異世界で探がす愛の定義と幸せカテゴリー

彦野 うとむ

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鬼子と縫いぐるみ編

全ての者に希望を生む名と神から授かりし神技と言う足枷

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 「……この手が言うんだ。柔らかいと、何時までも触っていたいと、揉んでいたいと、離し難いと、名残惜しいと、と言ったら殴られそうなのでやめます」

 大三郎はそう言い、手を離そうとしたが手が離れない。

 「なん……だと? て、手が離れない……だと?」

 大三郎はそう言いながらエスカの爆乳を掴んでいる右手の手首を左手で掴み、右手を離そうとするが離れない。

 「く、くそ! ど、どうしたんだ?! は、離れない! て、手が離れない!」

 離れる訳がない。パントマイムなのだから。
 大三郎は左手で頭を掻きながら、「あー。これは仕方ないネー。離れないんだもんネー。このままで居るしかないネー。バーニングloveネー」と笑顔で言う。
 
 「……指ではなく、腕を折られたいのですか?」
 「冗談です!」

 大三郎は本当に折られると察知し、素早く手を離すとエスカは「フン」と鼻を鳴らし背中を向けた。
 大三郎はそんなエスカの背中に優しい微笑みを向け、パハミエス達に声を掛ける。

 「さて、ソフィーの呪いを解くか! じーさん、ソフィー、メル、待たせて悪い。ちゃちゃっと呪いを解いて帰ろうぜ」
 「ふむ」
 
 パハミエスは泉の前で何かをしているマリリアンの所へ歩いて行った。
 
 「救世主様」 
 「ん?」
 「救世主様には感謝しかない」

 メルロはそう言うと深々と頭を下げ、それと同時にソフィーアも祈るように手を組み頭を垂れた。

 「メル、ソフィー」
 「何だろうか? 救世主様」
 「あのな、俺を救世主って呼ぶの止めて」
 「なっ!? そ、それは出来ない!」

 大三郎の言葉に慌てて拒絶するメルロと、それと同じような顔をするソフィーア。

 「なんで?」
 「……私は、言葉遣いが悪いと言われる」
 「そうなの?」
 「そ、そうなのって……。今まで一緒に居て分かるだろう?」 

 大三郎はメルロの言葉に、素でキョトンとする。

 「わ、分からなかったのか?」
 「うん」

 本当に分かっていない大三郎にメルロは絶句する。

 「まぁ、あれだ。誰かに何か言われてもあんま気にすんな。疲れるだけぞ。それより、俺をさ、救世主って呼ぶのやめ――――」
 「出来ない!!」

 メルロの大声に大三郎はビクゥ! と、素でビビり、心臓をドキドキさせる。 

 「わ、私なりの、精一杯の礼儀なのだ」
 「れ、れれ礼儀?」
 「私など見捨てられても同然の者。そんな私を、恐れ多くもこの世界を救ってくださる救世主様は願いを聞いてくれた。だから……」
 
 握り拳を作り俯いて話すメルロに、大三郎はしょーがないなぁと言うような笑顔で溜息をつく。

 「メル」
 「な、何だろうか? 救世主様」
 「ソフィーに、メルロ様って呼ばれたらどう思う?」
 「え?」
 
 メルロは俯いていた顔を上げ、ソフィーアを見る。

 「そ、それは嫌だな。気持ち悪い」

 それを聞いたソフィーアを「まぁ!」というような顔をして、メルロの腕を平手打ちした。

 「い、痛い。な、何をする? ソフィー?」

 メルロは腕を思いっきり平手打ちされ、目を白黒させソフィーアを見る。
 ソフィーアは地面に”気持ち悪いってなに?!!”と素早く書き、プンスコとそれを見せる。

 「い、いや! へ、変な意味で言った訳ではないぞ! か、勘違いするな」

 口をへの字に曲げ、プンプンと怒っているソフィーアにメルロはオロオロするばかり。

 「あはは。……メル、その気持ちが俺だって事だ」
 「え?」

 その言葉を聞きメルロとソフィーアは同時に大三郎を見る。

 「エスカにも言ったけどさ、ダチに変な事は出来ても、変に気を使われるのは嫌なもんだろ?」
 「そ、それは……」
 「なぁ、エスカ。俺達にエスカ様なんて呼ばれたら嫌じゃない?」
 「嫌ですね。特に杉田様にそう呼ばれたら、何かやらかしたなと思います」
 「う、うん。当たってる。てか、パニティーも嫌だろ?」
 
 パニティーは人差し指を小さい顎先に当て、軽く空を見上げるようにして答える。

 「ん~……。嫌って言うより、寂しいかな?」
 
 メルロはその言葉を聞いて、「さ、寂しい?」とパニティーに聞く。
 パニティーはメルロの所に飛んで行くと、メルロの周りをゆっくりと飛び回りながら答える。

 「友達に他人行儀な言い方をされたら、何か一人ぼっちになったようで寂しいよ。良くミル姉に行儀良くしなさいって言われるけど、仲間や友達に行儀良く接しられたらちょっと寂しいなって思う。やっぱり友達とは行儀良くするより普通が良いもんね」

 パニティーはメルロの顔の前でにこりと微笑む。

 「と、友達……」 
 「親しき仲にも礼儀ありと言いますが、相手が望まない礼儀は慇懃無礼いんぎんぶれいと受け取られる時もあります。例えば、杉田様程度の人物に礼を尽くすのがそれに当たります。杉田様には下僕程度の接し方で丁度良いかと」
 「待って! 下僕ってなに?!」
 「下僕ですか? 男の召使。下男の事ですが、ご存じありませんでしたか?」
 
 エスカは小首を傾げ、わざとらしく「知らなかったの?」と言うような顔をする。

 「そんな事を聞いてるんじゃないし、俺は下僕になる為にこの世界に来たんじゃないやい! てか、お前――っ!? ……ははーん。そーゆー事ね」
 
 大三郎は何かに気付き言葉を止め、エスカに横目で見るような視線を送った。

 「何ですか?」
 
 エスカはその視線に無表情で答えた。

 「お前が俺を連れて来た理由が分かった」
 「――ッ!? な、何ですか?」
 
 大三郎の言葉に小さくビクッとし、少し目を見開く。

 「お前は――」

 エスカは大三郎の言葉にゴクリと息を飲む。

 「性癖を満たすために俺を連れて来たんだ!」

 真顔で呆れるエスカ。

 「なんてエッチな娘なんでしょう! 処女のクセになんてエッチな娘なんでしょう!」

 口に手を当て、「んまぁ!」というような仕草でエスカを見る大三郎。
 ピキリと蟀谷に筋が走るエスカ。

 「エスカは狙っている! 俺の初めてを狙ってィ武ㇷッ!!」

 大三郎の頭にパハミエスの杖がゴスン! と振り下りた。

 「何時まで阿呆な事を言っている。さっさと始めるぞ」

 パハミエスはソフィーアに「ここに立て」と告げ、地面を杖でドンと叩くとソフィーアを中心に魔方陣が広がった。
 その魔方陣は円形だけではなく、円形の魔方陣を囲むように菱形の魔方陣が現れ、その四方の先端に人一人分の円形魔方陣も現れた。
 そして、泉の方の先端にある人一人分の魔方陣の両脇に小さな魔方陣があり、その中心にある魔方陣から、人一人が歩けるほどの長方形の魔方陣が泉に伸びており、そこにマリリアンが立っていた。

 マリリアンは魔方陣が現れると、ソフィーアが立っている魔方陣にふわりと飛んで行き、泉とは対角線にある人一人分の魔方陣の中に入った。
 パハミエスも菱形の先端にある魔方陣に入るとビックマウドに声を掛ける。

 「小童」
 「何だ?」
 「貴様も入れ」
 「何処にだ?」
 「ハリヘルオ・べン・タルアをやるのだ。見れば分かるだろう」 
 
 ハリヘルオ・べン・タルアとは大神殿などで行う大掛かりな『解呪の儀』の事なのだが、大司教を筆頭に司祭や助祭、巫女や聖女といった大勢の魔力を必要とする儀式。
 マリリアンやパハミエスが居るので魔力だけで言えば十分事足りる。が、大神殿で行う聖なる儀式の一つでもあるハリヘルオ・べン・タルアに、洗礼を受けていないパハミエスが加わると言う事は失敗を意味する。

 「ビックマウド閣下」

 パハミエスを見たままピクリとも動かないビックマウドに、マリリアンが声を掛けた。

 「何ですかな? 女王陛下」
 「ご心配なさらずとも良いのです」
 「何がですかな?」
 「ここに来る前の事をお忘れですか?」

 チラリとマリリアンを見た後、すぐにパハミエスに視線を移す。

 「パハミエスが神々にハイ・クラウン・リッチとして認められた事ですな?」
 「はい」

 その言葉を聞き、エスカは腰を抜かしそうなほど驚いてしまう。

 「なっ!? ビックボス! そ、それは本当の事なのですか?!」
 「……ああ。本当の事だ」

 ビックマウドの返答を聞き、エスカは信じられないと言う顔で呆けてしまう。

 「いてて……。その何とかリッチってなに?」
   
 大三郎は頭に大きなタンコブを作り、片手に聖杯を持ちながら立ち上がる。

 「大三郎が今気にする事ではない。お主は泉の方へ行け」
 「分かった。後で教えてね。いてて……」
 「気が向いたらな」

 大三郎はタンコブを摩りながら泉へと歩いて行く。

 「小童、早くせい。それともハリヘルオ・べン・タルアすら出来ぬほど老いぼれたか?」
 「貴様に老いぼれたかなどと言われたくないわ。万年ジジィが」

 ビックマウドは吐き捨てるように言うと、パハミエスの対角線にある魔方陣の中へ入った。

 それを見たターニャはパニティーの手を取り、小さい魔方陣へ連れて行った。

 「な、なに?」
 「パニティーはここに居て」
 「なんで?」
 
 キョトンとするパニティー。

 「だいざぶろーが今からパニティーの友達の呪いを解くの」
 「う、うん。それは分かるけど……」
 「呪いを解く時、解かれる人は凄く痛くて辛い思いをする」
 「え?! そうなの?」
 「そう。だから、私達の治癒の祈りで痛みを無くしてあげるの。手伝ってくれるでしょ?」
 「分かった! 手伝う!」
 
 パニティーはフンスと気合を入れ魔方陣の中へ入った。
 ターニャも反対側の魔方陣へと入る。

 「妖精王よ、お主が魔力を調整せよ。我は大三郎に指示を出す」
 「分かりました」
 「小童」
 「何だジジィ」
 「ヘマをするなよ」
 「ふん。万年老いぼれに言われとうないわ」
 「では、始めます」

 マリリアンは両手を左右に広げるとマリリアンの居る場所から外側にある菱形の魔方陣に光が走る。
 その光が泉の方に伸びている魔方陣まで届くと、泉の一部分が輝いた。
 
 「大三郎」

 パハミエスは言葉に魔力を込め大三郎に話しかけた。

 「なに?」
 「魔方陣の中に入り、光っている部分から聖杯で泉を汲め」
 「分かった」
 
 大三郎は人一人が歩ける魔方陣の中へ入り、聖杯で泉を汲む。

 「そのまま魔方陣の中を歩いて光の妖精の所まで行け」
 「あい」

 聖杯を片手にターニャとパニティーが居る魔方陣の中へと入る。
 それを確認するとターニャは輝き出し、パニティーも慌ててソフィーアに向かい治癒の祈りをしだした。すると大三郎が立っている場所から内側にある円形の魔方陣に光が走り、全体に光が行き届くと大三郎が立っている魔方陣がソフィーアの方へ扉が開くように左右に別れ、一本の道が出来た。

 「目の前にある道を歩いて女子に聖杯を渡せ」
 「う、うん」

 パハミエスが妖精の泉に魔力を分け与えた時も感動と驚きを体験したが、やはり何度見ても魔法と言うものは凄いと大三郎は思う。
 
 聖杯に入っている泉の水を零さないように注意しながらソフィーアの所まで行き聖杯を渡した。

 「聖杯に入っている泉を飲ませろ」
 「うん。ソフィー、その聖杯の水を飲んで」
 
 ソフィーアは手渡せれた聖杯を口に運び、泉を飲むとマリリアンが「今です」と皆に声を掛け、同時に魔力を高めた。それに合わせるようにパハミエスとビックマウドも魔力を高める。
 
 「パニティー、私達も治癒の祈りを高めるわよ」
 「分かった!」

 ターニャとパニティーは同時に治癒の祈りを高めると魔方陣全体の光が強くなった。
 ソフィーアが聖杯を飲み干すとソフィーアの体も淡く輝き出す。
 輝く魔方陣をキョロキョロと見ていた大三郎は、ソフィーアが淡く光っている事に気が付くと「おお! ソフィーがなんか光ってる!」と驚く。
 
 「大三郎」
 「なに?」
 「その女子に神技で触れろ」
 「わ、分かった。スキル発動! ゴッド・フィンガー」

 大三郎がスキルを発動すると、大三郎の右手の指が黄金の光を帯びた。

 「な、なんだこれ?!」 
 
 自分の指を見て驚く大三郎。

 「真の救世主に成った事で神技本来の力が出たのだ」
 「そ、そうなんだ」
 「その手で女子に触れろ」
 「う、うん」

 大三郎はソフィーアの胸をもにゅんと揉んだ。
 ソフィーアはビクンと体を動かすと淡く光っていた輝きが強くなった。
 その瞬間、ソフィーアを中心に内側から外側へと魔力の波動が広がりパハミエス達にぶつかる。
 
 「「――――ッ!?」」
 
 全員が同時に魔力の波動を受け、押し出されそうになる。

 「パニティー! 頑張って!」
 「分かった!」

 ターニャの声に応えるように治癒の祈りを精一杯高めた。

 「妖精王。大丈夫か?」
 「はい。大丈夫です」
 「そうか」
 
 パハミエスはそう言うと、チラリとパニティーを見る。
 「むー!」と、魔力の波動に耐え、力の限り治癒の祈りを振り絞っていた。

 「小童」
 「何だ?」
 「光の妖精すら耐えておるのだ。足を引っ張るなよ」
 「一々、口喧しい男だな。万年ジジィの貴様は自分のボケだけ心配しておけ」
 「ふん。小童が言いよるわ。妖精王よ、仕上げだ」
 「はい」
 
 マリリアンはソフィーアに向かい両手を翳すと、パハミエスも杖を翳し、ビックマウドもそれに合わせるように片手を翳す。
 
 ”聖なる地、清き水、無垢な祈り、三種の式を用い御神々の加護にて不浄なるものを浄化せう”

 マリリアンの詠唱が終わると、ソフィーアの輝きが呪いを吸い取るかのように色が変わり始め、弾け飛んだ。そして破片は空へと舞い上がり消えていった。

 解呪の儀が終わると、再び妖精の泉がある森は涼やかな風を運び、木々の葉擦れや虫達の羽音が皆に安らぎを与えた。

 「お、終わった……のか……?」

 解呪の儀を見ていたメルロは恐る恐る口にする。

 「ふむ。無事に終わったぞ」

 パハミエスがそう告げると、メルロはソフィーアにおぼつかない足取りで近づき、心配そうに顔を見る。

 「ソ、ソフィー……? だ、大丈夫か?」

 メルロの声にソフィーアはにこりと微笑む。

 「うん。大丈夫」

 その声を聞いたメルロはボロボロと涙を流し、声にならない声で何かを大声で言いながらソフィーアを抱き締めた。ソフィーアもメルロを抱き締め「ありがとう。メル」と涙を流す。
 エスカ達もその姿に貰い泣きをしそうになっていた。特にパニティーは二人の姿に号泣していた。
 そんな中、パハミエスは無表情のままキョロキョロと周りを見渡す。 

 「む? 大三郎は何処へ行った?」

 そう言いながら泉の方へ目をやると、大三郎は泉の中で両足だけを出した格好で沈んでいた。
 パハミエスはその姿を見て、「あやつは何を遊んでおるのだ?」と不思議そうな顔をする。

