330 / 336
第三部 四季姫革命の巻
二十八章 interval~乱れる地脈の門~
しおりを挟む
「いかん、地脈の門が閉じる!」
月麿が声を張り上げた時。
既に地脈の門は、ほんの僅かな隙間を残して閉じかかっていた。
まるで、眠りに入ろうとする重い瞼みたいに。
「紬姫が死んだせいで、制御が乱れたんや! 何とかせんと、みんなが戻ってこれんようになる!」
了生や奏たちも慌てて、地脈の前に立って念を送る。
だが、やはり地脈の制御のほとんどを行っていたのは、紬姫だ。紬姫が抜けた途端に、その穴を埋める負担を背負いきれず、地脈が乱れ始めた。
「ふぬぅ! 閉ざしてなるものか!!」
ここで一番の根気を見せたのが、月麿だった。
こめかみに血管を浮かび上がらせ、洟水を垂れ流しながら、顔を真っ赤にして地脈にありったけの力を注ぎ込む。
「月麿……!」
その姿を見た奏の瞳が、激しく滲む。
「紬姫様が残してくださった、四季姫たちを救う最後の望み! 必ず、守り抜いて見せるでおじゃる! たとえ、最後の最後まで、声すら掛けてもらえずとも、麿は姫様のために……!」
月麿の垂れ流す洟水に、赤いものが混じりだす。膝もガクガクと震え始め、立っているのもやっとという状況だ。
それでも、月麿は力の放出を止めない。
紬姫を目の前で失い、それでもなお、四季姫たちを救うためにと奮闘する。伝師の未来、紬姫の最期の願いを絶やさないために。
その、月麿の力の根源を悟った瞬間。奏は涙を流さずにはいられなかった。
「感謝します、月麿。お母様を、最後まで見捨てずにいてくれて。わたくしたちを、支えてくれて」
月麿の隣に立ち、同じく力を門に注ぎ込みながら、奏は心からの謝辞を伝えた。
「あなたは、お母様を愛して下さっていた。叶わぬ想いと分かっていても、貫き通してくれた。あなたは、立派な方ですわ」
「違うでおじゃる。麿は、臆病者なのです。いつ、始末されるかも分からぬ恐怖に怯え、それでも逃げることもままならなかった。あの冷酷な美しさに惹かれたがゆえに、逃れられなくなった。もう、己の意思など関係なく、意のままに操られておっただけなのです」
それならば、紬姫亡き今、その呪縛は解き放たれているはずだろう。いや、時渡りをする前に、紬姫の命などほっぽって、どこかに逃げていただろう。
月麿の愛情という名の忠誠心は、たとえ紬姫の命が果てたところで、消えてしまうほど薄情なものではなかった。
「いいえ、全ての行いは、あなたの意志です。わたくしはあなたを、尊敬しますわ」
この優しい人は、心から紬姫の人生を同情し、心からの支えとなることで、陰から救いを与えてくれた。自らの幸せを、人生を投げ打ってでも、最後まで尽くしてくれた。これからも、尽くそうとしてくれている。
誰でもやろうと思ってできる芸当ではない。多くの人々は、そんなバカげたことと、月麿の、他人のために人生を棒に振る行いを嘲笑するだろう。
だが、奏はそんな月麿に、精一杯の敬意を表する。何物にも代えられない、かけがえのない存在だと思う。
奏の言葉を聞いた月麿の目から、大粒の涙がこぼれ始めた。透明なはずの涙までが、うっすらと赤みを帯びている。
それが歓喜の涙であるならば、奏にとってもこの上なく喜ばしい。
紬姫が、月麿をどう思っていたかは、今では知る由もない。だがもし、紬姫さえも月麿をただの捨て駒だと思っていたのだとすれば、あまりにも不憫だ。
せめて娘の奏だけは、最大限の感謝の気持ちを込めて、この人に全てを返そう。
そう、心に誓った。
たとえ、月麿が望むものを、奏が用意できなかったとしても――。
月麿が声を張り上げた時。
既に地脈の門は、ほんの僅かな隙間を残して閉じかかっていた。
まるで、眠りに入ろうとする重い瞼みたいに。
「紬姫が死んだせいで、制御が乱れたんや! 何とかせんと、みんなが戻ってこれんようになる!」
了生や奏たちも慌てて、地脈の前に立って念を送る。
だが、やはり地脈の制御のほとんどを行っていたのは、紬姫だ。紬姫が抜けた途端に、その穴を埋める負担を背負いきれず、地脈が乱れ始めた。
「ふぬぅ! 閉ざしてなるものか!!」
ここで一番の根気を見せたのが、月麿だった。
こめかみに血管を浮かび上がらせ、洟水を垂れ流しながら、顔を真っ赤にして地脈にありったけの力を注ぎ込む。
「月麿……!」
その姿を見た奏の瞳が、激しく滲む。
「紬姫様が残してくださった、四季姫たちを救う最後の望み! 必ず、守り抜いて見せるでおじゃる! たとえ、最後の最後まで、声すら掛けてもらえずとも、麿は姫様のために……!」
月麿の垂れ流す洟水に、赤いものが混じりだす。膝もガクガクと震え始め、立っているのもやっとという状況だ。
それでも、月麿は力の放出を止めない。
紬姫を目の前で失い、それでもなお、四季姫たちを救うためにと奮闘する。伝師の未来、紬姫の最期の願いを絶やさないために。
その、月麿の力の根源を悟った瞬間。奏は涙を流さずにはいられなかった。
「感謝します、月麿。お母様を、最後まで見捨てずにいてくれて。わたくしたちを、支えてくれて」
月麿の隣に立ち、同じく力を門に注ぎ込みながら、奏は心からの謝辞を伝えた。
「あなたは、お母様を愛して下さっていた。叶わぬ想いと分かっていても、貫き通してくれた。あなたは、立派な方ですわ」
「違うでおじゃる。麿は、臆病者なのです。いつ、始末されるかも分からぬ恐怖に怯え、それでも逃げることもままならなかった。あの冷酷な美しさに惹かれたがゆえに、逃れられなくなった。もう、己の意思など関係なく、意のままに操られておっただけなのです」
それならば、紬姫亡き今、その呪縛は解き放たれているはずだろう。いや、時渡りをする前に、紬姫の命などほっぽって、どこかに逃げていただろう。
月麿の愛情という名の忠誠心は、たとえ紬姫の命が果てたところで、消えてしまうほど薄情なものではなかった。
「いいえ、全ての行いは、あなたの意志です。わたくしはあなたを、尊敬しますわ」
この優しい人は、心から紬姫の人生を同情し、心からの支えとなることで、陰から救いを与えてくれた。自らの幸せを、人生を投げ打ってでも、最後まで尽くしてくれた。これからも、尽くそうとしてくれている。
誰でもやろうと思ってできる芸当ではない。多くの人々は、そんなバカげたことと、月麿の、他人のために人生を棒に振る行いを嘲笑するだろう。
だが、奏はそんな月麿に、精一杯の敬意を表する。何物にも代えられない、かけがえのない存在だと思う。
奏の言葉を聞いた月麿の目から、大粒の涙がこぼれ始めた。透明なはずの涙までが、うっすらと赤みを帯びている。
それが歓喜の涙であるならば、奏にとってもこの上なく喜ばしい。
紬姫が、月麿をどう思っていたかは、今では知る由もない。だがもし、紬姫さえも月麿をただの捨て駒だと思っていたのだとすれば、あまりにも不憫だ。
せめて娘の奏だけは、最大限の感謝の気持ちを込めて、この人に全てを返そう。
そう、心に誓った。
たとえ、月麿が望むものを、奏が用意できなかったとしても――。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
格×闘×王×コン×シ×デン×ト
gaction9969
青春
巨大な体に繊細なハート。豆巻マルオはいじられいじめられ続けてきた自分の人生を変えようと、胡散臭い「元・格闘王」大橋モトオの突拍子もない誘いに乗っかり、遥かアフリカはドチュルマ共和国にて、最狂の格闘技ケチュラマチュラの頂点を目指す。伝承にかくあり。極東より来りし鋼鉄のオオハシ、奇怪なる技にて荒ぶるケチュラの王と成る。マルオ&モトオのオーバーラップしていく狭い狭い「世界一」を目指した男たちの物語。
彼と彼女の365日
如月ゆう
青春
※諸事情により二月いっぱいまで不定期更新です。
幼馴染みの同級生二人は、今日も今日とて一緒に過ごします。
これはそんな彼らの一年をえがいた、365日――毎日続く物語。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
君と僕と先輩と後輩と部長とあの子と宇宙人とメイドとその他大勢の日常
ペケペケ
青春
先輩、後輩、先生、母、父、友人、親友、メイド、バイト、店長、部長、親方、宇宙人、神、僕、君、彼女、あの子、部下、上司、マスター、すっとこ、プロレスラー、十八番、俺、我輩、猫、牛乳、ホームレス、侍、農民、平民、ガキ、オッさん、牧師、婦警、カッパ、OL、殺人鬼。
こんな人たちの日常とあんな人の達の非日常。
ああしたら良かった、こうしたら良かった。
こうであって欲しかった、そうならないで欲しかった。
そうしたかった、そうしたく無かった。
こうしたい、ああしたい、どうしたい?
そんな感じの短編を息抜きに書いていくあれですはい。
上のタグっぽいのは増えます。きっと。
むっちゃ不定期更新です。楽しんで書くから楽しんで貰えたら嬉しいです。
FRIENDS
緒方宗谷
青春
身体障がい者の女子高生 成瀬菜緒が、命を燃やし、一生懸命に生きて、青春を手にするまでの物語。
書籍化を目指しています。(出版申請の制度を利用して)
初版の印税は全て、障がい者を支援するNPO法人に寄付します。
スコアも廃止にならない限り最終話公開日までの分を寄付しますので、
ぜひお気に入り登録をして読んでください。
90万文字を超える長編なので、気長にお付き合いください。
よろしくお願いします。
※この物語はフィクションです。
実在の人物、団体、イベント、地域などとは一切関係ありません。
転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~
おてんば松尾
恋愛
侯爵令嬢のメイベル・ラッシュは、跡継ぎとして幼少期から厳しい教育を受けて育てられた。
婚約者のレイン・ウィスパーは伯爵家の次男騎士科にいる同級生だ。見目麗しく、学業の成績も良いことから、メイベルの婚約者となる。
しかし、妹のサーシャとレインは互いに愛し合っているようだった。
二人が会っているところを何度もメイベルは見かけていた。
彼は婚約者として自分を大切にしてくれているが、それ以上に妹との仲が良い。
恋人同士のように振舞う彼らとの関係にメイベルは悩まされていた。
ある日、メイベルは窓から落ちる事故に遭い、自分の中の過去の記憶がよみがえった。
それは、この世界ではない別の世界に生きていた時の記憶だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる