伝説の後始末

世々良木夜風

文字の大きさ
上 下
16 / 53

Legend 16. 氷の精霊を山に戻してあげよう

しおりを挟む
筋力強化ブーストパワー!」
敏捷性強化ブーストアジリティ!」
筋力と敏捷性を上げたツィアは氷の精霊を背負う。
氷の精霊は暖かい平地では、素早く移動できるだけの力はない。
ゆっくり移動するよりも一気に運んでしまおうということになったのだった。
(冷たっ!)
ツィアは顔をしかめる。
氷の精霊はその名の通り、氷のように冷たかった。
「うっ!」
氷の精霊も辛そうだ。人間の体温はやはり体力を奪うのだろう。
「ゴメンね!辛かったら言ってね!冷却魔法で回復してあげる!」
ツィアは背中の氷の精霊に話しかける。
「...やっぱりあなたはいい人間のようですね!...そちらも冷たいでしょう...無理はなさらずに...」
氷の精霊の言葉が穏やかになっている。ツィアのことを信頼し始めてくれているようだった。
「話してるヒマはないわ!行くわよ!」
ツィアは強力なバフによって大幅にアップした敏捷性で矢のように走り出す。
「待ってください!」
ハルも空を飛んで追いかけてきた。
走っては追いつかないのだ。ここから山脈を目指す人はいない。人に見られる心配もないだろう。

☆彡彡彡

やがて山の麓に辿りつく。
山を登り始めたツィアだったが、ずっと黙っているのも落ち着かないので、氷の精霊に話しかけた。
「なんでわざわざ、山から下りてきたの?」
きっと大事な用事があったのだろうと思ったツィアだったが、氷の精霊の答えは意外なものだった。
「いえ。なんか最近、街が賑やかだったので気になって...」
「そ、そんなことで...人間に見つかるとは思わなかったの?それにもう春だから暑いでしょう?」
ツィアが氷の精霊の軽率さに呆れていると、
「私、人間の暮らしに興味があって、たまに覗きに来てるんです!だから見つからない方法や、自分の体力の限界は分かっていたつもりだったんですけど...」
氷の精霊は『失敗した』とばかりに舌を出した。
「...思ったより体力を消耗しちゃって、弱っているところを捕まったってわけね?」
ツィアが『やれやれ』といった感じで予想される結末を話す。
「そうなんです!...でもなんでみんな浮かれてるんですか?」
氷の精霊は懲りていない様子でそう言うと、街が賑やかな理由を聞いてきた。
「...知らないの?魔王が倒されて平和になったのよ!」
「えっ?!」
ツィアの言葉に心底、驚いている様子の氷の精霊。
「そんなことも知らなかったの?あなたも一応、魔物でしょう?」
そんな氷の精霊に、ツィアは呆れながらも問いかけると、
「はい。私たちはあまり他の魔物と交流がないもので...そうですか...魔王様は倒されたんですね!...良かった!」
氷の精霊はホッと一息つく。
「あら、あなたも人間とは戦いたくなかった派?」
ツィアの問いに、
「私というか、私たちの部族は争いを好みません!それで高い山の山頂で細々と暮らしてたんですけど、魔王様から『人間を襲え』との指示が出て困ってたんです!」
氷の精霊は部族の事情を説明してくれた。
「そう。良かったわね!」
ツィアが頬をほころばせていると、
「その魔王様を倒したパーティの一人がツィアさんなんですよ!」
後ろからついてきているハルが自分のことのように自慢する。
「えっ?!そうなんですか?!...確かにこうやって直に触れていると凄まじいまでの魔力を感じます...」
氷の精霊がギュッとツィアを抱きしめるようにすると、
「な、何をしてるんですか!!...ツィアさんに触れていいのは私だけなんですよ!今は非常事態だから黙認してますけど...」
ハルが怒ったように氷の精霊に注意した。
「ご、ご、ごめんなさい!...そんなつもりは...」
その言葉に、氷の精霊が慌てて体を離すと、
「ちょ、ちょっと!しっかりつかまっててくれないとバランスが...」
ツィアが走りにくそうな様子を見せる。
「で、でも...」
氷の精霊はハルを見ながら困った顔をしていたが、
「とにかくしっかりつかまってて!私も急いでるんだから!」
「は、はい...」
ツィアの言葉に氷の精霊は躊躇いながらもツィアの体に抱きつく。
「ツィ、ツィアさん!!」
その様子にハルはショックを受けてしまうのだった。

☆彡彡彡

「寒くなってきたわね...」
山も中腹になってくると気温も下がってくる。
更に日も傾き始め、気温の低下に拍車をかける。
雪もちらほら降ってきたようだ。
ツィアは氷の塊を背負って走っているようなものなので体にこたえる。
「ご、ごめんなさい!少し休憩を...」
氷の精霊がそう言うが、
「もう少しなんでしょ!一気に行くわよ!夜になる前に山を下りたいし...」
ツィアはむしろスピードを上げた。
(くっ!風が冷たい!耐寒魔法はあるけど、使うとこの子が暑いわよね...こうなったら...)
「ウィンド!」
ツィアが魔法を詠唱する。
すると、風の流れが生じ、前方へと吹き出すと、向かってくる風を完全に相殺した。
今、ツィアの周りは無風状態だ。雪もちょうどいい具合に吹き飛ばしてくれる。そして、
(あら?空気抵抗がないと走りやすいわね!寒くない時も使えそう!)
ツィアは更にスピードアップしたのだった。
「す、すごい!...なんという魔力コントロール...」
その様子に氷の精霊が目を見開く。
「ふふん!ツィアさんは魔王様を倒したお方ですよ!これくらいで驚いてちゃ困ります!当然、お相手も最上級の魔物でないと...」
ハルがそんな氷の精霊に対して、対抗するような言葉を口にする。
「わ、分かってます!春の精霊様の恋人に手を出すなど...」
氷の精霊の言葉に、
「「こ、恋人?!」」
ツィアとハルの双方が声を上げた。
「あら?違ったのですか?先ほどからの春の精霊様の言動をみると...」
氷の精霊が少し驚いたような顔をすると、
「ち、ち、ち、違うわよ!ハルは私を...その...友人として慕ってるというか...」
「そ、そ、そうです!私はツィアさんの...弟子でしかありませんし...」
真っ赤になって慌てているツィアと、残念そうに目を伏せるハル。
それを見た氷の精霊はニコッと笑った。
「大丈夫ですよ!二人の気持ちはきっと同じですから...」
「「えっ?!」」
その言葉に顔を見合わせるツィアとハル。
しかし、すぐに恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。
(ハ、ハルが私と同じ気持ちって...そんな...って私、ハルをどう思ってるんだろう...この...気持ちは...)
(ツィ、ツィアさんが私と同じ?!...そ、そんなはずありません!...だったら他の人に『弟子』だなんて紹介するはずは...)
まだ自分の気持ちに気づいていないツィアと、気づき始めているが自信が持てないハル。
二人は頬を染めながらも戸惑っている様子だった。
「ふふふ!初々しい...」
そんな二人を見て頬をほころばせる氷の精霊。
「「・・・」」
その言葉を聞いて更に顔を赤くするツィアとハルだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

流美と清華の下着に関するエトセトラ

世々良木夜風
恋愛
流美は可愛い女子高生。 幼馴染の清華とは大の仲良しです。 しかし、流美には秘めた思いが。 美人でいつも自分を守ってくれる清華のことが大好きでたまらないのです! そんな流美には大事な思い出が。 幼い時に清華に助けてもらった時に言った言葉。 「大人になったらお嫁さんになってあげるね!!」 当然、清華は忘れていると思っていたのですが... これはそんな二人が、下着姿を見せ合ったり、お互いに下着のにおいを嗅ぎ合ったりしながら絆を深めていく物語。 二人は無事「両想い」というゴールに辿り着けるのでしょうか? えっ?!順序が逆?! そんな細かいことは放っておいて、走り出してしまったちょっとアブノーマルな恋愛列車。 無事、幸せという終着駅に到着することを祈りましょう!! ※全16話の短めの連載です。お気軽にどうぞ。 〇小説家になろう様にも掲載しています。

バスト・バースト!

世々良木夜風
ファンタジー
オトメ・アイリンは可愛いものが大好きな女の子! 毎日、おしゃれには気を使っています。 しかし、もうすぐ16になるのに、女の子必須のあのアイテムを持っていないのです。 なんで、買ってくれないの~~~! その理由を知り、意気消沈したオトメ。 しかし、伝説の街・オーパイに行けばその問題が解決することを知ります。 しかし、オーパイはどこにあるかも分からず、長い旅路の果てにようやくたどり着ける場所。 そこでオトメは冒険者になって、オーパイを目指すことにしますが... その過程でも問題は山積み。 果たして、オトメは旅に出ることができるのか? 仮に旅に出れたとして、まともな冒険者生活を送れるのか? マイペースキャラからいじられキャラに変貌していくオトメの受難劇。 是非、ご覧ください! 〇小説家になろう様にも掲載しています。

ハナノカオリ

桜庭かなめ
恋愛
 女子高に進学した坂井遥香は入学式当日、校舎の中で迷っているところをクラスメイトの原田絢に助けられ一目惚れをする。ただ、絢は「王子様」と称されるほどの人気者であり、彼女に恋をする生徒は数知れず。  そんな絢とまずはどうにか接したいと思った遥香は、絢に入学式の日に助けてくれたお礼のクッキーを渡す。絢が人気者であるため、遥香は2人きりの場で絢との交流を深めていく。そして、遥香は絢からの誘いで初めてのデートをすることに。  しかし、デートの直前、遥香の元に絢が「悪魔」であると告発する手紙と見知らぬ女の子の写真が届く。  絢が「悪魔」と称されてしまう理由は何なのか。写真の女の子とは誰か。そして、遥香の想いは成就するのか。  女子高に通う女の子達を中心に繰り広げられる青春ガールズラブストーリーシリーズ! 泣いたり。笑ったり。そして、恋をしたり。彼女達の物語をお楽しみください。  ※全話公開しました(2020.12.21)  ※Fragranceは本編で、Short Fragranceは短編です。Short Fragranceについては読まなくても本編を読むのに支障を来さないようにしています。  ※Fragrance 8-タビノカオリ-は『ルピナス』という作品の主要キャラクターが登場しております。  ※お気に入り登録や感想お待ちしています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

アレキサンドライトの憂鬱。

雪月海桜
ファンタジー
桜木愛、二十五歳。王道のトラック事故により転生した先は、剣と魔法のこれまた王道の異世界だった。 アレキサンドライト帝国の公爵令嬢ミア・モルガナイトとして生まれたわたしは、五歳にして自身の属性が限りなく悪役令嬢に近いことを悟ってしまう。 どうせ生まれ変わったなら、悪役令嬢にありがちな処刑や追放バッドエンドは回避したい! 更正生活を送る中、ただひとつ、王道から異なるのが……『悪役令嬢』のライバルポジション『光の聖女』は、わたしの前世のお母さんだった……!? これは双子の皇子や聖女と共に、皇帝陛下の憂鬱を晴らすべく、各地の異変を解決しに向かうことになったわたしたちの、いろんな形の家族や愛の物語。 ★表紙イラスト……rin.rin様より。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...