 「遊んでいるのではなく、吹き飛んだんです」

 エスカがパハミエスにそう言うと、大三郎の方へ歩いて行く。

 「杉田様。解呪の儀は無事に済みましたよ」

 その声を聞いた大三郎は、足だけをバタバタと動かす。

 「ソフィーアさんの声が戻りました」

 その言葉を聞いた大三郎は、更に足だけをバタバタと動かす。

 「これで一安心ですね」

 バタバタと動かしていた足がピクピクし始めた。

 「……。杉田様。そのままだと死にますよ?」
 「監視人エスカよ」

 エスカの後ろからパハミエスが声を掛けた。
 
 「何でしょう?」

 エスカはパハミエスに振り返る。

 「今、監視人エスカ宛に大三郎から伝言を預かった」
 「何と言ってました?」
 「だったら助けろよ。との事だ」
 
 エスカは少し間を置き、「……。分かりました。伝言ありがとうございます」と礼を言うと、再び大三郎を見る。ジッと見る。パハミエスも大三郎を見る。ただジッと見る。

 「スギタ―!」

 パニティーが泉に沈んでいる大三郎に気付き、慌てて飛んできた。

 「スギタ! スギタ!」

 パニティーは大三郎の名を叫びながら、ぐったりとしている足を引っ張る。が、妖精一人ではどうしようもない。

 「エスカ! 見てないで手伝ってよ!」 
 「……。今回は仕方ありませんね」

 エスカはパニティーをそっと両手に乗せパハミエスの所まで運ぶと、大三郎の下まで戻り、両足を抱えるように持つと、大三郎を引っこ抜きジャイアントスイングのように回転し始めハンマー投げのように投げ飛ばした。その姿は金メダリストの様な、それはそれは見事な投げっぷりだったと語り継がれる程であった。
 
 「……ぁぁぁああああぁぁぁぁ……」

 パニティーの遥か頭上を叫びながら勢いよく通過していく大三郎。
 パハミエスは飛んで行く大三郎を見ながら、「ふむ。生きておるなら大丈夫だろう」と、全く心配していない様子で言い、パニティーは「スギター!」と、飛んで行く大三郎を追いかけて行った。
 
 「メル。いっぱい迷惑かけたね」
 
 その言葉を聞いたメルロはソフィーアを抱き締めたまま、首が千切れんばかりに左右に振り、「えぐっ、ゾビ、うっぐ、ぅうう、ゾビ、ひっぐ、ぅうう、うえーん!」と、言葉にならない何かを言いながら再び泣き始めた。

 その時、二人の近くにズドン! と、大三郎が降って来た。
 二人は驚き見ると、ギャグマンガのように地面に頭を突き刺さしている大三郎の姿があった。

 「なっ!?」
 「え?!」

 大三郎はお尻を突き出し、地面から必死に頭を引き抜こうと頑張っていた。
 メルロとソフィーアは同時に驚きの声を上げ、慌てて大三郎に駆け寄る。

 「きゅ、救世主様! だ、だだ、大丈夫か?!」
 「救世主様!」

 メルロは大三郎の背中から抱きしめるように抱え、頭を大根抜きのように引っこ抜く。しかし、メルロもエスカ程ではないにしろ、その辺に居る男性より力がある。引っこ抜く勢いが余って三方向から映す画像のように、それはそれは見事なジャーマンスープレックスをお見舞いしてしまった。

 「んブㇷ!」
 
 口元に手を当て驚くソフィーア。
 ジャーマンスープレックスのまま顔を青ざめさせるメルロ。
 涎と鼻水と涙を流し、白目をむく大三郎。
 驚き過ぎて呆けた顔で見つめ、言葉が出ないターニャ、マリリアン、ビックマウド。
 やっちゃった~……。と言うように見るパニティー。
 無関心なパハミエス。
 「お見事です」と、拍手をしながら歩いてくるエスカ。

 「お見事ですじゃーねーよ! バカっぱい!」

 大三郎の怒りの声に、目を丸くするマリリアンとビックマウド。

 「なに投げ飛ばしてんだよ!」
 「助けた相手に言う言葉ですか」
 
 エスカはそう言いながら、ジャーマンスープレックをされたままの大三郎の股間を踏み付ける。

 「あう! やめ、やめ、し、刺激しないで、た、勃っちゃう」
 
 エスカは頬を赤らめながら言う大三郎の顔面を踏みつけた。

 「イぶ!」
 「気持ち悪い事を、言わないで、頂け、ますか?」
 「アぶ! へぶ! ン武!」
 
 そんなやり取りを見ていたビックマウドは額に手を当て笑い出した。

 「……ふふ、あははははは!」
 
 エスカはその笑い声に驚き、大三郎の顔面を踏みつけたままビックマウドを見る。

 「どうしました?」
 「あははは! いやなに。お前がそんな事をするとは思わなんでな。ぷふ、ふわははは!」
 「え? ……。あ! こ、これは、その……きょ、教育の一環でして」

 エスカは慌てて大三郎の顔面から足をどかし、取り繕うように平静を保とうとする。
 その姿がビックマウドのツボを更に突く。

 「いやすまん。教育の一環なら仕方な、ぷふ! くふふふ! だ、駄目だ。あはははは!」
 
 初めて見る動揺するエスカ。そして、初めて聞くエスカの言い訳。それが可笑しくて笑いを堪えきれず、腹を抱え笑ってしまった。エスカは更にビックマウドにトドメの言い訳をする。  
 
 「け、決して性癖ではありません!」

 それを聞いたビックマウドは、火山が爆発するように込み上がる笑いに、腹を抱えたまま膝をついて爆笑してしまった。

 「いえ。性癖です」

 大三郎の一言にビックマウドは倒れるように笑う。
 エスカは、カーッ! と、顔を赤くし、未だにジャーマンスープレックスをされたままの大三郎を抱えるように持ち上げ、軽くジャンプをするとそのままパイルドライバーをお見舞いした。
 
 「ン武ㇷ!!」

 ビックマウドはもう声にならないほど笑い転げる。
 感情を表に出さない最も信を置いた仲間であり部下であった元女聖騎士長のエスカが、この世界の救世主にパイルドライバーをし、その横でジャーマンスープレックスの形のまま顔を青ざめさせ固まっている、名門ディエレ家の娘。その横で困り顔で苦笑いをしている五大富豪のラムダン家の娘。
 こんな異様な光景に笑うなと言う方が無理だろう。
 
 「小童。貴様も元とは言え大将軍であったのだろう。笑ってないでシャンとしろ」
 「あははは。五月蠅いわい。地位には未練も興味も無いが、誰の所為でそうなったか忘れたとは言わせんぞ。万年ジジィ」
 「我は関係ないこと。興味も無い」
 「ふん。アウタル・サクロの者がよく言うわ」
 「アウタル・サクロなど、どうでも良い」

 険悪な雰囲気の中、パイルドライバーをされていた大三郎がパタリと地面に倒れる。
 それと同時にジャーマンスープレックスのまま固まっていたメルロは、慌てて大三郎に寄り添うように手を握る。

 「きゅ、救世主様! す、すまない……、本当に本当に、すまない」

 ソフィーアもメルロの隣に座り、大三郎に申し訳なく頭を垂れた。

 「お、俺は……、メルに、ジャーマンスープレックスをされて……、もうダメかもしれない」
 「なっ!? じゃ、じゃーまん何とかとは何か分からないが、ほ、本当に申し訳ない。し、死なないでくれぇ……救世主様」

 メルロは今にも泣き出しそうな顔で大三郎を見る。

 「す……」
 「す? す、何だ? 救世主様!」
 「杉田大三郎」
 「何?」
 「俺の名前は杉田大三郎」
 「あ、ああ。知っている」
 「メルが俺の名前を言えば、神様が死なずに済むと言っている」
 「ほ、本当か?!」
 「多分。そう言っている、ような気がする」
 「わ、分かった。名を言えば良いんだな?」
 「うん」

 メルロはスゥーっと息を吸うと、大三郎に向かい名を告げる。

 「大三郎どのぉおおおお!! 死ぬなぁああああ!!」

 耳がキーンとなるほどの大声に気を失いそうになる。
 
 「は、はい。だい、だいざぶろうです……」
 「こ、これで救世主様は死なぬな? な?」
 「ぐはっ! ずっと言わなきゃ……、ダメみたい、ぐふ!」
 「なっ!? わ、分かった。これから救世主様の事を大三郎殿と呼ぶ! だ、だから、死なないでくれ」
 「ソ、ソフィーも……ね?」
 「はい。大三郎様」

 それを聞いた大三郎はニヤリと笑い、それを見たエスカは微かな笑みで溜息をつき、パニティーは可愛い笑顔でクスクスと笑った。



 
 ”サブクエスト ソフィーア・パル・ラムダンの声と言う名の愛を取り戻せ” 完了。

 メインクエスト『ペイラドワールに居る西の魔女の胸を揉み倒せ』が解放されました。 
 
 スキルレベルが上がりました。

 向上したスキル:神技全般

 尚、救世主としてのレベルアップではありませんので対価は必要としませんが、スキル向上に伴い消費する精心力せいしんりょくが上がります。
 使用時は十二分に注意をしてください。 
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