2 / 14
文化祭後始末 欄side
しおりを挟む俺こと木葉欄は、宮部恭とは一種の幼馴染みという間柄だ。
正直、この間の文化祭までやつのことならわからないことはないと、高を括っていた。しかし、俺の知らないところで、やつは俺以外の男と仲良く文化祭を回っていたのだ。
確かにここは男子校で、性別を偽りつつ通っている恭に、男友達が何人居ようと不思議の不の字も出てこないのだが、問題はその相手が学校の生徒ではないところだ。
この学校の中でも全く合ってない雰囲気を醸し出し、一人は細身で綺麗な、と表現した方がしっくりくる男だったし、もう一人はかなり背の高い健康的な身体つきをしていて、優しげな印象の残る好青年だった。
二人が佇む姿は、学校という空間では違和感バリバリだったのに、恭が横に並んだとたん違和感がなくなって、寧ろかなりのオーラを感じた気さえしたのだ。
文化祭、翌日。
文化祭後恒例の後片付けの日である。
二日間ばっちりあった文化祭なだけに、ゴミなどが酷く散乱している。一般人も参加するので余計かもしれないが、全くもって生徒には迷惑な作業だ。
それでも、明日からの授業を再開させるため、教師陣が生徒を後ろから睨み付けている。なので、サボるにサボれないのがさらにこの作業を煩わしくさせるのだ。
「おい、恭…」
隣で黙々と作業を続けている幼馴染みの名を呼びながら、俺は教師の方を見た。
こちらには気を払ってないらしい。
好都合だ。
「なんだ?」
いつも通りのぶっきらぼうな言い方は、確かに恭だ。
「あのよ…昨日のことなんだが…」
「昨日?」
怪訝そうな顔をした恭は、その美貌も相まって少し怖い。
きっとこの作業が嫌なのだろう。
「ああ、…あの…」
「はっきりしろ。男だろ」
苛立ちも顕わに周りのゴミを次々袋に入れていく。
それもかなりぞんざいに。
「昨日来た、二人は~……」
ガシャンと缶の落ちる音が響く。
恭を見ると、かなり崩れた顔をしているではないか。この表情は、『思い出させるな』のうんざり顔だ。
しかし、ここで自分が引くわけには行かない。
「ほら、お前あの人らと回っただろ?アリスでさ」
アリス、というのはクラスの模擬店で『アリス喫茶』というものをした際、恭が着たアリスの衣装のことだ。
「思い出させるな…」
その衣装を着た当初から、恭は乗り気ではなかった。もともとそういうのが嫌いな性格でもあったが、今回はそれを見られて嫌な人物がいたことが原因だとも思う。
「俺にとってあれは悪夢以外の何物でもない…」
意気消沈気味な恭は珍しい。
ほとんど表情を変えないから余計かもしれない。
「でさ、あの人らって誰?俺は知らんぞ」
あえて空気を読まずに、今回は強行突破に出る俺。
こちらも切実なのだ。色々と。
「………先輩」
ポツリとそれだけ言った。
あの二人が来たときも『先輩』と呼んでいたので、これは嘘ではない。
「で?」
「元瀬夏識と綺宮賢。…俺のバイト先の先輩」
「どっちがどっち?」
「…細身が夏識先輩で背が高い方が綺宮先輩」
何かを飲み込むように、それでいて淡々と恭は答えた。
「バイトって?」
してるのは知ってるけど、何のバイトかは知らなかった。
突っ込んで聞いてみた。
恭はこれくらいしないと何も話さないからだ。
「それは言わない」
「言えないじゃねぇのかよ…」
「言わない。お前にそこまで干渉される覚えはないからな」
きっぱり、さっぱり、そこで恭は言い切った。
俺がもう一言、口を開き掛けたとき、それは来た。
「恭~!頑張ってるか?」
気安く恭の肩に触れ、絶やさない笑みはきっと好青年。それでいて人をおちょくった態度。上級生でありながら、しょっちゅう恭を構いに来る先輩こと、黒川聖也先輩である。
「…触らないでください」
そんな聖也を軽く払いのけて、恭は彼から少し離れる。
どうやら、恭は聖也が苦手らしい。何故かは教えてもらえないが。
「ふふっ、恭ちゃんてば恥ずかしがりやなんだね」
恭の冷たい反応も何のその、聖也は最上級の微笑みでさらに近づこうとする。
「…っ!近寄るなっ」
「そう言われると近寄りたくなるのが僕の性分なんだよね~」
この光景はいつもの事なので、あまり心配はしていない。
というか、どうして聖也先輩は恭を刺激するような事ばかり言うのだろうか。それがいつも不可解である。
「恭ちゃんは相変わらず可愛いよね」
ぬけぬけとそんな事を言ってのける。
「そうそう。昨日の人たちって誰なの?」
さも、今思い出したように聞きにくるのも彼の手である。
実に然り気無い。
その言葉に素早く警戒した恭は、じっと聖也を睨み付ける。
聖也はこれで怖くないのだろうか。
「聖也さんには関係ないですよ…」
「本当に?」
笑顔を崩さず、聖也は恭を見ている。
「そうです。心配無用なんで」
きっぱりと言い切る恭は、警戒の色を顕にしている。
「わかったよ」
「?」
いつもならもっと追及しようとするのに、今日は何故かそれ以上聞こうとしなかった。
おまけにそのままクラスの方へ帰っていってしまったらしい。
不気味だ。
全く不気味だ。
「……………」
呆然と俺がその様子を見る中、恭はいたって普通にゴミ拾いを再開していた。
「おい…」
思わず声が出る。
「何だ?」
顔も上げずに恭は俺の声に応えた。やっぱり不機嫌な声で。
「聖也先輩…今日は引き際がよかったけど、何かあったのか?」
「…別に。あの人の気紛れだろ?そんなこと気にしてたら、あの人とは付き合えないぞ」
ゴミ拾いに疲れたのか、だるそうな声で恭はそう言った。
そういえば、恭と聖也は親戚らしいので小さい頃から付き合いがあるのだろう。きっと小さな頃から聖也は自由気ままで、掴み所のない人だったのだろうなとあたりをつける。
「別に俺はそんな親しくねぇし…あんまり関わりたくない人種だし…」
「ああ…」
そこで初めて、恭は少し笑って、
「お前らって同類だもんな」
とあっさり言われてしまった。
結局また、肝心なことを聞きそびれてしまったような気がする、文化祭の後片付けだった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
妊娠したのね・・・子供を身篭った私だけど複雑な気持ちに包まれる理由は愛する夫に女の影が見えるから
白崎アイド
大衆娯楽
急に吐き気に包まれた私。
まさかと思い、薬局で妊娠検査薬を買ってきて、自宅のトイレで検査したところ、妊娠していることがわかった。
でも、どこか心から喜べない私・・・ああ、どうしましょう。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる