伝説の後始末

世々良木夜風

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Legend 30. ツィア対リヴァイアサン

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「ハル!」
リヴァイアサンの間にツィアが飛び込んでくる。
「ツィアさん!」
ハルが一瞬、うれしそうな顔をするが、
「ダメです!!すぐに逃げてください!!」
リヴァイアサンの方を見ると、ツィアに向かって必死に叫ぶ。
「リヴァイアサン...なるほど、あの子が止めるわけね...」
ツィアはここのあるじの正体を知って、さすがに緊張しているようだ。
するとその姿を見たセイレーンが、
「あなた、もう起きたの?」
そう言って驚いている。
「ええ!私の中途半端な気持ちのおかげでね...でも、自分の本当の気持ちに気づかせてくれたわ!それは感謝してあげる!」
ツィアはセイレーンを睨みながら言う。
「何をわけの分からないことを!...それにそのマスクは!取り上げたはずでは!」
セイレーンは部下の人魚に目をやるが、
「た、確かに持ってきました!実際、ここにあります!」
部下は水中用マスクを見せる。
その様子を眺めていたリヴァイアサンだったが、
「まあ、良い...」
無用なやり取りをやめさせるように口を開くと、
「人間よ!お前が大人しくここに残るなら手荒なことはせぬ。しかし、陸上に戻るというのなら!!」
ドスをきかせた声で脅す。
「ひえっ!」
心臓が凍りつくような恐ろしい声に、その場にいた人魚たちが悲鳴を上げる。
しかし、ツィアは恐れる様子もなく、
「ハル!何してるの?早く逃げるわよ!」
ハルに向かって叫んでいた。
「そうしたいんですけど...リヴァイアサンに閉じ込められていて...」
ハルは困ったような表情で、近くの水を叩く。
<コンコン!>
と硬質な音がした。
「そういうことね!いいわ!すぐに助けてあげる!」
ツィアはハルに笑いかけると、
「すぐにハルを解放しなさい!そしたら手荒なことはしないわ!でも、どうしても解放しないというのなら!!」
リヴァイアサンを睨みつけ、まるでオウム返しのようなセリフをはく。
「無礼な!!」
そんなツィアをセイレーンが一喝し、
「ほう?どうすると?」
リヴァイアサンは余裕の表情で、バカにするように言った。すると、

「アイス!」
ツィアが無表情で魔法を詠唱する。その瞬間、
<ジャキ~~~~~~~ン!!>
リヴァイアサンを取り囲むように氷が広がり、氷漬けにする。
「主様!」
セイレーンがその威力に思わず叫ぶが、
<バキバキバキ...>
リヴァイアサンが体を震わせると、氷が砕け散った。
「なかなかやるではないか!」
リヴァイアサンは余裕を見せてはいるが、先ほどまでとは声のトーンが違う。
ツィアを敵として認識したようだった。
「ラララ~~~♪」
セイレーンが歌い出す。眠りか魅了の歌だろう。しかし、
「ウォータージェット!」
ツィアが詠唱すると、壁状の水が音速を超える速さでセイレーンに向かう。
それはセイレーンの歌をかき消し、その体を吹き飛ばした。
「キャ~~~~!!」
その威力に悲鳴を上げるセイレーン。するとリヴァイアサンは、
「余計なことはせんでもよい!お前らに敵う相手ではない!我がやる!巻き込まれぬよう下がっておれ!」
「はい...」
その命令に口惜しそうに従うセイレーンだった。

「人間にしてはやると褒めてやろう!しかし、人間である以上、そのマスクなしでは生きていけまい。この魔法の前でそれを守れるかな?」
リヴァイアサンは薄ら笑いを浮かべると、魔法を詠唱した。
「メイルシュトローム!」
「おお!主様の大魔法!」
セイレーンのうっとりした声が聞こえる。

魔法には初級、中級、上級、最上級があるが、それとは別に『大魔法』と呼ばれる分類がある。
これは努力だけで身につくものではなく、生まれついての種族や才能が必要だ。
『メイルシュトローム』もその一つで、水中に大渦巻きを発生させ、全てを破壊する強力な魔法だ。

なお、初級魔法が大魔法に必ずしも劣るわけではない。
使用する魔力の量によって威力が変わるからだ。
ちなみに、さっき使ったツィアの『アイス』は氷を作るだけの初級魔法だ。
それでも膨大な魔力の前では、最上級の魔法を凌駕する威力を見せたのだった。

<ズゴゴゴゴゴゴ...>
大音量と共に周りの全てを飲み込む大渦巻きが暴れ回る。
「キャ~~~~!!」
人魚たちも岩につかまり、必死に耐えなければならなかった。しかし、
「メイルシュトローム!」
ツィアが同じ魔法を唱える。
「なに?!」
さすがのリヴァイアサンの顔にも驚きの色が浮かぶ。
この魔法を自分以外が使ったのを見たことがない。
まさか人間が使うとは思いもしなかったのだろう。
<・・・>
しかも、それを超える驚きがリヴァイアサンを襲った。
「バカな!!」
ツィアとハルのいる場所付近の海が、一向に荒れていない。
穏やかな凪を保ったままだった。
考えられる理由はただ一つ。
ツィアの放ったメイルシュトロームが、自分の魔法と打ち消し合い、トータルでゼロの効果を及ぼしているのだ。
「ありえん!!」
リヴァイアサンが叫ぶ。
渦巻きの動きは基本的にランダムだ。普通はコントロールできるものではない。
それを操作していること自体、異常なのだが、ツィアはリヴァイアサンの魔法を打ち消している。
つまり、自らの渦巻きを、周りの状況を見ながら、針の穴を通すような精密さでコントロールしているとしか思えない。
そんな神業は魔王ですら不可能だろう。

<・・・>
やがて魔法の効果が切れ、辺りが穏やかになる。
ツィアは顔色一つ変えずにそこに立っていた。
「ツィアさん!すごいです!...さすが私のツィアさん!!」
ただ、ハルの興奮した声だけが響き渡っていた。


「アイス!」
<ジャキ~~~~~~~ン!!>
再び、リヴァイアサンが氷漬けにされる。
「ふん!そんな魔法などいくら唱えても...」
セイレーンがバカにしたように言うが、
<バキ...バキ...バキ...>
氷の割れる音がやけにゆっくりだ。
「主様?!」
その様子に、セイレーンがリヴァイアサンを見ると、少し当惑しているようだった。
「なぜだ...体が思うように動かぬ...」
するとツィアが説明を始める。
「当たり前よ!生き物の体は深部体温が一定に保たれることによって正常に動くの!これだけの氷結攻撃を受ければ表面温度が下がり、それが深部体温に影響する...」
「くっ!」
リヴァイアサンが初めて、苦しげな声を上げる。
「特に水中に住む生物は、変温動物が多いから尚更だわ!」
「・・・」
ツィアの言葉にリヴァイアサンは言い返せない。
「後、一回かしら?...そしたら氷を割ることもできなくなるわ!」
そんなリヴァイアサンにツィアが言い放つ。
「くそっ!」
リヴァイアサンが苦し紛れにその長い尻尾を振り回した。しかし、
「ウォーターブロック!」
<ガンッ!!>
ツィアの横で硬質な何かに当たったように弾き返される。
「まさかこれは!!」
リヴァイアサンが叫ぶ。
「そうよ!高圧で水を硬質化したの...誰かさんのおかげで、新しい防御魔法を覚えることができたわ!...あっ!『ウォーターブロック』って私がつけた名前だけど、どうかしら?」
ツィアは平然とした顔でそう言った。
「えっ?!即興で魔法を作ったんですか?!...それも私のジェスチャーのヒントだけで...」
ハルですらツィアの天才ぶりに唖然とするしかなかった。

「ハルを解放しなさい!そうしないともう一回、アイスを撃つわよ!」
ツィアがリヴァイアサンに警告する。
「くっ!」
リヴァイアサンは思わず、うめき声を上げてしまうのだった。
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