【2章連載中】もふもふに囲まれて記憶喪失のままアイドルになってしまった

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序章

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アオイとシキは町の中心街へと足を進める。

「ここが役場だ」

扉を開けると閑散とした部屋が広がっていた。幅広の部屋にカウンターがひとつ。しかしながら、空間には似つかわしくないほど賑やかな声が遠くからかすかに聞こえる。

アオイが机上の座布団にある金色のハンドベルを鳴らすとカウンターより向こう側、目隠しの奥の扉からトラの特徴を持つ筋肉質な躰のマダムが現れた。シキは森の獣をフラッシュバックしてしまい本能的にアオイの影に隠れていら。

「アオイか、どうしたんだい?あら、後ろのお嬢ちゃんは」

「森で見つけました。登録してやってください」

「あらまあこの子がが例の子かい?少し前にモモが寄って言っていったよ。ちょいとお待ち」

トラの特徴を持つマダムは先程入ってきた扉に戻った。トントントンと階段を上がる音が聞こえる。

「いまのは?」

「女将さんだ。元冒険者で表の冒険者ギルドとこちらの役場を一人で切り盛りしてる女傑さ。頼りになる優しい人だ」

「……ここは女将さんとモモだけ?」

「そうだ。少し前に別の給仕もいたが、産後で忙しいらしい」

「そっか」

「穏やかな人だ。スタンピードには会えるかもしれないな」

トントントンと先ほどとは反対に階段を降りる音が近づいてきた。女将さんは手に持つには大きな箱を軽々と運んでいる。

「身元保証人はアオイ?」

「そうです」

アオイはネックレスにして首元に掛けてあるタグを取り出した。
ネックレスには騎士団と冒険者のタグも一緒にかかっていたが、木製のタグを紐から外し女将さんに渡すと、女将さんはカウンターに持っていた箱を乗せる。
新しいドッグタグのような形をした木製のタグにアオイから受け取ったタグを見ながら、箱の中から取り出した移民登録用のタグにしか反応しないペンで番号を焼き入れる。

「移民登録証がこれね。もし無くしたらすぐに役場に来ること。ここに住んで3つ歳を重ねたら住人登録できるようになるからね」

完成したタグをシキは受け取りまじまじと見ると辺境村発行であることと名前と番号が彫られていることが確認できた。

「最後に本人登録するよ。登録証を箱の丸いのに当ててちょうだい。アオイも一緒にね」

そう言って女将さんは箱の中の乳白色の球体を爪で差しながら、アオイに登録証を返す。
シキにとって先程の嫌な思い出がある水晶と酷似しており少し腰が引けている。


「これ」

「ライさんの発明品の一つだ」

シキはアオイに手を重ねられ、二人が水晶に手をかざす。すると水晶が白く輝き始め、同時に頭上のメンダコも光り始めた。それに呼応するように、他の妖精が酒場の方からなだれ込み始める。


「…………おこぼれ狙いにしちゃ多いねぇ」

妖精たちは次第に発光していき、部屋を青色の光で満たしていく。
部屋を飲み込む光の波は、ごく普通の役場をどこか人を魅了してしまうような幻想的な風景に作り替えるほどの力を持っていた。

しかしそれも水晶が輝きを失うまでのものであり、やがて妖精たちは散り散りに消えて先程までの光景が嘘のように日常の風景に戻った。




「お嬢ちゃんは妖力が多いんだね。いいものが見れたよ」

なんでもない顔を装って女将さんは言う。
光の海に見惚れていたシキは女将さんの言葉でこれは自分の起こしたことだと知り、少しはにかむ。

「登録できたか確認するからみせてごらん――――よし、問題ないね。シキは今日からこの村の仲間さ。これを門でみせると村を出入りできるようになるから、村の外に出るときは肌見離さず持っておくんだよ」

女将さんはシキへチェーンと一緒に渡す。シキはアオイのようにそれを首にかける。

「うん」

「それで本題だけど、うちで働いてくれるってのは本当かい?」

「日中だけだけど……いい?」

「まだ特徴もわからない子どもに日没後も働けとは言わないさ」

女将さんは可哀そうな子をみる目で呆れたように諭す。

「ありがとう」

シキはホッと胸をなでおろす。その様子に女将さんはますますこの子の境遇に同情する。
何がそこまで卑屈にさせたのか、記憶喪失というのも合わさって女将さんの母性に火がついた。

「それじゃ今日からここで寝泊まりしていいからね」

「それはだいじょうぶ」

「モモからは住み込み希望って聞いてたがねぇ。遠慮してるなら気にしなくてもいいんだよ?」

母性を感じられる表情で、女将さんはシキの頭をなでる。ワシャワシャとでも聞こえてきそうな可愛がり方にシキの頭は応えられずカクカクと揺れる。
その様子をやんわりと咎めながらアオイが気まずそうに口を開く。

「…………うちのライが面倒を見たいと」

「あれ騎士団の妖力研究員さんが子どもの面倒なんてみられるのかい……?シキ部屋は空けてるからね」

女将さんは渋い顔でそう言った。

「……うん」

ライは村民に研究狂いの変人扱いされているようだが、シキにとってはレッサーパンダの謎に興味があり、心配する女将さんへ曖昧に頷いた。

「私も騎士団の方で彼女の様子を見ますので、そちらでも変わったことがあればご連絡ください」

改めて騎士団の副団長として女将さんにお願いすることで、女将さんを納得させた。

それからは、女将さんに店を案内してもらいながらシキは仕事を教えてもらった。なんとか形になったところでご飯をごちそうになった。


騎士団までもどる道すがら、アオイの後ろでひとりごちる。


「……がんばろう」

シキは自分はどこの誰なのか、記憶にある緑の人物は誰なのか不安を抱えながらも懸命に生きることを己の鼓動に誓った。
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