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恭とバレンタイン
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バレンタイン。
それは乙女達の心を愛しい人に伝える日。
どんな乙女もこの日を胸を高鳴らせて待っている。
ーーーそんなのは夢物語だろう。
寮の自身の机に頬杖をつきながら、宮部恭は心の中でそう呟き、目の前の男のそんな講釈を聞いていた。
その男とは、いわずもがな、恭の腐れ縁であり級友にしてルームメイト、木葉欄である。
ワックスで整えられたツンツン頭に、きりっと上がった眉。黙っていれば男前。何だかんだと目立つ男だ。
ここで青年、とも少年、とも言わないのは木葉欄がそのどちらも内包しているからである。
くるくると変わる表情は少年のように無邪気で、そのくせ時たま黒の瞳に知性のようなものが見え隠れするのを恭は知っている。そんな欄は、今高らかに恭に演説しているわけだが。
「そして!健気な乙女達は愛しい人へとチョコを手にやってくる、というわけだ・・・」
何を言ってるんだ、こいつは。
本気でそう思った。
というか、就寝時間も近いし、いい加減に自分のベッドに入りたい。明日もやることはあるのだから。
就寝前の寮の一室。
さらに言えば、恭と欄の共同部屋。あとは眠るだけと言わんばかりのパジャマ(上下白のジャージともいう)姿の恭と、またまだ夜はこれからと意気込んでそうな私服姿の欄がそれぞれの椅子に座り、思い思いの格好で向かい合っていた。
あくまで、初めのうちだけである。
「何を余韻に浸ってる。俺は眠いんだ。お前のおかしな講釈を聞かされていい加減限界だぞ」
最初こそ顔を合わせて話していたのだが、途中から欄の方など見てもいなかった恭は、話の区切れ目にて漸く口を挟んだ。
その間、何度口を出そうと思ったことか。
しかし、それをしなかったのは欄の相手をすることの意味に、果てしない徒労を感じていたからだ。
恭は、すっかり乾いてしまった自身の長髪をすきつつ、これまでの疲労を味わっていた。
「そう睨むなって!明日はいよいよバレンタインだぞー」
「・・・。」
そう。
明日、というよりもう数時間で、2月14日を迎える。
欄にとっての楽しい一日。
恭にとっては面倒極まりない一日の始まりである。
「はぁ・・・。」
溜め息しか出てこない。
「おいおい~、何ため息なんかついてんの。明日は佐々木さんたちと約束なんだろー?彼女らのことだから、お前のためにチョコを用意してるだろうし」
じと目で恭は欄を睨んだ。
それが溜め息の理由であるのだと、何度も説明している気がするのだが、欄はいっこうに聞き入れない。
というか、このフェミニストでナルシストは女の子に対しての寛容力が半端なく高い。
多少性格が悪かろうが、美醜の差があろうが、年齢の差があろうが、欄に言わせれば『美しいお嬢さん』である。
何を言い連ねようが、女子の味方である欄には暖簾に腕押し、糠に釘。まったくの無駄骨である。
それを知っているからこそのため息なのだが、そんな心情を吐露する労力を鑑みれば、黙って睨む程度の行動くらいが妥当であろう。
そんな恭の心情を知ってか知らずか、欄は明日を楽しみにしているらしい。
恭に言わせると、にやにやと気持ちの悪い顔。一般的女子から見れば、思わず頬を赤くさせてしまうだろう艶やかな笑顔をして欄は天井付近に視線をやっている。
この状態の欄はろくに人の話を聞かない。
それを見て、恭は嘆息し、のそのそと歩き出した。
木の柔らかな質感のある二段ベットの上側が恭の寝るスペースである。クリーム色のカーテンが引かれているので、中の様子は他人には見えないように配慮されている。
ふと、そのカーテンに目がいった。色が、些か可愛らしい、ようなそうでないような。
(・・・気に、はなるが、今は忘れよう。明日のための心構えがしたいんだ・・・。)
気にはなったものの、追求するのは今ではないと思い直し恭は欄を振り返った。
まだうっとりと間抜け面をさらしていた奴へ、嫌々視線を固定する。
口を開くまで、やや躊躇いが生じる。奴に声を掛ける躊躇いである。
「・・・・・先に寝るからな、阿呆」
それでも、声も掛けたという事実を残しておきたくて、恭は口の端をひくつかせながらそれだけ言い切った。
そのあとは、欄が何を言おうとも堅くカーテンを閉じて眠りの淵についた。
そして、当日。
「やぁ、おはよう恭。チョコをくれてもいいんだよ?」
朝、寮の食堂の前で相も変わらず胡散臭い笑顔をした黒川聖也に、開口一番そんなことを言われた。
「・・・寝言は寝てお願いします、聖也さん」
「あ、何?照れた?恭は可愛いなぁ」
「眼科にかかることをお薦めします。」
「うんうん。チョコはもちろんブランデーのでね。僕の好みは・・・もちろん大丈夫だよね?」
「全く、その予定は入っていませんし、入れるつもりもありませんのであしからず。」
ちなみに、欄はまだ部屋にいる。恭は欄を置いて先に食堂に来たところだ。
そんな恭ひとりの姿を見た彼の親類が、意気揚々とこちらに近づいてきて、の発言である。
苦虫を咬んだ顔で対応してしまうのも、致し方のないことだろう。
恭はやや、聖也寄りに体を近づけ(学校でのことなら冷たい視線をやって追い払おうとするだけで、聖也に関わりたくない恭にしては珍しい)、幾分声を潜めて呟く。
「いい加減にしてください、聖也さん。」
いくら周りに誰もいないからといって、会話の内容が際どい。聖也は時折、恭が女であることを言い触らすかのように触れることがある。何故、男が男にチョコを準備するのかについては、まぁなくはないのだと欄の側に居ると知るので、だからきっと、彼はバレンタインを履き違えている違いない。
欄には、聖也が親戚で昔から付き合いがあったことは言ってあるが、その他には一切喋っていない。単に、秘密を知る人は少ない方がいいと思っているからだ。
それがこの変な親戚のせいで、いつバレないかと戦々恐々とするのがいけすかない。
(というか、黒川理事はどういう教育をしてるんだ!)
内心、激昂気味な恭は、突き刺すような視線を聖也に向ける。
そんなことでは怯むことがないと知っているため、いつもよりも容赦がなかった。
しかし。
「恭は本当に馬鹿だねー。俺が多少騒いだって、お前のことに気付くようなのは滅多にいないよ。」
「・・・」
「大体、気にしすぎだよ。おおらかに構えてたら案外分からないものさ。」
いや、苦言を呈したい。
今の発言はあれか?自分が変人であるって言ったか、この人は。
それとも俺が女らしくないと。そう意味か?まぁ、これに関しては否定はしないし、出来ないのも知ってはいるが。
何はともあれ、今の発言からでは判別しにくいところだ。
聖也という人は本当に分からない人だ。
小さい頃から知っているはずなのに、すぐに知らない人になってしまうようで。
それが、昔から俺が彼を苦手にしている理由かもしれない。
「ま、いいけど。気が向いたらいつでもチョコは受け付けるよ」
聖也は、胡散臭い笑顔でそう言った。
「いや、だからその予定はありません。」
「そんなこと言わず。親父には少なくともあげてほしいなぁ、とか思ってるんだけど」
黒川理事が?と首をかしげ、聖也が案外親思いであることを思い出した。
昔から、彼は父親である黒川理事を尊敬していたようだ。まだ今よりは純粋だった彼の、父親を見る眼差しを恭は朧気に憶えている。
お人好しな父親を心配しつつ、何かあれば自分がやるという意思を秘め、仕方がないなみたいな目で見ていた。
聖也を嫌うに嫌えない理由でもある。
その言葉に嘘はないだろう。(口実に使うことはあるが。)
「それは・・・考えておきます。後日になるかもしれませんが」
「それで構わないよ。親父は恭からしてくれるだけで喜ぶからね」
聖也と違って、純粋なんだよな叔父さんは。
俺は何も言わずに、頷いて見せた。それで満足したのか、聖也さんはじゃね、と言って食堂から出ていった。
どうやら彼は食べ終えていたらしい。
昔から、黒川理事には可愛がってもらっているし、たまには叔父孝行でもしてみるか。
そう考えながら、恭は食堂に入っていった。
校舎に入るまでは、実に見慣れた光景を横目に俺は歩いた。
見慣れた光景。
欄の周りに群がる女性たち、である。
バレンタインであることもあり、それは通常の1.5倍以上。言ってはなんだが、端から見たら、飴に群がる蟻のようである。
その光景に(主に巻き込まれたことに)辟易しながら、校門を潜り無事に玄関まで辿り着いた。
教室まで着けば、その一連の流れを見ていたのであろうクラスメイトに、「よく頑張った・・・!」「木葉の親友なのも考えものだな」等々、励ましの言葉を掛けられた。言っておくが、親友ではない。そこは腐れ縁だと訂正してほしい。
気の持ちようが違うのだ。
そんなこんなで、学校の中は(欄に憧れているとかいう下級生や同級生、上級生は抜いて)いたって平穏無事に過ごせた。
去年のことを考えると、実に静かな日である。
そして、問題の放課後。
俺は実に憂鬱な気分で、鞄に教科書類を入れていた。
「さて、帰るか~」
暢気に俺の隣で背伸びしながらそう宣ったのは、チョコのぎっしり詰まったシンプルな紙袋を片手に持った欄である。
終日、周りの男子の刺さるような視線もさらりと交わし、普段通りに過ごした欄を鈍感だと言うべきか、それとも大した奴だと感心するべきか悩みながら、俺はやつを仰いだ。
相変わらずの阿呆面。
黙っていればそれなりに見れる顔なのだが、同性ばかりの空間だからかいやに締まりのない顔になってしまっている。
いつでも残念な男である。
そんな俺の視線に気づかなかったのか、欄は俺に顔を向けてきた。
いや、何も言うな。言わないでくれ。などという俺の気持ちさえ無視をして、欄は楽しげに言い放った。
「今日は佐々木さんたちとの待ち合わせだろ!?さっさと行こうぜー」
この野郎。
抹消したかったことを、忘れていたという(それはそれで後が怖い)言い訳さえさせないつもりか!という文句をぐっと堪え、俺は歯を食い縛った。
別に二人に会うことは嫌いじゃないんだ。あの二人にイベント時に会うのが問題なだけで。優はともかく、問題は彩の方だ。
優は何でも喜ぶし、反応も大袈裟なくらいでわかりやすい。
しかし、彩は案外好き嫌いの激しい性格で、及第点の物を渡さなかった場合は、後々五倍くらいになって返ってくるのだ。
毎年、それに戦々恐々としていることを欄は知らない。
「・・・チッ。平和な頭だな」
「ん?何か言ったか?」
「何でもない。行くなら行く。というか・・・お前までついてくるつもりか?」
まさか、という顔で見てやると欄はそれが当然だ、みたいな顔で縦に首を振った。
「そりゃ、優ちゃんや彩ちゃんに会いたいからな!」
「戯れ言は要らん。たまにはまともに話せ」
「うわ。恭ってばひでぇ!」
酷いも何もない。
こいつはあの双子の厄介さというものを甘く見ているのだ。
情にほだされ幾年か。その度に思わぬ爆弾を落としてくれるあの二人。
ああ、頭が痛くなってきた。
結局、欄と一緒に双子に会いに、いつもの公園に行った。
「あら。よく来たわね、恭」
済ました顔で彩が言った。
上から目線とか、何でだ?
と、不思議に思いながら小柄な彩を見る。
彩は俺からすると頭ひとつ分よりやや低い。だから、話をするときは自然と目線の近くなるような位置に落ち着く。その分、長話になってしまうのは致し方のないことでもある。
いや、付き合いたくてそうするわけではない。もし、早々に話を切り上げようものなら、彩によってその報復が成される。それが怖い。ちなみに、双子の妹、優はただ面倒くさい。手が付けられない。すがって泣きついてくる。
「・・・あー、っと・・・優は?」
「補習よ」
にっこりと微笑んでいるはずなのに、何故こうも黒いものが蠢いているように聞こえるのだろうか。
実に、彩らしい。
わかったからその黒いのはしまえ。ほら、欄がビビってるから。
「あの子ったらいつになったら学習するのかしらね!」
「・・・お前は優の母親か。」
「違うわ。保護者よ。」
「保護者か・・・。まぁ、優の頭は諦めるしかないだろ。」
そうなのよね、仕方ないわよね。と優にとってかなり失礼なことを彩と言い合う。
それが俺らの日常だ。
小さな頃から繰り返されてきた、当たり前。
「まぁ、なら優は仕方ないな。今更だ」
「確かに今更ね」
ため息をついて、彩はそう言った。
この中でバレンタインを一番楽しみにしていたのは、話題の優であるはずなのだが、残念な頭であることがそれを妨げているようだ。
定番と言えば、定番なのだが。
「・・・彩ちゃんは、優ちゃんに勉強教えないのかい?」
彩の黒い笑顔に恐れおののいたのか、欄がおずおずと質問をした。
彩が怖いのか、欄(笑)。
俺の心情は無視して、彩はきょとん、という顔で欄を見つめた。
そうしていれば可愛らしい顔立ちだから、自然と帰り道を行く見知らぬ男性陣が振り返る。騙されすぎだろ、お前ら。
「私が?」
心底不思議そうな声音と、かすかに額に寄った皺で、彩の不可解に思っているのがわかった。
「私が教えると、優の頭はどうにかなるのかしら?」
「え・・・」
「うーん・・・」
呆然とする欄。首をかしげる俺。
それらをちらちら見る、彩。
お前ね、絶対に優の頭は良くならないと決めつけてるだろ。
「彩・・・一度は教えたことがあるのか?」
「家庭教師がいたのに?そんな手間のいること、私はしないわよ?」
そっか。家庭教師がいても、赤点を取っちゃうのかぁ・・・。家庭教師の人泣いてないかな。
んでもって、容赦のない彩は通常運転ですね。知ってた。
空気がとんでもないものになってしまった。
俺は一度首を振って、本題へと話を戻した。これ以上は、彩の非情さを知るのみになる。女性に夢を持つ欄には、可哀相すぎる。
「それで。本来の話に戻そうか。」
「そうね!あんな子は放っておきましょう!」
せっかく君の非情さからそらすための前振りなのだが。止めを刺してくれたな。俺はフォローせんぞ。
「・・・で、だな。一応俺からのだ。優にもちゃんと渡してやれよ?」
「流石、恭ね!」
俺が流石とはなんぞ、と思いながらも二つの小振りの箱を彩に差し出すと、にまにまと笑いながら彩はそう言った。
シンプルな橙と黄色の縞模様の包装紙で包まれた箱。一応分かりやすく、片方のリボンをピンク、もう一方は黄緑と変化を与えたそれは、間違いなくチョコレートが包まれたもので。
「言われなくても分かると思うが、黄緑が彩で、ピンクが優のな。」
ニコッと彩が包みを見ていたので、一応注釈をいれておく。雰囲気からして喜んでくれているので、今回は及第点だったようだ。
俺がほっと息を吐くと、彩が優の分の箱を持っていた紙袋に入れて、徐に自分の箱のリボンをほどいた。
「って、さっそく開けるのかよ!」
「あら、何?もうすでにこれは私のものでしょ。どうしようと私の勝手じゃなくて?」
彩らしい持論だな、と少し遠い目になるのは許してもらおう。
遠慮の"え"の字もなく、するするとラッピングをほどく彩を俺は見守った。とりあえず、第一段階の喜びは貰った訳だし、別に後はいいか、という気になったのだ。ラッピングをほどき終わった彩は、今度は箱の検分を始めるようだ。
「へぇ~。これにしたの。」
「優にも同じものだからな。二人には同じように感謝してるからな・・・。」
彩に渡したチョコは某有名ブランドの物である。程々のところで手を打ったので、まぁありかな、の値段の物にはなっている。ふんふん言いながらチョコの検分に満足したのか、彩は紙袋の中に丁寧にそれを入れて笑顔を見せた。
「気に入ったわ!ありがとう、恭。」
「それなら良かった。ちゃんと優にも渡しておいてくれ。」
「分かってるわ。あの子のことだから、恭に会えなかったことの方が堪えるかもだけど。」
「なら、ちゃんと補習にならないよう宿題くらい取り組むように言っておいてくれ。俺も会えないのは、まぁ、寂しい、とは思うからな。」
「あら。恭が素直!びっくりね!」
確かに。寂しいとか辛いという感情は今まで出そうと思わなかった。しかし、今は少しくらいならそういうものを伝えてもいいのかもしれないと考えるようになった。それで彩と優が、黒川理事が、少しほっとした表情を見せてくれるなら、いいのかな、と思う。
自分の事を伝えるのが下手なのを自覚はしていて、何が変わるのかと思っていた時期もあるが、誰かが安心するなら、たまになら良いのかもなと思うのだ。少し。ほんの少し。宮部に捕らわれている自分が、未来へ進んでいくために。
だから。
「今日はバレンタイン、だからな。」
「・・・ふふっ。そういうのも良いわね。」
俺が微笑むと、彩も自然な笑みで笑う。
心を愛しい人へ伝える日というのも、案外幻想ではないのかもしれないな、と思いつつ。
「それで?いつの間にかしょげちゃって、向こうの噴水に腰掛けて、女性達に囲まれちゃってる欄くんはどうするのかしら?」
「・・・・・・置いていくか。」
そうして、二人で遠い目になりつつ欄は公園に放置される運びとなるのであった。
その後の事は、優から早速喜びの電話が入ったり、草臥れた様子で寮の帰って来た欄が大人しかったりしたが、それはまた後日。話すこともあるかもしれない話である。
それでは、また明日。小さな幸せを自分が噛み締められますように。
それは乙女達の心を愛しい人に伝える日。
どんな乙女もこの日を胸を高鳴らせて待っている。
ーーーそんなのは夢物語だろう。
寮の自身の机に頬杖をつきながら、宮部恭は心の中でそう呟き、目の前の男のそんな講釈を聞いていた。
その男とは、いわずもがな、恭の腐れ縁であり級友にしてルームメイト、木葉欄である。
ワックスで整えられたツンツン頭に、きりっと上がった眉。黙っていれば男前。何だかんだと目立つ男だ。
ここで青年、とも少年、とも言わないのは木葉欄がそのどちらも内包しているからである。
くるくると変わる表情は少年のように無邪気で、そのくせ時たま黒の瞳に知性のようなものが見え隠れするのを恭は知っている。そんな欄は、今高らかに恭に演説しているわけだが。
「そして!健気な乙女達は愛しい人へとチョコを手にやってくる、というわけだ・・・」
何を言ってるんだ、こいつは。
本気でそう思った。
というか、就寝時間も近いし、いい加減に自分のベッドに入りたい。明日もやることはあるのだから。
就寝前の寮の一室。
さらに言えば、恭と欄の共同部屋。あとは眠るだけと言わんばかりのパジャマ(上下白のジャージともいう)姿の恭と、またまだ夜はこれからと意気込んでそうな私服姿の欄がそれぞれの椅子に座り、思い思いの格好で向かい合っていた。
あくまで、初めのうちだけである。
「何を余韻に浸ってる。俺は眠いんだ。お前のおかしな講釈を聞かされていい加減限界だぞ」
最初こそ顔を合わせて話していたのだが、途中から欄の方など見てもいなかった恭は、話の区切れ目にて漸く口を挟んだ。
その間、何度口を出そうと思ったことか。
しかし、それをしなかったのは欄の相手をすることの意味に、果てしない徒労を感じていたからだ。
恭は、すっかり乾いてしまった自身の長髪をすきつつ、これまでの疲労を味わっていた。
「そう睨むなって!明日はいよいよバレンタインだぞー」
「・・・。」
そう。
明日、というよりもう数時間で、2月14日を迎える。
欄にとっての楽しい一日。
恭にとっては面倒極まりない一日の始まりである。
「はぁ・・・。」
溜め息しか出てこない。
「おいおい~、何ため息なんかついてんの。明日は佐々木さんたちと約束なんだろー?彼女らのことだから、お前のためにチョコを用意してるだろうし」
じと目で恭は欄を睨んだ。
それが溜め息の理由であるのだと、何度も説明している気がするのだが、欄はいっこうに聞き入れない。
というか、このフェミニストでナルシストは女の子に対しての寛容力が半端なく高い。
多少性格が悪かろうが、美醜の差があろうが、年齢の差があろうが、欄に言わせれば『美しいお嬢さん』である。
何を言い連ねようが、女子の味方である欄には暖簾に腕押し、糠に釘。まったくの無駄骨である。
それを知っているからこそのため息なのだが、そんな心情を吐露する労力を鑑みれば、黙って睨む程度の行動くらいが妥当であろう。
そんな恭の心情を知ってか知らずか、欄は明日を楽しみにしているらしい。
恭に言わせると、にやにやと気持ちの悪い顔。一般的女子から見れば、思わず頬を赤くさせてしまうだろう艶やかな笑顔をして欄は天井付近に視線をやっている。
この状態の欄はろくに人の話を聞かない。
それを見て、恭は嘆息し、のそのそと歩き出した。
木の柔らかな質感のある二段ベットの上側が恭の寝るスペースである。クリーム色のカーテンが引かれているので、中の様子は他人には見えないように配慮されている。
ふと、そのカーテンに目がいった。色が、些か可愛らしい、ようなそうでないような。
(・・・気に、はなるが、今は忘れよう。明日のための心構えがしたいんだ・・・。)
気にはなったものの、追求するのは今ではないと思い直し恭は欄を振り返った。
まだうっとりと間抜け面をさらしていた奴へ、嫌々視線を固定する。
口を開くまで、やや躊躇いが生じる。奴に声を掛ける躊躇いである。
「・・・・・先に寝るからな、阿呆」
それでも、声も掛けたという事実を残しておきたくて、恭は口の端をひくつかせながらそれだけ言い切った。
そのあとは、欄が何を言おうとも堅くカーテンを閉じて眠りの淵についた。
そして、当日。
「やぁ、おはよう恭。チョコをくれてもいいんだよ?」
