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導師の身代わり作りその3

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 伊吹は、透明になり、上の階の梨乃亜姫のお部屋に向かいました。部屋の前に来ると梨乃亜姫が何か独り言をしゃべってる声が聞こえてきて、急に心臓がどきどきし始めました。

「うーん、天守閣の金しゃち2つをどうやって、お城の下に降ろそうかしら…」

 伊吹が透明のまま、部屋の前でもじもじしていると下から階段をどたどたと上がる音がして
美代が様子を見に梨乃亜姫の所に来ました。

「姫様、伊吹来てるだか、中に入っていいだすか…」
「えっ、伊吹は来てないわよ…美代ね、どうぞ入ってちょうだい…」

 美代は、部屋の入口の襖を開きました。その隙に伊吹は、美代の後から部屋の中に一緒に入りました。そこには、しばらく見ない間に少し大人っぽくきれいになった梨乃亜姫が、立っていました。伊吹は凄く照れくさい気持ちになり、その場でもじもじしていました。

「さっき、台所に伊吹が来ただ…そして、姫様に会いに行くと言っただよ…」
「えっ、伊吹がいたの?」
「はいだす、おかしいだすね…恥ずかしがって、隠れているだすかね…」
「たぶん、そうね…伊吹、出てらっしゃい…」

 伊吹は、もっと恥ずかしくなり、その場から逃げ出したくなりました。

「伊吹、いるだすか、おかしいだす…」

 美代は、入口の襖を開けて廊下をもう一度、確認しました。またその隙に伊吹は透明のままで、部屋の外に出ました。美代は、伊吹がいないので梨乃亜姫の部屋に戻りました。

「姫様、伊吹、いなかっただす…」
「伊吹のことだから、そのうち、ふらっと戻って来るわよ…」

 伊吹は、廊下に出て、そのままお城の窓を開けて、外に出て、身体を魔法で浮遊させて、天守閣に向かいました。
    
「梨乃亜様…何か会うの恥ずかしいや…そういえば、金しゃちを降したいとか言ってたな…よし…」

 伊吹は、天守閣に着くと金しゃちの留め具を外すと透明のまま魔法で、身体を浮遊させて、一体の金しゃちの背中に乗るとそのまま、お城の中庭に降ろしました。

 中庭に降ろした際に、家来達に目撃されて、騒ぎだされましたが、伊吹は慌てずに、また身体を魔法で浮遊させて、天守閣に行き、2体目の金しゃちも留め具を外し、背中に乗り、中庭に向かいました。

「姫様、大変でございます…金しゃちが、ひとりでに浮いて中庭に…」
「金しゃちがどうかしましたか?」
「金しゃちどうしただすかね…」
「姫様、中庭をご覧下さい…」

 梨乃亜姫と美代は、窓から中庭を見ると金しゃちが、ゆっくりと降りていく最中でした。中庭に降りるとちょうど魔法量が切れて、伊吹の姿が出てしまいました。伊吹は、慌ててお城の外に走って出ていきました。

「金しゃちを降ろしてくれたのね…伊吹…」
「あっ、伊吹が走って行くだす…」
「さっき、金しゃちをどうやって降ろそうか、考えていたの…伊吹、やっぱりここにいたのね…」
「伊吹、姫様に会っていけばよいだすに…」
「伊吹らしいわ…また、そのうち来るでしょ…ありがとう伊吹…」

 梨乃亜姫は、伊吹に感謝し、今度会った時は、いろいろ話を聞いてあげようと思いました。

 城を出た伊吹は、そのまま城下町に行きました。乾物屋で、あずき、さとう、かんてんを買って、バッハンの円盤が置いてある町外れの林に戻りました。

「バッハン、戻りました…」
「久しぶりのお城はどうでしたか?」
「何か、恥ずかしかった…でも、お城のお姫様はああでなくちゃと思いました…」
「よくわかりませんが、満足そうですね…」
「うん…」
「それでは、帰りましょう…」

 伊吹は、早く王女ヨギンから、お宝を取り戻して、金しゃち城に戻ろうと思いました。

 バッハンは、帰りも時空を歪めて、あっという間にファンタジー星に戻りました。円盤を降りると伊吹は、走って洞窟に戻りました。
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