1 / 2
母は見た
しおりを挟む
「えっ」
事実は小説より奇なり、とは誰が言ったか。意外にも現実は予想外のことが多い。それは私たちが現実の可能性を軽視しているからか、はたまた小説は現実の模造品に過ぎないからか。
いつかどこかで見た漫画の中に現れた母親は、泣いたり叫んだりとショックを受けて、我が子がそれは大層な罪を犯したかのように嘆いて見せていた。だから私も彼女に習い、取り乱すべきなのかもしれない。
珍しく仕事が早く終わった奈々子は夕飯どきに帰宅した。もう家族べったりなんて年齢ではない子供たちへのお土産にケーキを買う余裕があるというのは、奈々子には奇跡のようなことだ。奇跡を達成した奈々子は上機嫌に玄関をくぐり、ケーキをダイニングテーブルに置いてから次女の千夏を呼びに部屋を訪ねた。
今思えばこれが良くなかったのだ。我が家は基本的にノックをしない。断りも入れずにさっさと家族の部屋へ入ってしまう。ドアの存在意義を1つ失わせる阿呆な諸行だが、私はそれで問題なかった。夫も子供たちも私の部屋へ勝手に入るのだから、お互い様だと思っていたからだ。
それはともかくドアを開いた先にあった千夏の姿は、アレである。弟である千秋と、アレをしていたのだ。明言は避けさせてほしい。何の配慮もなくガチャリと音を立てて開けたドアの先で、血の気の引いた顔をした我が子二人が汗だくでこちらを見ていたのだ。
目があってしまったものは仕方がない。見て見ぬふりしてなかったことにもできず、視線をさまよわせる。ベッドの端に転がるローションも使いかけのコンドームもその存在を主張し、行為があったのだと訴えていた。証拠品はそれだけではない。エアコンが作動していながら、心なしかいつもより高い室温、ベタベタと湿った空気、特徴的な匂いが部屋に充満していた。その全てが何があったかをご丁寧に教えてくれる。
久しぶりに感じる空気感に、眩暈がした。気分が悪い。
「あー。えっと、ただいま。……ケーキ買ってきたから」
気の利いた台詞など出てくるわけがない。頭がショートしたようだ。漫画の中の母親はすごい。なぜああも矢継ぎ早に責め立てる言葉が出てくるのだろう。そういえば千秋にも声をかけた方がよかっただろうか。あの場にはいたのだから、来てくれることを願おう。
真っ白の頭を抱えたままダイニングテーブルの椅子を引き、ぼんやりと千夏と千秋を待つ。セミの鳴き声に負けない騒音が2階からドタバタと聞こえ、2人も慌てているのだろうと他人行儀に感じていた。
事実は小説より奇なり、とは誰が言ったか。意外にも現実は予想外のことが多い。それは私たちが現実の可能性を軽視しているからか、はたまた小説は現実の模造品に過ぎないからか。
いつかどこかで見た漫画の中に現れた母親は、泣いたり叫んだりとショックを受けて、我が子がそれは大層な罪を犯したかのように嘆いて見せていた。だから私も彼女に習い、取り乱すべきなのかもしれない。
珍しく仕事が早く終わった奈々子は夕飯どきに帰宅した。もう家族べったりなんて年齢ではない子供たちへのお土産にケーキを買う余裕があるというのは、奈々子には奇跡のようなことだ。奇跡を達成した奈々子は上機嫌に玄関をくぐり、ケーキをダイニングテーブルに置いてから次女の千夏を呼びに部屋を訪ねた。
今思えばこれが良くなかったのだ。我が家は基本的にノックをしない。断りも入れずにさっさと家族の部屋へ入ってしまう。ドアの存在意義を1つ失わせる阿呆な諸行だが、私はそれで問題なかった。夫も子供たちも私の部屋へ勝手に入るのだから、お互い様だと思っていたからだ。
それはともかくドアを開いた先にあった千夏の姿は、アレである。弟である千秋と、アレをしていたのだ。明言は避けさせてほしい。何の配慮もなくガチャリと音を立てて開けたドアの先で、血の気の引いた顔をした我が子二人が汗だくでこちらを見ていたのだ。
目があってしまったものは仕方がない。見て見ぬふりしてなかったことにもできず、視線をさまよわせる。ベッドの端に転がるローションも使いかけのコンドームもその存在を主張し、行為があったのだと訴えていた。証拠品はそれだけではない。エアコンが作動していながら、心なしかいつもより高い室温、ベタベタと湿った空気、特徴的な匂いが部屋に充満していた。その全てが何があったかをご丁寧に教えてくれる。
久しぶりに感じる空気感に、眩暈がした。気分が悪い。
「あー。えっと、ただいま。……ケーキ買ってきたから」
気の利いた台詞など出てくるわけがない。頭がショートしたようだ。漫画の中の母親はすごい。なぜああも矢継ぎ早に責め立てる言葉が出てくるのだろう。そういえば千秋にも声をかけた方がよかっただろうか。あの場にはいたのだから、来てくれることを願おう。
真っ白の頭を抱えたままダイニングテーブルの椅子を引き、ぼんやりと千夏と千秋を待つ。セミの鳴き声に負けない騒音が2階からドタバタと聞こえ、2人も慌てているのだろうと他人行儀に感じていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。






お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる