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伊吹殿様の外出

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 伊吹は、殿様のまねをして、ミザル、イワザル、ザルを膝まづかせました。そして、胸を張り、扇子をたたみ、3人を指して、声を張り上げて、一言を発しました。

「この無礼者、頭が高いわ!」
「ははーですわ…」
「伊吹様、ははー」
「うききー」

 伊吹は、ご満悦で、扇子を腰に差し、代わりに腰に下げていたダブル十手を両手に持ち、格好良く構えました。

 そして、気分が乗ってきたので、外に見せに行きたくなりました。

「それじゃ、散歩に行ってきます…」
「伊吹様、私も行きますわ…」
「大丈夫、ピヨピヨちゃん達と行くから…また今度ね」
「ええ…わかりましたわ…いってらっしゃいませ…」

 ピヨピヨバードの小屋により、声をかけました。

「ピヨピヨちゃん達、散歩に行こう…」
「ピヨピヨ、ピヨピヨ…」

 伊吹は、あっという間にピヨピヨバード達と出て行ってしまいました。

 残った人達にバッハンは、バンドメンバーのスタイルに変わったので、演奏の練習をしようと声をかけました。

「みんな、バンド用のスタイルに変わったので、堂々と外で演奏が出来ます…練習をやりましょう…」
「いいですね…今まで、洞窟の中だったので、アンプにギターの音が出せます…」
「皆さん、おもっきり、音を出せますよ…」
「うきー、ドラムもおもっきり、たたけるうきー」
「わかりましたわ、やりましょう」
「わしは、疲れたから休憩じゃ…」

 伊吹は、ピヨピヨバードを数十匹を連れて、外に出発しました。周りから見ると鳥の集団に襲われて、走ってるように見えます。

「ピヨピヨちゃん増えたね…」
「ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ…」
「このところ、修行をさぼっていたから、あの山の上まで走って、行ってみよう…」

 伊吹は、向こう方に見える山へ走り出しました。しばらく、走ってると着物が邪魔になりました。

「この殿様の着物は走りにくいや…飽きたし、脱いでいこう…」

 伊吹は、上の肌着と下はふんどしだけになり、草履も脱いで、はだしで走り出しました。ふんどしの腰の両脇には、しっかりとダブル十手を縛って、行きました。
 
「誰も見てないし、この方が楽…よし、一気に山の上に走って行こう…」

 伊吹は、ピヨピヨバード数十匹を従えて、ふんどしをひらひらさせながら、山を登って行きました。しばらく行くとどこからか、綺麗な歌声が、聞こえてきました。

「なんだろう…綺麗な歌が聞こえてきた…」

 その声のする方に行くと、ピヨピヨバードのさえずりも同調するようになりました。そして伊吹もダブル十手を両手に持ち、同じリズムに鳴らしながら、歌声に近づいて行きました。

 急にもやのようなものが、晴れると目の前の岩に座って歌ってる、きれいな若い女性が現れました。

「きゃっ…だれなの…」
「伊吹です…あっ、それからピヨピヨちゃん達です…」
「私が見えるのですか?…」
「はい、見えますよ…」
「ところで、変わった格好で、鳥さん達を連れてますが、鳥の妖精さんですか…」

 その声の主は、急にちょんまげの頭にふんどしをひらひらした人が、たくさんの鳥を従えて近づいて来たので、妖精だと思いました。

「人間ですよ…殿様の格好してたけど、動きにくいので、脱ぎました…」
「えっ、人間…結界を張っているので、人間は近づけません…どうして…」
「けっかい? さあ、わかりません…」

 歌声で結界を張っていたので、見えないようにし、誰も側まで近づけないようにしていたので、その声の女性は驚きました。

 歌声にピヨピヨバードのさえずりと伊吹の十手の音が同調して、結界を破り、自然と結界の中へ入ってしまったようでした。

「素敵な歌ですね…みんなにも聞かせたい…洞窟へ来ませんか?」
「ありがとう…いぶき…さん?…」
「それにみんな、楽器の演奏しているので、ぜひ、一緒にやりましょう…」
「…」

 歌声の若い女性は、鳥の妖精が自分を呼びにきたと思いました。それに、この男性の目は、澄みきっており、なぜか、信頼出来ると思いました。イケメンフェロモンも出していましたが、この女性には効きませんでした。

「わかりました…行きましょう…」

 大切にしていたミラーバードの事もあり、こんなに鳥に囲まれてる人に悪い人は、いないと思い、ついて行ってみることにしました。
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