上 下
3 / 12

シルビオ

しおりを挟む
私がマーガレットと出会ったのは、10才の時。


 私の婚約者を決めるお茶会だった。当時幼いながら私は自分の奥底に眠るモノの存在に苦しめられていた。


 たくさんの令嬢が私に群がる中で、彼女だけが私から離れてこちらを穏やかに見つめながら、優雅にお茶を楽しんでいた。


 そこだけが日だまりのようで、野に咲くタンポポのように飾らない彼女になんとなくひかれてしまった。
 だから、他のご令嬢達を引き連れて室内のホール移動した時、お菓子に夢中になって取り残された彼女を見つけた時は声をかけるチャンスだと思った。
 他の令嬢達に見つからないようにホールを退席し、彼女に近づいた。
 彼女は、あの穏やかな笑みを私にくれるだろうか?


 私を見た時の彼女の怯えに、私の奥底に眠る何者かの気配を勘づかれたと悟った。彼女と穏やかな関係を築きたい。そんな思いはガラガラと砕け散った。
 しかし、同時に私の奥底に眠る何者かが『捕らえろ』と叫んでいた。そうだ、どうせバレているなら、捕らえて逃げられないように囲ってしまえばいい。


 逃がさない。


 彼女を婚約者に据えて、私の屋敷に呼び出した。親切ごかして私室に連れ込んだ。

「マーガレット、君は私の正体に気付いているね。」

 かまをかけてみた。私自身も心の奥底に眠るモノの正体に気付いていないのに。


 怯えきった彼女から聞き出した内容は荒唐無稽な物語だったけど。私の奥底に眠るモノの正体については、核心をついていた。
 まさか我が家の始祖が魔王を己の魂の奥底に封印していて、まれに侯爵家の嫡男に顕れるなんて、彼女の言葉が無ければ怖くて聞けないだろう。
 後で勇気を持って祖父に確認した私は、彼女によって救われた。


 彼女に、前世の食べ物に似たものを見つけたら持ってこさせている。最初は彼女を屋敷に呼びだす口実の一つにすぎなかったのだが、心を掴まれるものが多い。

 最近は彼女が持ってきたスルメという食べ物が好みだ。

 物心付いた頃から、夢で謎の吸盤の付いた青黒くグロテスクなものを喰らうビジョンが流れていて、魘されていた。彼女がある日おずおずと「見た目がものすごくグロテスクで前世のものと違うのですが、何故か味だけは完コピなんです」と差し出してきたそれは、食べてみればなるほど美味しく、普通に買える食べ物だったんだと笑ってしまった。


 それ以来夢で魘されることはなくなった。


 彼女は私の日だまりだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

モブなので思いっきり場外で暴れてみました

雪那 由多
恋愛
やっと卒業だと言うのに婚約破棄だとかそう言うのはもっと人の目のないところでお三方だけでやってくださいませ。 そしてよろしければ私を巻き来ないようにご注意くださいませ。 一応自衛はさせていただきますが悪しからず? そんなささやかな防衛をして何か問題ありましょうか? ※衝動的に書いたのであげてみました四話完結です。

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

最初から勘違いだった~愛人管理か離縁のはずが、なぜか公爵に溺愛されまして~

猪本夜
恋愛
前世で兄のストーカーに殺されてしまったアリス。 現世でも兄のいいように扱われ、兄の指示で愛人がいるという公爵に嫁ぐことに。 現世で死にかけたことで、前世の記憶を思い出したアリスは、 嫁ぎ先の公爵家で、美味しいものを食し、モフモフを愛で、 足技を磨きながら、意外と幸せな日々を楽しむ。 愛人のいる公爵とは、いずれは愛人管理、もしくは離縁が待っている。 できれば離縁は免れたいために、公爵とは友達夫婦を目指していたのだが、 ある日から愛人がいるはずの公爵がなぜか甘くなっていき――。 この公爵の溺愛は止まりません。 最初から勘違いばかりだった、こじれた夫婦が、本当の夫婦になるまで。

ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります

奏音 美都
恋愛
 ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。  そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。  それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります

みゅー
恋愛
 私このシーンや会話の内容を知っている。でも何故? と、思い出そうとするが目眩がし気分が悪くなってしまった、そして前世で読んだ小説の世界に転生したと気づく主人公のサファイア。ところが最推しの公爵令息には最愛の女性がいて、自分とは結ばれないと知り……  それでも主人公は健気には推しの幸せを願う。そんな切ない話を書きたくて書きました。 ハッピーエンドです。

処理中です...