219 / 336
第二部 四季姫進化の巻
第十六章 伝記顛覆 2
しおりを挟む
二
「綴さんが、萩を創った……?」
響の話を聞き終えた榎は、よく分からないままに呟いていた。
榎の考えが纏まる前に、響は続けて口を開いた。
「あの男には、そういう特殊な力が備わっているのだそうです。悪鬼の血を受け継いできた、伝師一族にしかできない荒業でしょう。過去にそんな事例があったかどうかは、分かりません。あの男が初めてやらかした、禁忌とも呼べる行為だ。人間が悪鬼を一から生み出すなんて、あってはならないし、恐ろしい」
響は微かに身震いし、表情を苦痛に歪めた。本当に恐怖を覚えているのだと、伝わってきた。
常識では在り得ない方法で、綴によって萩は創り出された。その事実を受け入れられたが、その行動そのものに恐ろしさや悪意があるとまでは、榎には思えなかった。
「でも、萩を生み出した出来事は、綴さんにとっても予期しなかった偶然かもしれない。突然だったから、何も分からずに、誤った対応をしてしまったのかも」
「想定外の出来事だったとしても、あの計算された冷静さと残酷な行動は、異常だ。伝師綴は、自らが生み出した何も持たない悪鬼に、滅茶苦茶な人格を与えて、その命さえもを弄んだ。許される行為ではありません。事故や悪ふざけなんて、生易しい言葉では片付けられない」
榎の反論など歯牙にもかけず、響は綴の行為に嫌悪の感情をぶつけた。それ以上何も言い返せず、榎は圧されて黙り込んだ。
今回の出来事や悪鬼についての知識は、響のほうが断然、詳しい。怒り任せに相手を責めている風でもなく、いたって冷静に事実を見据えて出した結論なのだと、伝わってきた。榎も、否定する要因が見つからなかった。
だが、一連の綴の行動に、悪鬼に対する悪意があったとまでは、断定できない。
「どうして綴さんは、萩に秋姫なんて、具体的な設定を与えたんだろう。本当に、四季姫の覚醒を妨害したかったのか? だったら、なぜ……」
どんな理由で、四季姫の躍進を邪魔しなければならなかったのだろう。
全ての事情を把握しようと、榎は躍起になっていた。とにかく、想像力をフルに働かせて、綴の本心を探り出したかった。
だが、榎の知る、四季姫の活躍を心配しながら応援してくれる綴と、四季姫の使命を陰から邪魔しようとする綴のイメージが、さっぱり重ならなかった。
響は鼻を鳴らし、困っている榎に鋭い視線を向けた。
「理由なんて、いちいち訊いている余裕もありませんでしたよ。だが、あの男の性格から察するに、あなたたち四季姫に対して、何らかの干渉を行うためだったという可能性は、充分に考えられる。それも、良い動機だとは私には思えませんがね」
榎の胸は嫌な予感を抱き、激しく高鳴った。
響の考えは、概ね正しい気がする。
萩は、偽の秋姫として、榎たちの前に現れた。四季姫の統率を乱し、分裂させようとした。挙句の果てには榎さえもを手に掛けようとした。
その行動全てが萩の意志ではなく、綴が騙して命じたものだとしたら。綴の目的は、やっぱり――。
嫌な想像に、意識が遠退きそうになった。
その時、テントの中から悲鳴が聞こえ、かろうじて正気を保てた。
我に返って目を向けると、テントの入り口から、萩の腕が突き出していた。酷く痙攣していた。
「お姫さまが、お目覚めだ」
響は速足で、テントの中に滑り込んだ。榎に背を向けていて見えなかったが、中で萩を抱き寄せて、背中を擦っているらしい。
「記憶を、消さないで……。何でもするから」
萩の悲痛な声が、外にまで漏れてくる。弱々しく、震えた声だった。
何度も何度も、同じ台詞が繰り返される。耳の奥に入り込んでくるたびに、榎の心は締め付けられて、涙が出そうになった。
「大丈夫、あなたを苦しめたりしませんから。心配しないで」
「早く、戦わなくては。秋姫に、ならなくては……」
