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信仰*
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問いながら手が勝手にブレザーのボタンを外す。大きな金ボタンだけでもじれったく、とてもじゃないがシャツには構っていられなかった。
きっちりスラックスの中に収まっている裾を引っ張り出し、裸の腹に手を滑らせる。
「ねえ、九条さん」
「っ、ぜ、全部、してる」
「全部って?」
「全部できる……」
胸元までシャツをめくられ、羞恥に震える瞳がちらりとだけ柳を見た。すぐに強く閉じられたのにその瞳の余韻がずっと残る。
九条の体はどこまでも白かった。感動するほど美しいのに、それを見下ろす柳の視線はギラついてしまう。
マナー違反を犯してしまいそうだ。我慢を忘れて九条を貪ってしまう。
堪らえようと必死に自生する目元を、不意に細い指先がこすった。見れば九条がはにかんでいる。
「お前のこと、もう全部知ってると思ってた」
「……俺もです」
「すごい顔。本当にあの柳かよ。……やばい」
もぞもぞと膝をすり合わせ、己の下半身を気にする様子に柳も落ち着かなくなった。同性だと相手の状況が理解でき過ぎる。
柔らかいソファには腕が沈む。少し重心を変えただけで体全体が重なるように触れた。
男の体だと、全身で実感しただろう。反射のように九条の腕が己を守る。身構えるようなその手に驚いたのは本人だった。
「ごめん。違う」
「大丈夫ですよ」
「違うんだ」
「わかってます」
嫌がってるわけでも、厭われてるわけでもない。九条の本心はちゃんとわかっている。
「好きです」
「うん。……キスしろ」
安堵混じりの声に言われるまま、柳は再び唇を寄せた。
甘い感触を味わっている間、九条が身じろぎをしているのは感じていた。気にはなったがキスをやめられない。
そんな風に無防備だった下半身に、不意に何か硬いものが触れた。下の九条が押し付けるように腰を動かしたのだと気づいて頭に血が上る。
「ちょ……!」
引いた腰を今度は九条の手が追いかけてきた。服越しでもわかるほどになったそれを白い手が丁寧に刺激する。
「く、っ、……九条さん……っ」
「……エロい顔してる」
じっと覗き込んでくる瞳に引き込まれるように、柳は乱暴にキスしていた。相手の足をまたぎ膝先でそこを揺すると、唇の中で声が跳ねる。
「っふ、ぅ……ん、っん……」
「九条さんもすごい顔だ」
「っ、当たり前だろ、っ、見るな……!」
動揺した声をもっと聞きたくなってしまう。柳は彼の真似をして下半身に触れた。はじめてのことで勝手はわからない。自分の好きな触り方と、先程相手にされた触り方で夢中になって刺激する。
「……は、っ、はあ……。やなぎ、っ柳……」
声は恥じ入りながらもただ甘い。
膝先でも感じたが手だとより正確に実感できた。スラックスの中のものは張り詰めきっているようだ。だが、細身の服なので布地に余裕がなく、愛撫しようにももどかしい。
それに九条をもっと戸惑わせたかった。手が自然とベルトを緩める。
「ぅ、う……!」
「九条さん……」
制服を下ろしても脱がせても、九条は唇を噛むだけで抵抗しない。下着の中に手を入れてようやく細い肩が跳ねたが、そのときにはもう、柳のほうが手に触れる熱さで我を忘れていた。
スラックスごと下着を脱がせ、形の良いそれをしごくと裸の膝頭が震える。九条のすべてが自分自身の手中にある気がして、柳は夢中になって刺激した、
親指で先端をこねまわすと膝がびくびくと震える。裏筋を強く押し込むと殺しきれない声が響いた。柳は、今にも弾けそうなのが自分なのか今触っているものなのかわからなくなってくる。
「っ、ん、ん……! おい、っい、イク、やめろ……っ」
「見たい」
「い、ッ、いやだ、お前も見せろ……!」
「……もう変になってる」
お互い様だと思うのに、九条は頭を振った。お互いに刺激したいのかと考えるがそっぽを向いた横顔に動く気配はない。
