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蒼の皇国 編

理想郷を認めぬ者達:殲滅派B編

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「やはり、お前さんも来たか」
 
 西の海上で白龍皇はボロマントを羽織った骸骨と対峙していた。骸骨の右手には煌びやかな装飾が施された神々しい輝きを放つ一振りの剣が握られている。
 剣の名は聖剣ブルトガング。
 骸骨の名はリョウタ=アヅチ。
 1000年ほど前の昔。西の大陸で栄えた大国に現れた転移者の成れの果て。彼が手にしている聖剣は、未曾有の危機から大国を救った際に国王から賜わったものだ。
 カタカタカタッ、と顎が動いて乾いた音が空気を震わせる。
 白龍皇も詳しいことまでは知らないが、彼は救ったはずの大国に裏切りに遭い殺された。その後、どういった経緯で骸骨となったかは分からない。ただ一つだけ言えることは、今のリョウタ=アヅチは視界に入る人間を手当たり次第に殺す殺戮鬼だということだ。

「この件とお前さんは関係なかろう。退いてくれんか?」
“聞けぬ。人間は滅ぼす”
「何故、そこまで人間を恨む。何があった? 腹を割って離さぬか?」
“裏切られ、殺された。愛する者までも。人間は醜い。存在してはならない”
「成る程のう。しかし、もう終わりにせんか? 人の全てが憎むべき対象ではなかろうて」
“人間は人間。例外などない”

 例外の中には自身さえも含まれているのだろう。

「聞く耳持たないか……ならば、気が済むまで儂が相手をしてやろう」

 白龍皇は魔力を収束させて一振りの剣を作り出す。剣技の一つや二つは長い時の中で戯れに収めている。人間の成れの果てを相手にする程度には十分だ。
 純粋な力量は白龍皇が圧倒している。本気で白龍皇が力を振るえば、リョウタを消し炭にすることくらい造作もない。
 ただ彼を殺す理由が白龍皇にない。
 殺すどころか、彼は歴史の犠牲者だ。救わなければならない対象ですらある。

「退かねば、少々痛い目を見てもらうことになるぞ」
“邪魔をするなら殺すのみ”

 リョウタは聖剣を構えて海面を蹴った。
 憐れな復讐者よ、しばしばここで止まれ。
 剣と剣が衝突した瞬間、空間を揺らす衝撃波が周囲に伝播していく。

============================

 三方向から戦闘による衝撃波が伝わってくる。
 喧嘩っ早い連中だとアオは南の海で氷塊に腰掛けて溜息を吐いた。
 アヴァロンへの被害は最小限に抑える必要がある。自分たちのような存在がぶつかり合えば余波だけでもアヴァロンが墜落する可能性すらある。
 それくらいの良識は持ち合わせていると思っていたが過大評価だったようだ。

「あいつら……後で絶対にぶん殴る」

 氷塊の中には人型の魔獣が封印されている。
 名前は……知らない。
 このまま海に流して置けばどこかに行くだろう。
 対処というのはこうやってするのだ。

「まあ、一番の問題はあっちか」

 アオは頭上を見上げた。
 天高く――成層圏付近に位置する場所。
 こちらを警戒してのことだろう。視覚では確認することの出来ない距離にそれはいる。
 傍観派の中でもトップクラスの危険な鳥ーー神鳥シムルグ。
 シムルグは周囲の馬鹿どもと違って気性は穏やかで争いを好まない性格をしている。ただ、筋の通らないことやルールから逸脱したことに対しては徹底的に許さない頑固者だ。
 今回のシムルグの来訪は新たなる王ーー夜天のアイリスを見定めに来たのだろう。

「どうする、アイリス? あの鳥は今の貴方は認めない」

 アイリスは自分の身の振り方を決めなければならない。
 傍観派の王として生きるか。
 それを捨て別の道を選ぶか。
 どちらを選んでも面倒ではある。
 前者は正式に王として傍観派を取りまとめていかなければならなくなり、後者を選べば傍観派を抑える者が居なくなり派閥が崩壊する。
 二つの選択肢で厄介なのは後者を選んだ場合だ。
 派閥の崩壊は戦争を意味する。
 収める者がいた事で大人しくしていた馬鹿者どもの首輪が外れてしまう。

「決めるのはあの子だけど、戦争は面倒くさい」

 でも、手を出す訳にはいかない。
 アオは懐からプリンを取り出し、アイリスの選択を見届けることにした。
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