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「銀行員って表でまともぶってるからな。酒が入る場となると本当品性がねえよ」
「品性っていうか……これ、本当に職場関係で手に入れたのか?」
「もちろん。名目上はジョークグッズだからな。年末のビンゴ大会やら合併先の設立記念日やら、飲み会の度にばらまいてる。まあこんなセクハラ同然の景品、いつまで続くかは知らねえが」
陰茎の形をした肌色のシリコン。どこかでよく見るピンクローター。一見ビニールテープ風の、サランラップに似たくっつき方をする拘束テープ。
伊勢田のシックな自室の中、それらの品々は呆れるほど安っぽかった。
社会経験の薄い俺の感想だが、これが仕事関係の場で飛び交ったと思うと飲み会とはいえ開いた口が塞がらない。
「伊勢田ってこういうの好きだったの?」
「は? こういう?」
「え、SMっていうか……」
「ただのバリエーション、お試しだよ。いつも同じじゃ本真のノンケちんぽは飽きるだろ」
「はあ……」
彼との行為を行えた時点でもうストレートではないと思うのだが、伊勢田はなぜか俺の性嗜好について頑なだ。疑問はあったが飲み込んだ。追求して逆上されて、目の前のテープで縛られてはたまらない。
裸で寝転ぶ伊勢田は己の腹を気にするばかりで、傍らに座るこちらの警戒心に気付いた様子もない。
「こう……これで、しっかり濡らして……こうか……? くそ、タトゥーシールってもっと手軽だと思ってたな……」
「何だろうと思ってたけどそれタトゥーなのか。なんで紙を濡らしてるんだ? どういう原理?」
「シール台紙みたいなツルツルした紙に油性ペン使うとインクが雫みたいに残るだろ。ああいう感じで、このタトゥーシールの模様も紙に染みきってないんだよ。微妙なくっつき方をしてるんだ。こうして腹に押し当てて、裏から水で濡らして……台紙をゆっくり剥がすと……肌の方にくっつく、はず……」
「おお」
教師が実験して見せるように、説明しながら伊勢田は腹のシールシートをずらしていく。胸から腹まで届く大きな紙だ。濡れて湿気ったそれがそろそろと退くと、伊勢田の腹筋にかすれた三文字が残った。
オナホ、という、マジックペンで書きなぐったような文字。
「……お、おお」
タトゥーシールという初めてのものに一旦感心したものの、存在感のある文字には戸惑いが勝ってしまった。一文字が手のひらほども大きい卑語には何よりもまず圧倒される。
伊勢田も同じ気持ちなのだろうか。文字を撫でる指先はどこか恐る恐るとしている。つられて俺も指先でなぞりながら、なんとなしに呟いていた。
「これ何日くらい残るの?」
「一週間はあると思ってたほうがいいらしい。いつものジムが工事休業だからちょうどよかった」
「一週間か……伊勢田は腹にこんな文字つけて職場に行くんだ」
「っ、……お、おい……!」
「え? 消える?」
触る手への注意だと思い俺はとっさに手を引いていた。
仰向けに寝転んでいる伊勢田は「いや……」と歯切れ悪く言い、居心地悪そうに膝を立てる。
「そんな簡単には消えないだろうけど……」
「え、じゃあさっきの何?」
「べ、別に……」
「……伊勢田?」
いつも堂々としていて、こういう行為だってスポーツのように気軽に挑んだ。臆したような、あるいは内気なような顔つきに、俺は自分で驚くほどぎくりとする。
こちらの反応に反発するように伊勢田は強く言い返してきた。けれど視線は自分の腹を見下ろしたままでどこか意固地だ。
「なんでもない! い、いつもと色々、逆だなって、そう思っただけだ!」
「……あ、ああ……」
サディスティックと呼ぶほどではないが、主導権的なものはいつも伊勢田が持っていた。それが逆だから困惑しているということだろうか。
タトゥーの文字でわかっていたことだが、今日は俺がいろいろな権利を持っているらしい。伊勢田は今日は俺に全部身を任せるのだ。嗜虐趣味の自覚はないがそう思うと妙にドキドキした。
彼のような困惑はまったくない。妙に脈打つ心臓の命じるまま、俺は引っ込めた手を戻し今度は手のひら全体でその大きな文字を擦る。
「……オナホ」
「な、……なんだよ」
「こんなのも会社の飲み会でもらったの?」
「これは……ちょっと、見かけて、買ったやつだ。……昔の話だ! 変なところに置いてあったのが衣替えで出てきたから!」
「人間にこんなの貼るの、あんまり良くないよね」
腹部にくっきり浮かぶ卑猥な文字。三文字を撫で下ろした手を立てた膝の間に侵入させると、伊勢田のものはほんの僅かに反応している。
「っ、こ、言葉責めとか、あんま、本真には似合わな、……ぁ、あ……♡」
「じゃなくて。そういう良くないことをさ、買うところから貼るところまで全部、伊勢田自分でやったんだねって」
「ぅう、ん、ん……っ♡」
「オナホ扱い平気なんだ?」
「へいき、っ、平気ってか、待て、ちょ……、っう!」
「『平気ってか』? 平気じゃないなら好きってこと?」