手の動きを早めたとき、ぎゅっと口を結んで必死に声を飲み込んでいた九条が何かを訴えた。喘ぎ混じりで聞き取れない。
「なんですか?」
「……っ。は、ッ、ぁ……あ……っお、おく……」
「ん?」
「……ッ奥、……できる」
奥。できる。
どういうことだろう、と考えながら、頭のどこかでわかっていた。そんなの、想像だけでどうにかなりそうだ。
「でも、それは……大丈夫ですか?」
爆発しそうなほど混乱した頭で、それでも九条に問いかける。卒業までまだ数ヶ月、すべてその後だと考えていた。柳は触れ合うだけでも十分だ。
九条はもう泣き出しそうな顔で言った。
「や、っ柳に、突っ込まれたいって、ずっと思ってた。ぅ、う……うー……! いっ、言わせるな……!」
その告白内容にか、両腕で顔を隠す羞恥の様子にか、それとももう下着の中で爆発しそうな自分自身のせいかわからない。
柳は気づいたら九条の腿を取っていた。片膝を胸に押し付けると、彼が奥と呼ぶ臀部の狭間が濡れているのに気づく。指に取った液体は滴るほど緩い。
九条の言った準備の意味を理解する。それと同時に潤んだ中を探っていた。無我夢中の指先に高い声が上がる。
「っひ、ひ……ッ! や、ッ、やなぎ、ぁ、う、う……っ」
苦痛の声じゃない。初めて聞く響きだけれど、九条のことはなんでもわかる。
柔らかく指を食む内壁と、自分を呼ぶ声に頭がどうにかなりそうだ。
「好きです」
「ぁ、あ……」
「九条さん。大好きだ」
勝手もわからないまま中を刺激しつつ、ただその言葉を繰り返す。九条は何度も頷いた。
夢中で中をいじるうち、ふと、柳は中の感触に気がついた。柔らかいひだの中に一か所、妙に硬い部分がある。
指一つでは上手く確認できない。短い間躊躇してから指を増やす。ずっといじっていたせいか、二本目も柔らかく飲み込まれた。
「っううぅ……! そ、っそこ、そこ、やばい……っ」
「……気持ちいいですか?」
「んっ、ん! は……っ、やばい、やばい、柳……っ!」
二本指で挟んで捏ねると、折り曲げた片足の指が固く丸まる。指の腹で押し込むと膝が跳ねるように動いた。どう触っても、真っ赤な顔は快感にとろけきっている。
「…………」
「っきそ、いきそ、柳……っ。指、増やして、っ、ぁ、早く、イキそ……ッ」
「苦しくない?」
「ないっ、ない……! 早く、ぅ、うー……っ! っは! は……っ」
限界だと、震える指先が物語っていた。九条が現実から逃れるように顔を背けつつ、おずおずとした手を自分自身へ伸ばす。
我慢したいのか刺激したいのか、本人にもわからないのだろう。根元を押さえたと思ったらしごき、射精感に腹筋を浮かべながらまた押さえる。
自らを慰めつつ射精をこらえる手付きは、美しい九条の手だと言うのに淫猥だ。
「っあ、あ! はやく、っ、はやく、突っ込まれたい、ぅうー! 柳、やなぎ……っ」
「九条さん、九条さん……!」
「ッ、う、うぅう……ッ」
先端を捏ねる手付きが柳の愛撫を真似しているのに気づいた瞬間、柳は三本目を挿入していた。指を咥えた部分は痛々しいほど広がっているが、九条は根元を固く押さえ何かを堪える。
九条の反応するあの場所を掻くと足が跳ね上がって反応した。最初は違和感をのぞかせていた声もすぐにとろけて甘くなる。
「はっ、はっ、はひ……ひ……っなぎ、やばい、ぁ、あ……ッ! そこやばい、イキそ、イク、イク……!」
「九条さん。入れたい。大丈夫ですか?」
「はやく、っはやく……! い、いっ……!ぁ、う、んんん……ッ」
柳は九条の片手を縫い止めるように上から押さえた。もう一方で自分のものを支え腰の位置を整えると、先端が柔らかい穴に食まれそれだけで出てしまいそうになる。
「っ、九条さん。……怖くない?」
もう後戻りできないのに、貫くことしか考えられないのに、それでも彼に恐怖がないか探してしまう。
白かった肌はもう全身真っ赤だった。首筋にすら色が浮いている。触る場所すべてが熱くて、手を滑らせるたび特別な楽器のように甘い声が響いた。
自分のだ、と思う。柳自身が九条のものであるように、彼は今、間違いなく柳のものだ。
「九条さん」
「っこわくない、柳、好きだ、柳……っ」
しゃくりあげながらの声が最後の忍耐の糸を切った。柳は熱くてとろけきったそこへ自分を埋める。
「っひ! ひ! ぅ、う、う……ッ!!」
握り合った手に爪を立てられる。仰け反った胸のラインが見惚れるほど綺麗だ。
もう一切の我慢ができない。九条が飲み込んでいた息を吐くのだけどうにか待てた。両手をつないでいるのか手のひらをソファに縫い止めているのか、自分でもわからないまま手を捕らえて中をえぐる。
「はひ、っ、ひ、ぅ、う……ッ! 柳、っやなぎ!」
「うん」
「バカ……っまだ……ッあ! あ、あっ、あ!」
奥を突くたび聞いたことのない声があふれる。九条のすべてを知りたいまま動くと、隠せない顔が見たことのない表情を浮かべる。
「ぅああ! あっ! っんんん! やなっ、あッ、柳……ッ! 見るな、ッ、バカ、っう、ううー……ッ!」
「ッ九条、さんも、見て」
相手の首がガクガク揺れるほどピストンしながら、それでも言う。
「俺のこと見て。九条さんを好きなの見て」
自分のせいでおかしくなっている九条を見ると興奮する。同じように、彼のせいで変わった自分を見られたかった。
柳の言葉に涙を溢れさせる目が薄く開いた。水の膜の向こうのヘーゼルが自分を捉える。
九条が好きだ。子供っぽくからかう声も、いろいろなことに潔癖なところも、自分を許さない神を愛する信仰心も好きだ。
「……っ、すごい、顔」
いたずらっぽい笑みが好きだ。
「っおい! あ! あっ、あッ、待て、ッあ、あ! っんんー……ッイ、い、ッ、いく、まっ……待って、柳、待って……!」
「嫌だ」
「バカ! やっ、ぁ、あ……! 柳のバカ……!」
全部見たい。顔を隠そうともがく腕を押さえ込み、奥から根元まで何度も出し入れする。
九条がもう声を堪えられないことにも、反った柳のものが例の固い部分を引っ掛けるよう腰が浮いていることにも興奮する。柔らかな内部が不規則に痙攣し始めたことに興奮する。すべての禁忌を忘れた足が、柳の腰に回って求めていることに興奮する。
九条の体温、九条の声すべてに興奮する。
「ッ出る、出る、九条さん、ッ好きだ。好きです。九条さん、好きです」
「ん! んっ、んっ、柳、イク、柳、ぁ、あ! 俺の……ッ俺の柳……っ!」
信じられないほどの回数、行為を繰り返してしまった。気づけばすっかり日が暮れて、学校全体もしんと静まり返っている。
「……九条さん、生きてますか」
「…………。……死にそ……」
「ごめんなさい」
九条も夢中だった気がするが、一応、そう謝っておく。けれど息も絶え絶えの相手を見下ろすと罪悪感と羞恥心に襲われた。
「あー……! 思い出すとヤバい……! 忘れてください! 俺、卒業まで待つとかいい子ぶっといてこんな……!」
ソファの上で頭を抱える余裕のある柳に比べ、九条は体を起こす体力もないようだ。
「そんなの……余計な心配なんだよ……」
「余計って」
息も切れ切れの呟きに目を落とす。乱れきった着衣の前をかきあわせながら、九条はよたよたと上半身を起こした。
「卒業まで待つ、とかさ」
「……九条さん?」
「…………」
柳は弱々しく伸ばされた手のひらを取る。両手で強く握りしめると横顔の頬が少し緩んだ。
外も、明かりをつけてない生徒会室ももう暗い。月光だけが彼を照らしている。
「一度、受けた、洗礼は」
九条はふうと息をついた。
「なかったことにならない。どんな不義理をしても消えない。卒業して目に入らなくなっても、いつか全部を忘れても、俺はずっと弟子として教会の名簿に載ってるんだ」
言葉に反して、声は柔らかい。表情は優しく穏やかだ。
「……でも、大丈夫だよ」
月光に照らされた頬は、彼の木彫刻によく似ていた。
優しくすべてを許している。柳のことも、互いの気持ちも。自身の抱く禁忌すら。
「ローイクラトン。罪を焼く気球。綺麗だったな」
瞼の裏、永遠に浮かぶ炎は美しい。
