上 下
13 / 14

皆さんさようなら

しおりを挟む
 次の日になり、金魚達やコイモト達は、普段の生活に戻りました。みんな、いつも通りに好きな所をゆったり、泳いでいます。

 金魚Aは、オカチファンクラブを結成して、あちこちの金魚達を勧誘しまくっています。

 メダカ三兄弟も力一杯泳ぎまわって、自由に泳いでいます。チュンクも気ままに飛びまわって、『ちゅーちゅんビスケット』を口づさんでいます。

 みんなは、心の中で、昨日の『ちゅーちゅんビスケット』を一致団結して、躍りきった事は忘れてません。そして、『黄色い金魚のキイ』が、仲間の為に一生懸命だった事も心に刻んでいます。

 エマちゃんとママは、今日も池に散歩に来て、黄色い金魚を探しています。

「ママ…黄色いおしゃかなしゃんいないねぇ…」
「きっとどこかで泳いでいるわよ…」

 エマちゃんは、ちょっと元気がありません。

 その頃、キイは、真っ暗闇の中、幻を見ていました。エマちゃんのママが、小さい金魚鉢にキイを移してくれて、その金魚鉢をエマちゃんが抱えて、池のまわりながら、デートしています。

 池の中からは、金魚達、コイモト達、メダカ三兄弟がキイを冷やかしています。

「ひゅーひゅーキイさんやりますねぇ~」
「うおおお…」
「お二人お似合いですよ~」
「エマちゃん可愛い~」
「デートだ」
「デートね」
「デートしたいよ…」

 そして、空ではチュンク達が『ちゅーちゅんビスケット』を奏でています。この上ない幸せな、時間が流れます。人生最後に神様が素敵な夢を見せてくれたと思い、キイは覚悟を決めました。

 その時です。急に明るくなり、まわりの水が動き出し、流されて、何やら水槽のような物に入れられました。上の方から人間の美味しい餌が入ってきました。

 キイは、最後の餌だと思い、味わって食べました。そしてまわりを良く見ると向かいにもいろんな種類の金魚達が何匹かづつ入った水槽が並べられていました。

 キイは、以前に飼われていた時に、テレビが見える場所にいたので、この四角水槽を見た事があります。それは『いたまえ』とかいう人間が、水槽から一匹づつ魚を出して、皮を剥がされて、鋭いもので身体を切り刻み『さしみ』とか言って、他の人間の餌になるのを見たことがありました。

 キイは、次に人間にこの水槽から出されたら、終わりだと思いました。そして、その時は急にやってきました。大きい人間の男が、水槽に近寄ってきました。間違いない『いたまえ』だ。

「あっ、これだ…この黄色いのください…」
「はい…こちらですね…旦那さん最近入荷した珍しい黄色い金魚ですぜ…」

 キイは、網ですくわれ、水が入った透明の袋に入れられました。そして、それを紙袋のような物に入れられ、また周りが、真っ暗闇になりました。

 もう完全に終わりだと思い、力を抜き、目をつぶりました。
しおりを挟む

処理中です...