62 / 78
蒼の皇国 編
コウイチと刹那と刹那の目的
しおりを挟む
「吸血鬼で錬金術師で同級生でコスプレイヤーとか、属性盛りすぎじゃね?」
「でも、コウくんはこういうの好きでしょ?」
「そりゃ大好きですよ? だって、ト〇リだもん」
「だよね」
流石と言うべきだろう。
この世の誰よりもコウイチの事を知り尽くしている唯一といって良い理解者だ。
一緒に居て一番楽しい奴だとコウイチも思っている。
このト〇リのコスプレもコウイチの為にわざわざ着替えている可能性すらある。何せ、刹那の押しキャラはメ〇ルなのだから。
そんな危険な話題はそろそろ止めておくとして、早急に話し合わなければならない要件がある。
「それで? ここは何処で、俺を浚った理由って何? 正直言って、そろそろ平穏な暮らしを送りたい訳ですよ。碌でもないことだったらキレるよ?」
「……コウくんとお喋りがしたくって……ごめんなさい」
刹那が申し訳なさそうに目を伏せて云う。
そんな理由にコウイチは虚を突かれたように目を丸くした後、思わず吹き出して笑ってしまう。
「あっははは、刹那らしいな」
「え、えっ!? 私、何かおかしいこと言った?」
「いや、何もおかしくないよ。こっち来てから、何処に言っても利用されることばっかりだったからな。すげー新鮮」
「転移者は利用価値の塊だから仕方ないよ。私も最初はそんな感じだったし」
「錬金術師だもんな。やっぱり、皆に頼られたのか?」
「んー、どっちかと言うと最初は吸血鬼の身体能力を活かした戦力としてかな。錬金術って言っても知識と技術は別物だもん」
意外な返答にコウイチは驚く以外の反応が返せなかった。
「へぇそうなんだ。吸血鬼ってバレたらダメなイメージあるけど、大丈夫なのか?」
「この世界では敵対しない限り種族で差別を受けるってことは少ないみたい。私以外にも吸血鬼の人って結構いるし」
「なるほどな。でも、300年か……大変だったんだろうな」
「300年だからね。大変だったよ、色々」
「そっか」
そこでコウイチは言葉を止めた。
すると重苦しい静寂が立ち込める。
300年。コウイチは、その先に踏み込もうとは思わなかった。
この短い間ではあるが、刹那は殆ど表情を変化させない。
喜怒哀楽驚疑などなど。
あの鉄仮面のアオでさえ、むすっとしたり、視線で感情を訴えたりしてくるのに対して、刹那は反応はあるものの感情が感じられない。
演技の様に思えた。
コウイチの知る刹那は口を開けば百面相をしているように表情をコロコロと変化させる面白い奴だった。そんな彼女が感情を殺してしまうほどの出来事が300年の間に起きたのだと容易に想像できた。
感情が関係している点がアイリスと被り、尚更、コウイチは踏み込めなかった。
「聞かないんだ」
「お前が話してくれるなら聞く」
「……ありがと」
その後、しばしばの沈黙の後にどちらからともなく錬金術の話題が始まった。
刹那の錬金術EXは技術と知識が伴えば”何でも出来る”代物だそうだ。
「因みになんだけどさ。地質の改善とかできる道具ってあったりする?」
「地質? 例えばどんな感じの?」
「えーっと、工業廃棄物の汚染とか放射能汚染とか」
「つまり、環境の性質を変化させるレベルの道具って事だよね。ちょっと待って」
刹那は部屋の隅っこに置いてあった収納箱を開けてゴソゴソと探し始める。
そして机の上に三つの道具を並べた。
緑色の液体が入った小瓶、分厚い鎖で雁字搦めにされた本、真っ黒い球。
「右から順番に栄養剤、四極天の書、反作用ボム」
「……栄養剤は兎も角、他は環境破壊だろ!?」
「知ってた。ごめん、環境を改善する道具とかは持ってないな」
「そうか。錬金術なら可能性があると思ったんだけどな」
「この化学文明が発展した世の中だと錬金術が役立つ場面って少ないんだよね」
「そうなのか?」
「錬金術で出来ることは他の技術で代用出来るんだよ。爆弾は化学だし、パイは料理だし、武器やアクセサリーは鍛治とか彫金だし……錬金術ってのはその全ての作業を複合していて便利だけど、万能で無ければオンリーワンでもないんだよね。あと個人でやるしか無いから、大量生産出来ないのは最大のネック」
言われてみれば確かに、と刹那の説明は納得のいくものだった。
あのゲームにおいても科学技術が現代ほど発展していない世界観だからこそ万能な錬金術は重宝されているのだ。
「なるほどな。でも、大量生産って、ほむほむとか作ってやって貰ったらいいんじゃ?」
「幻想幻想。あれはゲームの世界だから……」
「?」
「錬金術では生物を生み出す事は出来ないの。例えそれがホムンクルスであってもね」
「鋼の的な?」
「厳密に言えば違うと思うんだけど、その認識でいいよ。
肉体を作ることは私にも出来るよ? それは現代科学でも行われてるクローン技術とかの応用だからね。
でも、魂は作れない。科学的に定義されてないものや私が理解していないものは作れないんだ。だから、肉体を作っても意思がないから動くことはない。単なる肉の塊。ナマモノ。それは生物ではないよね」
「つまり、魂の定義が理解出来ればホムンクルスを作ることが可能と?」
「原理上はねぇ。確率が天文学的数字の机上の空論であっても存在が証明されるなら可能だよ」
制限があると言ってもクソチート過ぎる。
コウイチは自身の持つ晶石鍛冶の上位互換だと思い落胆するのだった。
しかし、刹那が補足するように言う。
「ただし、コウくんの能力に出来て私には出来ないことがあるんだ」
「というと?」
「晶石はあれでいて意志ある生物に分類されるから、私は晶石を加工することが出来ないんだ。コウくんのは唯一無二であり、私の全能力を上乗せしても釣り合わないんだよ」
「そんなに? でも、加工事体は他にも出来る人いるよね」
「劣化加工は、ね。性能を120%にまで引き出すことが出来るのはコウくんの能力だけ」
「なるほど……」
と、頷いたところでコウイチは「あれ?」と首を傾げた。
今までが自分の能力について知っている人ばかりだったので疑問にも思わなかったが、
「俺、お前に能力のこと話してないよな?」
「そうだね」
「……何で知ってんの?」
よくよく考えれば一番最初の白龍皇の特も可笑しいんじゃないか?
あの時点ではコウイチの能力のことを知っているのはほんの限られた人数だけのはずだ。
「情報ってのは一度表に出たら秒で広まるものなんだよ」
そう言って刹那は怪しく笑って見せる。
そして、
「アヴァロンは気を付けた方が良いよ」
まるで警告するかのように言うのだった。
それが何を意味しているのか……コウイチでも少なからず理解できる。ただ、それは何となくであり、説明を求められてもうまく言葉には出来ない。だから、コウイチは自分にはそれほど関係のないことだろうと決め込んで忘れることにした。
「地質改善の道具も証明できれば作れなくはないのか」
「うん、そうだね。でも、そんなの何に使うの?」
「ああ、それはな」
コウイチは事の次第を刹那に説明をする。
「ふうん、あの青トカゲが国をねぇ」
「青トカゲって……」
「そうだなぁ。今ある知識でも少し時間を貰えたらそれっぽいのが出来るかもしれないけど……」
「マジで?」
「でも、青トカゲの為になんて作りたくないからヤダ。それにその地質が改善されたら領土として認められることになる。そうなったら青トカゲが自由にできる国を所有することになる。それは個人的に避けたいことかな」
「アオが国を作るのはダメなのか?」
「あれが国を欲する理由なんて碌でもない」
「そうなのか?」
「この世界で”国”というのはとても大きなメリットがあるのは知ってる?」
「さあ? むしろ、何を言ってるのかが分からん。国は国だろ?」
「ま、まあ、国は国なんだけどさ。この世界ってさ、力の差が異常だと思わない?」
コウイチのような脆弱な人間もいれば、エルフという生体的に上位者や白龍皇や紅龍皇、レナーテのような頂上的な存在、アイリスやアオのような天変地異とも思える力を持つ精霊までいる。どちらかと言うとコウイチの周りにはそんな存在しかいない。
刹那の言う力の差は異常である。
むしろ、太刀打ち出来ないような力を者が多すぎる。
「言っておくけど、コウくんの周り超特殊なだけだよ? それを差し引いてもエルフ辺りまでを含んだ人類種とそれ以外でも明確な差があってね。分母的には前者が圧倒的に多い。後者は少ないけど、前者を簡単に一蹴出来る力を持ってる」
「それが、アオが国を持ってはいけない理由とどう繋がるんだ? むしろ、強力な存在の庇護下の国とか安心できると思うんだが?」
「そういう側面もあるんだけどね。重要なのは国家間協定」
「国家間協定?」
「コウくんに説明するの面倒臭いし無駄だと思うから簡単に説明するね?」
「おい、お前完全に馬鹿にしてるだろ?」
「うん、コウくんって馬鹿だもん。ちゃんと説明しても無駄だと思ってるから。だって、さっきの警告も関係ないって決めつけて忘れることにしたでしょ?」
「…………」
返す言葉もなかった。
罰が悪そうにコウイチが視線を逸らすと刹那は説明を始めた。
「国家間協定の中に国家間戦争ってのがあってね、ルールを設けて戦争するんだよ。このルールを使って相手との力量差を埋めるわけ。一言で言えば危険なオリンピックって感じ。でもね、相手次第ではどんなルールを設けたところで差を埋められない場合があるの。それが青トカゲみたいな規格外な存在。
例えば、コウくんが青トカゲと何らかの競技で競うとするね。じゃあ、どんなルールを作れば勝てそう?」
コウイチは腕組みをして思考を巡らせてみる。
戦争や競技と刹那は表現をしたが、ようは勝負事だ。ゲームという認識で考えたらいいのだと思う。ルールを設けるにしてもゲームとして成り立たなければならないというのが最低限の条件といったところだろう。
どこまでのルールが許容されるかは分からないが、まず身体能力を用いたものでは勝ち目はない。例え、1メートル走と50メートル走で対決しても負ける自身がある。神経衰弱などの頭を使うものでも同様だ。料理なんかでも勝てる気はしない。物作りであれば可能性はゼロではないが評価基準によるだろうし、何よりも競技として成り立つようにゲームを構成できる気がしない。
第三者を利用した勝負なら可能性はあるかもしれない。例えば、スーパーの入口で次に入ってくるのが男性か女性かを当てる。
いや、それでもアオなら何らかの手段を用いて確実に当てる可能性がある。
「勝てる気がしないな」
「でしょ? だから、人類種より上位の存在が国家に関与することは禁じられているの。国を作るなんてもっての他。後にも先にもそれが認めらえたのは一例だけ」
「えっ? 一例はあるのか?」
反射的に訊き返してしまったコウイチに対し、刹那は人差し指を地面に向ける。
「ココ。私の国。世界最小の国家――夜の帝国だよ」
ここはアヴァロンから遥か南の絶海に浮かぶ二百メートルほどの大きさの島だそうだ。
この島が刹那の支配する領域であり、国家。
つまり、竜崎刹那はぼっち国のぼっち皇帝なのだ。
「……お前、一人でレヴォリューションしてる歌手みたいに一人でぼっち国家作って活動してんの?」
「別に好きで国を作った訳じゃないよ! 私は国家を作る代わりにここから一歩も出ちゃダメなの。つまり、幽閉されてるの」
「幽閉って、なにやらかしたんだよ。けどさ、俺、誘拐しにきたじゃん? あれはいいのか?」
「ある目的の為なら一時的に外出が許されてるの」
「その目的って?」
そうコウイチが聞き返すと、刹那はくるりと一回転して青を基調とした衣装を見せつけるようにして、それは当たり前かのようにいった。
「元の世界に帰ることだよ!」
錬金術では不可能な晶石鍛冶の可能性。
それがコウイチを浚った本当の理由だった。
「でも、コウくんはこういうの好きでしょ?」
「そりゃ大好きですよ? だって、ト〇リだもん」
「だよね」
流石と言うべきだろう。
この世の誰よりもコウイチの事を知り尽くしている唯一といって良い理解者だ。
一緒に居て一番楽しい奴だとコウイチも思っている。
このト〇リのコスプレもコウイチの為にわざわざ着替えている可能性すらある。何せ、刹那の押しキャラはメ〇ルなのだから。
そんな危険な話題はそろそろ止めておくとして、早急に話し合わなければならない要件がある。
「それで? ここは何処で、俺を浚った理由って何? 正直言って、そろそろ平穏な暮らしを送りたい訳ですよ。碌でもないことだったらキレるよ?」
「……コウくんとお喋りがしたくって……ごめんなさい」
刹那が申し訳なさそうに目を伏せて云う。
そんな理由にコウイチは虚を突かれたように目を丸くした後、思わず吹き出して笑ってしまう。
「あっははは、刹那らしいな」
「え、えっ!? 私、何かおかしいこと言った?」
「いや、何もおかしくないよ。こっち来てから、何処に言っても利用されることばっかりだったからな。すげー新鮮」
「転移者は利用価値の塊だから仕方ないよ。私も最初はそんな感じだったし」
「錬金術師だもんな。やっぱり、皆に頼られたのか?」
「んー、どっちかと言うと最初は吸血鬼の身体能力を活かした戦力としてかな。錬金術って言っても知識と技術は別物だもん」
意外な返答にコウイチは驚く以外の反応が返せなかった。
「へぇそうなんだ。吸血鬼ってバレたらダメなイメージあるけど、大丈夫なのか?」
「この世界では敵対しない限り種族で差別を受けるってことは少ないみたい。私以外にも吸血鬼の人って結構いるし」
「なるほどな。でも、300年か……大変だったんだろうな」
「300年だからね。大変だったよ、色々」
「そっか」
そこでコウイチは言葉を止めた。
すると重苦しい静寂が立ち込める。
300年。コウイチは、その先に踏み込もうとは思わなかった。
この短い間ではあるが、刹那は殆ど表情を変化させない。
喜怒哀楽驚疑などなど。
あの鉄仮面のアオでさえ、むすっとしたり、視線で感情を訴えたりしてくるのに対して、刹那は反応はあるものの感情が感じられない。
演技の様に思えた。
コウイチの知る刹那は口を開けば百面相をしているように表情をコロコロと変化させる面白い奴だった。そんな彼女が感情を殺してしまうほどの出来事が300年の間に起きたのだと容易に想像できた。
感情が関係している点がアイリスと被り、尚更、コウイチは踏み込めなかった。
「聞かないんだ」
「お前が話してくれるなら聞く」
「……ありがと」
その後、しばしばの沈黙の後にどちらからともなく錬金術の話題が始まった。
刹那の錬金術EXは技術と知識が伴えば”何でも出来る”代物だそうだ。
「因みになんだけどさ。地質の改善とかできる道具ってあったりする?」
「地質? 例えばどんな感じの?」
「えーっと、工業廃棄物の汚染とか放射能汚染とか」
「つまり、環境の性質を変化させるレベルの道具って事だよね。ちょっと待って」
刹那は部屋の隅っこに置いてあった収納箱を開けてゴソゴソと探し始める。
そして机の上に三つの道具を並べた。
緑色の液体が入った小瓶、分厚い鎖で雁字搦めにされた本、真っ黒い球。
「右から順番に栄養剤、四極天の書、反作用ボム」
「……栄養剤は兎も角、他は環境破壊だろ!?」
「知ってた。ごめん、環境を改善する道具とかは持ってないな」
「そうか。錬金術なら可能性があると思ったんだけどな」
「この化学文明が発展した世の中だと錬金術が役立つ場面って少ないんだよね」
「そうなのか?」
「錬金術で出来ることは他の技術で代用出来るんだよ。爆弾は化学だし、パイは料理だし、武器やアクセサリーは鍛治とか彫金だし……錬金術ってのはその全ての作業を複合していて便利だけど、万能で無ければオンリーワンでもないんだよね。あと個人でやるしか無いから、大量生産出来ないのは最大のネック」
言われてみれば確かに、と刹那の説明は納得のいくものだった。
あのゲームにおいても科学技術が現代ほど発展していない世界観だからこそ万能な錬金術は重宝されているのだ。
「なるほどな。でも、大量生産って、ほむほむとか作ってやって貰ったらいいんじゃ?」
「幻想幻想。あれはゲームの世界だから……」
「?」
「錬金術では生物を生み出す事は出来ないの。例えそれがホムンクルスであってもね」
「鋼の的な?」
「厳密に言えば違うと思うんだけど、その認識でいいよ。
肉体を作ることは私にも出来るよ? それは現代科学でも行われてるクローン技術とかの応用だからね。
でも、魂は作れない。科学的に定義されてないものや私が理解していないものは作れないんだ。だから、肉体を作っても意思がないから動くことはない。単なる肉の塊。ナマモノ。それは生物ではないよね」
「つまり、魂の定義が理解出来ればホムンクルスを作ることが可能と?」
「原理上はねぇ。確率が天文学的数字の机上の空論であっても存在が証明されるなら可能だよ」
制限があると言ってもクソチート過ぎる。
コウイチは自身の持つ晶石鍛冶の上位互換だと思い落胆するのだった。
しかし、刹那が補足するように言う。
「ただし、コウくんの能力に出来て私には出来ないことがあるんだ」
「というと?」
「晶石はあれでいて意志ある生物に分類されるから、私は晶石を加工することが出来ないんだ。コウくんのは唯一無二であり、私の全能力を上乗せしても釣り合わないんだよ」
「そんなに? でも、加工事体は他にも出来る人いるよね」
「劣化加工は、ね。性能を120%にまで引き出すことが出来るのはコウくんの能力だけ」
「なるほど……」
と、頷いたところでコウイチは「あれ?」と首を傾げた。
今までが自分の能力について知っている人ばかりだったので疑問にも思わなかったが、
「俺、お前に能力のこと話してないよな?」
「そうだね」
「……何で知ってんの?」
よくよく考えれば一番最初の白龍皇の特も可笑しいんじゃないか?
あの時点ではコウイチの能力のことを知っているのはほんの限られた人数だけのはずだ。
「情報ってのは一度表に出たら秒で広まるものなんだよ」
そう言って刹那は怪しく笑って見せる。
そして、
「アヴァロンは気を付けた方が良いよ」
まるで警告するかのように言うのだった。
それが何を意味しているのか……コウイチでも少なからず理解できる。ただ、それは何となくであり、説明を求められてもうまく言葉には出来ない。だから、コウイチは自分にはそれほど関係のないことだろうと決め込んで忘れることにした。
「地質改善の道具も証明できれば作れなくはないのか」
「うん、そうだね。でも、そんなの何に使うの?」
「ああ、それはな」
コウイチは事の次第を刹那に説明をする。
「ふうん、あの青トカゲが国をねぇ」
「青トカゲって……」
「そうだなぁ。今ある知識でも少し時間を貰えたらそれっぽいのが出来るかもしれないけど……」
「マジで?」
「でも、青トカゲの為になんて作りたくないからヤダ。それにその地質が改善されたら領土として認められることになる。そうなったら青トカゲが自由にできる国を所有することになる。それは個人的に避けたいことかな」
「アオが国を作るのはダメなのか?」
「あれが国を欲する理由なんて碌でもない」
「そうなのか?」
「この世界で”国”というのはとても大きなメリットがあるのは知ってる?」
「さあ? むしろ、何を言ってるのかが分からん。国は国だろ?」
「ま、まあ、国は国なんだけどさ。この世界ってさ、力の差が異常だと思わない?」
コウイチのような脆弱な人間もいれば、エルフという生体的に上位者や白龍皇や紅龍皇、レナーテのような頂上的な存在、アイリスやアオのような天変地異とも思える力を持つ精霊までいる。どちらかと言うとコウイチの周りにはそんな存在しかいない。