柳は手を握るしかできなかった。九条を永遠に焼き続けて、九条を永遠に許し続ける。そう、何かに誓うことしかできなかった。
きっちりスラックスの中に収まっている裾を引っ張り出し、裸の腹に手を滑らせる。
「ねえ、九条さん」
「っ、ぜ、全部、してる」
「全部って?」
「全部できる……」
胸元までシャツをめくられ、羞恥に震える瞳がちらりとだけ柳を見た。すぐに強く閉じられたのにその瞳の余韻がずっと残る。
九条の体はどこまでも白かった。感動するほど美しいのに、それを見下ろす柳の視線はギラついてしまう。
マナー違反を犯してしまいそうだ。我慢を忘れて九条を貪ってしまう。
堪らえようと必死に自生する目元を、不意に細い指先がこすった。見れば九条がはにかんでいる。
「お前のこと、もう全部知ってると思ってた」
「……俺もです」
「すごい顔。本当にあの柳かよ。……やばい」
もぞもぞと膝をすり合わせ、己の下半身を気にする様子に柳も落ち着かなくなった。同性だと相手の状況が理解でき過ぎる。
柔らかいソファには腕が沈む。少し重心を変えただけで体全体が重なるように触れた。
男の体だと、全身で実感しただろう。反射のように九条の腕が己を守る。身構えるようなその手に驚いたのは本人だった。
「ごめん。違う」
「大丈夫ですよ」
「違うんだ」
「わかってます」
嫌がってるわけでも、厭われてるわけでもない。九条の本心はちゃんとわかっている。
「好きです」
「うん。……キスしろ」
安堵混じりの声に言われるまま、柳は再び唇を寄せた。
甘い感触を味わっている間、九条が身じろぎをしているのは感じていた。気にはなったがキスをやめられない。
そんな風に無防備だった下半身に、不意に何か硬いものが触れた。下の九条が押し付けるように腰を動かしたのだと気づいて頭に血が上る。
「ちょ……!」
引いた腰を今度は九条の手が追いかけてきた。服越しでもわかるほどになったそれを白い手が丁寧に刺激する。
「く、っ、……九条さん……っ」
「……エロい顔してる」
じっと覗き込んでくる瞳に引き込まれるように、柳は乱暴にキスしていた。相手の足をまたぎ膝先でそこを揺すると、唇の中で声が跳ねる。
「っふ、ぅ……ん、っん……」
「九条さんもすごい顔だ」
「っ、当たり前だろ、っ、見るな……!」
動揺した声をもっと聞きたくなってしまう。柳は彼の真似をして下半身に触れた。はじめてのことで勝手はわからない。自分の好きな触り方と、先程相手にされた触り方で夢中になって刺激する。
「……は、っ、はあ……。やなぎ、っ柳……」
声は恥じ入りながらもただ甘い。
膝先でも感じたが手だとより正確に実感できた。スラックスの中のものは張り詰めきっているようだ。だが、細身の服なので布地に余裕がなく、愛撫しようにももどかしい。
それに九条をもっと戸惑わせたかった。手が自然とベルトを緩める。
「ぅ、う……!」
「九条さん……」
制服を下ろしても脱がせても、九条は唇を噛むだけで抵抗しない。下着の中に手を入れてようやく細い肩が跳ねたが、そのときにはもう、柳のほうが手に触れる熱さで我を忘れていた。
スラックスごと下着を脱がせ、形の良いそれをしごくと裸の膝頭が震える。九条のすべてが自分自身の手中にある気がして、柳は夢中になって刺激した、
親指で先端をこねまわすと膝がびくびくと震える。裏筋を強く押し込むと殺しきれない声が響いた。柳は、今にも弾けそうなのが自分なのか今触っているものなのかわからなくなってくる。
「っ、ん、ん……! おい、っい、イク、やめろ……っ」
「見たい」
「い、ッ、いやだ、お前も見せろ……!」
「……もう変になってる」
お互い様だと思うのに、九条は頭を振った。お互いに刺激したいのかと考えるがそっぽを向いた横顔に動く気配はない。
手の動きを早めたとき、ぎゅっと口を結んで必死に声を飲み込んでいた九条が何かを訴えた。喘ぎ混じりで聞き取れない。
「なんですか?」
「……っ。は、ッ、ぁ……あ……っお、おく……」
「ん?」
「……ッ奥、……できる」
奥。できる。
どういうことだろう、と考えながら、頭のどこかでわかっていた。そんなの、想像だけでどうにかなりそうだ。
「でも、それは……大丈夫ですか?」
爆発しそうなほど混乱した頭で、それでも九条に問いかける。卒業までまだ数ヶ月、すべてその後だと考えていた。柳は触れ合うだけでも十分だ。
九条はもう泣き出しそうな顔で言った。
「や、っ柳に、突っ込まれたいって、ずっと思ってた。ぅ、う……うー……! いっ、言わせるな……!」
その告白内容にか、両腕で顔を隠す羞恥の様子にか、それとももう下着の中で爆発しそうな自分自身のせいかわからない。
柳は気づいたら九条の腿を取っていた。片膝を胸に押し付けると、彼が奥と呼ぶ臀部の狭間が濡れているのに気づく。指に取った液体は滴るほど緩い。
九条の言った準備の意味を理解する。それと同時に潤んだ中を探っていた。無我夢中の指先に高い声が上がる。
「っひ、ひ……ッ! や、ッ、やなぎ、ぁ、う、う……っ」
苦痛の声じゃない。初めて聞く響きだけれど、九条のことはなんでもわかる。
柔らかく指を食む内壁と、自分を呼ぶ声に頭がどうにかなりそうだ。
「好きです」
「ぁ、あ……」
「九条さん。大好きだ」
勝手もわからないまま中を刺激しつつ、ただその言葉を繰り返す。九条は何度も頷いた。
夢中で中をいじるうち、ふと、柳は中の感触に気がついた。柔らかいひだの中に一か所、妙に硬い部分がある。
指一つでは上手く確認できない。短い間躊躇してから指を増やす。ずっといじっていたせいか、二本目も柔らかく飲み込まれた。
「っううぅ……! そ、っそこ、そこ、やばい……っ」
「……気持ちいいですか?」
「んっ、ん! は……っ、やばい、やばい、柳……っ!」
二本指で挟んで捏ねると、折り曲げた片足の指が固く丸まる。指の腹で押し込むと膝が跳ねるように動いた。どう触っても、真っ赤な顔は快感にとろけきっている。
「…………」
「っきそ、いきそ、柳……っ。指、増やして、っ、ぁ、早く、イキそ……ッ」
「苦しくない?」
「ないっ、ない……! 早く、ぅ、うー……っ! っは! は……っ」
限界だと、震える指先が物語っていた。九条が現実から逃れるように顔を背けつつ、おずおずとした手を自分自身へ伸ばす。
我慢したいのか刺激したいのか、本人にもわからないのだろう。根元を押さえたと思ったらしごき、射精感に腹筋を浮かべながらまた押さえる。
自らを慰めつつ射精をこらえる手付きは、美しい九条の手だと言うのに淫猥だ。
「っあ、あ! はやく、っ、はやく、突っ込まれたい、ぅうー! 柳、やなぎ……っ」
「九条さん、九条さん……!」
「ッ、う、うぅう……ッ」
先端を捏ねる手付きが柳の愛撫を真似しているのに気づいた瞬間、柳は三本目を挿入していた。指を咥えた部分は痛々しいほど広がっているが、九条は根元を固く押さえ何かを堪える。
九条の反応するあの場所を掻くと足が跳ね上がって反応した。最初は違和感をのぞかせていた声もすぐにとろけて甘くなる。
「はっ、はっ、はひ……ひ……っなぎ、やばい、ぁ、あ……ッ! そこやばい、イキそ、イク、イク……!」
「九条さん。入れたい。大丈夫ですか?」
「はやく、っはやく……! い、いっ……!ぁ、う、んんん……ッ」
柳は九条の片手を縫い止めるように上から押さえた。もう一方で自分のものを支え腰の位置を整えると、先端が柔らかい穴に食まれそれだけで出てしまいそうになる。
「っ、九条さん。……怖くない?」
もう後戻りできないのに、貫くことしか考えられないのに、それでも彼に恐怖がないか探してしまう。
白かった肌はもう全身真っ赤だった。首筋にすら色が浮いている。触る場所すべてが熱くて、手を滑らせるたび特別な楽器のように甘い声が響いた。
自分のだ、と思う。柳自身が九条のものであるように、彼は今、間違いなく柳のものだ。
「九条さん」
「っこわくない、柳、好きだ、柳……っ」
しゃくりあげながらの声が最後の忍耐の糸を切った。柳は熱くてとろけきったそこへ自分を埋める。
