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夜天の主 編
名も無き火山へ
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戦艦KERT-RLA3改め移動工房艦アメノマは北の未開大陸に向かって平和な空の旅を満喫していた。アヴァロンを出港するには正式な船名を登録しないといけなくて、全員で名前を出し合ったあとくじ引きでアメノマという名前に決まった。ハクの決めた名前で割と喜んでいた。
艦の心臓たる試作機にして完成機の循環魔力融合炉零号機は、意気揚々と莫大な量の魔力を生成させつつ艦全体に魔力を行き渡らせながらエンジンの回転数をどんどん上げていく。最新式の索敵レーダーの調子も抜群で周囲1200キロの魔力及び生命反応を次々に検出している。収集されたデータは艦に搭載されている自立型管制ユニットのアイちゃんが喜々としてメインメモリーに情報を蓄積させていっていた。
「にしても、自立型管制ユニットって……実用化されていたなんて驚きだわ」
操舵席に座るメアリは、高速で幾つものモニターが開いては閉じて消えていく光景に唖然と目を見開いていた。情報の処理速度はそこらのスーパーコンピューター並だ。
アイのことは艦のマニュアルには存在せず、融合炉の調整が終わった後にアイからコンタクトがありその存在が発覚した。どうやら、艦のプログラム担当がこっそりとインストールしたそうだ。あとで面倒な事にならないことを祈るばかりである。
不意にメアリの眼前に一枚のモニターが表示された。チャット画面だった。
”サブマスター。私は試作型であり、この艦への搭載は実験の一環です。実用化という言葉は誤解があると思われます”
と画面の中に文字が並ぶ。
アイはこの艦そのものだ。艦内は勿論、艦外でもあらゆる機器をハッキングして音声を拾いどこでも意思疎通が可能である。彼女の前でプライベートなど存在はしない。勿論、緊急時以外、パーソナルスペースでのハッキングはしていないそうである。
本当かどうか怪しいところだ。
”本当にしていませんよ?”
「…………」
移動工房艦アメノマは北の未開大陸に向かって航行中である。
この世界――オリジンは地球の十倍ほどの面積があり、大きな大陸は七つある。その内二つは凶暴な魔獣に支配されていて未開の地となっていて、特に今向かっている北の未開大陸は最も危険だと言われている。
北の未開大陸が危険な理由は単純明快だ。殲滅派である三皇の二匹――白龍皇と赤龍皇が支配しているからだ。
ハクを死の淵にまで追いやった宿敵でもある白龍皇のいる場所に何故向かっているのかと言うと……アオから手紙が届き、蒼龍皇が課題を出した本人たる白龍皇へのアポイントメントを取ってくれたらしいのだ。罠の可能性もあるが、蒼龍皇の言う”契約”があるので今は安全と言うのをコウイチは信じることにしたのだ。
コウイチは神鉄で二つの腕輪を作りながら、白龍皇の言葉を思い出す。
『一年だ。其方の力で、人に世界を滅ぼさず再生させられるだけの力と価値があることを示せ』
力と価値。
アオから預かった自然を再生させる鍵は、あくまでも無数にある錠の一つを解除するに過ぎない。仮に複製や特殊な運用方法を見つけたとしても焼け石に水なのは明白だ。力や価値を示せるとは思えない。もっと根本的な何か……糸口でもあれば……僅かな情報一つでも欲しいのだ。
藁にも縋る想いでコウイチは敵地へと向かうことを決意した。
戦えない自分はハク達に迷惑を掛ける。もしかしたら、また死ぬような目に遭わせてしまうかもしれないし、今度は本当に死んでしまうかもしれない。それでも今は一歩でも前に進みたい。先にある未来――皆で楽しく暮らす、ハーレムの為に。
現地について護衛をしてくれるハクとメアリの為にタマモに教えて貰った自動防御魔法の起動式を腕輪に刻んだものを準備した。これで二人の負担を少しでも軽減出来れば嬉しい。
「あれが未開の大陸か?」
アイがご丁寧に表示してくれている艦前方の映像に一面銀世界の真っ白な大陸が広がっていた。
「北とは聞いてたけどさ……もしかしてめっちゃ寒い?」
チャット画面が開き、
”現在、外気温はマイナス37度です”
「防寒着とか持ってきてないんっすけど?」
”安心してください。当艦には耐熱、耐寒の装備が配備されています”
「マジか!? アイちゃん、ありがとう!?」
”いえ、私が手配したものではありません。この船の内装担当者が配備したものです。ただ……”
アイが淡々とした文面の最後を濁し、しばしば間を開けてから文字を綴った。
”少々、個性的なデザインなっています”
固定的という言葉は大変便利な言葉だと思う。
例えそれがファンシーな着ぐるみパジャマだったとしても。
「これ、マジで大丈夫なんだよな?」
「……どうやら素材に術式が編み込んであるようです」
可愛らしい長い耳が特徴的なウサギさんパジャマを着たメアリが頬を赤く染めて言う。
その隣で白いワンコパジャマを着たハクが嬉しそうに飛び跳ねて「動きやす―い!」と喜んでいた。元々白いハクが白いパジャマってどうなのよ。
「まあ、二人はよしとしよう。なんで俺だけコレ?」
コウイチはというと緑色の寸胴に無数のトゲトゲクッションが全身に付いた……サボテンパジャマだった。
”グランドマスター。申し訳ありません。男性が着られるサイズはコレしかなく……”
アイがチャットを書き込み、コウイチが確認するとすぐにチャットを閉じて音信不通となった。
「めちゃくちゃ歩きにくいし!? 頭長すぎて重いし!? 手出せないし!?」
「でも着ないと死にますよ?」
渋々、コウイチは二人に手……ではなく、トゲを引っ張られて雪原の行軍に出るのであった。
艦の心臓たる試作機にして完成機の循環魔力融合炉零号機は、意気揚々と莫大な量の魔力を生成させつつ艦全体に魔力を行き渡らせながらエンジンの回転数をどんどん上げていく。最新式の索敵レーダーの調子も抜群で周囲1200キロの魔力及び生命反応を次々に検出している。収集されたデータは艦に搭載されている自立型管制ユニットのアイちゃんが喜々としてメインメモリーに情報を蓄積させていっていた。
「にしても、自立型管制ユニットって……実用化されていたなんて驚きだわ」
操舵席に座るメアリは、高速で幾つものモニターが開いては閉じて消えていく光景に唖然と目を見開いていた。情報の処理速度はそこらのスーパーコンピューター並だ。
アイのことは艦のマニュアルには存在せず、融合炉の調整が終わった後にアイからコンタクトがありその存在が発覚した。どうやら、艦のプログラム担当がこっそりとインストールしたそうだ。あとで面倒な事にならないことを祈るばかりである。
不意にメアリの眼前に一枚のモニターが表示された。チャット画面だった。
”サブマスター。私は試作型であり、この艦への搭載は実験の一環です。実用化という言葉は誤解があると思われます”
と画面の中に文字が並ぶ。
アイはこの艦そのものだ。艦内は勿論、艦外でもあらゆる機器をハッキングして音声を拾いどこでも意思疎通が可能である。彼女の前でプライベートなど存在はしない。勿論、緊急時以外、パーソナルスペースでのハッキングはしていないそうである。
本当かどうか怪しいところだ。
”本当にしていませんよ?”
「…………」
移動工房艦アメノマは北の未開大陸に向かって航行中である。
この世界――オリジンは地球の十倍ほどの面積があり、大きな大陸は七つある。その内二つは凶暴な魔獣に支配されていて未開の地となっていて、特に今向かっている北の未開大陸は最も危険だと言われている。
北の未開大陸が危険な理由は単純明快だ。殲滅派である三皇の二匹――白龍皇と赤龍皇が支配しているからだ。
ハクを死の淵にまで追いやった宿敵でもある白龍皇のいる場所に何故向かっているのかと言うと……アオから手紙が届き、蒼龍皇が課題を出した本人たる白龍皇へのアポイントメントを取ってくれたらしいのだ。罠の可能性もあるが、蒼龍皇の言う”契約”があるので今は安全と言うのをコウイチは信じることにしたのだ。
コウイチは神鉄で二つの腕輪を作りながら、白龍皇の言葉を思い出す。
『一年だ。其方の力で、人に世界を滅ぼさず再生させられるだけの力と価値があることを示せ』
力と価値。
アオから預かった自然を再生させる鍵は、あくまでも無数にある錠の一つを解除するに過ぎない。仮に複製や特殊な運用方法を見つけたとしても焼け石に水なのは明白だ。力や価値を示せるとは思えない。もっと根本的な何か……糸口でもあれば……僅かな情報一つでも欲しいのだ。
藁にも縋る想いでコウイチは敵地へと向かうことを決意した。
戦えない自分はハク達に迷惑を掛ける。もしかしたら、また死ぬような目に遭わせてしまうかもしれないし、今度は本当に死んでしまうかもしれない。それでも今は一歩でも前に進みたい。先にある未来――皆で楽しく暮らす、ハーレムの為に。
現地について護衛をしてくれるハクとメアリの為にタマモに教えて貰った自動防御魔法の起動式を腕輪に刻んだものを準備した。これで二人の負担を少しでも軽減出来れば嬉しい。
「あれが未開の大陸か?」
アイがご丁寧に表示してくれている艦前方の映像に一面銀世界の真っ白な大陸が広がっていた。
「北とは聞いてたけどさ……もしかしてめっちゃ寒い?」
チャット画面が開き、
”現在、外気温はマイナス37度です”
「防寒着とか持ってきてないんっすけど?」
”安心してください。当艦には耐熱、耐寒の装備が配備されています”
「マジか!? アイちゃん、ありがとう!?」
”いえ、私が手配したものではありません。この船の内装担当者が配備したものです。ただ……”
アイが淡々とした文面の最後を濁し、しばしば間を開けてから文字を綴った。
”少々、個性的なデザインなっています”
固定的という言葉は大変便利な言葉だと思う。
例えそれがファンシーな着ぐるみパジャマだったとしても。
「これ、マジで大丈夫なんだよな?」
「……どうやら素材に術式が編み込んであるようです」
可愛らしい長い耳が特徴的なウサギさんパジャマを着たメアリが頬を赤く染めて言う。
その隣で白いワンコパジャマを着たハクが嬉しそうに飛び跳ねて「動きやす―い!」と喜んでいた。元々白いハクが白いパジャマってどうなのよ。
「まあ、二人はよしとしよう。なんで俺だけコレ?」
コウイチはというと緑色の寸胴に無数のトゲトゲクッションが全身に付いた……サボテンパジャマだった。
”グランドマスター。申し訳ありません。男性が着られるサイズはコレしかなく……”
アイがチャットを書き込み、コウイチが確認するとすぐにチャットを閉じて音信不通となった。
「めちゃくちゃ歩きにくいし!? 頭長すぎて重いし!? 手出せないし!?」
「でも着ないと死にますよ?」
渋々、コウイチは二人に手……ではなく、トゲを引っ張られて雪原の行軍に出るのであった。
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