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第三話 【戦場】
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ヘルシアさんに直談判してから数日後。
セレスのもとに最終試験の通知が届いた。
通知を持ってきたのは、金色の髪の綺麗な女の人だったのだが、去り際に「それでは、少年! 精々頑張るのだよ。君の合格を望んでいる人もいるんだからね!」とウインクを残して帰っていった。
確か、ギルドで良く見たことある人のような気がするが…よく思い出せない。
セレスはギルドでは必ずヘルシアさんの窓口に行っていた為、他の受付嬢のことはほとんど知らないでいた。
きっと、それを知ったらニーナは憤慨するであろう。
一応、ギルドの看板受付嬢を自称しているため、プライドは高い。
知らなかったことを悟られずに済んだセレスは、幸運だったのかもしれなかった。
「それにしても、僕の合格を望んでいる人って誰なんだ?」
自慢じゃないが、友達は少ない方である。
というか、友達と呼べる人なんていなかった…。
ウンウンと唸って、しばらく考えても思い当たらない。
結局、「そんなことより試験だ!」と独りごち、最終試験の通知を確認することにした。
「キュクロの森か…」
キュクロの森とは、ギルドで一番下のランクであるFランクから、Eランクに昇格する際に試験を行うダンジョンである。
別名“冒険者の登竜門”とも呼ばれていた。
試験日は1週間後。
試験当日の朝から日付が変わるまでに、キュクロの森最深部に生息している“月光花”を冒険者ギルドに持ってくることが合格の条件だと記載されていた。
キュクロの森にはスライムやゴブリンなどの低レベルモンスターしかいない為、1人であっても最深部まで行くことは容易いはずだ。
しかし、それは普通の冒険者であればの話である。
今までまともにクエストを達成したことがない僕にとっては、キュクロの森の最深部到達はとても難しい課題であった。
「課題まで1週間か…。でも、これが最後のチャンスだ! 何が何でも達成してみせるぞ!」
そんな決意を胸に抱き、その日からセレスの孤独な戦いが始まったのだった。
それから5日後―――
試験まで残り2日と迫る中、セレスは今戦場にいる。
1秒たりとも油断はできない状況だ。
「ボウズ! エールおかわりだ!!」
「おい! こっちもくれ!!」
「はい! 今行きまーす!」
宿屋の食堂から時折聞こえる叫び声や悲鳴は、まさにモンスターの巣窟であるダンジョンと同じ喧噪であった。
あちこちからグラスをぶつけ合う音が鳴り、その音はさながら戦場の剣戟の音にも聞こえる。
次から次へと飛び交うオーダーを捌きながら、零れそうなため息をグッと飲み込んだ。
この宿は、宿泊客だけでなくクエスト帰りの冒険者も食堂を利用することができるため、毎晩大賑わいであった。
「はい、エールお待ち!」
「おい! コイツ吐きやがったぞ!」
「はいはい。今行きますよ!」
慣れとは怖いもので、もう酔っ払いの相手もお手の物になっていた。
自分の肩を貸し、酔いつぶれた客を裏庭へと連れていく。
戻ってきたタイミングで注文ラッシュも一段落したので、少し休憩する為に厨房の隅に向かった。
「セレス、本当にすまんな。こんな大事な時期に…」
そういって声を掛けてきたのは、セレスがいつもお世話になっている叔父さんであった。
いつもの朗らかな表情ではなく、とても申し訳なさそうな顔をしていた。
「大丈夫だよ、叔父さん。まだ時間はあるし、何とかなるよ。明日には叔母さんも復帰できそうでしょ?」
「あぁ、もう大分調子も良さそうだし、明日は仕事に出られそうだ」
「叔母さんの病気、大したことなくて良かったよ」
叔父夫婦はセレスにとって親代わりであり、実際セレスは本当の親のように思っていた。
「セレス…。ここまで迷惑かけて言えた義理じゃないが、もし試験に落ちても気にするなよ。なんならここでずっと働いてもいいんだからな」
「………ありがとう。僕の方こそ、いつも迷惑かけてごめんなさい。…でも、冒険者だけは諦めたくないんだ。落ちた後のことなんて今は考えてないよ」
「…そうか。すまなかった。試験、頑張れよ」
そういうと、叔父さんは厨房の奥へ戻っていった。
「ふぅ」とセレスは1つため息をつく。
そう。セレスがここで手伝っているのは、決して試験を諦めたわけではない。
試験の通知がもたらされた直後、叔母さんが突然倒れてしまったのだ。
宿屋と食堂を夫婦2人で切り盛りしていた為、叔母がいないと営業自体が困難となる。
そこで手伝いに手を挙げたのが、セレスと夫妻の娘のキーカであった。
「こんなところで何サボってるの?」
後ろから声を掛けられる。
それは妙にトゲのある声色であった。
「あぁ、ごめんキーカ。もう戻るよ」
そこに立っていたのはキーカであった。
厨房の奥で休憩していたセレスを見咎めようと、こちらへやってきたようだ。
セレスの3つ年下であるキーカは、肩にかかるほどの黒髪をサイドテールに拵えており、やや吊り目な瞳を非難するようにセレスに向けている。
「アンタ、普段何も役に立ってないんだから、こんな時ぐらいちゃんと働けば?」
「わかってるよ…」
「さっさとしてよね。新しいお客さん入ってきたんだから」
それだけ言うと「フン!」と不機嫌そうにホールへ戻っていった。
なぜ、キーカがセレスの事を嫌っているのか。
それは多分、セレスのギルドでの評判を聞いているからだろう。
冒険者に登録したばっかりの頃は「すごい! すごい!」と言われてたのだが…。
