伝説の後始末

世々良木夜風

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Legend 6. 迷子のスライム

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<ピ~~~~~~!!>
「近いわ!」
ツィアが声を上げる。
スライムの鳴き声がすぐ傍から聞こえた。
「いました!」
ハルがスライムを見つけたようだ。すると、
<ピキ~~~!!>
スライムがさっきより、低い声を出す。
声にとげがあり、威嚇しているようにも聞こえた。
見ると、ツィアを見て身構えている。
「大丈夫ですよ!この人はいい人間です!」
ハルが優しくスライムに話しかけるが、
<ピキ~~~!!>
スライムは相変わらず威嚇の声を出している。
「う~~~~ん、どうしよう...」
ツィアが困っていると、
「とりあえずツィアさんは隠れていてください!私が話を聞きます!」
そうハルが提案してきた。
「分かったわ!」
ツィアは距離をとり、木陰に隠れるように座ると、スライムとは反対方向を向いて、眠っているふりを始めた。
「・・・」
しばらくツィアの方を見ていたスライムだったが、
<ピ~~~~~!!>
一声鳴くと、ハルにすり寄るのだった。
「よしよし!怖かったんですね!もう大丈夫ですよ!」
震えているスライムの頭?を撫でるハル。
<ピ~~~~!ピーピー!>
しばらくするとスライムは何やら話し出したのだった。

☆彡彡彡

「ふんふん...」
ハルがスライムから話を聞いている。
スライムは落ち着いたのか、ハルの隣に座り?ピーピー話していた。
「分かりました!さっきのお姉さんに相談してきます!」
<ピ~~~~?>
スライムは不安そうな声を出すが、
「大丈夫ですよ!あの人は私も助けてくれたんです!きっとあなたも助けてくれますよ!」
ハルはそう言い残すとツィアのもとにやってきた。
「どうだった?」
ツィアが声をかける。
「それが...どうやら遊んでる間に仲間とはぐれてしまったみたいです...」
ハルが心配そうな顔で言う。
「どこかで聞いた話ね...」
ツィアがつぶやくが、
「そうですか?...小さい女の子のスライムでお母さんに会いたいと泣いてました!」
ハルは心当たりがないようで、気にする様子もなく話を続ける。
「まあ、大きくなってもはぐれる子もいるしね!それなら仕方ないか...」
ツィアがそう言うと、
「へぇ~~!そんな子もいるんですね!私だったら恥ずかしくて人には言えません!」
ハルの感想に、
「どの口がそう言うのよ!」
ツィアの額に青筋が浮かぶ。
「キャッ!ツィアさん怖いです!...それよりあの子どうしましょう?」
ハルは一声、悲鳴を上げたが、ツィアが本当に怒っているわけではないことを悟ると、今度はスライムの方を見て心配そうな顔をする。すると、
「う~~~~ん...連れてくわけにもいかないしね...」
ツィアは考え込んでしまう。
(私たちは人間の街を通っていかないといけない...ハルはともかくスライムはさすがにまずいわ!)
それに対して、
「そうですか?私は別に構わないと...はっ!もしかして!!」
ハルは何かに気づいたようで声を上げた。
「そうよ!困るでしょ!」
「はい!確かに!」
ツィアは珍しくハルが察してくれたので、にっこりと微笑んだ。
それに対し、ハルは顔を真っ赤にしてしまう。
(これから私たちの関係が深まるにつれ、よりスキンシップは濃厚になっていきます...さすがに子供に見せるわけには...)
ハルの頭の中には生まれたままの姿で絡み合うツィアとハルが映っていた。
「「う~~~~ん...」」
二人で困っていると、
<ピ~~~~?>
いつの間にかスライムが近くに寄ってきて不安そうな顔をしていた。それに対し、
「大丈夫よ!置いていったりしないから...」
ツィアはにっこりと微笑む。
「でも...」
ハルが何か言いかけると、
「私、思うんだけど、この子の母親も絶対、心配してると思うのよね!」
ツィアが遮るように口を開く。
「きっとそうです!」
ハルも同意すると、
「じゃあ、ここで待ってれば向こうから捜しに来るんじゃないかしら?」
ツィアの言葉に、
「そうですね!今頃気づいてるでしょうから、きっとすぐに戻ってきてくれます!」
ハルは笑顔になる。
それを見たツィアも笑顔になるとスライムに話しかけた。
「大丈夫よ!きっとあなたのお母さんが迎えに来てくれる...それまで一緒に待っていましょ!」
<ピ~~~~~~!!>
スライムはツィアにも分かるくらいうれしそうな鳴き声を上げた。

☆彡彡彡

「それっ!」
<ピ~~!>
ツィアたちはスライムのお母さんが迎えに来るまで鬼ごっこをして遊んでいた。
スライムは逃げるのが上手でなかなか捕まらない。
「やるわね!」
少し考え込んだツィアだったが、
「挟み撃ちよ!ハル!」
「はい!」
ツィアとハルは左右からスライムを取り囲む。
<ピ~~?>
「今よ!」
「はい!」
二人は一斉に飛びかかった。
<ピ~~!>
「痛っ!」
「あうっ!」
しかし、横に逃げられ二人はぶつかってしまう。そして、
「ハル、大丈夫?...あっ!」
「はい。ツィアさんは...えっ?!」
二人はお互いの今の状況を把握した。
(わ、私、ハルと...)
(私、ツィアさんと...)
二人は固く抱き合っていた。
<ボッ!>
二人の頭の中に炎の燃える音が聞こえた気がする。
それほど二人の顔は赤くなっていた。
(ハルの胸...思った通り、柔らかい...それに...華奢な体...守って...あげたい...)
(ツィアさん...あったかい...お、お胸が当たって...もっと...くっつけて...)
二人は無意識のうちに相手を強く抱きしめる。しかし、
(ダ、ダメよ!こんなことしちゃ!...ハルに嫌われちゃう!離れないと!)
(い、いけません!ツィアさんの体は私なんかが好きにしていいものでは...離れましょう!)
「「・・・」」
しかし二人は金縛りにあったように動けない。
頭では分かっていても体が言うことを聞かない。
(な、なんで体が動かないの?!大体、ハルの方から離れてよ!運命の人のための大事な体なんでしょ!)
(う、動かなきゃ!でも...動けない...お願いです!ツィアさんの方から離れてください!これ以上、このままだと...ツィアさんを汚すことに...)
しかし、相手は離れようとしない。
しびれを切らした二人は、
「ハル!何してるの!早く離れて...」
「ツィアさん!お願いだからツィアさんの方から...」
二人の目が合った。
<カアッ!>
また二人の顔が赤く染まる。
(か、可愛い...至近距離から見るハルの顔...私...もう...)
(...なんて綺麗な顔...近くで見れば見るほど綺麗...私、この人に...決めて...)
くっつきそうな二人の顔。それが更に縮まる。
(ハル...貰って...私の...ファーストキス...)
(ツィアさん...あなたになら...あげます...私の...初めての...キス...)
二人が目を閉じ、唇が触れようとしたまさにその時、

<ピ~~~~?>
近くから聞き覚えのある甲高い鳴き声が聞こえた。
「「!!」」
二人は真っ赤になり、声の方を見る。
すると、スライムが不思議そうな顔をしながら二人の様子を眺めていた。
<バッ!!>
さっきまでの金縛りがウソのように瞬時に離れる二人。そして、
「こ、こ、こ、これは違うの!!これはあの...その...」
「そ、そ、そ、そうです!!私たちは健全な...」
そうは言うもののなかなか言い訳が出てこない。
<ピ~~~~?>
また、スライムが声を出すと、
「そ、そ、そう!これは仲のいい女の子がお互いの友情を確かめる儀式なの!!ねっ!ハル!」
「そ、そ、そ、そうです!私もそう言おうと...だから真似しちゃダメですよ!」
ツィアはなんとか言い訳を思いついたようだ。
ハルに同意を求めると、ハルも話を合わせてくれる。
<ピ~~~!>
「えっ?私もしたい?...ダメです!これは大人になってから...」
スライムを誤魔化すのにまたしばらくの時間が必要だった。
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