリアがそう言って服の合わせ目を直す。
「そ、そうか。修行の一つか...なら買わない訳にはいかないな!いざ!」
しかし、恥ずかしいのか、少女は店の前を行ったり来たりしている。
「ふふふ。私たちが一緒に入ってあげましょうか?」
「べ、別にこのくらい一人で...」
少女は赤くなって言う。しかし、マリアが、
「私たちもこのお店に用事があるんですよ!」
と言うと、
「な、なら仕方がないな。一緒に入ってやってもいい!」
こうしてオトメとマリアは少女とともにお店に入っていった。

「わぁ~~~~!!」
少女の目が輝く。
「この服可愛い!これも!...これも!」
「ふふふ。気に入ってくれたみたいでうれしいです」
マリアの言葉で少女は我に返る。
「ふっ、これも修行だったな。確かに精神の修行になる。お前!なかなかやるじゃないか!」
クールな表情を取り繕っているが、目があちこちに動いている。体もそわそわして落ち着かない。
「お前じゃなくて『マリア』!『マリア・ド・エライヒト』と申します」
「あっ、私は『オトメ』。『オトメ・アイリン』だよ!」
二人が自己紹介をすると、
「なら、私も名乗らぬ訳にはいかないだろう。私の名は『グレース』。『グレース・キュードー』だ!」
「よろしくね!グレースちゃん!」
「よろしくお願いしますね。グレースさん」
「あぁ、いろいろ教えてくれ、オトメ、マリア」

「では、早速、ショーウィンドウに飾ってあった服を試着してみては?」
マリアが提案すると、グレースは少し照れながらも、思い切った様子で宣言する。
「そ、そうだな!物は試し。何事も挑戦してみなければな!」
「そうです!きっとグレースさんに似合いますよ!」
マリアに後押しされ、グレースは店員さんに声をかけるのだった。
「頼もう!あの可愛い...もとい、動きやすそうな服を試してみてもよいだろうか!」
「え、えっと...試着されたいということですか?...それならあちらの試着ルームで...」
「分かった!」
そう言うと、マネキンごと持っていこうとする。
「あ、あの...サイズを教えていただければ、ご用意しますが...」
店員さんが慌てて止めるが、
「サイズとはなんだ?そういえば、下着の時も聞かれたが...」
「あの、一応、測っていただけますか?何かいろいろ心配ですので...」
代わりにマリアが答えると、店員さんも同意見だったようだ。
「では、試着ルームへ。サイズからお測り致します」
こうして、一悶着の末、ようやくグレースはお目当ての服を試着することができたのだった。

『JKスタイル』の服を着たグレースは...
「とう!はっ!」
服を着たまま派手なアクションをしていた。
「グ、グレースちゃん!服、破れちゃうよ~~!」
オトメが心配して助言するが、
「そんなことはない!むしろ動きやすい!特に下半身を邪魔する物がないから、大事な足さばきにはもってこいだ!」
そう言うと、グレースは足を180度、真上に蹴り上げた。
「わわっ!下着が丸見え...足の間までバッチリだよ...」
オトメは女でありながらも恥ずかしさで目を隠してしまう。
「よし!これに決めた!戦闘服にぴったりだ!」
しかもグレースはこれで魔物と闘うつもりのようだった。
「えっ!それで闘うの?!」
オトメは驚くが、マリアがアドバイスを始めた。
「この服は洗濯が難しいからクリーニングになります。ですので基本的に『道の駅』ではきれいにできません。街に寄ったときにクリーニングに出すことになります」
「問題ない。服を汚さず闘うのも修行のうちだ!」
「ただ、ブラウスは汗で汚れるでしょう。こちらは『道の駅』で洗濯できますので、何着か買っておくとよいでしょう。色違いで揃えるのもいいかもしれません」
「なるほど!勉強になる!マリアはすごいな!今日から『師匠』と呼ばせてくれないか!」
「えっ!師匠...」
「ああ、もしどこかで出会った時はまたいろいろ教えてくれ!よろしく頼む!マリア師匠!」
「え、えぇ...『もし』どこかで出会ったら...」
マリアは『もし』を強調した。

戦闘服せいふくを買ったグレースはマリアたちに尋ねる。
「師匠たちはこれからどうするのだ?よければ一緒に勉強させてもらいたいのだが...」
「わ、私たちは歩き疲れたのでカフェでお茶でもしようかと...」
「『カフェ』!師匠たちは憧れの『カフェ』に出入りしてるのか?!私にも『カフェ』を教えてくれ!」
「教えると言われましても...」
しかし、子供のように目を輝かせるグレースにマリアはノーとは言えなかった...
「まさかマイペースなマリアちゃんをここまで困らせるとは...」
オトメは、マイペースなオトメを翻弄する超マイペースなマリアを、更に困らせる超絶マイペースなグレースに、あきれるを通り越してむしろ感心していた。
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