長く譫言を呟いていたが、響が根気強く声を掛けて宥めると、やがて発作は治まり、萩は再び大人しくなった。
萩を寝かせ直して外に出てきた響の表情は、疲れきっていた。
「完全な人間とは、何なのでしょうね。根拠のない希望にしがみついていなければ、この娘はもう、まともに生きていられないのでしょう」
萩は、綴に見限られた今でも、秋姫として綴に命じられた使命を全うすれば、人間になれると信じている。
悪鬼は、人になりすませても、完全な人にはなれない。榎でも理解できる事実が、萩には理解できないのだろう。
この先、誰がどんな言動で否定しようとも、萩は決して、真実に耳を貸しはしない。
萩の心が変わらなければ、萩は救えない気がする。
絶望的な状況に、榎はいたたまれなくなった。
「どうするにしても、あまり時間がないので、私なりに最善を尽くしてみるつもりです」
こんな最悪な状況でも、響はまだ、諦めていなかった。
響の前向きな言葉に、榎の追い詰められた気持ちも、いくらか和らいだ。
まだ、諦めずに足掻いている者がいるのだから、榎が一人で諦めて落胆している場合ではない。
「萩が無事に助かるように、あたしも協力する。助けになれそうなら、何でも言ってくれ」
力になりたい。榎は嘆願を込めて気持ちを伝えた。
「あなたが萩に討たれれば、少なくとも萩は満足すると思いますけれど?」
あっさりと解決策を述べられ、榎は息を詰まらせるしかできなかった。
あくまで、今の萩の標的は、四季姫―?特に、榎なのだから。
敵視されている人間にできる協力なんて、倒される以外にないのだろうか。
「まあ、結果的に何の解決にもならないんですけどね。あなたのお気持ちだけ、受け取っておきましょう。悪鬼の領域内では、人間の力なんて何の役にも立ちませんから」
真剣に考え込む榎を見て、響は軽い調子で笑った。
榎がまだ口を開こうとすると、テントの中から再び、呻き声が聞こえた。榎の声に反応しているのか、口を閉じると、萩の声も静まった。
「君が近くにいると、あのお姫さまは眠っていても落ち着かないらしい。今日のところは、お引き取り願えますかね」
テントの奥を見つめながら、響は言った。
話し合いは、お開きだ。
テントの中から、萩の手が伸びてくる。響は優しく、その手を握った。萩の手は強く強く、響の手を握り返した。
その手と手の繋がりが、とても強い絆なのだと、榎は実感した。
「……萩は、お前に心を許しているんだな」
あの、誰に対しても残酷で、心の隙を見せなかった萩が、不思議と響にだけは懐いている。響に、救いを求めている。今までの立ち振る舞いを見てきた榎にしてみれば、信じられない光景だった。
「記憶を消すなんて、残酷なことを言ったのにね。それでもまだ、私に縋ってくれるらしい。弱っているところに、付け込んでしまったのかもしれませんね」
響も本心は、榎と同じらしく、少し困惑していた。萩に接触して、関わり続けてきた今までの時間に、罪悪感さえ抱いている様子だった。だが、その優しさが、萩の凍った心を溶かしたのだと、榎は思う。
「響さんの親切が、萩にもちゃんと伝わっているんだよ」
榎では、駄目だった。物事に深くとらわれず、温厚で懐の深い響だったからこそ、萩は素直に身を任せられた。榎の器の大きさは、響には到底、敵わなかった。
少し寂しい気分でもあり、それでも萩に心の拠り所ができたのなら、嬉しかった。
「あたしの力では、萩の心を開くなんて、絶対に無理だった。あなただから、できたんだ」
「だと、嬉しいんですけれどね」
素直に意見を述べると、響は少し照れ笑いを浮かべていた。
萩を労わる響の姿は、気持ちや感情は、人間の持つものと何ら違いない。
去り際に樫男が言っていった発言の意味が、分かった気がする。榎はやっと、悪鬼に対して大きな偏見を持っていたのだと気付いた。
人には人の、悪鬼には悪鬼の価値観や考え方が存在する。それぞれの言い分を主張して、押し付ける真似はしてはいけない。人間同士にも言えることなのだから、相手が悪鬼なら、尚更だ。
下手に口を挟まないほうが、いいかもしれない。萩の件は、全て響に任せようと思った。
「あなたはこれから、どうするつもりです?」
帰ろうと踵を返した直後、響が背中に語りかけてきた。
榎は立ち止まって、首を回して横目に響を見た。
「綴さんに、会いに行く。綴さんの口から、萩に秋姫の人格を与えた理由を、詳しく聞きたい」
響から全ての話を聞いた結果、導き出された答だ。
「何が正しいのか、まだ、決められないんだ。あたしは、全てを見たわけじゃないから」
勝手に憶測を並べ立てて悩んでいても意味がない。
綴に直接尋ねる。真相を知る、一番確実な方法だ。
榎の決断に、響は少し難色を示した。
「私は、あまりお勧めできませんがね。綴くんが、あなたにとってどんな存在であり、今までどんな接し方をしてきたのか知らないが、あなたの心酔っぷりを見ると、相当、紳士的な態度を見せてきたのでしょう」
綴を語る時の響の表情は、いつも怒りや苛立ちに歪む。今もまた、嫌悪を露わにしていた。
同時に、榎の身を案じてくれているらしく、不安の色も浮かべた。
「萩との接点が公(おおやけ)に知れた今、あの男の化けの皮が、徐々に剥がれつつある。あなたも、今までと変わらず接していると、寝首を掻かれるかもしれませんよ」
脅しにも聞こえる。響が導き出した真実なのだろう。
榎は無言で対応した。
忠告は有り難いが、今はとにかく、あらゆる先入観を捨てて、綴と向き合いたい。話がしたい。ただその一点に尽きた。
榎の決意が伝わったのか、響はそれ以上、止めようとはしてこなかった。
「全ての真実を知った時、あなたが壊れずにいられるよう、祈っておきましょう」
いちおう、応援してくれるらしい。
榎は短くお礼を言って、山を後にした。
「綴さんが、萩を創った……?」
響の話を聞き終えた榎は、よく分からないままに呟いていた。
榎の考えが纏まる前に、響は続けて口を開いた。
「あの男には、そういう特殊な力が備わっているのだそうです。悪鬼の血を受け継いできた、伝師一族にしかできない荒業でしょう。過去にそんな事例があったかどうかは、分かりません。あの男が初めてやらかした、禁忌とも呼べる行為だ。人間が悪鬼を一から生み出すなんて、あってはならないし、恐ろしい」
響は微かに身震いし、表情を苦痛に歪めた。本当に恐怖を覚えているのだと、伝わってきた。
常識では在り得ない方法で、綴によって萩は創り出された。その事実を受け入れられたが、その行動そのものに恐ろしさや悪意があるとまでは、榎には思えなかった。
「でも、萩を生み出した出来事は、綴さんにとっても予期しなかった偶然かもしれない。突然だったから、何も分からずに、誤った対応をしてしまったのかも」
「想定外の出来事だったとしても、あの計算された冷静さと残酷な行動は、異常だ。伝師綴は、自らが生み出した何も持たない悪鬼に、滅茶苦茶な人格を与えて、その命さえもを弄んだ。許される行為ではありません。事故や悪ふざけなんて、生易しい言葉では片付けられない」
榎の反論など歯牙にもかけず、響は綴の行為に嫌悪の感情をぶつけた。それ以上何も言い返せず、榎は圧されて黙り込んだ。
今回の出来事や悪鬼についての知識は、響のほうが断然、詳しい。怒り任せに相手を責めている風でもなく、いたって冷静に事実を見据えて出した結論なのだと、伝わってきた。榎も、否定する要因が見つからなかった。
だが、一連の綴の行動に、悪鬼に対する悪意があったとまでは、断定できない。
「どうして綴さんは、萩に秋姫なんて、具体的な設定を与えたんだろう。本当に、四季姫の覚醒を妨害したかったのか? だったら、なぜ……」
どんな理由で、四季姫の躍進を邪魔しなければならなかったのだろう。
