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Legend 1. さよなら...
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「おい!もうすぐ夕暮れだ。今日は泊まって、明日、出たらどうだ?!」
ここは王都の門。一人の門番が声をかける。
「・・・」
しかし、魔法使いらしき少女は一人、振り向きもせずに街を出ていった。
「あんな女の子一人で...いくら魔王が倒されたとはいえ...」
門番は一人、つぶやいていたが、強制的に連れ戻す権限はない。
とぼとぼと俯いて歩いていく少女の背中を見送ることしかできなかった。
☆彡彡彡
「めでてぇなぁ~~~~!!」
ここは王都の繁華街。
今日も賑わいが途切れることはなかった。
それもそのはず。長年、人々を苦しめていた魔王が倒され、魔物が出なくなったのだ。
勇者の一行が王に報告に来てから一週間、経つが、未だに人々は浮かれ騒いでいる。
それに加え、
「今日の勇者様、かっこよかったわね~~~!」
「花嫁さんも綺麗だったわ!」
本日、勇者とそのパーティで僧侶をしていた女性の結婚披露宴が行われたのだ。
ついさっきまで最後のお披露目として、王都の大通りをパレードしていた。
今頃は二人、新居に戻っている頃だ。
「大賢者様は?」
誰かが声を上げる。
「そういえば...さっきまでいらっしゃったのに...」
別の誰かが捜すようにキョロキョロしている。
「魔王討伐の立役者!しかも絶世の美人ときている!!おいらもお目にかかりたいもんだ!」
大きな声で騒ぐ男性。
「もう!男はこれだから...でも女の目から見ても綺麗な方よね~~~!しかも、あらゆる魔法を使いこなす天才中の天才!!私も憧れちゃうわ~~~!」
この日も喧噪はやみそうになかった。
☆彡彡彡
一人の少女が王都から続く道を歩いている。
少女の後ろからは大きな木箱が生きているかのように宙を浮いてついてくる。
魔法か何かで荷物を運んでいるのだろうか?
その少女はとても美しかった。
小さくスッとした顔。長いまつ毛。ピンクの唇。
ツヤツヤでくせのない黒髪はストレートのセミロング。
背は高めだ。160は優に超えている。
頭にはツバの大きなとんがり帽子。体にはローブをまとい、革靴を履いている。
全てが薄紫色で統一され、抜群のスタイルと相まって美術品を思わせる美しさだった。
ローブの腰には紐を巻き、くびれを強調している。
おまけに胸の生地が引っ張られ、その大きく美しい胸の形を際立たせていた。
ローブは膝までしかなく、ふくらはぎが見える。細く白いだけでなく女性らしい曲線美も兼ね備えている。
太ももまで美しいであろうことが容易に想像できた。
「エリザ...」
少女が一言、つぶやいた。
その声は切なく、聞く者がいたらきっと胸を締め付けられただろう。
(何がいけなかったのかしら...)
少女は遠い昔を思い返す。
〇・〇・〇
ある日のことだった。
凛々しい女性の剣士とその幼馴染の僧侶が少女の街を訪れたのだ。
少女の名はグラーツィア。愛称はツィア。魔法の天才として名が通っていた。
ただ、本人は冒険者になどなるつもりはなく、街で普通に暮らしていたかった。しかし、
「私と一緒に来てくれないか!」
そう言って熱心に誘う剣士の女性。名はエリザといった。
背が高く、凛々しい顔立ちをしたエリザは、女でありながら、大男顔負けの腕力と鮮やかな剣技を誇っていた。
それでいて、謙虚で優しく、驕るところがない。
その時はただの街娘でしかないツィアのもとに何度も足を運んでくれた。
(なんて素敵な...お方...)
いつしかツィアはエリザに恋をしてしまっていた。
(この方と...一緒なら...)
そしてついに、ツィアはエリザについていく決心をしたのだった。
それからツィアは努力に努力を重ねた。
大好きなエリザの役に立とうと死ぬ気で魔法を猛特訓した。
もともと素質のあったツィアは攻撃系の魔法に飽き足らず、回復系やバフ、デバフまでマスターし、人々に畏敬の念を込めて『大賢者』と呼ばれるまでになった。
美しさも磨きをかけようと、毎日、鏡を見ては美しく見える姿勢や仕草を研究し、ダイエットにも余念がなかった。
服装も戦闘用のローブという制約はあったものの、可愛い格好を追求し、スタイルが綺麗に見える着こなしや、丈の長さにまでこだわった。
もともと美人であったツィアは更に美しくなり、『王国一の美人』とまで言われるようになった。
しかし、エリザが選んだのはツィアではなかった。
可愛いといえば可愛いが、どこか地味で垢抜けない幼馴染の僧侶だった。
それはツィアが冒険の間、どこか心の中で感じていたことだった。
エリザはその僧侶、サヨコといると、とても安心した顔をしていたのだ。
サヨコは控えめであまり自分を主張しない。
しかし、エリザの言葉に常に笑顔で耳を傾け、励まし続けていた。
そんなサヨコにエリザが心を許しているのを象徴していた事実がある。
エリザはサヨコにしか下着を洗わせなかったのだ。
『それは幼馴染だから』と必死に自分を誤魔化してきたが、魔王を倒した後、全てが自明のこととなった。
エリザがサヨコに結婚を申し込んだのだ。
ツィアは二人を祝福した。
心からそう思っていたわけではない。
しかし、そうしなければあまりにも自分が惨めだった。
そして、結婚披露宴が終わったこの日、そっと二人の前から姿を消したのだった。
〇・〇・〇
(結局、私は全て、自分、自分だったのね...)
ツィアはそう思う。
(魔法の練習をしたのも自分がすごい人間だと思われたかったから...美しさを追求したのもみんなに『綺麗』って言われたかったから...)
「ふう...」
ツィアはため息をつく。
(こんな私にはお似合いの最後ね...)
そしてツィアは胸につけた王家の紋章の入ったバッジを見る。
『これは魔王を倒したそなたたちに捧げる王家の証!これを見せれば貴族といえど、そなたたちの願いを無下にすることはできぬ!その証をつけている者は王家と同じ権力を持っていることを意味しているからだ!』
ツィアは王への謁見の席を思い出す。
ツィアたち一行には、10回人生を繰り返しても使い切れないほどの金貨。そして王家の権力の証であり、偉業を成し遂げた名誉を意味するバッジが与えられた。
(こんなもの!!)
ツィアはそのバッジを外して捨ててしまおうとする。しかし、
(でも...これまでなくしたら私が生きてきた意味がない...)
そう思ったツィアは思いとどまる。
(でも...お金、権力、名誉...私が本当に欲しかったのはこんなものじゃない!!...私が欲しかったのは...)
<ポタッ...>
ツィアの目から涙がこぼれた。
「えぐっ!えぐっ!」
女の子の嗚咽が聞こえる。
それはだんだん大きくなり、
「え~~~~~~ん!!」
大きな泣き声になってしまった。
(そうそう。私は今、こんな気持ちで...)
「って私の声じゃない!!」
思わず叫んでしまったツィアが、周りを見渡すと...
大きな樹にもたれかかって大声で泣いている女の子がいた。
年はツィアと同じか少し、下に見えた。
「みんなどこに行ったの~~~~!!置いてかないで~~~~~!!」
その様子にツィアは自分の境遇も忘れ、ポカンとしてしまうのだった。
ここは王都の門。一人の門番が声をかける。
「・・・」
しかし、魔法使いらしき少女は一人、振り向きもせずに街を出ていった。
「あんな女の子一人で...いくら魔王が倒されたとはいえ...」
門番は一人、つぶやいていたが、強制的に連れ戻す権限はない。
とぼとぼと俯いて歩いていく少女の背中を見送ることしかできなかった。
☆彡彡彡
「めでてぇなぁ~~~~!!」
ここは王都の繁華街。
今日も賑わいが途切れることはなかった。
それもそのはず。長年、人々を苦しめていた魔王が倒され、魔物が出なくなったのだ。
勇者の一行が王に報告に来てから一週間、経つが、未だに人々は浮かれ騒いでいる。
それに加え、
「今日の勇者様、かっこよかったわね~~~!」
「花嫁さんも綺麗だったわ!」
本日、勇者とそのパーティで僧侶をしていた女性の結婚披露宴が行われたのだ。
ついさっきまで最後のお披露目として、王都の大通りをパレードしていた。
今頃は二人、新居に戻っている頃だ。
「大賢者様は?」
誰かが声を上げる。
「そういえば...さっきまでいらっしゃったのに...」
別の誰かが捜すようにキョロキョロしている。
「魔王討伐の立役者!しかも絶世の美人ときている!!おいらもお目にかかりたいもんだ!」
大きな声で騒ぐ男性。
「もう!男はこれだから...でも女の目から見ても綺麗な方よね~~~!しかも、あらゆる魔法を使いこなす天才中の天才!!私も憧れちゃうわ~~~!」
この日も喧噪はやみそうになかった。
☆彡彡彡
一人の少女が王都から続く道を歩いている。
少女の後ろからは大きな木箱が生きているかのように宙を浮いてついてくる。
魔法か何かで荷物を運んでいるのだろうか?
その少女はとても美しかった。
小さくスッとした顔。長いまつ毛。ピンクの唇。
ツヤツヤでくせのない黒髪はストレートのセミロング。
背は高めだ。160は優に超えている。
頭にはツバの大きなとんがり帽子。体にはローブをまとい、革靴を履いている。
全てが薄紫色で統一され、抜群のスタイルと相まって美術品を思わせる美しさだった。
ローブの腰には紐を巻き、くびれを強調している。
おまけに胸の生地が引っ張られ、その大きく美しい胸の形を際立たせていた。
ローブは膝までしかなく、ふくらはぎが見える。細く白いだけでなく女性らしい曲線美も兼ね備えている。
太ももまで美しいであろうことが容易に想像できた。
「エリザ...」
少女が一言、つぶやいた。
その声は切なく、聞く者がいたらきっと胸を締め付けられただろう。
(何がいけなかったのかしら...)
少女は遠い昔を思い返す。
〇・〇・〇
ある日のことだった。
凛々しい女性の剣士とその幼馴染の僧侶が少女の街を訪れたのだ。
少女の名はグラーツィア。愛称はツィア。魔法の天才として名が通っていた。
ただ、本人は冒険者になどなるつもりはなく、街で普通に暮らしていたかった。しかし、
「私と一緒に来てくれないか!」
そう言って熱心に誘う剣士の女性。名はエリザといった。
背が高く、凛々しい顔立ちをしたエリザは、女でありながら、大男顔負けの腕力と鮮やかな剣技を誇っていた。
それでいて、謙虚で優しく、驕るところがない。
その時はただの街娘でしかないツィアのもとに何度も足を運んでくれた。
(なんて素敵な...お方...)
いつしかツィアはエリザに恋をしてしまっていた。
(この方と...一緒なら...)
そしてついに、ツィアはエリザについていく決心をしたのだった。
それからツィアは努力に努力を重ねた。
大好きなエリザの役に立とうと死ぬ気で魔法を猛特訓した。
もともと素質のあったツィアは攻撃系の魔法に飽き足らず、回復系やバフ、デバフまでマスターし、人々に畏敬の念を込めて『大賢者』と呼ばれるまでになった。
美しさも磨きをかけようと、毎日、鏡を見ては美しく見える姿勢や仕草を研究し、ダイエットにも余念がなかった。
服装も戦闘用のローブという制約はあったものの、可愛い格好を追求し、スタイルが綺麗に見える着こなしや、丈の長さにまでこだわった。
もともと美人であったツィアは更に美しくなり、『王国一の美人』とまで言われるようになった。
しかし、エリザが選んだのはツィアではなかった。
可愛いといえば可愛いが、どこか地味で垢抜けない幼馴染の僧侶だった。
それはツィアが冒険の間、どこか心の中で感じていたことだった。
エリザはその僧侶、サヨコといると、とても安心した顔をしていたのだ。
サヨコは控えめであまり自分を主張しない。
しかし、エリザの言葉に常に笑顔で耳を傾け、励まし続けていた。
そんなサヨコにエリザが心を許しているのを象徴していた事実がある。
エリザはサヨコにしか下着を洗わせなかったのだ。
『それは幼馴染だから』と必死に自分を誤魔化してきたが、魔王を倒した後、全てが自明のこととなった。
エリザがサヨコに結婚を申し込んだのだ。
ツィアは二人を祝福した。
心からそう思っていたわけではない。
しかし、そうしなければあまりにも自分が惨めだった。
そして、結婚披露宴が終わったこの日、そっと二人の前から姿を消したのだった。
〇・〇・〇
(結局、私は全て、自分、自分だったのね...)
ツィアはそう思う。
(魔法の練習をしたのも自分がすごい人間だと思われたかったから...美しさを追求したのもみんなに『綺麗』って言われたかったから...)
「ふう...」
ツィアはため息をつく。
(こんな私にはお似合いの最後ね...)
そしてツィアは胸につけた王家の紋章の入ったバッジを見る。
『これは魔王を倒したそなたたちに捧げる王家の証!これを見せれば貴族といえど、そなたたちの願いを無下にすることはできぬ!その証をつけている者は王家と同じ権力を持っていることを意味しているからだ!』
ツィアは王への謁見の席を思い出す。
ツィアたち一行には、10回人生を繰り返しても使い切れないほどの金貨。そして王家の権力の証であり、偉業を成し遂げた名誉を意味するバッジが与えられた。
(こんなもの!!)
ツィアはそのバッジを外して捨ててしまおうとする。しかし、
(でも...これまでなくしたら私が生きてきた意味がない...)
そう思ったツィアは思いとどまる。
(でも...お金、権力、名誉...私が本当に欲しかったのはこんなものじゃない!!...私が欲しかったのは...)
<ポタッ...>
ツィアの目から涙がこぼれた。
「えぐっ!えぐっ!」
女の子の嗚咽が聞こえる。
それはだんだん大きくなり、
「え~~~~~~ん!!」
大きな泣き声になってしまった。
(そうそう。私は今、こんな気持ちで...)
「って私の声じゃない!!」
思わず叫んでしまったツィアが、周りを見渡すと...
大きな樹にもたれかかって大声で泣いている女の子がいた。
年はツィアと同じか少し、下に見えた。
「みんなどこに行ったの~~~~!!置いてかないで~~~~~!!」
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