朝、寮の食堂の前で相も変わらず胡散臭い笑顔をした黒川聖也に、開口一番そんなことを言われた。
「・・・寝言は寝てお願いします、聖也さん」
「あ、何?照れた?恭は可愛いなぁ」
「眼科にかかることをお薦めします。」
「うんうん。チョコはもちろんブランデーのでね。僕の好みは・・・もちろん大丈夫だよね?」
「全く、その予定は入っていませんし、入れるつもりもありませんのであしからず。」
ちなみに、欄はまだ部屋にいる。恭は欄を置いて先に食堂に来たところだ。
そんな恭ひとりの姿を見た彼の親類が、意気揚々とこちらに近づいてきて、の発言である。
苦虫を咬んだ顔で対応してしまうのも、致し方のないことだろう。
恭はやや、聖也寄りに体を近づけ(学校でのことなら冷たい視線をやって追い払おうとするだけで、聖也に関わりたくない恭にしては珍しい)、幾分声を潜めて呟く。
「いい加減にしてください、聖也さん。」
いくら周りに誰もいないからといって、会話の内容が際どい。聖也は時折、恭が女であることを言い触らすかのように触れることがある。何故、男が男にチョコを準備するのかについては、まぁなくはないのだと欄の側に居ると知るので、だからきっと、彼はバレンタインを履き違えている違いない。
欄には、聖也が親戚で昔から付き合いがあったことは言ってあるが、その他には一切喋っていない。単に、秘密を知る人は少ない方がいいと思っているからだ。
それがこの変な親戚のせいで、いつバレないかと戦々恐々とするのがいけすかない。
(というか、黒川理事はどういう教育をしてるんだ!)
内心、激昂気味な恭は、突き刺すような視線を聖也に向ける。
そんなことでは怯むことがないと知っているため、いつもよりも容赦がなかった。
しかし。
「恭は本当に馬鹿だねー。俺が多少騒いだって、お前のことに気付くようなのは滅多にいないよ。」
「・・・」
「大体、気にしすぎだよ。おおらかに構えてたら案外分からないものさ。」
いや、苦言を呈したい。
今の発言はあれか?自分が変人であるって言ったか、この人は。
それとも俺が女らしくないと。そう意味か?まぁ、これに関しては否定はしないし、出来ないのも知ってはいるが。
何はともあれ、今の発言からでは判別しにくいところだ。
聖也という人は本当に分からない人だ。
小さい頃から知っているはずなのに、すぐに知らない人になってしまうようで。
それが、昔から俺が彼を苦手にしている理由かもしれない。
「ま、いいけど。気が向いたらいつでもチョコは受け付けるよ」
聖也は、胡散臭い笑顔でそう言った。
「いや、だからその予定はありません。」
「そんなこと言わず。親父には少なくともあげてほしいなぁ、とか思ってるんだけど」
黒川理事が?と首をかしげ、聖也が案外親思いであることを思い出した。
昔から、彼は父親である黒川理事を尊敬していたようだ。まだ今よりは純粋だった彼の、父親を見る眼差しを恭は朧気に憶えている。
お人好しな父親を心配しつつ、何かあれば自分がやるという意思を秘め、仕方がないなみたいな目で見ていた。
聖也を嫌うに嫌えない理由でもある。
その言葉に嘘はないだろう。(口実に使うことはあるが。)
「それは・・・考えておきます。後日になるかもしれませんが」
「それで構わないよ。親父は恭からしてくれるだけで喜ぶからね」
聖也と違って、純粋なんだよな叔父さんは。
俺は何も言わずに、頷いて見せた。それで満足したのか、聖也さんはじゃね、と言って食堂から出ていった。
どうやら彼は食べ終えていたらしい。
昔から、黒川理事には可愛がってもらっているし、たまには叔父孝行でもしてみるか。
そう考えながら、恭は食堂に入っていった。
校舎に入るまでは、実に見慣れた光景を横目に俺は歩いた。
見慣れた光景。
欄の周りに群がる女性たち、である。
バレンタインであることもあり、それは通常の1.5倍以上。言ってはなんだが、端から見たら、飴に群がる蟻のようである。
その光景に(主に巻き込まれたことに)辟易しながら、校門を潜り無事に玄関まで辿り着いた。
教室まで着けば、その一連の流れを見ていたのであろうクラスメイトに、「よく頑張った・・・!」「木葉の親友なのも考えものだな」等々、励ましの言葉を掛けられた。言っておくが、親友ではない。そこは腐れ縁だと訂正してほしい。