「っひ! ひ! ぅ、う、う……ッ!!」
握り合った手に爪を立てられる。仰け反った胸のラインが見惚れるほど綺麗だ。
もう一切の我慢ができない。九条が飲み込んでいた息を吐くのだけどうにか待てた。両手をつないでいるのか手のひらをソファに縫い止めているのか、自分でもわからないまま手を捕らえて中をえぐる。
「はひ、っ、ひ、ぅ、う……ッ! 柳、っやなぎ!」
「うん」
「バカ……っまだ……ッあ! あ、あっ、あ!」
奥を突くたび聞いたことのない声があふれる。九条のすべてを知りたいまま動くと、隠せない顔が見たことのない表情を浮かべる。
「ぅああ! あっ! っんんん! やなっ、あッ、柳……ッ! 見るな、ッ、バカ、っう、ううー……ッ!」
「ッ九条、さんも、見て」
相手の首がガクガク揺れるほどピストンしながら、それでも言う。
「俺のこと見て。九条さんを好きなの見て」
自分のせいでおかしくなっている九条を見ると興奮する。同じように、彼のせいで変わった自分を見られたかった。
柳の言葉に涙を溢れさせる目が薄く開いた。水の膜の向こうのヘーゼルが自分を捉える。
九条が好きだ。子供っぽくからかう声も、いろいろなことに潔癖なところも、自分を許さない神を愛する信仰心も好きだ。
「……っ、すごい、顔」
いたずらっぽい笑みが好きだ。
「っおい! あ! あっ、あッ、待て、ッあ、あ! っんんー……ッイ、い、ッ、いく、まっ……待って、柳、待って……!」
「嫌だ」
「バカ! やっ、ぁ、あ……! 柳のバカ……!」
全部見たい。顔を隠そうともがく腕を押さえ込み、奥から根元まで何度も出し入れする。
九条がもう声を堪えられないことにも、反った柳のものが例の固い部分を引っ掛けるよう腰が浮いていることにも興奮する。柔らかな内部が不規則に痙攣し始めたことに興奮する。すべての禁忌を忘れた足が、柳の腰に回って求めていることに興奮する。
九条の体温、九条の声すべてに興奮する。
「ッ出る、出る、九条さん、ッ好きだ。好きです。九条さん、好きです」
「ん! んっ、んっ、柳、イク、柳、ぁ、あ! 俺の……ッ俺の柳……っ!」
信じられないほどの回数、行為を繰り返してしまった。気づけばすっかり日が暮れて、学校全体もしんと静まり返っている。
「……九条さん、生きてますか」
「…………。……死にそ……」
「ごめんなさい」
九条も夢中だった気がするが、一応、そう謝っておく。けれど息も絶え絶えの相手を見下ろすと罪悪感と羞恥心に襲われた。
「あー……! 思い出すとヤバい……! 忘れてください! 俺、卒業まで待つとかいい子ぶっといてこんな……!」
ソファの上で頭を抱える余裕のある柳に比べ、九条は体を起こす体力もないようだ。
「そんなの……余計な心配なんだよ……」
「余計って」
息も切れ切れの呟きに目を落とす。乱れきった着衣の前をかきあわせながら、九条はよたよたと上半身を起こした。
「卒業まで待つ、とかさ」
「……九条さん?」
「…………」
柳は弱々しく伸ばされた手のひらを取る。両手で強く握りしめると横顔の頬が少し緩んだ。
外も、明かりをつけてない生徒会室ももう暗い。月光だけが彼を照らしている。
「一度、受けた、洗礼は」
九条はふうと息をついた。
「なかったことにならない。どんな不義理をしても消えない。卒業して目に入らなくなっても、いつか全部を忘れても、俺はずっと弟子として教会の名簿に載ってるんだ」
言葉に反して、声は柔らかい。表情は優しく穏やかだ。
「……でも、大丈夫だよ」
月光に照らされた頬は、彼の木彫刻によく似ていた。
優しくすべてを許している。柳のことも、互いの気持ちも。自身の抱く禁忌すら。
「ローイクラトン。罪を焼く気球。綺麗だったな」
瞼の裏、永遠に浮かぶ炎は美しい。
柳は手を握るしかできなかった。九条を永遠に焼き続けて、九条を永遠に許し続ける。そう、何かに誓うことしかできなかった。
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