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ベンチと街の人々
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私は絵を描いている。
いつも通り公園のベンチに座りスケッチブックを広げて絵を描いていた。
青空の下で、ノートに行き交う人々を見ながら、あの人はこんなことを考えているんだろうな。なんてことを考えながら絵を描いていた。
空はなぜいろんな景色を見せるのだろう?
そんなことを思いながら、街の絵を描いていた。
いろんな人がいる。
公園でサボっているサラリーマン。
東屋でたむろしている学生たち。
簡素な遊具で遊ぶ子供たち。
いろんな人がその人生を過ごしている。
そんな人々を見ながら絵を描いていた。
きっとその人たちにもいろんなドラマがあるのだろう。
私はその中の脇役だろう。
誰も見向きもしないだったの一般人。
ふと空を見上げた。
太陽が輝いていた。
絵を描くことも忘れてボーっと眺めていた。
「これ落ちましたよ」
若そうに見える男性がいつの間にか落としていたスケッチブックを拾ってくれた。
「ありがとうございます」
私は男性からスケッチブックを受け取ると感謝を述べた。
「いい絵ですね」
「ありがとうございます」
「隣いいですか」
「あっどうぞ」
男性はベンチのギリギリに座った。
男性はノートを取り出して、何やら文字を書いているようだった。
「絵を描けるのすごいですね。僕は絵が描けなくて、文字で表現しているんです」
「私は文章を書くのが苦手なので素晴らしいことだと思いますよ」
「ありがとうございます。行き交う街の人々を見ながら創作するのはいいですね。アイデアが湧いてきます」
私は人を中心に描いてはいなかった。ただ漠然とその場にある情景を描いていた
「どんな文章を書いているんですか?」
「ただの日常ですよ」
「見せてもらってもいいですか?」
「いいですよ」
男性はノートを私に渡してくれた。
そこには街の人々を題材にしたストーリーが書かれていた。
絵では表せない表現。想像力を掻き立てられる文章がそこにはあった。
そして、ノート一枚めくってみた。
そこには絵を描く人のことが書いてあった。
それは、きっと私のことなのだろう。
でも、それは他のストーリーとは違っていた。
どこか希望に満ちたけど切ない物語だった。
どこにも行けない絵を描く女の子の話。
空を描く、私のことをずっと見ていたようだ。
街の中寂しそうな私を彼は優しい文章で書いてくれていた。
それは文学的だった。
「覚えているかな」
彼はそう言って少し不安そうな顔をしていた。
「何をですか?」
「ここで一度スケッチブックを置いたままにしていたこと」
「数日前に失くしてました」
「これを渡したくて、声をかけたんだ」
彼はカバンから見覚えのあるスケッチブックを取り出した。
「君の絵を見て少し詩を書いてみたんだ。読んでくれるかな」
彼はそう言うと私が失くしたスケッチブックと共に一枚の紙を私に渡した。
それは詩だった
空を見る君。
どこか儚げなく見えた。
僕はその顔を変えたくなったよ。
いつも見ていたよ。
向かいのベンチでいつも君を見ていた。
憂い顔で切ないその顔はきっとここにいる人を見ているようで見ていない。
君のスケッチブックには人がぼんやりと書かれている。
でも、僕だけがしっかり書かれているのが分かった。
君はきっと同じ人を求めていたんじゃないかな。
君の気持ちが僕にはなんとなくわかるよ。
話したこともない君だけど、出会うべきして出会ったんだと思う。
切ない風景に僕だけがしっかりと書かれていた。
僕はそれを見て恋を抱いたよ。
きっとこれから素晴らしい日になるって。
だから、僕と一緒にいてくれないかな。
そんな詩が書かれていた。
私は自分のスケッチブックを読み返す。
確かに名も知らぬ彼のことだけが鮮明に描かれていた。
自分でも気が付かなかった。
無意識に彼のことを意識していたことに驚いた。
そして、彼が私のことを意識していたことにも驚いた。
何の取柄もない私を彼は見てくれていた。
きっと運命ってこういうことを言うんだろう。
「私はあなたのことを知らない。だから付き合うとかは……」
「そういうことじゃないんだ。ただこうして、少しだけお互いを意識して創作をするのが嬉しいんだ。一人じゃないってことが僕の励みになるよ。ただいつものようにこの公園で一緒に物語を描くことが僕にとっての幸せなんだ」
彼はそう言うとノートにこう書いた。
『朝日さんへ。僕のこと覚えているかな。いつか君と一緒に作品を作ることが夢だった。良一より』
私は忘れていた。学校が別々になって離れていった須藤良一くん。
彼とは創作のことでいつも話していた。
ここは彼と一緒に創作談議で盛り上がっていた場所だった。
「良一くんなの?」
「そうだよ。要朝日ちゃん」
私はなんでわからなかったのだろうか? そんなことを思いながら、また彼のノートを見た。
似ている。文章の癖が似ている。
ああ、運命ってあるんだなって思った。
彼は微笑みながら私に話しかける。
「あの時の約束を果たしてもいいかな」
私は二つ返事で頷いた。
それからのことは二人だけの秘密。
ちょっぴり恥ずかしくて誰にも見せられない作品が出来上がった。
そして、それは私の宝物になった。
タイトルは『ベンチと空と運命』だ。
私たちだけの物語。
どこにもない平凡で少し奇跡がある物語だった。
いつも通り公園のベンチに座りスケッチブックを広げて絵を描いていた。
青空の下で、ノートに行き交う人々を見ながら、あの人はこんなことを考えているんだろうな。なんてことを考えながら絵を描いていた。
空はなぜいろんな景色を見せるのだろう?
