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第三部 四季姫革命の巻
第二十二章 封鬼強奪 8
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八
通路は一本道だった。
迷う心配もなく突き当りまで辿り着き、竹を編んで作られた扉を開くと、小さな雅た庭に出た。
小さな池に鯉が泳ぎ、石の橋がかけられている。
すぐ側には、小ぢんまりとしているが立派な造りの平屋が建てられていた。
「晴明殿が暮らしておられる屋敷だ」
「思っていたより、小さいですね」
京を守る偉大な陰陽師。役職としての地位も高いだろうし、もっとお金持ちだと思っていたが。想像以上に質素だ。
「本殿である陰陽寮の側の屋敷は、とても大きいよ。役職と共にに息子に譲ったと言っていたな。今は一人で、隠居生活を満喫しておられるのだ」
もう、陰陽師としては引退している身なのか。それでも老後は何不自由なく楽しく暮らしたいと思うものかと思っていたが。
やっぱり欲のない、慎ましい人なのだなと思えた。
屋敷の中に、人の気配はない。だが、決して荒れているわけではなく、枯れた雑草や屋敷の柱など、とても綺麗に掃除されている。
ふと、屋敷の縁側を見ると、変わった姿の生き物が、のそのそと歩き回っていた。体の基盤は人間の形によく似ているが、頭から翼を生やしていたり、腕が四本あったりと、不思議な姿形をしていた。しかも、その体は半分、透けている。
「変な奴らが、いっぱいいる。みんな、式神ですか?」
妖気や敵意も感じられないため、本能的にそう察した。夏は頷いた。
「これでも、ほんの一部だそうだ。晴明殿は、昔から式神と一緒に暮らしていたそうだが、奥方から邪魔だと一蹴されて、泣く泣く式神たちを鴨川の橋の下に移動させたそうだよ」
「強いな、奥さん……」
「その奥方も亡くなられて、今は気ままな一人暮らし、というわけだ。一人というには、少々賑やかだが」
榎たちの気配に気付いたか、式神たちが側に集まってきた。
言葉を放つわけではないが、「どうぞ、どうぞ」と言わんばかりに、もてなして屋敷の中に案内してくれようとしている。
晴明翁が、式神たちにも話を通しておくと言っていた。
きっと、榎たちの正体を知った上で、歓迎してくれているのだろう。
榎は安心して、式神たちの指示に従って歩き出した。
その直後、側にいた一体の式神が殺気を放ち、榎めがけて襲い掛かってきた。
「危ない!」
間一髪、夏に押し飛ばされて難を逃れる。夏が瞬発的に悪鬼の力を開放し、鋭く伸ばした爪で切り裂くと、式神は小さな悲鳴を上げて消えた。
足元に、切り裂かれた護符が落ちる。
「あの式神、見たことある姿だった」
僅かに見ただけだったが、間違いない。時を渡る前、山中の伝師の隠れ家で雑用をこなしていた、可愛いが恐ろしい、あの式神にそっくりだった。
「紬姫の式神だ。紛れ込んでいたのか」
夏も悟ったらしく、軽く舌を打って焦りを見せた。
「どうやら、私たちの動きは、読まれているのかもしれないな。既に京に入ったと、気付かれたかもしれない」
榎たちの動向は、常に紬姫に筒抜けになっている?
だったら、なぜ一挙に押し寄せて、止めを刺しに来ないのだろう。様子を伺って、慌てふためく姿を楽しんでいるのか、それとも他に事情があるのか。
どんな理由があるにせよ、周囲は敵だらけだ、どこにいても、油断してはいけない。
榎は気を引き締め直した。
夏は、残った晴明翁の式神たちと手分けして、屋敷の周囲に護符を貼りたくった。
「結界を張らせてもらった。しばらくは、誰もこの屋敷には入り込めぬ。しばし部屋を借りて、作戦を練ろうか」
夏に先導され、榎は辺りに気を配りつつ、屋敷の中に足を踏み入れた。
通路は一本道だった。
迷う心配もなく突き当りまで辿り着き、竹を編んで作られた扉を開くと、小さな雅た庭に出た。
小さな池に鯉が泳ぎ、石の橋がかけられている。
すぐ側には、小ぢんまりとしているが立派な造りの平屋が建てられていた。
「晴明殿が暮らしておられる屋敷だ」
「思っていたより、小さいですね」
京を守る偉大な陰陽師。役職としての地位も高いだろうし、もっとお金持ちだと思っていたが。想像以上に質素だ。
「本殿である陰陽寮の側の屋敷は、とても大きいよ。役職と共にに息子に譲ったと言っていたな。今は一人で、隠居生活を満喫しておられるのだ」
もう、陰陽師としては引退している身なのか。それでも老後は何不自由なく楽しく暮らしたいと思うものかと思っていたが。
やっぱり欲のない、慎ましい人なのだなと思えた。
屋敷の中に、人の気配はない。だが、決して荒れているわけではなく、枯れた雑草や屋敷の柱など、とても綺麗に掃除されている。
ふと、屋敷の縁側を見ると、変わった姿の生き物が、のそのそと歩き回っていた。体の基盤は人間の形によく似ているが、頭から翼を生やしていたり、腕が四本あったりと、不思議な姿形をしていた。しかも、その体は半分、透けている。
「変な奴らが、いっぱいいる。みんな、式神ですか?」
妖気や敵意も感じられないため、本能的にそう察した。夏は頷いた。
「これでも、ほんの一部だそうだ。晴明殿は、昔から式神と一緒に暮らしていたそうだが、奥方から邪魔だと一蹴されて、泣く泣く式神たちを鴨川の橋の下に移動させたそうだよ」
「強いな、奥さん……」
「その奥方も亡くなられて、今は気ままな一人暮らし、というわけだ。一人というには、少々賑やかだが」
榎たちの気配に気付いたか、式神たちが側に集まってきた。
言葉を放つわけではないが、「どうぞ、どうぞ」と言わんばかりに、もてなして屋敷の中に案内してくれようとしている。
晴明翁が、式神たちにも話を通しておくと言っていた。
きっと、榎たちの正体を知った上で、歓迎してくれているのだろう。
榎は安心して、式神たちの指示に従って歩き出した。
その直後、側にいた一体の式神が殺気を放ち、榎めがけて襲い掛かってきた。
「危ない!」
間一髪、夏に押し飛ばされて難を逃れる。夏が瞬発的に悪鬼の力を開放し、鋭く伸ばした爪で切り裂くと、式神は小さな悲鳴を上げて消えた。
足元に、切り裂かれた護符が落ちる。
「あの式神、見たことある姿だった」
僅かに見ただけだったが、間違いない。時を渡る前、山中の伝師の隠れ家で雑用をこなしていた、可愛いが恐ろしい、あの式神にそっくりだった。
「紬姫の式神だ。紛れ込んでいたのか」
夏も悟ったらしく、軽く舌を打って焦りを見せた。
「どうやら、私たちの動きは、読まれているのかもしれないな。既に京に入ったと、気付かれたかもしれない」
榎たちの動向は、常に紬姫に筒抜けになっている?
だったら、なぜ一挙に押し寄せて、止めを刺しに来ないのだろう。様子を伺って、慌てふためく姿を楽しんでいるのか、それとも他に事情があるのか。
どんな理由があるにせよ、周囲は敵だらけだ、どこにいても、油断してはいけない。
榎は気を引き締め直した。
夏は、残った晴明翁の式神たちと手分けして、屋敷の周囲に護符を貼りたくった。
「結界を張らせてもらった。しばらくは、誰もこの屋敷には入り込めぬ。しばし部屋を借りて、作戦を練ろうか」
夏に先導され、榎は辺りに気を配りつつ、屋敷の中に足を踏み入れた。
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