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Legend 16. 氷の精霊を山に戻してあげよう
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「筋力強化!」
「敏捷性強化!」
筋力と敏捷性を上げたツィアは氷の精霊を背負う。
氷の精霊は暖かい平地では、素早く移動できるだけの力はない。
ゆっくり移動するよりも一気に運んでしまおうということになったのだった。
(冷たっ!)
ツィアは顔をしかめる。
氷の精霊はその名の通り、氷のように冷たかった。
「うっ!」
氷の精霊も辛そうだ。人間の体温はやはり体力を奪うのだろう。
「ゴメンね!辛かったら言ってね!冷却魔法で回復してあげる!」
ツィアは背中の氷の精霊に話しかける。
「...やっぱりあなたはいい人間のようですね!...そちらも冷たいでしょう...無理はなさらずに...」
氷の精霊の言葉が穏やかになっている。ツィアのことを信頼し始めてくれているようだった。
「話してるヒマはないわ!行くわよ!」
ツィアは強力なバフによって大幅にアップした敏捷性で矢のように走り出す。
「待ってください!」
ハルも空を飛んで追いかけてきた。
走っては追いつかないのだ。ここから山脈を目指す人はいない。人に見られる心配もないだろう。
☆彡彡彡
やがて山の麓に辿りつく。
山を登り始めたツィアだったが、ずっと黙っているのも落ち着かないので、氷の精霊に話しかけた。
「なんでわざわざ、山から下りてきたの?」
きっと大事な用事があったのだろうと思ったツィアだったが、氷の精霊の答えは意外なものだった。
「いえ。なんか最近、街が賑やかだったので気になって...」
「そ、そんなことで...人間に見つかるとは思わなかったの?それにもう春だから暑いでしょう?」
ツィアが氷の精霊の軽率さに呆れていると、
「私、人間の暮らしに興味があって、たまに覗きに来てるんです!だから見つからない方法や、自分の体力の限界は分かっていたつもりだったんですけど...」
氷の精霊は『失敗した』とばかりに舌を出した。
「...思ったより体力を消耗しちゃって、弱っているところを捕まったってわけね?」
ツィアが『やれやれ』といった感じで予想される結末を話す。
「そうなんです!...でもなんでみんな浮かれてるんですか?」
氷の精霊は懲りていない様子でそう言うと、街が賑やかな理由を聞いてきた。
「...知らないの?魔王が倒されて平和になったのよ!」
「えっ?!」
ツィアの言葉に心底、驚いている様子の氷の精霊。
「そんなことも知らなかったの?あなたも一応、魔物でしょう?」
そんな氷の精霊に、ツィアは呆れながらも問いかけると、
「はい。私たちはあまり他の魔物と交流がないもので...そうですか...魔王様は倒されたんですね!...良かった!」
氷の精霊はホッと一息つく。
「あら、あなたも人間とは戦いたくなかった派?」
ツィアの問いに、
「私というか、私たちの部族は争いを好みません!それで高い山の山頂で細々と暮らしてたんですけど、魔王様から『人間を襲え』との指示が出て困ってたんです!」
氷の精霊は部族の事情を説明してくれた。
「そう。良かったわね!」
ツィアが頬をほころばせていると、
「その魔王様を倒したパーティの一人がツィアさんなんですよ!」
後ろからついてきているハルが自分のことのように自慢する。
「えっ?!そうなんですか?!...確かにこうやって直に触れていると凄まじいまでの魔力を感じます...」
氷の精霊がギュッとツィアを抱きしめるようにすると、
「な、何をしてるんですか!!...ツィアさんに触れていいのは私だけなんですよ!今は非常事態だから黙認してますけど...」
ハルが怒ったように氷の精霊に注意した。
「ご、ご、ごめんなさい!...そんなつもりは...」
その言葉に、氷の精霊が慌てて体を離すと、
「ちょ、ちょっと!しっかりつかまっててくれないとバランスが...」
ツィアが走りにくそうな様子を見せる。
「で、でも...」
氷の精霊はハルを見ながら困った顔をしていたが、
「とにかくしっかりつかまってて!私も急いでるんだから!」
「は、はい...」
ツィアの言葉に氷の精霊は躊躇いながらもツィアの体に抱きつく。
「ツィ、ツィアさん!!」
その様子にハルはショックを受けてしまうのだった。
☆彡彡彡
「寒くなってきたわね...」
山も中腹になってくると気温も下がってくる。
更に日も傾き始め、気温の低下に拍車をかける。
雪もちらほら降ってきたようだ。
ツィアは氷の塊を背負って走っているようなものなので体にこたえる。
「ご、ごめんなさい!少し休憩を...」
氷の精霊がそう言うが、
「もう少しなんでしょ!一気に行くわよ!夜になる前に山を下りたいし...」
ツィアはむしろスピードを上げた。
(くっ!風が冷たい!耐寒魔法はあるけど、使うとこの子が暑いわよね...こうなったら...)
「ウィンド!」
ツィアが魔法を詠唱する。
すると、風の流れが生じ、前方へと吹き出すと、向かってくる風を完全に相殺した。
今、ツィアの周りは無風状態だ。雪もちょうどいい具合に吹き飛ばしてくれる。そして、
(あら?空気抵抗がないと走りやすいわね!寒くない時も使えそう!)
ツィアは更にスピードアップしたのだった。
「す、すごい!...なんという魔力コントロール...」
その様子に氷の精霊が目を見開く。
「ふふん!ツィアさんは魔王様を倒したお方ですよ!これくらいで驚いてちゃ困ります!当然、お相手も最上級の魔物でないと...」
ハルがそんな氷の精霊に対して、対抗するような言葉を口にする。
「わ、分かってます!春の精霊様の恋人に手を出すなど...」
氷の精霊の言葉に、
「「こ、恋人?!」」
ツィアとハルの双方が声を上げた。
「あら?違ったのですか?先ほどからの春の精霊様の言動をみると...」
氷の精霊が少し驚いたような顔をすると、
「ち、ち、ち、違うわよ!ハルは私を...その...友人として慕ってるというか...」
「そ、そ、そうです!私はツィアさんの...弟子でしかありませんし...」
真っ赤になって慌てているツィアと、残念そうに目を伏せるハル。
それを見た氷の精霊はニコッと笑った。
「大丈夫ですよ!二人の気持ちはきっと同じですから...」
「「えっ?!」」
その言葉に顔を見合わせるツィアとハル。
しかし、すぐに恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。
(ハ、ハルが私と同じ気持ちって...そんな...って私、ハルをどう思ってるんだろう...この...気持ちは...)
(ツィ、ツィアさんが私と同じ?!...そ、そんなはずありません!...だったら他の人に『弟子』だなんて紹介するはずは...)
まだ自分の気持ちに気づいていないツィアと、気づき始めているが自信が持てないハル。
二人は頬を染めながらも戸惑っている様子だった。
「ふふふ!初々しい...」
そんな二人を見て頬をほころばせる氷の精霊。
「「・・・」」
その言葉を聞いて更に顔を赤くするツィアとハルだった。
「敏捷性強化!」
筋力と敏捷性を上げたツィアは氷の精霊を背負う。
氷の精霊は暖かい平地では、素早く移動できるだけの力はない。
ゆっくり移動するよりも一気に運んでしまおうということになったのだった。
(冷たっ!)
ツィアは顔をしかめる。
氷の精霊はその名の通り、氷のように冷たかった。
「うっ!」
氷の精霊も辛そうだ。人間の体温はやはり体力を奪うのだろう。
「ゴメンね!辛かったら言ってね!冷却魔法で回復してあげる!」
ツィアは背中の氷の精霊に話しかける。
「...やっぱりあなたはいい人間のようですね!...そちらも冷たいでしょう...無理はなさらずに...」
氷の精霊の言葉が穏やかになっている。ツィアのことを信頼し始めてくれているようだった。
「話してるヒマはないわ!行くわよ!」
ツィアは強力なバフによって大幅にアップした敏捷性で矢のように走り出す。
「待ってください!」
ハルも空を飛んで追いかけてきた。
走っては追いつかないのだ。ここから山脈を目指す人はいない。人に見られる心配もないだろう。
☆彡彡彡
やがて山の麓に辿りつく。
山を登り始めたツィアだったが、ずっと黙っているのも落ち着かないので、氷の精霊に話しかけた。
「なんでわざわざ、山から下りてきたの?」
きっと大事な用事があったのだろうと思ったツィアだったが、氷の精霊の答えは意外なものだった。
「いえ。なんか最近、街が賑やかだったので気になって...」
「そ、そんなことで...人間に見つかるとは思わなかったの?それにもう春だから暑いでしょう?」
ツィアが氷の精霊の軽率さに呆れていると、
「私、人間の暮らしに興味があって、たまに覗きに来てるんです!だから見つからない方法や、自分の体力の限界は分かっていたつもりだったんですけど...」
氷の精霊は『失敗した』とばかりに舌を出した。
「...思ったより体力を消耗しちゃって、弱っているところを捕まったってわけね?」
ツィアが『やれやれ』といった感じで予想される結末を話す。
「そうなんです!...でもなんでみんな浮かれてるんですか?」
氷の精霊は懲りていない様子でそう言うと、街が賑やかな理由を聞いてきた。
「...知らないの?魔王が倒されて平和になったのよ!」
「えっ?!」
ツィアの言葉に心底、驚いている様子の氷の精霊。
「そんなことも知らなかったの?あなたも一応、魔物でしょう?」
そんな氷の精霊に、ツィアは呆れながらも問いかけると、
「はい。私たちはあまり他の魔物と交流がないもので...そうですか...魔王様は倒されたんですね!...良かった!」
氷の精霊はホッと一息つく。
「あら、あなたも人間とは戦いたくなかった派?」
ツィアの問いに、
「私というか、私たちの部族は争いを好みません!それで高い山の山頂で細々と暮らしてたんですけど、魔王様から『人間を襲え』との指示が出て困ってたんです!」
氷の精霊は部族の事情を説明してくれた。
「そう。良かったわね!」
ツィアが頬をほころばせていると、
「その魔王様を倒したパーティの一人がツィアさんなんですよ!」
後ろからついてきているハルが自分のことのように自慢する。
「えっ?!そうなんですか?!...確かにこうやって直に触れていると凄まじいまでの魔力を感じます...」
氷の精霊がギュッとツィアを抱きしめるようにすると、
「な、何をしてるんですか!!...ツィアさんに触れていいのは私だけなんですよ!今は非常事態だから黙認してますけど...」
ハルが怒ったように氷の精霊に注意した。
「ご、ご、ごめんなさい!...そんなつもりは...」
その言葉に、氷の精霊が慌てて体を離すと、
「ちょ、ちょっと!しっかりつかまっててくれないとバランスが...」
ツィアが走りにくそうな様子を見せる。
「で、でも...」
氷の精霊はハルを見ながら困った顔をしていたが、
「とにかくしっかりつかまってて!私も急いでるんだから!」
「は、はい...」
ツィアの言葉に氷の精霊は躊躇いながらもツィアの体に抱きつく。
「ツィ、ツィアさん!!」
その様子にハルはショックを受けてしまうのだった。
☆彡彡彡
「寒くなってきたわね...」
山も中腹になってくると気温も下がってくる。
更に日も傾き始め、気温の低下に拍車をかける。
雪もちらほら降ってきたようだ。
ツィアは氷の塊を背負って走っているようなものなので体にこたえる。
「ご、ごめんなさい!少し休憩を...」
氷の精霊がそう言うが、
「もう少しなんでしょ!一気に行くわよ!夜になる前に山を下りたいし...」
ツィアはむしろスピードを上げた。
(くっ!風が冷たい!耐寒魔法はあるけど、使うとこの子が暑いわよね...こうなったら...)
「ウィンド!」
ツィアが魔法を詠唱する。
すると、風の流れが生じ、前方へと吹き出すと、向かってくる風を完全に相殺した。
今、ツィアの周りは無風状態だ。雪もちょうどいい具合に吹き飛ばしてくれる。そして、
(あら?空気抵抗がないと走りやすいわね!寒くない時も使えそう!)
ツィアは更にスピードアップしたのだった。
「す、すごい!...なんという魔力コントロール...」
その様子に氷の精霊が目を見開く。
「ふふん!ツィアさんは魔王様を倒したお方ですよ!これくらいで驚いてちゃ困ります!当然、お相手も最上級の魔物でないと...」
ハルがそんな氷の精霊に対して、対抗するような言葉を口にする。
「わ、分かってます!春の精霊様の恋人に手を出すなど...」
氷の精霊の言葉に、
「「こ、恋人?!」」
ツィアとハルの双方が声を上げた。
「あら?違ったのですか?先ほどからの春の精霊様の言動をみると...」
氷の精霊が少し驚いたような顔をすると、
「ち、ち、ち、違うわよ!ハルは私を...その...友人として慕ってるというか...」
「そ、そ、そうです!私はツィアさんの...弟子でしかありませんし...」
真っ赤になって慌てているツィアと、残念そうに目を伏せるハル。
それを見た氷の精霊はニコッと笑った。
「大丈夫ですよ!二人の気持ちはきっと同じですから...」
「「えっ?!」」
その言葉に顔を見合わせるツィアとハル。
しかし、すぐに恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。
(ハ、ハルが私と同じ気持ちって...そんな...って私、ハルをどう思ってるんだろう...この...気持ちは...)
(ツィ、ツィアさんが私と同じ?!...そ、そんなはずありません!...だったら他の人に『弟子』だなんて紹介するはずは...)
まだ自分の気持ちに気づいていないツィアと、気づき始めているが自信が持てないハル。
二人は頬を染めながらも戸惑っている様子だった。
「ふふふ!初々しい...」
そんな二人を見て頬をほころばせる氷の精霊。
「「・・・」」
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