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青い薔薇

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 その女の子は、持っていた青い花をテーブルに置くと、コーヒーカウンターへ、飲み物を買いに向かっていった。その花を見るとまた、俺は心臓がドキリとした。

 その一輪の青い花は、何と『青い薔薇』だったのだ。青い薔薇については、昔の彼女が、絶対に出来ると力説していた薔薇の花だった。

 その当時、赤い薔薇の中、青い薔薇は存在しなく、色素から絶対に青い薔薇は作れないということで、花言葉は『不可能』だったと思う。

 しかし、何年か前に青い薔薇が出来たと結構な話題のニュースになった。俺もその時に青い薔薇が出来たことを知った。

 そんな青い薔薇を彼女は、その当時に絶対に将来出来ると言い続けていた。その彼女を中高生にした感じの女の子が、青い薔薇を持って、目の前に現れた。

「今日は、何て日なんだろう…」

 コーヒーカウンターで、注文しているその子の姿を遠目に見ると膝までの赤いスカートと上は、何かのロゴがついた白のトレーナーで、その当時の彼女がよくしていた髪型のポニーテールだった。

「もしや、あの彼女の…」

 何となく、昔の彼女に関わりがあるのでは、と脳裏をかすめた。この町は、彼女が好きだった町だし、将来、この町で住みたいと言っていたような気もした。

「ちょっと、探ってみようか…」

 女の子は、コーヒーカウンターから、上にクリームが乗って、チョコらしいものがかけられた飲み物に手には、ストローを持って戻ってきた。

「すいません、席、ありがとうございます…」
「いや、混んでるからね…ところで、それ青い薔薇だよね…」

 さっきは、緊張していたが、割合、フレンドリーな感じだったので、話しかけてみることにした。そして、俺は、まずは薔薇から探ろうと思った。

「そうです…母が好きなんです…」
「そう、今は売ってるんだね…」
「そこのお花屋さんで、買いました…高いので、一輪だけですけど…」
「そうなんだね…」

 その子は、薔薇を見て、少し微笑んだような感じだったので、もう少し、話をしようと思った。

「お母さん、喜ぶだろうね…」
「実は、今日、母の誕生日なんです…」
「えっ、いや、そうなんだね…偉いね…」

 俺は、昔の彼女の誕生日を思いだし、また、一瞬、固まってしまった。何と昔の彼女も今日が誕生日だったと思う。

「ありがとう、おじさんは、子供は?」
「いないよ…まだ、独り身さ…」
「おじさん、優しそうだから、絶対に子供から誕生日プレゼントもらえるよ…」
「ああ、ありがとう…」

 その時、その子が持っていたスマホが、振動して、画面に目を落とした。
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