「仕事に戻ろう…」
セレスはもう1つため息を吐くと、再び戦場へと歩き出した。
セレスのもとに最終試験の通知が届いた。
通知を持ってきたのは、金色の髪の綺麗な女の人だったのだが、去り際に「それでは、少年! 精々頑張るのだよ。君の合格を望んでいる人もいるんだからね!」とウインクを残して帰っていった。
確か、ギルドで良く見たことある人のような気がするが…よく思い出せない。
セレスはギルドでは必ずヘルシアさんの窓口に行っていた為、他の受付嬢のことはほとんど知らないでいた。
きっと、それを知ったらニーナは憤慨するであろう。
一応、ギルドの看板受付嬢を自称しているため、プライドは高い。
知らなかったことを悟られずに済んだセレスは、幸運だったのかもしれなかった。
「それにしても、僕の合格を望んでいる人って誰なんだ?」
自慢じゃないが、友達は少ない方である。
というか、友達と呼べる人なんていなかった…。
ウンウンと唸って、しばらく考えても思い当たらない。
結局、「そんなことより試験だ!」と独りごち、最終試験の通知を確認することにした。
「キュクロの森か…」
キュクロの森とは、ギルドで一番下のランクであるFランクから、Eランクに昇格する際に試験を行うダンジョンである。
別名“冒険者の登竜門”とも呼ばれていた。
試験日は1週間後。
試験当日の朝から日付が変わるまでに、キュクロの森最深部に生息している“月光花”を冒険者ギルドに持ってくることが合格の条件だと記載されていた。
キュクロの森にはスライムやゴブリンなどの低レベルモンスターしかいない為、1人であっても最深部まで行くことは容易いはずだ。
しかし、それは普通の冒険者であればの話である。
今までまともにクエストを達成したことがない僕にとっては、キュクロの森の最深部到達はとても難しい課題であった。
「課題まで1週間か…。でも、これが最後のチャンスだ! 何が何でも達成してみせるぞ!」
そんな決意を胸に抱き、その日からセレスの孤独な戦いが始まったのだった。
それから5日後―――
試験まで残り2日と迫る中、セレスは今戦場にいる。
1秒たりとも油断はできない状況だ。
「ボウズ! エールおかわりだ!!」
「おい! こっちもくれ!!」
「はい! 今行きまーす!」
宿屋の食堂から時折聞こえる叫び声や悲鳴は、まさにモンスターの巣窟であるダンジョンと同じ喧噪であった。
あちこちからグラスをぶつけ合う音が鳴り、その音はさながら戦場の剣戟の音にも聞こえる。
次から次へと飛び交うオーダーを捌きながら、零れそうなため息をグッと飲み込んだ。
この宿は、宿泊客だけでなくクエスト帰りの冒険者も食堂を利用することができるため、毎晩大賑わいであった。
「はい、エールお待ち!」
「おい! コイツ吐きやがったぞ!」
「はいはい。今行きますよ!」
慣れとは怖いもので、もう酔っ払いの相手もお手の物になっていた。
自分の肩を貸し、酔いつぶれた客を裏庭へと連れていく。
戻ってきたタイミングで注文ラッシュも一段落したので、少し休憩する為に厨房の隅に向かった。
「セレス、本当にすまんな。こんな大事な時期に…」
そういって声を掛けてきたのは、セレスがいつもお世話になっている叔父さんであった。
いつもの朗らかな表情ではなく、とても申し訳なさそうな顔をしていた。
「大丈夫だよ、叔父さん。まだ時間はあるし、何とかなるよ。明日には叔母さんも復帰できそうでしょ?」
「あぁ、もう大分調子も良さそうだし、明日は仕事に出られそうだ」
「叔母さんの病気、大したことなくて良かったよ」
叔父夫婦はセレスにとって親代わりであり、実際セレスは本当の親のように思っていた。
「セレス…。ここまで迷惑かけて言えた義理じゃないが、もし試験に落ちても気にするなよ。なんならここでずっと働いてもいいんだからな」
「………ありがとう。僕の方こそ、いつも迷惑かけてごめんなさい。…でも、冒険者だけは諦めたくないんだ。落ちた後のことなんて今は考えてないよ」
「…そうか。すまなかった。試験、頑張れよ」
そういうと、叔父さんは厨房の奥へ戻っていった。
「ふぅ」とセレスは1つため息をつく。
そう。セレスがここで手伝っているのは、決して試験を諦めたわけではない。
試験の通知がもたらされた直後、叔母さんが突然倒れてしまったのだ。
宿屋と食堂を夫婦2人で切り盛りしていた為、叔母がいないと営業自体が困難となる。
そこで手伝いに手を挙げたのが、セレスと夫妻の娘のキーカであった。
「こんなところで何サボってるの?」
後ろから声を掛けられる。
それは妙にトゲのある声色であった。
「あぁ、ごめんキーカ。もう戻るよ」
そこに立っていたのはキーカであった。
厨房の奥で休憩していたセレスを見咎めようと、こちらへやってきたようだ。
セレスの3つ年下であるキーカは、肩にかかるほどの黒髪をサイドテールに拵えており、やや吊り目な瞳を非難するようにセレスに向けている。
「アンタ、普段何も役に立ってないんだから、こんな時ぐらいちゃんと働けば?」
「わかってるよ…」
「さっさとしてよね。新しいお客さん入ってきたんだから」
それだけ言うと「フン!」と不機嫌そうにホールへ戻っていった。
なぜ、キーカがセレスの事を嫌っているのか。
それは多分、セレスのギルドでの評判を聞いているからだろう。
冒険者に登録したばっかりの頃は「すごい! すごい!」と言われてたのだが…。
「仕事に戻ろう…」
セレスはもう1つため息を吐くと、再び戦場へと歩き出した。
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