「待て! 待て!」
「品性っていうか……これ、本当に職場関係で手に入れたのか?」
「もちろん。名目上はジョークグッズだからな。年末のビンゴ大会やら合併先の設立記念日やら、飲み会の度にばらまいてる。まあこんなセクハラ同然の景品、いつまで続くかは知らねえが」
陰茎の形をした肌色のシリコン。どこかでよく見るピンクローター。一見ビニールテープ風の、サランラップに似たくっつき方をする拘束テープ。
伊勢田のシックな自室の中、それらの品々は呆れるほど安っぽかった。
社会経験の薄い俺の感想だが、これが仕事関係の場で飛び交ったと思うと飲み会とはいえ開いた口が塞がらない。
「伊勢田ってこういうの好きだったの?」
「は? こういう?」
「え、SMっていうか……」
「ただのバリエーション、お試しだよ。いつも同じじゃ本真のノンケちんぽは飽きるだろ」
「はあ……」
彼との行為を行えた時点でもうストレートではないと思うのだが、伊勢田はなぜか俺の性嗜好について頑なだ。疑問はあったが飲み込んだ。追求して逆上されて、目の前のテープで縛られてはたまらない。
裸で寝転ぶ伊勢田は己の腹を気にするばかりで、傍らに座るこちらの警戒心に気付いた様子もない。
「こう……これで、しっかり濡らして……こうか……? くそ、タトゥーシールってもっと手軽だと思ってたな……」
「何だろうと思ってたけどそれタトゥーなのか。なんで紙を濡らしてるんだ? どういう原理?」
「シール台紙みたいなツルツルした紙に油性ペン使うとインクが雫みたいに残るだろ。ああいう感じで、このタトゥーシールの模様も紙に染みきってないんだよ。微妙なくっつき方をしてるんだ。こうして腹に押し当てて、裏から水で濡らして……台紙をゆっくり剥がすと……肌の方にくっつく、はず……」
「おお」
教師が実験して見せるように、説明しながら伊勢田は腹のシールシートをずらしていく。胸から腹まで届く大きな紙だ。濡れて湿気ったそれがそろそろと退くと、伊勢田の腹筋にかすれた三文字が残った。
オナホ、という、マジックペンで書きなぐったような文字。
「……お、おお」
タトゥーシールという初めてのものに一旦感心したものの、存在感のある文字には戸惑いが勝ってしまった。一文字が手のひらほども大きい卑語には何よりもまず圧倒される。
伊勢田も同じ気持ちなのだろうか。文字を撫でる指先はどこか恐る恐るとしている。つられて俺も指先でなぞりながら、なんとなしに呟いていた。
「これ何日くらい残るの?」
「一週間はあると思ってたほうがいいらしい。いつものジムが工事休業だからちょうどよかった」
「一週間か……伊勢田は腹にこんな文字つけて職場に行くんだ」
「っ、……お、おい……!」
「え? 消える?」
触る手への注意だと思い俺はとっさに手を引いていた。
仰向けに寝転んでいる伊勢田は「いや……」と歯切れ悪く言い、居心地悪そうに膝を立てる。
「そんな簡単には消えないだろうけど……」
「え、じゃあさっきの何?」
「べ、別に……」
「……伊勢田?」
いつも堂々としていて、こういう行為だってスポーツのように気軽に挑んだ。臆したような、あるいは内気なような顔つきに、俺は自分で驚くほどぎくりとする。
こちらの反応に反発するように伊勢田は強く言い返してきた。けれど視線は自分の腹を見下ろしたままでどこか意固地だ。
「なんでもない! い、いつもと色々、逆だなって、そう思っただけだ!」
「……あ、ああ……」
サディスティックと呼ぶほどではないが、主導権的なものはいつも伊勢田が持っていた。それが逆だから困惑しているということだろうか。
タトゥーの文字でわかっていたことだが、今日は俺がいろいろな権利を持っているらしい。伊勢田は今日は俺に全部身を任せるのだ。嗜虐趣味の自覚はないがそう思うと妙にドキドキした。
彼のような困惑はまったくない。妙に脈打つ心臓の命じるまま、俺は引っ込めた手を戻し今度は手のひら全体でその大きな文字を擦る。
「……オナホ」
「な、……なんだよ」
「こんなのも会社の飲み会でもらったの?」
「これは……ちょっと、見かけて、買ったやつだ。……昔の話だ! 変なところに置いてあったのが衣替えで出てきたから!」
「人間にこんなの貼るの、あんまり良くないよね」
腹部にくっきり浮かぶ卑猥な文字。三文字を撫で下ろした手を立てた膝の間に侵入させると、伊勢田のものはほんの僅かに反応している。
「っ、こ、言葉責めとか、あんま、本真には似合わな、……ぁ、あ……♡」
「じゃなくて。そういう良くないことをさ、買うところから貼るところまで全部、伊勢田自分でやったんだねって」
「ぅう、ん、ん……っ♡」
「オナホ扱い平気なんだ?」
「へいき、っ、平気ってか、待て、ちょ……、っう!」
「『平気ってか』? 平気じゃないなら好きってこと?」
「待て! 待て!」
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