異世界で探がす愛の定義と幸せカテゴリー

彦野 うとむ

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鬼子と縫いぐるみ編

隣にいる友との約束

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 エスカが大三郎のローブを脱がせたのは昼間に折檻をした時、ローブの効果がエスカの魔法攻撃や物理攻撃を軽減させてしまっていたからだった。パンツ一丁にしたのは怒りからくる勢いなのだろう。
 
 「監視人エスカよ。もうそのくらいで良かろうて」
 
 上級者がプレイする格ゲーのような物理と魔法の見事な連続技や、それにより空を舞う大三郎に空中コンボを叩き込んでいるエスカを止めるようにパハミエスが声を掛けた。
 エスカはパハミエスの言葉を聞き、攻撃を止め肩で息をしながら「良くありません」と答える。
 まだまだ気の済まない様子のエスカ。

 「それ以上折檻をすれば、呪いを解く事に支障をきたすかもしれん。続きをしたければ呪いを解いてからにせい」

 パハミエスは溜息交じりに告げると、エスカは「……。分かりました」と、粗大ゴミのように転がっている大三郎に背を向けた。

 その光景にポカンと口を開き呆けているビックマウドは、折檻と言うには余りにも容赦の無い攻撃に驚きを隠せないでいた。
 怒りが収まらない様子でこちらに歩いてくるエスカにビックマウドは声を掛ける。
 
 「エ、エスカよ……」
 「何でしょう?」
 
 怒りの感情がたっぷりと乗った目で見てくるエスカ。こんなにも感情的になっているエスカを見たのは初めてだった事もあり、それが更なる驚きを上乗せさせた。
 
 絶望的な戦闘の中でも冷静沈着で、喝采を浴びようとも誹謗中傷を浴びようとも、人前では決して感情を表に出さないあのエスカが、大三郎のたった一言で顔を真っ赤にし、恥ずかしさと怒りを露にした。
 部下として仲間として最も信頼でき頼もしい反面、誰にも心を見せないエスカが何時も心配だったビックマウドは、色んな意味で成長しとた言うべきか変わりようと言うべきか、そんな今のエスカに戸惑う。

 「あ、あの者は……救世主だろう?」
 「そうですが?」

 怒りが収まらないエスカは、棘のある言い方では無いのだが、どことなく素っ気ない口調で答えた。
 
 「流石に……やり過ぎではないか? 下手をすれば死んでしまったかもしれんぞ?」

 初めて見る大三郎への折檻に当り前の心配をするのだが、エスカは「あんな程度では死にません。寧ろ一度死んだ方が良いです」と、素っ気なく返す。 
 その言葉に何も言えないビックマウド。更にビックマウドを異次元の世界に行ってしまうほど驚かせたのは、エスカの背後に忍者の如く忍び寄り、カンチョ―の印を結んでいる大三郎の姿だった。

