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第一部 四季姫覚醒の巻

六章 Interval~止まらぬ商売欲~

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 周の家にお邪魔して、封印石について相談をしていた時。
 居間から庭で騒いでいる妖怪たちを眺めていた柊が、ふと呟いた。
「こないに仰山妖怪がおると、何や金儲けに使えへんのが、めっちゃ惜しいなぁ」
「お前、まだ諦めてなかったのか……?」
 頬杖をついて、物憂げに妖怪を見つめている柊に、榎は呆れた視線を向けた。
 妖怪を倒すだけではもったいない、と考える、大阪の商売人の鑑みたいな柊の思考は、未だに理解できない。だが、昔から狩猟をしてきた人間は、狩った獲物の毛皮も骨も、余すところなく捨てずに使って文明を進化させてきたという。そういった人間としての本能が、柊を駆り立てるのかもしれない。
「人の目に見えへん存在やからなぁ。たとえ本物の剥製を世に出したとしても、認識してもらえへんのやったら、意味ないしなぁ」
「剥製とは、何のお話です? 興味深いですわね」
 柊の呟きを聞いた奏の眉が、一気につり上がった。柊の側に移動して、凄まじい勢いで食いついてきた。
「奏さんが、思いっきり乗ってきた……」
 すっかり忘れていたが、奏もまた、柊と同じく商売人根性が旺盛な人種だ。二人が顔を突き合わせた瞬間から、下衆い商売の話が盛り上がることは時間の問題だったのかもしれない。
「なるほど、妖怪の剥製なんて、面白い発想ですわね。確かに、本物を扱ったとしても、見えなければ買い手がつかないでしょうね……」
 柊の意見を聞いた奏は、腕を組んで必死に考えを巡らせていた。主に売れるかどうかの話がメインで、倒した妖怪を剥製にするという意見に異論はないらしい。
 二人で真面目に考えた末、奏が妙案を絞り出した。
「ならば、妖怪の剥製そっくりのレプリカを作ればよろしいのことですわよ! 人工的に作ったものならば、人の目に見えますし、本物がないのですから、疑われても、いくらでも反論できますわ!」
「なるほど! その手があったか! うちも協力しますわ! めっちゃ面白そうや!」
 柊も速攻で、奏の意見に乗っかった。
「さっそく、デザインを考えて材料を調達いたしましょう」
 慌ただしく動き出す二人を見て、我に返った榎は焦って止めにかかった。
「ちょっと待って! その商売って、偽物を作って売りさばく詐欺行為じゃ……」
「偽物ではありません、レプリカですわ!」
「せやで! 詐欺なんて人聞き悪いやろ!」
 榎なりに必死で反論したつもりだったが、二人の剣幕には敵わなかった。
 二人はすぐに榎を視界から排除し、鼻息荒く盛り上がり始めた。
「では、実際の妖怪たちをモチーフに、デザインやポーズを決めましょう!」
「任しとき、美術は得意やで!」
 奏はすぐ側にいた八咫をとっ捕まえて、机の上に立たせ、翼を弄りながらポーズをとらせ始めた。
 八咫は何が起こったのか分からず困惑して、抵抗もできないらしく、不思議そうにしながらも成すが儘にされていた。
 柊は、どこからともなくスケッチブックを取り出し、ポーズをとった八咫を絵に描き起こし始めた。
「もう、この二人、止められないかも……」
 凄まじい熱意を見せる奏と柊から、榎たちは徐々に距離を取り始めていた。
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