全ての事情を把握しようと、榎は躍起になっていた。とにかく、想像力をフルに働かせて、綴の本心を探り出したかった。
だが、榎の知る、四季姫の活躍を心配しながら応援してくれる綴と、四季姫の使命を陰から邪魔しようとする綴のイメージが、さっぱり重ならなかった。
響は鼻を鳴らし、困っている榎に鋭い視線を向けた。
「理由なんて、いちいち訊いている余裕もありませんでしたよ。だが、あの男の性格から察するに、あなたたち四季姫に対して、何らかの干渉を行うためだったという可能性は、充分に考えられる。それも、良い動機だとは私には思えませんがね」
榎の胸は嫌な予感を抱き、激しく高鳴った。
響の考えは、概ね正しい気がする。
萩は、偽の秋姫として、榎たちの前に現れた。四季姫の統率を乱し、分裂させようとした。挙句の果てには榎さえもを手に掛けようとした。
その行動全てが萩の意志ではなく、綴が騙して命じたものだとしたら。綴の目的は、やっぱり――。
嫌な想像に、意識が遠退きそうになった。
その時、テントの中から悲鳴が聞こえ、かろうじて正気を保てた。
我に返って目を向けると、テントの入り口から、萩の腕が突き出していた。酷く痙攣していた。
「お姫さまが、お目覚めだ」
響は速足で、テントの中に滑り込んだ。榎に背を向けていて見えなかったが、中で萩を抱き寄せて、背中を擦っているらしい。
「記憶を、消さないで……。何でもするから」
萩の悲痛な声が、外にまで漏れてくる。弱々しく、震えた声だった。
何度も何度も、同じ台詞が繰り返される。耳の奥に入り込んでくるたびに、榎の心は締め付けられて、涙が出そうになった。
「大丈夫、あなたを苦しめたりしませんから。心配しないで」
「早く、戦わなくては。秋姫に、ならなくては……」
長く譫言を呟いていたが、響が根気強く声を掛けて宥めると、やがて発作は治まり、萩は再び大人しくなった。
萩を寝かせ直して外に出てきた響の表情は、疲れきっていた。
「完全な人間とは、何なのでしょうね。根拠のない希望にしがみついていなければ、この娘はもう、まともに生きていられないのでしょう」
萩は、綴に見限られた今でも、秋姫として綴に命じられた使命を全うすれば、人間になれると信じている。
悪鬼は、人になりすませても、完全な人にはなれない。榎でも理解できる事実が、萩には理解できないのだろう。
この先、誰がどんな言動で否定しようとも、萩は決して、真実に耳を貸しはしない。
萩の心が変わらなければ、萩は救えない気がする。
絶望的な状況に、榎はいたたまれなくなった。
「どうするにしても、あまり時間がないので、私なりに最善を尽くしてみるつもりです」
こんな最悪な状況でも、響はまだ、諦めていなかった。
響の前向きな言葉に、榎の追い詰められた気持ちも、いくらか和らいだ。
まだ、諦めずに足掻いている者がいるのだから、榎が一人で諦めて落胆している場合ではない。
「萩が無事に助かるように、あたしも協力する。助けになれそうなら、何でも言ってくれ」
力になりたい。榎は嘆願を込めて気持ちを伝えた。
「あなたが萩に討たれれば、少なくとも萩は満足すると思いますけれど?」
あっさりと解決策を述べられ、榎は息を詰まらせるしかできなかった。
あくまで、今の萩の標的は、四季姫―?特に、榎なのだから。
敵視されている人間にできる協力なんて、倒される以外にないのだろうか。
「まあ、結果的に何の解決にもならないんですけどね。あなたのお気持ちだけ、受け取っておきましょう。悪鬼の領域内では、人間の力なんて何の役にも立ちませんから」
真剣に考え込む榎を見て、響は軽い調子で笑った。
榎がまだ口を開こうとすると、テントの中から再び、呻き声が聞こえた。榎の声に反応しているのか、口を閉じると、萩の声も静まった。
