【完結】教えて小谷崎さん/淫語調教シェアハウス

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 頭が追いつかない。
 ゲイ、という嗜好を、大浦は今日初めて目の当たりにしたのだ。それがひとつ屋根の下に住んでいる小谷崎で、しかも、行為中の動画を撮るのだという。千も万もあると言う。
 Wi-Fi、オフパコ、タチ。わかることとわからないこと、恥ずかしくてわかりたくないことが混ざり合って、血の集まりすぎた顔が爆発しそうだ。

「……大丈夫ですか? 変なもの見せてすみません。ブロックするので、大浦さんのスマホを……」
「うわわわ!!」

 椅子をわずかに回しただけだ。スマホを取ろうと振り返って、小谷崎の肩と袖が触れ合っただけ。
 たったそれだけのことに大浦は今度こそ飛び上がった。鼻血の感触がする。両手で鼻を覆いながら、大浦は必死で叫んだ。

「ごめ、ごめんっ、偏見とかじゃ、慣れてなくて、ごめん、ご、ごめんっ! はっ、恥ずかしくて、無理だ、ごめん……ッ!!」

 真っ赤な顔だろう。指の隙間から血が見えていないだろうか。恥ずかしい。こんなに狼狽えて。不愉快にさせてないだろうか。恥ずかしい。恥ずかしい。
 大浦は気づいたら自分の部屋にうずくまっていた。脱兎と逃げ出す自分を小谷崎がどう見送ったのか、どれだけ考えても思い出せなかった。


***


 大浦は田舎者だ。小谷崎に話した通り、一番歳が近いのは五歳下の女の子、同性となれば十歳以上離れている環境だった。
 高校だってそんな田舎の麓にあるような小さなところで、牧歌的な雰囲気だった。大学はもう少し都心だったが、そのころには大浦の性質が出来上がっていたのだ。
 性的な話は恥ずかしい。
 生々しい話はもちろん、誰かが経験豊富だという噂、どこどこのホテルが良かったという雑談ですら性的に思えてダメだった。
 彼女とお泊り、と話しただけで真っ赤になる男など、大浦自身相手にするのは嫌である。友人は趣味に夢中な男か感性の似た女性ばかりになった。性的なものに馴染む機会なく社会人になり、大人の建前文化の中でいやらしいものはますます遠ざかった。

「……っ!」

 そこに、あんな。
 直接的な動画。ましてや、主演だという小谷崎。
 刺激が強すぎる。あれから三日経っているというのに、会う可能性すら恥ずかしくて部屋から出られない。
 大浦は枕に顔を埋め、息すら殺して過ごしていた。

「…………」

 いや、枕を抱えているのは、無意識に手が伸びてしまうからだ。入力するだけで何でも教えてくれるスマートフォン。
 タチは同性同士の行為で主導権を持つ方、男であれば入れる方。逆はネコだ。オフパコとはオフ会から転じた言葉で、オンラインで知り合った人物と性行為を行うこと。セックス中の擬音から出来た俗語。
 そういうことが、わかってしまう。調べてしまう。そして思い出してしまうのだ。男の低い、はしたない、恥ずかしい言葉。

「う、うう……っ♡♡」

 大浦は田舎者だった。田舎の祖父母も両親も、大浦も無邪気に無知だった。同世代すら少ない環境、極端に性的なものを恥ずかしがってきた弊害で、自分がそうだと気づかなかった。
 女性に友情しか持てない理由。あの動画が頭から離れない理由。

「っ、ん、……ん、ん……っ♡♡」
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