 「(距離、速度、よし! 全門斉射!!)チェストォオオ!!」

 大三郎は眼鏡が本体で艦隊の頭脳のような計算をし、目の前にあるエスカの菊の御門めがけ、カンチョ―三式弾を斉射した。が、その指をエスカはガシッと掴む。

 「何度も何度も同じ手が通じるとでも?」

 エスカに何か落ち度でも? と言うような戦艦並み、いや、姫級並みの眼光で睨みつける。

 「つ、通じないですね。そ、そうですね」

 顔を真っ青にし大量の冷汗を垂らす。

 「次に何が起きるか分かりますね?」
 「え? い、いえ」
 「そうですか」

 エスカがにこりと微笑む。
 大三郎もその笑顔に「え、えへへ……」と、愛想笑いをする。

 「では」

 エスカがそう言った瞬間、ポキッと音がした。
 
 「ぴゃーーーーーーーー!!」

 大三郎はあり得ない方向に曲がった自分の指を見ながら、ゴーストフェイスのような顔で叫ぶ。
 
 「次は折ると言いましたよね?」

 大三郎は右の手首を押さえ、あり得ない方向に曲がっている自分の指を見ながら「ぴゅー!」とか「ぴゃー!」とか叫んでいる。

 「スギター!」

 パニティーは慌てて大三郎の下まで飛んで行くと、見るからに折れている大三郎の指を見て驚く。

 「エスカ! これはやり過ぎだぞ! スギタの指が折れてるじゃないか!」
 
 パニティーはエスカに振り向き憤慨するが、エスカは真剣な顔で見返し、正論をど直球で返す。

 「何度も大目に見てきました。それに、次は無いと警告しましたよ。それでもやると言う事はやられる覚悟があっての事ではありませんか? もし、これも大目に見たら、ただでさえ異常なほど丈夫な杉田様は、”何をしても大して効果が無い折檻だけで済む”と勘違いしてしまいます。その勘違いと言うものは、時に恐ろしい結果を招く事があるんですよ。万が一、勘違いを誰も正さないまま、私以外の、それも取り返しのつかない相手にしてしまった場合、どうしますか? 杉田様はその万が一をしないと言う保証はありますか? 杉田様お一人で責任を取れるなら私は何も言いません。しかし、杉田様の行動一つで、この世界を巻き込んでしまう過ちになる可能性があるのですよ。その可能性を指一本で正せるなら、私は何度でも折ります」

 アウレリアと違う全く反論の余地を許さないエスカの正論と、言ったことは必ずやる有言実行にパニティーは何も言えず、しょぼんとして肩を落とし、上目遣いでエスカを見るが、エスカは『次も折る』と言う雰囲気を醸し出したままジッとパニティーを見ている。

 パニティーは、「め」っと怒られた子犬の様な目をして、しょぼんとしたまま大三郎の下まで飛んで行った。

 「スギタ。今、治してやるからな……くすん」

 そう言うとパニティーは大三郎の明後日の方向を向いている指にそっと触れ輝き出すと、折れた指が徐々に治っていき、それに伴い痛みも消えていった。
 気付くと、エブルット戦で魔方陣を無理やり引っぺがした時に負った傷の痛みも消えていた。

 「どうだ? 痛みは消えたか?」

 パニティーは輝くのを止め大三郎を見るが、大三郎は右の手首を掴んでいた左手を離し、両手を見ながら握ったり開いたりを繰り返している。

 「まだ痛いか?」

 パニティーは再び輝き出そうとした時、大三郎は両の手のひらにパニティーをそっと乗せる。

 「パニティー、ありがとう。もう大丈夫だよ」
 
 にこりと微笑む大三郎にパニティーは「良かった」と、微笑みを返した。

 「杉田様」

 エスカの声にビクンとなる大三郎とパニティー。

 「な、ななに?」
 「エスカ! もうスギタをイジメないで! お願い!」
 
 ふるふると震える大三郎。その大三郎の顔に抱き着き守ろうとするパニティー。
 エスカはそんな二人を見て溜息をつき、「虐めていません」と言い、言葉を続ける。

 「杉田様。貴方の言動行動一つで大勢の人が傷ついたり、悲しい思いをしたりする事をお忘れなく。現に、杉田様の所為でパニティーさんはしなくてもいい悲しい思いをしたんですよ?」 

 大三郎は顔に抱き着いているパニティーをそっと手で覆う。

 「ごめん、パニティー」
 「ううん」

 気にしないでと言うように抱き着いたまま頬を摺り寄せるパニティーを、大三郎は優しく撫でる。

 「折檻と説教は終わったか?」

 パハミエスは無表情のまま声を掛ける。

 「はい」
 
 エスカは大三郎に背を向けメルロ達の方へ歩いて行った。

 「ふむ。大三郎よ」
 「なに?」
 「監視人エスカが自分を悪者にしてお主を正した事、感謝せねばならんぞ」 
 「え?」
 「お主は35と言ったな? 人の年で35と言えば教えられる立場ではなく、教えねばならん成人だ。その事は人に言われる前に己で気付け。でなければ、人々を救う道など到底見つけれんぞ」
 「……はい」
 
 大三郎はパハミエスにまで言われ、本気で反省しガチでへこんだ。特に自分の所為でパニティーに悲しい思いをさせてしまった事に深く反省をした。そしてもう一つ、ある事をエスカにしてやれてなかった事に気付く。

 「では、あの女子おなごの呪いを解くぞ」
 「……はい」

 大三郎は顔に抱き着いているパニティーをそっと肩に乗せ、ここである事をパハミエスに問いかける。

 「じーさん。ちょっと聞きたいんだけど」
 「何だ?」
 「俺さ、クソぶりっトの魔方陣を持ち上げた時に怪我したんだけどさ」
 「うむ」
 「その怪我って、回復魔法や妖精さん達で治せなかったんだ」
 「ほう」
 「でも、今さ、治った……と思う」
 「治った?」
 「うん」

 大三郎はそう言うと手に巻いてある包帯を取り始めた。 
 すると、傷だらけだった手が治っており傷痕さえない。

 「やっぱり……」

 自分の手を見ながらぼそりと呟く。

 「ふむ」

 パハミエスは大三郎の手を興味深げに見た後、徐に手を取り触診をするように観察する。

 「じーさん、何でか分かる?」
 「ふむ。真の救世主に成ったからだろう」
 「え? どゆこと?」
 
 パハミエスの顔を見ながらキョトンとする大三郎に、「それはね」と、ターニャが説明をする。

 「ターニャ。マリリアンとの話は終わったのかい?」
 「今、頼みごとをしてもらってるわ」
 「頼み事?」
 「ええ。それより、その傷の事だけど、だいざぶろーがこの世界に来た時、神々に勇者を超える者として認められたでしょ?」
 「うん」
 「その時から救世主としての肉体を与えられたのは理解しているわね?」
 「それは分かってるよ」
 「そして、神託をこなし神技を与えられた」
 「うん」
 「でも、真の救世主ではないから限界があるの」
 「限界?」
 「そう。制限と言って良いわね。何故、制限があるかって言うと、真の救世主に成る前は青星に帰れるから」
 「あ……」

 大三郎は何かに気付き思わず声を上げた。
 ターニャはそのまま説明を続ける。

 「この世界に来た時点でこの世界の理に従う事になる。それは前に話したわよね?」
 「ああ」
 「だけど、帰れる者は、この世界の理と元居た世界の理の中間に居るようなものなの。青星では夢物語のような事でもこの世界では当り前という事は沢山あるわ。例えば、魔法とかね。でも、中間に居る者はこの世界の理の恩恵の部分、回復魔法とか治癒の祈りとか、そういった恩恵をある程度しか受けられないの」

 ターニャの説明を聞き、自分が気づいた事が合っていると確信した。

 「お試し期間が終わったって事か。んで、本契約したから効果が出たってことね」
 「率直に言うとそうね。もっとはっきり言うと、だいざぶろーはこの世界の住人に成ったってこと」
 「住人?」
 「ええ。この世界の人間てこと」
 「そゆ事ね」
 
 納得している大三郎の顔の前まで来ると、ターニャは大三郎の額に自分の額をつける。 

 『だいざぶろーは、この世界では異質な存在』
 
 「え?」

 頭の中に直接ターニャの声が聞こえ、驚く大三郎。 

 『存在を認められていないこの世界で、存在を認められている唯一の存在』

 「……。そうだな」

 『この先、だいざぶろーには色んな苦難が待っているわ。その上で、だいざぶろーはだいざぶろーを犠牲にしていく事になる』

 ターニャの本当に申し訳ないと言う思いが伝わり、大三郎はターニャを優しく両手で包むと目を閉じ、心から一言だけ告げた。

 「俺が決めた事だ」

 大三郎はそう言うと、ターニャから額を離し「だから、気にすんな」と、にこりと微笑む。
 ターニャはその微笑みに「ありがとう」と、微笑みを返した。
 そして再び大三郎の額にふわりと近づき、”妖精の守護天使、スプリムスの加護があらん事を”と唱えると、大三郎の額にキスをした。
 
 大三郎がキスをされているのをパニティーは目を丸くして固まったまま見ていた。

 「すぷり、何?」
 「大三郎を見守ってくれる天使よ」
 「え? 天使? ……マジで居るの?」
 
 大三郎はエスカに大魔王だろうが大天使だろうが仲間にすると言ったが、あれは言葉の綾で、本当に居るとは思っていなかった。

 「神様だって魔王だって居るんだもの、天使だって居るわ」

 さも当たり前のように言うターニャに、大三郎は真顔で質問をする。

 「女の子ですか?」
 「え?」
 「天使は女の子ですか?」
 「え、ええ。男性も女性も居るわ」
 「男はいいです」
 「そ、そう?」
 「その女の子の天使は可愛い系ですか? 美人系ですか? 身長、スタイルどういった感じですか? ちちしりふとももはどんな感じですか? 巨乳系ですか? 貧乳系ですか? 美乳系ですか?」
 「え? え? え?」 