気の持ちようが違うのだ。
そんなこんなで、学校の中は(欄に憧れているとかいう下級生や同級生、上級生は抜いて)いたって平穏無事に過ごせた。
去年のことを考えると、実に静かな日である。
そして、問題の放課後。
俺は実に憂鬱な気分で、鞄に教科書類を入れていた。
「さて、帰るか~」
暢気に俺の隣で背伸びしながらそう宣ったのは、チョコのぎっしり詰まったシンプルな紙袋を片手に持った欄である。
終日、周りの男子の刺さるような視線もさらりと交わし、普段通りに過ごした欄を鈍感だと言うべきか、それとも大した奴だと感心するべきか悩みながら、俺はやつを仰いだ。
相変わらずの阿呆面。
黙っていればそれなりに見れる顔なのだが、同性ばかりの空間だからかいやに締まりのない顔になってしまっている。
いつでも残念な男である。
そんな俺の視線に気づかなかったのか、欄は俺に顔を向けてきた。
いや、何も言うな。言わないでくれ。などという俺の気持ちさえ無視をして、欄は楽しげに言い放った。
「今日は佐々木さんたちとの待ち合わせだろ!?さっさと行こうぜー」
この野郎。
抹消したかったことを、忘れていたという(それはそれで後が怖い)言い訳さえさせないつもりか!という文句をぐっと堪え、俺は歯を食い縛った。
別に二人に会うことは嫌いじゃないんだ。あの二人にイベント時に会うのが問題なだけで。優はともかく、問題は彩の方だ。
優は何でも喜ぶし、反応も大袈裟なくらいでわかりやすい。
しかし、彩は案外好き嫌いの激しい性格で、及第点の物を渡さなかった場合は、後々五倍くらいになって返ってくるのだ。
毎年、それに戦々恐々としていることを欄は知らない。
「・・・チッ。平和な頭だな」
「ん?何か言ったか?」
「何でもない。行くなら行く。というか・・・お前までついてくるつもりか?」
まさか、という顔で見てやると欄はそれが当然だ、みたいな顔で縦に首を振った。
「そりゃ、優ちゃんや彩ちゃんに会いたいからな!」
「戯れ言は要らん。たまにはまともに話せ」
「うわ。恭ってばひでぇ!」
酷いも何もない。
こいつはあの双子の厄介さというものを甘く見ているのだ。
情にほだされ幾年か。その度に思わぬ爆弾を落としてくれるあの二人。
ああ、頭が痛くなってきた。
結局、欄と一緒に双子に会いに、いつもの公園に行った。
「あら。よく来たわね、恭」
済ました顔で彩が言った。
上から目線とか、何でだ?
と、不思議に思いながら小柄な彩を見る。
彩は俺からすると頭ひとつ分よりやや低い。だから、話をするときは自然と目線の近くなるような位置に落ち着く。その分、長話になってしまうのは致し方のないことでもある。
いや、付き合いたくてそうするわけではない。もし、早々に話を切り上げようものなら、彩によってその報復が成される。それが怖い。ちなみに、双子の妹、優はただ面倒くさい。手が付けられない。すがって泣きついてくる。
「・・・あー、っと・・・優は?」
「補習よ」
にっこりと微笑んでいるはずなのに、何故こうも黒いものが蠢いているように聞こえるのだろうか。
実に、彩らしい。
わかったからその黒いのはしまえ。ほら、欄がビビってるから。
「あの子ったらいつになったら学習するのかしらね!」
「・・・お前は優の母親か。」
「違うわ。保護者よ。」
「保護者か・・・。まぁ、優の頭は諦めるしかないだろ。」
そうなのよね、仕方ないわよね。と優にとってかなり失礼なことを彩と言い合う。
それが俺らの日常だ。
小さな頃から繰り返されてきた、当たり前。
「まぁ、なら優は仕方ないな。今更だ」
「確かに今更ね」
ため息をついて、彩はそう言った。
この中でバレンタインを一番楽しみにしていたのは、話題の優であるはずなのだが、残念な頭であることがそれを妨げているようだ。
定番と言えば、定番なのだが。
「・・・彩ちゃんは、優ちゃんに勉強教えないのかい?」
彩の黒い笑顔に恐れおののいたのか、欄がおずおずと質問をした。
彩が怖いのか、欄(笑)。
俺の心情は無視して、彩はきょとん、という顔で欄を見つめた。
そうしていれば可愛らしい顔立ちだから、自然と帰り道を行く見知らぬ男性陣が振り返る。騙されすぎだろ、お前ら。
「私が?」
心底不思議そうな声音と、かすかに額に寄った皺で、彩の不可解に思っているのがわかった。
