伝説の後始末

世々良木夜風

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Legend 41. ドラゴンの討伐隊

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「ハル、ドラゴンに会ってからちょっと変ね...」
ツィアが浴槽に浸かりながら、そんなことを口にしていた。
「ボ~~~~ッとして何か考え込んでるし...ドラゴンの言ってたことと何か関係が?」
『なんとかする方法はないものだろうか...』
ドラゴンが漏らした言葉が妙に引っかかる。
(まるでハルに何かを期待しているような...)
しかし、聞いてもハルは何も教えてくれなかった。
(私とハルとドラゴンが手を組めば、そのアラブルってヤツを倒せないかしら...)
ツィアはそんなことを考える。
「まあ、どっちにしてもほっとけないわよね!ハルに相談を...」
そう言うと、ツィアは浴槽を出た。

「さて、下着はと...」
体を拭いたツィアが下着を探す。
「あれ?...ない!...もう!ハルったら!」
ツィアは赤くなりながら部屋着のワンピースだけを着てリビングに向かう。

「ハル!今日の替えの下着は?...って焦げてる!」
ツィアは焦げ臭いにおいに気づいた。
見ると、台所から煙が出ている。
「ご、ご、ごめんなさい!」
ハルが慌てて台所に飛んでいった。

「ごめんなさい...お料理...失敗しちゃいました...」
ハルがべそをかいている。
目の前には真っ黒なステーキが。
「ま、まあ、いいわ!...もぐもぐ...これはこれで美味しいわよ!」
ツィアが慰めるように、笑顔で言う。
(ハル...どうしちゃったのかしら...)
ツィアは心配でならなかった。
そんなツィアは思い切って、口を開く。
「...どうしたの?ハル...相談があったら乗るわよ!」
するとハルは、
「あ、あの...ツィアさんは私がいなくなったら...いえ...なんでもないです...」
そう口にしたが、曖昧に誤魔化す。
「なに言ってるの!!私たち、ずっと一緒でしょ!!...大体、ハルがいなかったら誰が家事をするのよ!」
それを聞いたツィアが思わず声を上げると、
「...そうですよね...でも...」
そう言って、また考え込む。
(どうしちゃったのかしら...いつもなら、『はい!ずっと一緒です!!...ツィアさんのお世話をできるのは私しかいませんから!』とか答えるのに...)
ツィアはますます心配になってくる。
「もしかしてアラブルのこと、考えてるの?...あんなヤツ、私がぶっ飛ばして...」
「ダメです!!」
ツィアが威勢よく口を開くと、ハルが大声を上げてそれを遮った。
「えっ?!」
ツィアが戸惑っていると、
「...ツィアさんが強いのは知ってます...でも...魔王様と同じくらい強いとなると...さすがに...」
ハルは冷静に分析する。
(た、確かに...あの時はエリザとサヨコがいた...一人ではおそらく勝てなかった...でも、今はハルとドラゴンが!)
そう思ったものの、
(でも...そのアラブルの力が分からない以上、必ず勝てるとは...そしたら私だけじゃなくてハルまで!!)
最悪の事態を考えると、口にできなかった。
「じゃあ、ハルには何か策があるの?」
困ったツィアがハルに尋ねると、
「...はい...アラブルを葬る方法が一つだけ...」
ハルはそう答える。
「ホント?!どうするの?!」
ツィアが身を乗り出して聞くが、
「...これは魔界の者の問題です...人間を巻き込むわけには...」
ハルは目を逸らし、口を濁す。
「巻き込むって...今まで一緒に旅をしてきたじゃない!!今更!!」
ツィアは更にハルに迫るが、
「大丈夫です!ツィアさんには迷惑はかけませんから!...私を...信じてください!」
ハルはにっこり笑って、そう言うだけだった。
「ハル...」
ツィアはその笑顔に何も言えなくなるのだった。

☆彡彡彡

その夜、
「ツィアさん...」
ハルが眠っているツィアの顔を見つめていた。
「ツィアさんと一緒に戦えば...勝てるかもしれません...しかし、負ければツィアさんまで...」
ハルは耐えられないといった顔をする。
「...ツィアさん!安心してください!...ツィアさんの未来は...私が命に替えても守ります!」
ハルはそう言うと、ツィアの額にそっとキスをし、布団に潜り込むのだった。

☆彡彡彡

翌朝、二人がドラゴンのもとへ向かうと、
「いたぞ!ドラゴンだ!...総員、戦闘態勢!」
騎士団が隊列を組んでドラゴンと対峙していた。
おそらく、シェスター伯爵の討伐隊だろう。
「いけません!止めないと!」
ハルが走り出すが、
「待って!」
ツィアがそれを止める。
「でも...」
ハルがドラゴンの方を見て心配そうな顔をしていると、
「ライトニング!」
いきなりツィアが魔法を唱える。
<ピシャ~~~~~~ン!!>
大音量の雷鳴と共に、稲妻がドラゴンに命中する。
<ドシ~~~~~~ン!!>
ドラゴンはその場に倒れ込み、動かなくなってしまった。
「ツィアさん!!何を!!」
ハルが慌てて、回復魔法を使おうとするが、
「待って!私を信じて!ドラゴンは大丈夫だから!」
ツィアがそう耳打ちしてくる。
「ですけど...」
心配そうにドラゴンを見つめるハルを横目に、ツィアは討伐隊に歩み寄った。


「どうしたんだ!何かあった!」
「分かりません!突然、ドラゴンが...」
討伐隊は大混乱に陥っていた。
そんな討伐隊にツィアが話しかける。
「ドラゴンは私が倒したわ!あなたたちはもう帰っていいわよ!」
すると隊員の一人が怪訝な顔をして、ツィアを怒鳴りつける。
「お前は誰だ!ここは立ち入り禁止のお触れが出ている!知らないのか!」
「...あなたじゃ話にならないわね!...隊長を呼んできて!グラーツィアと言えば分かるわ!」
ツィアがそう言うと、
「なに?」
その隊員は当惑していたが、
「ま、まさか、大賢者様ですか?!すぐに隊長を呼んでまいります!!」
隣にいた隊員が顔を真っ青にして隊長を呼びに行った。
「だ、大賢者様...まさか...」
そこでその隊員はツィアの胸のバッジに気づく。
「は、はぁ!申し訳ありませんでした!」
そして、その場に跪くのだった。

☆彡彡彡

やがて隊長がやってくる。
隊長はツィアの前に跪いて名乗った。
「私は今回のドラゴン討伐を任されましたショーグンと申します!大賢者様がおいでだったとは...失礼いたしました!」
そして、深く礼をする。
「それはいいわ!それよりドラゴンは私が倒したから、シェスター伯爵にそう伝えてもらえるかしら」
ツィアは隊長に向かってそう口にした。すると、
「先ほどの魔法は大賢者様のもので...噂に違わず凄まじい威力!しかもドラゴンを一撃で倒してしまうとは...」
隊長はそれを聞いて、ツィアの魔法を褒め始めたが、
「お世辞は結構よ!それより、私はこのドラゴンの素材を回収したいから、早々に引き揚げてもらえるかしら...いると作業の邪魔だわ!」
ツィアは最後まで聞かず、隊長にそう告げた。
基本的に、魔物の素材は倒したものの所有という、暗黙の決まりがある。
そう言われた以上、どうしようもない。そこで、
「了解しました!...ただ、ドラゴンを倒した証をシェスター伯爵に提出しなければなりません...なにか証明になるものがあれば...」
隊長が倒れているドラゴンを見て、口にすると、
「そうね!私が一筆、書くわ!これを見せればシェスター伯爵も納得するでしょう!」
ツィアはそう言って、紙に何やら書くと、サインをして差し出した。
「はっ!確かに頂戴いたしました!では私たちはこれより下山いたします!」
隊長はその紙を受け取ると、撤退の命令を出す。
「総員、下山!大急ぎだ!」
「「はい!」」
討伐隊は急いでその場を去っていった。

☆彡彡彡

討伐隊の姿が見えなくなる。
すると、
「・・・」
ドラゴンがそっとその大きな体を起こした。それを見たツィアが、
「あら、痺れは消えたかしら。怪我は治してあげるわね!...ハイ・ヒール!」
そう言って、ダメージを回復してあげる。
「ツィアさん、ビックリしましたよ!いきなりドラゴンさんを攻撃するんですから...」
ハルがその様子を見て、ホッとしていると、
「ゴメンね!討伐隊に大人しく帰ってもらうにはこれしかないと思ったの!...ドラゴンも痛かったでしょ!」
ツィアが理由を説明し、ドラゴンを気遣う。
「いや、威力の割にダメージは大したことはなかった!痺れはかなりひどく、しばらく動けなかったが...」
ドラゴンがそう答えると、
「だって、そういう風に調節したもの!...見た目は派手に!攻撃力は低く!そして電気による痺れの効果が最大限、発揮できるように!」
ツィアは『それがどうしたの?』と言わんばかりの顔で解説した。
しかし、それを聞いたハルは、
「さすが、私のツィアさん!」
大得意で胸を張っていたのだった。
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