 立て続けに質問をしてくる大三郎に戸惑うターニャ。 

 「大事な事なのでもう一度言います。その女の子の天使は可愛い系ですか? 美人系ですか? 身長、スタイルどういった感じですか? ちちしりふとももはどんな感じですか? 巨乳系ですか? 貧乳系ですか? 美乳系ですか? ついでに性格はおっとり系ですか? もじもじ系ですか? ツンデレ系ですか? 出来ればブラコン妹系を所望したいのですが可能ですか?」

 真顔のまま息継ぎなしで矢継ぎ早に質問をしてくる大三郎の気迫に押され、ターニャはたじろいでしまう。

 「ス~ギ~タ~」

 肩に居るパニティーは立ち上がり、腰に手を当て、頬をぷくりと膨らませながら大三郎を睨みつける。だが、その姿がまた可愛い。
 大三郎は顔をぐるりとパニティーに向け、への字の太い眉毛が凛々しいゴルゴな真顔で言う。

 「パニティー以上の美少女なんていません。ご安心ください」
 「――ッ?! もー! スギタ、ズルい……」

 ボン! と、顔を真っ赤にし語尾が消えかけるように恥ずかしがるパニティー。
 大三郎は、(もしパニティーが物理的に色々無理じゃなかったら、俺のリビドーはスポットライトを浴びながら、杉田型性欲艦、一番艦、杉田。推して参ります! で抜錨してしまうだろう)と、童貞ならではの、出来もしない妄想に耽る。
  
 その時だった、大三郎めがけ銀の聖杯が飛んできた。
 スコーン! と、大三郎の頭に見事命中する聖杯。

 「デスッ!」
 「ソフィーアさんの呪いを解きますよ」
 「い、いで~……。エスカてめー! パニティーに当たったらどーすんだ!」
 「それは絶対にありませんので
 
 大三郎は思う。どんな障害物があろうとも、どんなに距離があろうともピンポイントで絶対当てるだろうと。

 「痛い思いをしたくなければ、変な言動や行動は慎んでください」
 「分かった」
 「何時もそのくらい素直でいてくれさえすれば、痛い思いをしなくて済みますよ」
 「うん。俺の所為でパニティーを悲しませたくない」
 「それを心掛けてください」
 「ああ。心掛けて絶対にしない」
 「そう思ってくだされば結構です。では――――」
 「お前以外にはな!!」
 「は?」
 「エスカ! お前だけにはする! 神々がするなと言っても、だが断ると俺はする!」

 ビシッ! と、ジョジョ立ちでエスカを指さし宣言をした。
 ピシッ! と、エスカの蟀谷こめかみに怒りマークが浮き出る。

 「言葉で言っても分かりませんか?」
 
 エスカの目がハイライトオフになる。
 しかし、大三郎は臆せずエスカの前まで歩いて行くと真剣な目で自分の思いを告げる。

 「俺はお前を尊敬するが崇めたりしない。お前に行くぞと言うが、付いて来いとは言わない。俺はお前の隣に居る者だからだ。それと、これだけは忘れるな。お前にこんな事をするのは俺だけだ。俺がこんな事をするのは俺の隣に居る奴にだけだ」

 エスカは大三郎の言葉に目を見開き驚いてしまう。

 「ダチにしかできねーだろ。変な事を出来るのはよ」
 
 大三郎はにこりと笑い、エスカの肩をポンと叩く。

 エスカの性格を的確に捉えた『自分を悪者にして』と言っパハミエスの言葉。人生そのものと言っていい聖騎士の誓いを捨ててまで、大三郎の為に『己の全てを捧げる者』と言ってくれた言葉。誰かに理解してもらえなくても、その所為で孤独になろうとも自分を犠牲にしてまで守ろうとする人物だと、ロシルとの会話でロシルの涙が教えてくれた。
 そして、出会ってから今日まで見て来たエスカの姿は、独りにはさせたくない友だと大三郎に思わせるには十分だった。

 「エスカ」
 「はい」
 「俺に気を使うな」
 「使った覚えはありませんが?」
 
 無表情を辛うじて保ちながら即答をする。

 「ほんと、お前は言葉のキャッチボールしないでホームラン打つよな?」
 「何の事でしょう?」
 
 動揺を隠すように、大三郎に気付かれまいと無表情を貫く。
 そんなエスカに「ま、いいや」と言うと、真っ直ぐ見つめ「俺の為に悪者になるなつってんだ」と、ストレートに言った。
 エスカはその目をジッと見返し、「なった覚えはありませんが?」と素っ気なく返す。
 大三郎は腰に手を当て、(意地っ張りで頑固なのは分かってるけど、大事な所でもそれを押し通そうとするんだよなぁ~こいつは)と溜息をつく。

 「ったく。俺は馬鹿だが――――」
 「知っています」
 「喋ってる最中なんですけど! 俺の言葉に被ってこないでもらえませんか?!」
 「フン」
 
 大三郎のツッコミにフンと鼻を鳴らし爆乳の下で腕を組みそっぽを向く。

 「融通の利かない頑固一徹爆乳石頭」
 「何か言いましたか?」
 
 そっぽを向いたまま目だけをギロリと動かし大三郎を見る。

 「ああ言ったよ。これからお前の二つ名ガッ!」
 「二つ名が何で――――ッ!!」
 
 何時もの如く、エスカのアイアンクローが大三郎の顔面を掴んだ瞬間、大三郎はエスカの爆乳にアイアンクローを返す。エスカは後ろに下がり離れようとした時、大三郎がエスカに警告をする。

 「動くな! 動けばお前の爆乳を掴んでいる指が、ゴッド・フィンガーになって乳首を摘まむ事になるぞ」
 「――――ッ?!」
 「俺の顔面をアイアンクローしている手に力を入れても、同じようにゴッド・フィンガーで乳首を摘まむ」
 「――――ッ?!」

 脅迫まがいな言葉で自分の行動を見透かされたように言われ身動きが取れない。

 「そのまま聞け」

 エスカは顔を赤くさせたまま、悔しそうな顔と恥ずかしそうな顔が混じり合う顔で大三郎の言葉を渋々聞くことにした。

 「話があるならさっさと言って、私の胸からその小汚い手を離してください」
 「小汚いって言うな! 汚いより傷つくわ!」
 「早くしてください」

 折檻中に胸を叩かれたり、勢いで胸に顔を埋められたりしたが、初めて真面に胸を掴まれ恥ずかしさが頂点に達しそうになっている上、産まれて初めて誰かに面と向かって友と言われ動揺していた。
 大三郎と出会うまで、誰かに友と言われたとしても、下心や自分を利用する言葉と受け取り素直には信じなかっただろう。実際、エスカが生きてきた世界はそう言った者が多かった。だが、大三郎はおバカで助平だが、下心や人を利用する言葉でそんな事を言わない人間だとエスカは理解していた。だから尚更、大三郎の友と言ってくれた言葉はエスカを素で動揺させた。
 大三郎はアイアンクローをされ、動揺しているエスカに気付く事が出来なかった所為もあり、更にエスカの心に直球を投げかける言葉を言い始める。

 「この世界を救うと俺はお前と約束をした。だから、お前も約束をしろ」
 「……。何をですか?」
 「俺の為に悪者になるな。自分から独りになろうとするな。何かあったら必ず頼れ。一人で抱え込むな。分かったか?」
 「私との約束は一つなのに、何故杉田様は幾つも約束を守らせようとするのですか? 不公平です」
 「世界を救う事はそんに安いものなのか? この程度の約束なんて十でも二十でも足りないくらいだぞ」
 
 大三郎の珍しい正論に何も言えないエスカ。

 「自分から独りになろうとすれば、ダチも独りになる事を忘れるな。お前を信頼してくれたパニティー達を、お前の意地の為に独りにさせるつもりか?」
 「い、いえ……」
 「さっき、じーさんにちょっと怒られた」
 「え?」
 「その時、俺はまだお前の隣に居てやれてないんだなって思った。お前にする事は他の奴にはしない。ダチ以外に出来る事じゃねーしな。それを信用しろとまでは言わない。けどな、自分を悪者にしてまで俺に変な気を使うな。ダチなんだからさ、……悲しくなるよ」
 
 エスカは大三郎の顔面を掴んでいる手に力を入れようとしても力は入らないだろう。それ程、初めて感じる気持ちに動揺していた。
 少し間を置き、「……。分かりました」と言うと、大三郎の顔面から手を離し、自分の顔を見せないようにそっぽを向く。

 大三郎は「分かってくれて良かったよ」とにこりと笑う。 

 「……。何時まで触っているつもりですか?」
 「え?」
 「手を離してください」

 大三郎の手は未だにエスカの爆乳をしっかりと掴んでいた。
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