「私が教えると、優の頭はどうにかなるのかしら?」
「え・・・」
「うーん・・・」
呆然とする欄。首をかしげる俺。
それらをちらちら見る、彩。
お前ね、絶対に優の頭は良くならないと決めつけてるだろ。
「彩・・・一度は教えたことがあるのか?」
「家庭教師がいたのに?そんな手間のいること、私はしないわよ?」
そっか。家庭教師がいても、赤点を取っちゃうのかぁ・・・。家庭教師の人泣いてないかな。
んでもって、容赦のない彩は通常運転ですね。知ってた。
空気がとんでもないものになってしまった。
俺は一度首を振って、本題へと話を戻した。これ以上は、彩の非情さを知るのみになる。女性に夢を持つ欄には、可哀相すぎる。
「それで。本来の話に戻そうか。」
「そうね!あんな子は放っておきましょう!」
せっかく君の非情さからそらすための前振りなのだが。止めを刺してくれたな。俺はフォローせんぞ。
「・・・で、だな。一応俺からのだ。優にもちゃんと渡してやれよ?」
「流石、恭ね!」
俺が流石とはなんぞ、と思いながらも二つの小振りの箱を彩に差し出すと、にまにまと笑いながら彩はそう言った。
シンプルな橙と黄色の縞模様の包装紙で包まれた箱。一応分かりやすく、片方のリボンをピンク、もう一方は黄緑と変化を与えたそれは、間違いなくチョコレートが包まれたもので。
「言われなくても分かると思うが、黄緑が彩で、ピンクが優のな。」
ニコッと彩が包みを見ていたので、一応注釈をいれておく。雰囲気からして喜んでくれているので、今回は及第点だったようだ。
俺がほっと息を吐くと、彩が優の分の箱を持っていた紙袋に入れて、徐に自分の箱のリボンをほどいた。
「って、さっそく開けるのかよ!」
「あら、何?もうすでにこれは私のものでしょ。どうしようと私の勝手じゃなくて?」
彩らしい持論だな、と少し遠い目になるのは許してもらおう。
遠慮の"え"の字もなく、するするとラッピングをほどく彩を俺は見守った。とりあえず、第一段階の喜びは貰った訳だし、別に後はいいか、という気になったのだ。ラッピングをほどき終わった彩は、今度は箱の検分を始めるようだ。
「へぇ~。これにしたの。」
「優にも同じものだからな。二人には同じように感謝してるからな・・・。」
彩に渡したチョコは某有名ブランドの物である。程々のところで手を打ったので、まぁありかな、の値段の物にはなっている。ふんふん言いながらチョコの検分に満足したのか、彩は紙袋の中に丁寧にそれを入れて笑顔を見せた。
「気に入ったわ!ありがとう、恭。」
「それなら良かった。ちゃんと優にも渡しておいてくれ。」
「分かってるわ。あの子のことだから、恭に会えなかったことの方が堪えるかもだけど。」
「なら、ちゃんと補習にならないよう宿題くらい取り組むように言っておいてくれ。俺も会えないのは、まぁ、寂しい、とは思うからな。」
「あら。恭が素直!びっくりね!」
確かに。寂しいとか辛いという感情は今まで出そうと思わなかった。しかし、今は少しくらいならそういうものを伝えてもいいのかもしれないと考えるようになった。それで彩と優が、黒川理事が、少しほっとした表情を見せてくれるなら、いいのかな、と思う。
自分の事を伝えるのが下手なのを自覚はしていて、何が変わるのかと思っていた時期もあるが、誰かが安心するなら、たまになら良いのかもなと思うのだ。少し。ほんの少し。宮部に捕らわれている自分が、未来へ進んでいくために。
だから。
「今日はバレンタイン、だからな。」
「・・・ふふっ。そういうのも良いわね。」
俺が微笑むと、彩も自然な笑みで笑う。
心を愛しい人へ伝える日というのも、案外幻想ではないのかもしれないな、と思いつつ。
「それで?いつの間にかしょげちゃって、向こうの噴水に腰掛けて、女性達に囲まれちゃってる欄くんはどうするのかしら?」
「・・・・・・置いていくか。」
そうして、二人で遠い目になりつつ欄は公園に放置される運びとなるのであった。
その後の事は、優から早速喜びの電話が入ったり、草臥れた様子で寮の帰って来た欄が大人しかったりしたが、それはまた後日。話すこともあるかもしれない話である。
それでは、また明日。小さな幸せを自分が噛み締められますように。
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