「君が近くにいると、あのお姫さまは眠っていても落ち着かないらしい。今日のところは、お引き取り願えますかね」
テントの奥を見つめながら、響は言った。
話し合いは、お開きだ。
テントの中から、萩の手が伸びてくる。響は優しく、その手を握った。萩の手は強く強く、響の手を握り返した。
その手と手の繋がりが、とても強い絆なのだと、榎は実感した。
「……萩は、お前に心を許しているんだな」
あの、誰に対しても残酷で、心の隙を見せなかった萩が、不思議と響にだけは懐いている。響に、救いを求めている。今までの立ち振る舞いを見てきた榎にしてみれば、信じられない光景だった。
「記憶を消すなんて、残酷なことを言ったのにね。それでもまだ、私に縋ってくれるらしい。弱っているところに、付け込んでしまったのかもしれませんね」
響も本心は、榎と同じらしく、少し困惑していた。萩に接触して、関わり続けてきた今までの時間に、罪悪感さえ抱いている様子だった。だが、その優しさが、萩の凍った心を溶かしたのだと、榎は思う。
「響さんの親切が、萩にもちゃんと伝わっているんだよ」
榎では、駄目だった。物事に深くとらわれず、温厚で懐の深い響だったからこそ、萩は素直に身を任せられた。榎の器の大きさは、響には到底、敵わなかった。
少し寂しい気分でもあり、それでも萩に心の拠り所ができたのなら、嬉しかった。
「あたしの力では、萩の心を開くなんて、絶対に無理だった。あなただから、できたんだ」
「だと、嬉しいんですけれどね」
素直に意見を述べると、響は少し照れ笑いを浮かべていた。
萩を労わる響の姿は、気持ちや感情は、人間の持つものと何ら違いない。
去り際に樫男が言っていった発言の意味が、分かった気がする。榎はやっと、悪鬼に対して大きな偏見を持っていたのだと気付いた。
人には人の、悪鬼には悪鬼の価値観や考え方が存在する。それぞれの言い分を主張して、押し付ける真似はしてはいけない。人間同士にも言えることなのだから、相手が悪鬼なら、尚更だ。
下手に口を挟まないほうが、いいかもしれない。萩の件は、全て響に任せようと思った。
「あなたはこれから、どうするつもりです?」
帰ろうと踵を返した直後、響が背中に語りかけてきた。
榎は立ち止まって、首を回して横目に響を見た。
「綴さんに、会いに行く。綴さんの口から、萩に秋姫の人格を与えた理由を、詳しく聞きたい」
響から全ての話を聞いた結果、導き出された答だ。
「何が正しいのか、まだ、決められないんだ。あたしは、全てを見たわけじゃないから」
勝手に憶測を並べ立てて悩んでいても意味がない。
綴に直接尋ねる。真相を知る、一番確実な方法だ。
榎の決断に、響は少し難色を示した。
「私は、あまりお勧めできませんがね。綴くんが、あなたにとってどんな存在であり、今までどんな接し方をしてきたのか知らないが、あなたの心酔っぷりを見ると、相当、紳士的な態度を見せてきたのでしょう」
綴を語る時の響の表情は、いつも怒りや苛立ちに歪む。今もまた、嫌悪を露わにしていた。
同時に、榎の身を案じてくれているらしく、不安の色も浮かべた。
「萩との接点が公(おおやけ)に知れた今、あの男の化けの皮が、徐々に剥がれつつある。あなたも、今までと変わらず接していると、寝首を掻かれるかもしれませんよ」
脅しにも聞こえる。響が導き出した真実なのだろう。
榎は無言で対応した。
忠告は有り難いが、今はとにかく、あらゆる先入観を捨てて、綴と向き合いたい。話がしたい。ただその一点に尽きた。
榎の決意が伝わったのか、響はそれ以上、止めようとはしてこなかった。
「全ての真実を知った時、あなたが壊れずにいられるよう、祈っておきましょう」
いちおう、応援してくれるらしい。
榎は短くお礼を言って、山を後にした。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる