伝説の後始末

世々良木夜風

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Legend 5. ハルとの旅立ち

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「さて!じゃあ出発しましょうか!」
太陽と共に起き、朝食を済ませたツィアがハルに声をかける。
「はい!」
ハルは元気に返事をした。
「ただ、ハルには注意してもらいたいことがあるの!」
ツィアは真面目な顔でそう言う。
「なんですか?」
ハルが首を傾げると、
「これから私たちは人間の行き交う街道を通って、人間の街に寄りながら魔界に向かうことになるわ!...そのためには...」
「魔物だとバレないようにしないといけませんね!」
ツィアの言葉にハルが元気よく答える。
「ええ!そうね!」
「ふふふ!」
宙に浮きながらうれしそうにツィアの顔を見つめているハル。
「・・・」
ツィアは頭を押さえる。
「...ハルに聞きたいんだけど...」
「なんでしょう!」
相変わらず大きな声で答えるハル。
「人間は空中に浮けるかしら?」
ツィアの問いに、
「浮けません!」
ハルはまた元気に答える。
「・・・」
それでも気づかないハルにツィアは先行きが不安になった。
(この子に間接的な言い方はダメね!私が気を配って逐一、注意しないと!)
そう思ったツィアはハルの肩に手をやると地面へと押し下げる。
「あっ!なにを!」
真っ赤な顔でギュッと目をつむるハル。
何かを期待しているのか、顔は上に向けている。
そんなハルにツィアは言った。
「人間だと思われたかったら、宙に浮くのはやめて地面を歩きなさい!」
「・・・」
ツィアにそう言われたハルは、目を開けるとガッカリした顔をした。
しかし、気を取り直すと、
「分かりました!ツィアさんの言う通りにします!」
大人しく指示に従うのだった。
ハルが歩き出そうとすると、
「ちょっと待って!」
ツィアがハルを止める。
「なんですか?」
また、ハルが首を傾げると、
「そのまま歩いたら足が汚れちゃう!靴を履かないと!」
裸足のハルを見たツィアは、荷物の木箱の中を探し始めた。
「大丈夫ですよ!魔物の体は魔力でできてますから、汚れたら、また再構築すれば...」
ハルはそう言うが、ツィアは一生懸命、探していて聞こえなかったようだ。
「あっ!これこれ!...これなら足のサイズが小さいハルでも履けるし、靴に慣れてなくても疲れないわ!」
そう口にすると、一足の白いサンダルを取り出した。
「可愛い!」
ハルがそれを見て声を上げる。
ヒールの低いサンダルで、足の甲と足首にバンドがあり歩きやすそうだ。
しかも、幅の広いバンド部分には花柄の模様が入っていて、ハルのワンピースとの相性も良さそうだった。
オシャレなツィアらしいサンダルだ。
「ふふふ。気に入ってくれてうれしいわ!それを履いて!」
「はい!」
ツィアの声にうれしそうに応えるハル。
そして、サンダルを履くと数歩、歩いてみる。
「これ、いいです!石を踏んでも痛くありません!」
笑顔のハル。それを見て自分も笑顔になったツィアは言った。
「良かった!慣れないうちは疲れるかもしれないけどお願いね!」
「はい!」
ツィアのお願いに素直に返事をするハルだった。

☆彡彡彡

「ふ~~~ん♪ふ~~~ん♪」
ハルのご機嫌な鼻歌が聞こえる。
二人は魔界に向け、とりあえず、次の街を目指して歩いていた。
二人は手を繋いでいる。
(こ、これはハルが迷子にならないように...)
しかし、ツィアもどこかうれしそうだった。
時々、ハルは肩を寄せ、頬をすりつけてくる。
「もう!」
そう言いながらも嫌がる素振りは見せないツィア。
(魔物って愛情表現が直接的なのかしら...って『愛情』って変な意味じゃないわよ!!...むしろ親愛に近いというか...)
なぜか言い訳せずにはいられなかったツィアだったが、ふとあることに気づく。
(ハルったらこんな近くに寄って...って私、昨日、お風呂に入ってない!!...野宿したし、へ、変なにおいとか...)
今は春の初めだ。朝夕は冷え込むが日中はそれなりに暑い。
ずっと歩きっぱなしなのも加わり、汗のにおいが気になった。
<クンクン>
ツィアはわきのにおいを確かめる。
(い、今はまだ、大丈夫みたいだけど...)
そんなことを考えていると、
「何してるんですか?」
<クンクン>
ハルも真似をしてわきのにおいを嗅いでいた。
「何もにおいませんけど...」
ハルの言葉にツィアは気になっていることを聞く。
「魔物ってお風呂に入ったり、洗濯したりしないわよね?」
すると、
「お風呂?洗濯?」
案の定、ハルは首を傾げている。
「その...体の汚れとか...においとかは...」
ツィアが頬を染めながら聞くと、
「それならさっきも言いましたけど、魔物の体は魔力でできてますから、汚れたら、また再構築すれば元通りです!服も同じです!」
ハルが詳しく説明してくれた。
「そ、そう...羨ましいわね...」
ツィアがそう言うと、
「人間はどうしてるんですか?」
ハルが聞いてくる。
「人間はお風呂に入って体を洗ったり、洗濯をして服を綺麗にしてるのよ!」
ツィアが解説すると、
「へぇ~~~~!面白そう!...どうするんですか?今度見せてください!」
ハルが無邪気に言う。
「み、見せるって!!...お、お風呂はダメよ!...洗濯は次の街でする予定だけど...」
ツィアは耳まで真っ赤にしながら答える。
「え~~~~!お風呂も見たいです!」
ハルの不満げな声に、
「お、お風呂は何も着ないで入るの...ハ、ハルのも...み、見えちゃうわよ!」
ツィアがハルの様子を窺うように言うと、
「そ、そ、それは困ります!...私、ツィアさんみたいに綺麗じゃないし...」
ハルは真っ赤になって慌てている。
「そ、そうよね...イヤよね...い、いいの!私も恥ずかしいし...」
ツィアのホッとしたような、それでいて残念そうな声に、
「...イヤじゃ...ありませんけど...」
ハルが小声でつぶやいた。
「なに?」
「な、なんでもありません!!」
ツィアが問い返すとハルは慌ててそう言った。
(と、とにかく早く次の街でお風呂と洗濯を!...急げば今日中に着けるかも!)
そう思ったツィアは足を早める。
「ま、待ってください!!」
ハルは腕を引っ張られ、慌てて駆け出すのだった。

☆彡彡彡

早足で歩くこと数時間。
(これなら今日中に着けそうね!)
ツィアが安心した時、
「あっ!」
ハルが突然、足を止めた。
「ど、どうしたの?」
腕を引っ張られ倒れそうになったツィアがハルに聞く。
「スライムの声...」
「スライム?」
ハルの言葉にツィアは耳を澄ます。
<ピ~~~~~~!!>
遠くから甲高い鳴き声が聞こえてきた。
「あの子、困ってます...良かったら...」
ハルがツィアの顔を窺う。
(本当は寄り道したくないけど...)
しかし、ハルの悲しそうな顔に『ノー』とは言えなかった。
「分かったわ!行ってみましょ!」
「はい!」
ツィアの返事に笑顔に変わるハル。
(まっ、いっか!...ハルも喜んでくれたし...)
ツィアとハルは声のした方へと駆け出していった。
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