刹那の言う力の差は異常である。
むしろ、太刀打ち出来ないような力を者が多すぎる。
「言っておくけど、コウくんの周り超特殊なだけだよ? それを差し引いてもエルフ辺りまでを含んだ人類種とそれ以外でも明確な差があってね。分母的には前者が圧倒的に多い。後者は少ないけど、前者を簡単に一蹴出来る力を持ってる」
「それが、アオが国を持ってはいけない理由とどう繋がるんだ? むしろ、強力な存在の庇護下の国とか安心できると思うんだが?」
「そういう側面もあるんだけどね。重要なのは国家間協定」
「国家間協定?」
「コウくんに説明するの面倒臭いし無駄だと思うから簡単に説明するね?」
「おい、お前完全に馬鹿にしてるだろ?」
「うん、コウくんって馬鹿だもん。ちゃんと説明しても無駄だと思ってるから。だって、さっきの警告も関係ないって決めつけて忘れることにしたでしょ?」
「…………」
返す言葉もなかった。
罰が悪そうにコウイチが視線を逸らすと刹那は説明を始めた。
「国家間協定の中に国家間戦争ってのがあってね、ルールを設けて戦争するんだよ。このルールを使って相手との力量差を埋めるわけ。一言で言えば危険なオリンピックって感じ。でもね、相手次第ではどんなルールを設けたところで差を埋められない場合があるの。それが青トカゲみたいな規格外な存在。
例えば、コウくんが青トカゲと何らかの競技で競うとするね。じゃあ、どんなルールを作れば勝てそう?」
コウイチは腕組みをして思考を巡らせてみる。
戦争や競技と刹那は表現をしたが、ようは勝負事だ。ゲームという認識で考えたらいいのだと思う。ルールを設けるにしてもゲームとして成り立たなければならないというのが最低限の条件といったところだろう。
どこまでのルールが許容されるかは分からないが、まず身体能力を用いたものでは勝ち目はない。例え、1メートル走と50メートル走で対決しても負ける自身がある。神経衰弱などの頭を使うものでも同様だ。料理なんかでも勝てる気はしない。物作りであれば可能性はゼロではないが評価基準によるだろうし、何よりも競技として成り立つようにゲームを構成できる気がしない。
第三者を利用した勝負なら可能性はあるかもしれない。例えば、スーパーの入口で次に入ってくるのが男性か女性かを当てる。
いや、それでもアオなら何らかの手段を用いて確実に当てる可能性がある。
「勝てる気がしないな」
「でしょ? だから、人類種より上位の存在が国家に関与することは禁じられているの。国を作るなんてもっての他。後にも先にもそれが認めらえたのは一例だけ」
「えっ? 一例はあるのか?」
反射的に訊き返してしまったコウイチに対し、刹那は人差し指を地面に向ける。
「ココ。私の国。世界最小の国家――夜の帝国だよ」
ここはアヴァロンから遥か南の絶海に浮かぶ二百メートルほどの大きさの島だそうだ。
この島が刹那の支配する領域であり、国家。
つまり、竜崎刹那はぼっち国のぼっち皇帝なのだ。
「……お前、一人でレヴォリューションしてる歌手みたいに一人でぼっち国家作って活動してんの?」
「別に好きで国を作った訳じゃないよ! 私は国家を作る代わりにここから一歩も出ちゃダメなの。つまり、幽閉されてるの」
「幽閉って、なにやらかしたんだよ。けどさ、俺、誘拐しにきたじゃん? あれはいいのか?」
「ある目的の為なら一時的に外出が許されてるの」
「その目的って?」
そうコウイチが聞き返すと、刹那はくるりと一回転して青を基調とした衣装を見せつけるようにして、それは当たり前かのようにいった。
「元の世界に帰ることだよ!」
錬金術では不可能な晶石鍛冶の可能性。
それがコウイチを浚った本当の理由だった。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる