16 / 26
16.恐ろしい寝言
しおりを挟む
コールは大きな葉っぱにくるまって、すよすよと気持ちよさそうに寝息を立てていた。
その顔はとても幸せそうで、とてもじゃないが腹に一物持っているとは、到底思えなかった。
こんな無防備で、無警戒なジョーカーが居るはずがない。
そう、そうに決まっている。コールはジョーカーなんかじゃない。れっきとした人間だ。
「コール、朝だよ……」
僕はコールを起こそうと、彼女の肩に触れようとした。
「――人里では、常に人の姿を維持すること」
すると、コールが呟いた。寝言だった。
僕の手は止まり、金縛りにかかったように動けなくなった。
「――人前では必ず人の子を演じること。決して、自分の正体を、誰にも悟られてはいけない。狩られてしまうから」
こめかみを、汗が伝う。
「クラブ村のディースを探せ。探して、探して、見つけて、そして――」
自分の顔から、血の気が引いていくのが分かった。
人が見る夢は決して幻想や空想ではなく、心の奥底に秘めた強い思いであったり、無意識に思い出している過去の残像であるという。
僕が強烈な言葉を心の奥底で真に受けて、あんな夢を見てしまったように、コールも失われた記憶の断片を、夢の中で思い出していたのかもしれない。
だが、そうだとしても。
何を言っているんだ、この子は?
理解ができなかった訳ではない。
でも、寝言とはいえ、そんなことを言うなんて、まるで、まるで――。
「……こ、コール……」
たまらず、僕は名前を呼んだ。口の中が乾燥して、喉が張り付いていた。
「うん……? あ、ディースたん」
コールは目を覚ました。
昨日と変わらず、ボーッとした表情だった。
「おはようございめす」
「お、おはよう」
夢で見たような、変化は見られない。
そのことが、僕をいくらか安堵させてくれた。
「コール、何の夢を見てたんだ?」
「ゆめ……? 見てたでしか?」
「いや、覚えてないならいいけど」
コールはまだ、記憶を失ったままだ。
だが、その記憶が蘇れば。
僕の夢は、正夢になってしまうのか?
さっきの寝言は、ジョーカーがコールに与えた命令だとでもいうのか。
僕は必死で、彼女を疑うまいと自分を押さえつけていたけれど。
今回ばかりは、もう無理だと思った。
その顔はとても幸せそうで、とてもじゃないが腹に一物持っているとは、到底思えなかった。
こんな無防備で、無警戒なジョーカーが居るはずがない。
そう、そうに決まっている。コールはジョーカーなんかじゃない。れっきとした人間だ。
「コール、朝だよ……」
僕はコールを起こそうと、彼女の肩に触れようとした。
「――人里では、常に人の姿を維持すること」
すると、コールが呟いた。寝言だった。
僕の手は止まり、金縛りにかかったように動けなくなった。
「――人前では必ず人の子を演じること。決して、自分の正体を、誰にも悟られてはいけない。狩られてしまうから」
こめかみを、汗が伝う。
「クラブ村のディースを探せ。探して、探して、見つけて、そして――」
自分の顔から、血の気が引いていくのが分かった。
人が見る夢は決して幻想や空想ではなく、心の奥底に秘めた強い思いであったり、無意識に思い出している過去の残像であるという。
僕が強烈な言葉を心の奥底で真に受けて、あんな夢を見てしまったように、コールも失われた記憶の断片を、夢の中で思い出していたのかもしれない。
だが、そうだとしても。
何を言っているんだ、この子は?
理解ができなかった訳ではない。
でも、寝言とはいえ、そんなことを言うなんて、まるで、まるで――。
「……こ、コール……」
たまらず、僕は名前を呼んだ。口の中が乾燥して、喉が張り付いていた。
「うん……? あ、ディースたん」
コールは目を覚ました。
昨日と変わらず、ボーッとした表情だった。
「おはようございめす」
「お、おはよう」
夢で見たような、変化は見られない。
そのことが、僕をいくらか安堵させてくれた。
「コール、何の夢を見てたんだ?」
「ゆめ……? 見てたでしか?」
「いや、覚えてないならいいけど」
コールはまだ、記憶を失ったままだ。
だが、その記憶が蘇れば。
僕の夢は、正夢になってしまうのか?
さっきの寝言は、ジョーカーがコールに与えた命令だとでもいうのか。
僕は必死で、彼女を疑うまいと自分を押さえつけていたけれど。
今回ばかりは、もう無理だと思った。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ああ、もういらないのね
志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。
それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。
だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥
たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる