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夜天の主 編

世界を救う方法

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 コウイチとハクは涼やかな風が吹き抜ける見渡す限りの森林地帯に作られた遊歩道を手を繋いで歩く。
 ヒュレイン大樹海の入口でもあるメルト国際公園だ。
 色取り取りの季節の花で彩られた園内にはアンティークの噴水が設置され、その周囲にはお洒落なベンチが置かれておる。
 それぞれのベンチには手をつなぐ者、肩を寄せ合う者が腰をかけて甘い言葉を囁き合っていた。

「コウイチ、だぁーいすき」

 ハクが両腕でコウイチの腕を抱きかかえるようにし、ふっくらとした小高い双丘を押し付けてくる。

「ちょっと、ハクさん!? 周りの真似をしちゃダメ!」
「えー、ダメー?」
「ダメ。遊びに来たんじゃないんだから」
「むぅー」

 コウイチは、ちょっと嬉しい気持ちを抑えながら抱きついてきたハクを引き剥がす。
 三皇の襲撃から1ヶ月が経った昨今、ハクの積極的なアプローチにはドキドキしてばかりだ。
 最初は寝ている間にベッドの中で服を脱ぎ出すことからだった。ただの寝相だと思っていたのだが、それは連日続くようになり、次第に胸や下腹部を執拗に密着させてくるようになった。そこまでされたら年齢イコール彼女なしイコール童貞のコウイチにでも分かる……そういう事なのだと。
 その次のアプローチはお風呂乱入事件だ。それも毎日だ。幼いハクであれば何も思うことはなかっただろうが、今の中学から高校生くらいの姿をしているハクが相手となると話は違う。
 更なるアプローチは常にべたべたとスキンシップをして隙あらばキスを迫ってくる次第である。

「この辺で旅の案内人と合流予定なんだけど」

 今、コウイチとハクは二人っきりの旅行中である。誤解の無いように断言しておくがラブラブ旅行などではなく、環境汚染を解決する糸口を見つけるための旅行だ。
 ハクの役割はまともな戦闘能力の無いコウイチの護衛であって恋人ではない。
 可愛いけど……恋愛対象というよりは相棒って感じなんだよなぁ。



 メルト国際公園の最奥にあった立ち入り禁止のフェンスの前で案内人の少女は待っていた。
 ショートカットの青い髪の少女は開口一番に、

「遅い。時間を無駄に使わせないで」

 冷たい瞳で睨まれた。
 青い髪の少女の名前はアオ。以前のハクと同じくらいの小さな少女で、このメルト国際公園を中心に活動をする環境保護団体の職員だそうな。これでも成人しているとか何とか……。

「案内するのは構わない。でも、一つだけ条件がある」
「条件? お金とかならギルドに言えばある程度はどうにかして貰えると思うけど……」

 この世界での団体がどうなのかは分からないが、元いた世界では環境保護団体を始めとした組織ってのは活動資金に悩まされているという話を聞いたような聞かなかったような気がする。

「お金とか要らない。わたしが望むのはあなたの答え」

 答え。その意味にピンと来ず、コウイチは首を捻り、アオの言葉を待った。

「この先で見聞きしたものをどう思ったか教えて」
「……わかった」

 コウイチはしっかりと頷いてから言葉を口にした。



 アオを先頭に森林の奥地へ踏み入りーーそれは森林に立ち入って半時もしないうちに姿を現した。
 地平の果てまで続く枯れた森林地帯。
 汚染された水源。
 異臭を放つ土壌。
 命の息吹を感じられない世界が広がっていた。

「あの公園からそんなに離れてないのに……こんな場所が」
「コウイチ、ハク……こわい」

 ぎゅ、とハクがコウイチの袖を握りしめた。それに対して、コウイチは反対の手でハクの頭を撫でる。
 アオが目を細めてコウイチを睨み付ける。

「これが人間の行いによる産物。だから、わたしはーー」

 アオの言葉の最後の方は聞き取れなかったが、“嫌い”という言葉だけ聞き取れた。


 
 科学技術は人間の生活を豊かにしてくれる。しかし、その反面で環境汚染の問題が付きまとってしまう。
 環境保護を目的としているアオにとっては、科学は忌み嫌う存在なのかもしれない。
 だからと言って、コウイチは科学を否定しない。科学技術があるから今の豊かな世の中が存在している。沢山の笑顔や幸せが世界中に溢れかえっているからだ。
 これは誰も否定出来ない事実。
 一方で、その代償に多くの命が奪われているのも事実であり、それを見て見ぬふりをしてはいけない。

『其方の力で、人に世界を滅ぼさず再生させられるだけの力と価値があることを示せ』

 白龍皇の言葉を思い返す。
 この言葉はどうやら環境汚染を解決しろという意味らしい。
 今現在の世界の科学技術では環境汚染の速度が速すぎて遠くない未来に、目の前に広がる命の息吹を感じさせない大地のようになってしまう。
 それを食い止める糸口を一年以内に見つけて提示しなければならないという無茶振りだ。
 コウイチが天才科学者で何でも創造できる夢のようなチートスキルを持っていたら話は別だ。現実は鍛治に関係するチートスキルのみ。環境を劇的に変化させることのできる効率の良い鉱石でもあれば別だが、そんな都合の良い素材は転がっている訳もない。
 荒廃した大地を小一時間歩いたところで緑あふれる森林地帯が見えてきた。

「森の一部だけが枯れてるのか?」
「そんな訳ない」

 アオは冷たい眼差しで溜息をつく。

「ここから先がわたしの仕事場」

 アオはそう言って森林の中へと足を踏み入れていく。

「コウイチ、ここの匂い変な感じ」

 ハクがくんくんと周囲の匂いを嗅いで眉を潜めた。

「変って?」
「んー、よく分かんないんだけどね。さっきのとことココは別って感じ」

 見た感じでは同じ木々が並んでいるように見てる。
 二人が顔を突き合わせている内にアオの小さな後ろ姿はどんどん小さくなっていて、二人は慌てて後を追った。
 ハクが感じた“変”の正体はーー

「これがわたしの仕事」

 森に踏み入って直ぐにそれは姿を現した。
 小さな泉の真ん中に巨大な岩が鎮座する光景だ。

「緑葉石。陽の光を浴びることで汚染物質を取り込み浄化してくれる。わたしはあれの管理とここを中心とした周辺の調査をしてる」

 環境を劇的に変化させてくれる鉱石あるじゃん、とコウイチは心の中で突っ込んだ。
 そんな都合の良い展開だからこそコウイチが逆に冷静になって考えれた。
 ここへはタマモの紹介で来ている。つまり、タマモはこの石を知っている。だが、環境汚染の問題は解決されていない。イコール、この石には何か欠点があるのではないだろうか?

「あれがあれば環境問題は解決する?」
「大量にあれば」
「あれってどこで取れるの?」
「火山の噴火で稀に少しだけ取れる」

 なるほど。
 産出量の問題か!

「因みにあれを作る方法ってあるの?」
「さあ。知ってても教えない」

 突き放すような言葉を吐き捨てたアオの両頬をむにぃーとハクが引っ張った。

「アオのけちんぼっ!」

 アオははいはいと疲れたようにハクを適当に払い除ける。まるで赤子の悪戯に疲れた母親のような印象だった。

「わたしも詳しくは知らない。でも、誰かが言ってた。水生石、緑生石が魔鉱鉄と混ざったものだって……あなたなら作れるんじゃない?」
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