そんなことを思いながら、街の絵を描いていた。
いろんな人がいる。
公園でサボっているサラリーマン。
東屋でたむろしている学生たち。
簡素な遊具で遊ぶ子供たち。
いろんな人がその人生を過ごしている。
そんな人々を見ながら絵を描いていた。
きっとその人たちにもいろんなドラマがあるのだろう。
私はその中の脇役だろう。
誰も見向きもしないだったの一般人。
ふと空を見上げた。
太陽が輝いていた。
絵を描くことも忘れてボーっと眺めていた。
「これ落ちましたよ」
若そうに見える男性がいつの間にか落としていたスケッチブックを拾ってくれた。
「ありがとうございます」
私は男性からスケッチブックを受け取ると感謝を述べた。
「いい絵ですね」
「ありがとうございます」
「隣いいですか」
「あっどうぞ」
男性はベンチのギリギリに座った。
男性はノートを取り出して、何やら文字を書いているようだった。
「絵を描けるのすごいですね。僕は絵が描けなくて、文字で表現しているんです」
「私は文章を書くのが苦手なので素晴らしいことだと思いますよ」
「ありがとうございます。行き交う街の人々を見ながら創作するのはいいですね。アイデアが湧いてきます」
私は人を中心に描いてはいなかった。ただ漠然とその場にある情景を描いていた
「どんな文章を書いているんですか?」
「ただの日常ですよ」
「見せてもらってもいいですか?」
「いいですよ」
男性はノートを私に渡してくれた。
そこには街の人々を題材にしたストーリーが書かれていた。
絵では表せない表現。想像力を掻き立てられる文章がそこにはあった。
そして、ノート一枚めくってみた。
そこには絵を描く人のことが書いてあった。
それは、きっと私のことなのだろう。
でも、それは他のストーリーとは違っていた。
どこか希望に満ちたけど切ない物語だった。
どこにも行けない絵を描く女の子の話。
空を描く、私のことをずっと見ていたようだ。
街の中寂しそうな私を彼は優しい文章で書いてくれていた。
それは文学的だった。
「覚えているかな」
彼はそう言って少し不安そうな顔をしていた。
「何をですか?」
「ここで一度スケッチブックを置いたままにしていたこと」
「数日前に失くしてました」
「これを渡したくて、声をかけたんだ」
彼はカバンから見覚えのあるスケッチブックを取り出した。
「君の絵を見て少し詩を書いてみたんだ。読んでくれるかな」
彼はそう言うと私が失くしたスケッチブックと共に一枚の紙を私に渡した。
それは詩だった
空を見る君。
どこか儚げなく見えた。
僕はその顔を変えたくなったよ。
いつも見ていたよ。
向かいのベンチでいつも君を見ていた。
憂い顔で切ないその顔はきっとここにいる人を見ているようで見ていない。
君のスケッチブックには人がぼんやりと書かれている。
でも、僕だけがしっかり書かれているのが分かった。
君はきっと同じ人を求めていたんじゃないかな。
君の気持ちが僕にはなんとなくわかるよ。
話したこともない君だけど、出会うべきして出会ったんだと思う。
切ない風景に僕だけがしっかりと書かれていた。
僕はそれを見て恋を抱いたよ。
きっとこれから素晴らしい日になるって。
だから、僕と一緒にいてくれないかな。
そんな詩が書かれていた。
私は自分のスケッチブックを読み返す。
確かに名も知らぬ彼のことだけが鮮明に描かれていた。
自分でも気が付かなかった。
無意識に彼のことを意識していたことに驚いた。
そして、彼が私のことを意識していたことにも驚いた。
何の取柄もない私を彼は見てくれていた。
きっと運命ってこういうことを言うんだろう。
「私はあなたのことを知らない。だから付き合うとかは……」
「そういうことじゃないんだ。ただこうして、少しだけお互いを意識して創作をするのが嬉しいんだ。一人じゃないってことが僕の励みになるよ。ただいつものようにこの公園で一緒に物語を描くことが僕にとっての幸せなんだ」
彼はそう言うとノートにこう書いた。
『朝日さんへ。僕のこと覚えているかな。いつか君と一緒に作品を作ることが夢だった。良一より』
私は忘れていた。学校が別々になって離れていった須藤良一くん。
彼とは創作のことでいつも話していた。
ここは彼と一緒に創作談議で盛り上がっていた場所だった。
「良一くんなの?」
「そうだよ。要朝日ちゃん」
私はなんでわからなかったのだろうか? そんなことを思いながら、また彼のノートを見た。
似ている。文章の癖が似ている。
ああ、運命ってあるんだなって思った。
彼は微笑みながら私に話しかける。
「あの時の約束を果たしてもいいかな」
私は二つ返事で頷いた。
それからのことは二人だけの秘密。
ちょっぴり恥ずかしくて誰にも見せられない作品が出来上がった。
そして、それは私の宝物になった。
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