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蒼の皇国 編

世界で最も危険な存在(色々な意味で)

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「ぐ~るぐ~る、ふふふーん」

 目を覚ますと変な恰好をしたミニスカ女が掻き混ぜ棒で巨大な釜を掻き混ぜている後姿が目に入った。
 あんな変な恰好をしているヤツは総じて――

「……錬金術師?」

 ピクリと変な恰好をした女が手を止めてこちらを振り返った。

「えっ!?」

 その顔にコウイチは心底驚いた。
 こんな所にいるはずがない相手だったからだ。

刹那せつな?」

 つい言葉を口に出してしまった。

「あっ、すみません。人違いで――」
「ううん、合ってるよ。久しぶりだね、コウくん」
「……本当に刹那なのか?」
「本当のホントに刹那だよ。触って確かめてみる?」

 変な恰好をしたミニスカ女は見覚えのある青を基調とした衣装を見せつけて来る。
 竜崎刹那りゅうざきせつな
 高校の時、ある事を切欠に仲良くなった女の子だ。
 ある事とは――某アトリエ系錬金術師ゲーム。
 最初はコウイチがショップでアトリエの新作を購入したときに偶然居合わせただけだった。そこから刹那が興味を持つようになり、どっぷりと嵌り、次第にエスカレートしていき、気づいた時にはコスプレしてキャラになりきるまで拗らせてしまった。
 今、彼女が青を基調した衣装はト〇リ先生のコスプレだろう。
 再現率が半端ない。
 コウイチが一番好きなキャラでもある。
 触って確かめてみると言われてぐっと来るものはあったが、そこは堪えた。

「それはまたの機会でお願いします。そんなことよりも……マジで刹那なの?」
「マジもんの刹那さんですよ? コウくんの好きなト〇リちゃんコスだよー」

 どっちもマジもんでした。
 こいつ、色々と著作的に危ないぞ!

「ここ異世界だろ。何で、お前がいるんだよ」
「それはこっちのセリフだよ。花子ちゃんから新しい転移者の名前がコウイチ=クロガネって聞いた瞬間、ビビッと来たからね! 自分の目で確認してみたら本物なんだもん。これは連れ去るしかないよね!?」
「どうしてそうなったっ!?」

 屈託のない懐かしいやり取りに、本当に竜崎刹那だと納得するしかなかった。

「今頃、アオ達、めっちゃ騒いでるんだろうけど……まあ、気にしないでおこう。それで、何でお前いるの? お前、三年前に親の転勤で千葉の夢の国の近くに引っ越したじゃん?」

 引っ越した後も暫くは連絡を取り合っていたが、新学期が始まった辺りからぱったりと連絡がつかなくなった。

「そうなんだけどね。東京に引っ越して、いざ新学期って時に交通事故に遭って死んじゃったんだよね。それで典型的な異世界転移物語がスタートした感じ」
「なんてテンプレ展開」
「チート能力貰って無双しちゃう系の凄いテンプレなんだよね」

 と言って、刹那は「……三年なんだ」と表情を曇らせた。
 ふと、コウイチは違和感を覚え、タリアの言葉を思い出した。
 こっちと向こうとの時間の差。
 1年で100年ほどの違いがあったはずだ。
 つまり、刹那はこっちに来て300年経っているということになる。

「300歳のBBA!?」
「今日は筋ばった肉のハンバーグにしようかなぁ」
「ごめんなさい!?」

==================================

 セツナ=リュウザキ。
 約300年ほど前に現れた転移者の1人だ。彼女は複数の特殊な能力を持ち、一般的に世間に広まっているのは”吸血鬼:神祖“と“錬金術EX”の2つ。真祖ではなく神祖である。鬼でありながら神でもある常軌を逸した存在。更には何でもありの規格がいな錬金術から生み出される道具は、それ単体で大軍をも凌駕してしまうほどだ。
 転移したばかりの当初の彼女は、片田舎でひっそりと錬金術師として暮らしているだけの、時たま問題を引き起こすも世界の敵になることない人畜無害な存在だった。
 そんな彼女が突如として人類を滅ぼそうと活動を始めたのは約200年前。最初に矛先が向けられたのは彼女にとって第二の故郷とも言える、転移した彼女を受け入れてくれた国――ミネラリア帝国だった。その詳細は不明だが、暮らしていた村が戦争に巻き込まれて滅ぼされたのが原因だと噂されている。
 ミネラリア帝国の最期は、長く生きているアオでも目を伏せたくなるような凄惨なものだったのを記憶している。生けるもの全てを根絶やしにしたのだ。老若男女、善人悪人関係なく、一人ずつその手で……。
 彼女は帝国を滅ぼした後も止まることなく、次の矛先は世界へと向けられた。
 ――この世は腐ってるから滅ぼすね。
 今でも耳に残るセツナの宣布。
 これにより共存派と殲滅派はそれぞれに行動を起こしてセツナを討とうと試みた。
 だが、常軌を逸した存在であるセツナに太刀打ちできる者は一人としていなかった。それは恒常的な概念領域存在たるアオも含まれている。コテンパンにやられて存在を消滅させられそうになったのは後にも先にもこの一回である。
 不干渉を決め込む傍観派の王であった原初の精霊“黒いの”も看過できず、その凶行を食い止めるべく特例としてセツナに戦争を仕掛けた。
 そして熾烈な戦いの末に戦争は引き分けという形を持って終結した。
 その後、セツナは黒いのと取引を行い絶海に浮かぶ小さな孤島に幽閉されることとなった。これにより事実上、セツナの暴走は食い止められた。

「これが私の知る限りのセツナ=リュウザキ」

 話し始めた頃は、足の下で暴れていたハクも今ではピクリとも動かず静かに聞き耳を立てている。

「今のこの世界にセツナを止められる存在はいない」
「……じゃあ、コウイチを助けられないの?」
「大丈夫。あれは私のモノだから。取り戻す手段は考えてる」
「ホント?」
「セツナに国家間戦争を仕掛ける」
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