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第二部 四季姫進化の巻
第十七章 悪鬼復活 3
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三
「下手に動いたら、いかんどす。あの人は、本気どす!」
ピストルを持った男―?伝師護を前にして、榎たちは迂闊に動けずにいた。
楸の制止がなくとも、榎は身動き一つできなかった。綴に対して怒りをぶつけ、血が上った頭は逆上せて、うまく働かない。
「何をやっとるんや、おっさん!」
「あなたの息子でしょう!? 銃を向けるなんて……」
護の信じられない行動に、柊も椿も、揃って非難の声を上げる。
だが、護は周囲の言葉に心を突き動かされる気配もなく、くだらなさそうに吐き捨てた。
「こんな化け物の親になった覚えはない。私の息子は、語一人だ」
はっきりと、綴との血の繋がりを否定した。まさか、綴は護の子供ではないのだろうか。
確かに、似ているかと言われると、あまりにも類似点が少なすぎる。綴の容姿からは、護の面影を見つけられない。
だが、悪鬼の血を間違いなく引いている綴は、確実に伝師一族の人間だ。
だとしたら、護という男は、いったい何者なのか―??
「伝師一族の繁栄に欠かせない力を持っているから生かしておいたが、私の邪魔をするのなら、容赦はしない。人柱の使命を、全て一人で受け入れて犠牲になるつもりだったのだろうが、残念だったな。目の前に素晴らしい力の源が存在しているのに、私が見逃すとでも思ったのか。お前一人ごときが制御できる力など、微々たるものだ。地脈の恩恵にあやかるには、より強大な力が必要だ。四季姫とかいう、化け物の力がな!」
護は興奮しているらしく、早口で本音をぶちまけた。この男にかかれば、榎たちも化け物呼ばわりらしい。
「お前など既に用済みだが、この化け物どもに暴れられては困るからな。全ての儀式が終わるまでは、生かしておいてやる」
綴に銃口を向けつつ、脅しをかけて言葉で動きを封じる。綴は表情を強張らせながらも、微動だにせず、大人しく護の手中に納まっていた。
「結局、殺すんやないかい! それが分かっとんのに、しぶしぶ言うこと聞くとでも思うとるんか!」
相手からだだ漏れる殺意には、説得の余地など見つけられなかった。
どのみち、四季姫が儀式によって魂を失えば、綴は始末される。人質の価値などない。
柊たちは駄目元で、戦闘態勢に入ろうとした。
でも、榎は剣を持つ手を降ろし、陣の中に戻って意識を集中し始めた。
「えのちゃん……? 何を、しているの?」
榎に気付いた椿が、声を震わせる。
「陣を、組み直す」
返答に驚いた椿が、慌てて榎の側に駆け寄ってくる。
「どうして!? 力を渡せば、みんな死んじゃうのよ!? 綴さんだって、無事じゃ済まないのよ!」
「でも、拒めば、すぐに殺される……。少しでも長く、綴さんを生かせれば、助かるチャンスがあるかもしれない」
都合のいい考えかもしれないが、今この瞬間に綴を犠牲にして戦うなんて、絶対に嫌だった。
とにかく、今は時間を稼ぐ。榎たちが言いなりになっていると分かれば、陣が復活するまでの間に、護にも隙が生まれるはずだ。
「覚悟は決まったな? さっさと配置につけ」
四季姫を相手にするなら、綴には人質としての価値が充分あると確信していたのだろう。余裕の表情で護は命令を飛ばしてきた。
榎の意図を汲んだ楸と椿が、黙って陣に戻った。柊は最後まで抵抗していたが、楸の目配せを受けて、渋々と陣に入ってくれた。
再び、壊れた陣を修正し始める。
体に、地脈が流れ込んでくる。意識しなくても、体が怯えで震えていた。
地脈の流れが、榎たちを通して正常になるにつれて、陣が修復してゆく。
榎は横目で、護を見る。
思った以上に護には隙がなく、綴に向けたピストルに意識を向け続けている。
だが、四季姫に向けての注意は、少し緩んだ気がした。
今なら、術を飛ばせば護と綴を引き離せるかもしれない。
榎は気持ちを鎮めて、剣の柄を握り直した。
動き出そうとした直前、激しい金属音が辺りに響き渡った。
同時に、護の悲鳴が飛び交った。
驚いた榎たちが顔を上げると、護は綴の側から弾き飛ばされて、倒れ込んでいた。
手に握っていたピストルは、銃口部分が真っ二つに割れて、使い物にならなくなっている。
「何だ!? 何が起こった!?」
状況が呑み込めず、護は錯乱していた。
榎たちは茫然としたまま、綴のほうに視線を向けた。
綴の側には、一人の少女が立っていた。
ボロボロの十二単を身に纏った、折れた鎌を握りしめた少女。
「こいつは、――綴は、殺させない」
少女―?神無月萩は、憎悪の籠った目で護を睨みつけていた。
「下手に動いたら、いかんどす。あの人は、本気どす!」
ピストルを持った男―?伝師護を前にして、榎たちは迂闊に動けずにいた。
楸の制止がなくとも、榎は身動き一つできなかった。綴に対して怒りをぶつけ、血が上った頭は逆上せて、うまく働かない。
「何をやっとるんや、おっさん!」
「あなたの息子でしょう!? 銃を向けるなんて……」
護の信じられない行動に、柊も椿も、揃って非難の声を上げる。
だが、護は周囲の言葉に心を突き動かされる気配もなく、くだらなさそうに吐き捨てた。
「こんな化け物の親になった覚えはない。私の息子は、語一人だ」
はっきりと、綴との血の繋がりを否定した。まさか、綴は護の子供ではないのだろうか。
確かに、似ているかと言われると、あまりにも類似点が少なすぎる。綴の容姿からは、護の面影を見つけられない。
だが、悪鬼の血を間違いなく引いている綴は、確実に伝師一族の人間だ。
だとしたら、護という男は、いったい何者なのか―??
「伝師一族の繁栄に欠かせない力を持っているから生かしておいたが、私の邪魔をするのなら、容赦はしない。人柱の使命を、全て一人で受け入れて犠牲になるつもりだったのだろうが、残念だったな。目の前に素晴らしい力の源が存在しているのに、私が見逃すとでも思ったのか。お前一人ごときが制御できる力など、微々たるものだ。地脈の恩恵にあやかるには、より強大な力が必要だ。四季姫とかいう、化け物の力がな!」
護は興奮しているらしく、早口で本音をぶちまけた。この男にかかれば、榎たちも化け物呼ばわりらしい。
「お前など既に用済みだが、この化け物どもに暴れられては困るからな。全ての儀式が終わるまでは、生かしておいてやる」
綴に銃口を向けつつ、脅しをかけて言葉で動きを封じる。綴は表情を強張らせながらも、微動だにせず、大人しく護の手中に納まっていた。
「結局、殺すんやないかい! それが分かっとんのに、しぶしぶ言うこと聞くとでも思うとるんか!」
相手からだだ漏れる殺意には、説得の余地など見つけられなかった。
どのみち、四季姫が儀式によって魂を失えば、綴は始末される。人質の価値などない。
柊たちは駄目元で、戦闘態勢に入ろうとした。
でも、榎は剣を持つ手を降ろし、陣の中に戻って意識を集中し始めた。
「えのちゃん……? 何を、しているの?」
榎に気付いた椿が、声を震わせる。
「陣を、組み直す」
返答に驚いた椿が、慌てて榎の側に駆け寄ってくる。
「どうして!? 力を渡せば、みんな死んじゃうのよ!? 綴さんだって、無事じゃ済まないのよ!」
「でも、拒めば、すぐに殺される……。少しでも長く、綴さんを生かせれば、助かるチャンスがあるかもしれない」
都合のいい考えかもしれないが、今この瞬間に綴を犠牲にして戦うなんて、絶対に嫌だった。
とにかく、今は時間を稼ぐ。榎たちが言いなりになっていると分かれば、陣が復活するまでの間に、護にも隙が生まれるはずだ。
「覚悟は決まったな? さっさと配置につけ」
四季姫を相手にするなら、綴には人質としての価値が充分あると確信していたのだろう。余裕の表情で護は命令を飛ばしてきた。
榎の意図を汲んだ楸と椿が、黙って陣に戻った。柊は最後まで抵抗していたが、楸の目配せを受けて、渋々と陣に入ってくれた。
再び、壊れた陣を修正し始める。
体に、地脈が流れ込んでくる。意識しなくても、体が怯えで震えていた。
地脈の流れが、榎たちを通して正常になるにつれて、陣が修復してゆく。
榎は横目で、護を見る。
思った以上に護には隙がなく、綴に向けたピストルに意識を向け続けている。
だが、四季姫に向けての注意は、少し緩んだ気がした。
今なら、術を飛ばせば護と綴を引き離せるかもしれない。
榎は気持ちを鎮めて、剣の柄を握り直した。
動き出そうとした直前、激しい金属音が辺りに響き渡った。
同時に、護の悲鳴が飛び交った。
驚いた榎たちが顔を上げると、護は綴の側から弾き飛ばされて、倒れ込んでいた。
手に握っていたピストルは、銃口部分が真っ二つに割れて、使い物にならなくなっている。
「何だ!? 何が起こった!?」
状況が呑み込めず、護は錯乱していた。
榎たちは茫然としたまま、綴のほうに視線を向けた。
綴の側には、一人の少女が立っていた。
ボロボロの十二単を身に纏った、折れた鎌を握りしめた少女。
「こいつは、――綴は、殺させない」
少女―?神無月萩は、憎悪の籠った目で護を睨みつけていた。
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