異世界で探がす愛の定義と幸せカテゴリー

彦野 うとむ

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鬼子と縫いぐるみ編

美女は野獣

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 とある洋館の一室。
 白いレースの天蓋の中、縫いぐるみが敷き詰められた幼いお姫様が眠るベッド。
 その横の椅子に座りダルトが優しい眼差しを向けている。

 「ダルト兄様」
 
 そっとドアを開け、小声でティリスが名を呼ぶ。

 「今、眠ったところだよ」
 
 ティリスはダルトの言葉を聞き、音を立てずに部屋の中へ入ると、小さな寝息を立てているピコラの頬を優しく撫でた。
 そして、ダルトの方を向き「紅茶を淹れたわ。少し休んで」と言うと、「そうさせてもらうよ」とダルトはスッと立ち上がり、ティリスと部屋を出て行った。
 二人は応接間に行き、ダルトが椅子に座るとティリスが紅茶を置く。

 「ありがとう」
 「ピコラの様子はどう?」
 「大丈夫だよ。薬が効いてうなされる事もなくゆっくり眠れるだろう」 
 「そう」
 「心配しなくても、暫く僕はここに居るから」
 
 にこりと微笑むダルトにティリスは申し訳なさそうな笑顔を見せた。
 ダルトはティーカップを手に取り、紅茶を口に運ぶ。

 「サマトリアが大騒ぎしてたわ」
 「サマトリアが? 何故だい?」
 「パハミエスがヘンキロを連れて行ったって」
 「パハミエスが? 何処にだい?」
 「分からないわ。ただ……」
 「ただ?」 
 「パハミエスがアウタル・サクロを辞めると言ってヘンキロを連れて行ったって」
 
 ダルトはその言葉を聞いて紅茶を吹き出しそうになった。
 
 「ぐふ! ……な、何だって?」
 「詳しくは分からないけど、パハミエスがアウタル・サクロを辞めたのは確かみたいよ」
 
 紅茶を片手に目を丸くして言葉を失うダルト。
 
 「サマトリアが言うには、突然、本城に転移魔法で現れて、「我は今よりアウタル・サクロを抜ける。異議は聞かん」とだけ告げると、本城の研究室から自分の資材や資料を全部転移魔法で何処かに送った後、そのままパハミエスも転移魔法で姿を消したって。本城に居合わせたメンバーが唖然としていると、また現れて、たまたま本城に居たヘンキロを何も言わずに連れて行ってしまったらしいわ」

 ダルトは驚き過ぎて、ティーカップを持ったまま固まってしまう。
 
 「ダルト兄様?」
 「え? あ、ああ」

 ダルトはティーカップを置き、少し考え込んだ後、ティリスを見る。

 「ティリス」
 「なに?」
 「転魔鏡てんまきょうを借りても良いかい?」
 「ええ。良いわよ?」

 転魔鏡は地球で言うところのWEBカメラ兼モニターのような物で、それに魔力を込めると話したい相が何処に居ようと会話が出来るという便利な物。ただし、強力な結界がある場所や相手が拒否した場合は会話は出来ない。
 
 ダルトは応接間を出て、ティリスの寝室へと行く。
 勿論この部屋はピコラとダルト以外は立ち入り禁止。

 ダルトは転魔鏡の前に行くと、パハミエスとヘンキロに繋げようとするが繋がらない。
 仕方なく、サマトリアに繋げた。

 「ダルト様!」
 
 縦巻きロールが特徴的な髪型、化粧で整えた顔、肩だしドレス、大三郎が見たら「あ、キャバ嬢」と、思わず言ってしまいそうなサマトリアは、ダルトを見るや気取っているのか意識しているのか、渾身のお誘いモードな顔をする。
 
 「突然、申し訳ないね。少し聞き――――」
 「ダルト様! 待ってください!」
 
 ダルトに向かってフェロモンを出しまくっていたサマトリアは、ダルトが居る場所が見覚えのある部屋だと気付くと、ダルトの言葉を遮るように大声を上げた。

 「な、何だい?」
 「もしかして、そこは……」
 「え? ああ、ここかい? ここは――――」
 「まさか!? 永遠のロリっ子の部屋ではありませんか?!」 
 「え、永遠のロリっ子って……君」

 ダルトは苦笑いを浮かべる。
 その後ろからティリスがスッと現れた。

 「永遠のロリっ子で悪かったわね。永遠の若作りさん」
 「何ですって!?」
 
 ティリスは顎をクイッと上げ、見下すようにサマトリアを見る。

 「あら? 本当の事を言ってごめんなさい。ふふふ」
 「幼児体形が何を言ってるのよ!?」
 「なっ!? よ、幼児体形ですって!?」
 「あら? 本当の事を言ってごめんなさい。おーほほほ」
 
 サマトリアはお返しと言わんばかりに、ティリスの言葉を真似た後、手の甲を口元に当て高らかに笑う。
 ティリスは顔を引きつかせ小さな肩をフルフルと震えさせながら反撃する。
 
 「ふふふ……。そうね、何枚重ねか分からないパット胸のあなたから見たら私は幼児体形ですものね?」
 「パ、パパ、パット胸ですって?!」
 
 その言葉を聞いたサマトリアは顔を真っ赤にさせ、縦巻きロールがドリルになるんじゃないかと言わんばかりに怒りに震えている。

 「き、君達、もうその辺で止めてもらえないかな?」
 
 二人の間に挟まれているダルトは困った顔で告げると、ティリスとサマトリアは渋々ながらお互い「ふん!」と言うように口喧嘩をやめた。

 「ところでサマトリア」
 「何ですか? ダルト様」
 「ティリスから聞いたんだけど、パハミエスがアウタル・サクロを抜けたって本当かい?」
 「ええ。その場に居合わせたので本当です。さっきも、ティリスが何か知ってないかと転魔鏡で聞いたのですけど……」
 「そうか……」

 ダルトは眉間にシワを寄せながら、考え込むように口元に拳を当てる。

 「ダルト様もご存じありませんでした?」
 「え? ああ。僕もティリスに聞いて今知ったところなんだ」
 「……そうですか」
 「ヘンキロも居なくなったと聞いたよ」
 「ええ。あの木偶人形。ボロボロになって帰って来たと思ったら、今度は何も言わずにアウタル・サクロを抜けるだなんて。ダルト様があの木偶人形を庇わなかったら、ボロボロになって帰って来た時点でバラバラにしてました」
 「いやいや。彼だって君の為に色々頑張ってたじゃないか?」
 「それとこれとは別です!」
 
 憤慨するサマトリアに少し困った顔でダルトはため息をつき、再び本題に入る。
 
 「本城の方は今どんな感じなんだい?」
 「あそこはハチの巣を突いた状態です」
 「そうだよね」
 「ヘンキロはともかく、パハミエスが抜けるだなんて誰も予想すらしてませんでしたもの」
 「そうか……」
 「あ。そう言えば」

 サマトリアはついでに何かを思い出した。

 「何だい?」
 「エブルットが行方不明だそうです」
 「行方不明?」
 「はい。エブルットの居城に突然ボッコボコになったエブルットが現れて、手下共が手当てをしていたらしいのですが、目を離した隙に忽然と居なくなったそうです」
 「そうなのかい?」
 「はい。ただ……」
 「ただ?」
 「あまり詳しくは聞いてませんでしたが、動ける様な怪我ではなかったと言ってました」
 「そうだろうね……」
 「え?」
 「いやいや。何でもないよ」

 ――手加減無しのヘンキロの攻撃を受けて暫くは真面に動けもしないはずなのに……。どう言う事だ?

 ダルトはまた拳を口元に当て考え込む。

 「ダルト様?」
 「すまないサマトリア。僕はちょっと用事が出来た。また何か分かったら連絡してくれないかい?」
 「え? は、はい! その時は、私の部屋――――」
 「はい、話は終わり」

 サマトリアが何かを言いかけていたが、ティリスはお構いなしに魔力を切断した。

 「ティリス……」
 「いいの。行きましょうダルト兄様。紅茶が冷めてしまうわ」
 「あ、ああ」

 ティリスはそう言うとダルトの手を引っ張り寝室から出て行った。


                 ◇


 大三郎達が宿泊しているリビングで、テーブルや床に置かれた大量の書物に囲まれているパハミエス。
 メルロやソフィーア、そして妖精達の前で、拍手喝采を浴びながら手品を披露しているヘンキロ。
 そして、エスカに説教をされている大三郎。

 「杉田様は馬鹿なのですか? 馬鹿なのは知っていますが、底無しなのですか?」
 「バカバカ言うなよぉ」
 
 頭にたんこぶを作り正座をしている大三郎の前で、ビック7並みの仁王立ちをしているエスカ。
 サノスの所に妖精を斬った冒険者を置いて来たからリトットへ行こうと大三郎に言われた時、エスカは開いた口が塞がらなかった。
 もし、サノスに何かあったらどうするのだとエスカから拳骨を喰らい、エスカは慌てて、まだ妖精の森に滞在しているビックマウドの所へ行き、事の次第を説明した上で、ビックマウドから直接リトットの支局に連絡を入れてもらいサノスを保護し冒険者を確保してもらうよう頼んだ。
 ビックマウドはすぐさまリトットの支局に連絡を入れ、憲兵隊と共に保護と確保を迅速に行うよう命じ、お供をしていたアゲイルとマイゼルにリトットへ赴き冒険者の身元を調べるように命じた後、ロシル達に二人の護衛を頼んだ。
 程なくして支局から無事に保護と確保が完了したと連絡がきて一安心したエスカは、ビックマウドに礼を言うと大三郎の下に弾丸の如く駆け戻り今に至る。

 「もしサノスさんに万が一の事があったら、杉田様はどうするつもりだったのですか?」
 「い、いやぁ。ゴッド・フィンガーを使ったから、もう大丈夫かなぁ~って」
 
 大三郎は俯きながら首を左右に揺らし、口を尖らせながら言い訳をする。
 
 「大丈夫でなかったら、どうするつもりでした?」

 徐々に鬼の顔になるエスカ。

 「……ご、ごめんなさい」
 
 項垂れる大三郎。

 「あと十日程はここに居て良いと言われてますけど、私はまだやる事があるので今すぐにとはいきませんが、明日の朝一番でリトットへ行きますよ」
 「はい……」
 「それまでは、この宿泊施設から一歩も出ないこと」
 「え? なんで?」
 「分かりましたか?」

 鬼だ。鬼が居る。と、大三郎は心の中で呟き「はい」と返事をした。

 「それと」
 「まだ、何かあるの?」

 恐る恐るエスカの顔を見る。

 「正座、後、一時間」
 「え?」
 「十時間にしますか?」
 「一時間でお願いします」
 
 再び項垂れる大三郎。

 「パハミエス」
 
 エスカは、書物に囲まれ分厚い本を読みふけるパハミエスの方を向き声を掛け、パハミエスは本を読みながら返事をする。

 「何だ?」 
 「もし、私が居ない間に杉田様がこの施設から一歩でも出たら、その時は容赦なく杉田様にかなり痛い攻撃魔法を掛けてください」
 「分かった」
 「じーさん! 分からないで! そこは断って!」
 
 その瞬間、エスカの手が万力の如く大三郎の頭を掴む。

 「出るな。と、言う事です。分かりましたか?」
 「は、はい」

 子供には『見せられないよ』な顔で大三郎を睨みつけるエスカ。
 少しチビる大三郎。

 エスカは大三郎の返事を聞くと宿泊施設から出て行った。
 
 エスカが出て行ってから五分ほど経った頃、エスカが出て行った途端に正座をやめ、床に寝転んでいた大三郎はパハミエスにちょっかいを出し始める。
 
 「じーさん」
 「何だ?」
 「何読んでんの?」
 「聖杯についてだ」
 「マジで? 見せて見せて」

 パハミエスは読んでいた本を大三郎に渡し、別な本を読み始める。
 大三郎は床に胡坐をかき渡された本に目を落とす。

 「……。読めないんだけど」
 
 本の文章は見た事も無い文字で書かれていた。

 「古代文字だからな」
 「先に言ってよ」
 「言っても見たいと騒ぐだろう?」
 「そうだけど。てか、エロ本とかないの?」
 「エロ本?」
 「裸の女性が載ってる本とかさ」

 その瞬間、「エスカに告げ口しちゃうぞ」と耳元で言われ、ドキンとして声の主を見る。

 「パ、パニティー。ビビらすなよ~」
 「スギタが変な事を言うからだぞ」
 「冗談に決まってんじゃ~ん」
 「本当かなぁ~?」

 パニティーは腕を組み、疑いの目で大三郎を見る。
 大三郎は、あはは……。と言うように誤魔化す。

 「ほれ」

 パハミエスがポンと大三郎の前に本を投げ置く。
 「ん? なにこれ?」と、大三郎は本を拾い、本を開くと様々な体位が描かれている、日本で言うところの春画だった。
 
 それを見たパニティーは、一瞬、頭の上に?マークが出たが、すぐに性行為の内容だと気づき顔をボンと真っ赤にさせた。

 「うおー。すげー。この世界にもエロ本あるんだ~。へー。てか、リアルだな~。うお! こいつ……動くぞ!」

 流石、異世界の春画。  
 絵は実写に近く、そして、ページに触れるとプレビュー動画のように動く。勿論、モザイクなども無い。
 大三郎は己のリビドーよりも、素直に本の仕組みと内容に感心していた。

 「パニティー、これ凄ギャン!」
 
 大三郎がパニティーの方へ顔を向けた瞬間、パニティーのビンタが大三郎の眼球にヒットした。

 「スギタのエッチ!!」
 「目がぁー! 目がぁー!」

 顔を真っ赤にさせるパニティーと、目を押さえのたうち回る大三郎。 
 パニティーは「スギタのバカ! もう知らない!」と、憤慨しながら飛び去ろうとしたその時、大三郎はムクリと立ち上がり、「何処へ行こうというのかね?」と、どこぞの大佐のような歩き方でパニティーを追いかける。

 大三郎とパニティーの追いかけっこが始まる。
 メルロやソフィーア、妖精の娘達はヘンキロの超絶テクニックな手品を見て大興奮中。
 数人の妖精の娘は、パハミエスの頭の上でどれだけ滑らずに座っていられるかを、オヤツを賭けて競い合っていた。そんな妖精達をパハミエスは気にする様子もなく本を読みふけっている。
 普段は静かなこの宿泊施設も、大三郎達が居る事で賑やかだった。 
 
 キャッキャと追いかけっこをしていたパニティーだったが、大三郎に追い詰められてしまった。

 「ふふふ。追い詰めたぞぉ~、パニティー」
 
 チェストの上に置いてある花瓶を背にしているパニティーに、大三郎は指をワキワキさせながらにじり寄る。

 「スギタは、そんなに見たいの?」
 「え? なにが?」
 「女の人の裸……」
 
 パニティーは俯きながら上目遣いで大三郎を見た後、目を伏せる。 

 「良いよ……」
 「なにが?」
 「スギタなら良いよ」
 
 伏せていた目をもう一度大三郎に向け、頬を赤らめ上目遣いで肩部分の服に手を掛ける。

 「へ?」
 「見たいんでしょ?」
 
 パニティーはそう言いながら肩部分の服を下ろし始めた。

 「ちょちょっと待って! エスカになら兎も角、パニティーにそんな事をしたりさせたりしたら、俺が本当の悪者になっちゃうよ」
 
 大三郎は本気で焦り、服を脱ごうとしているパニティ-を必死に止める。

 「私のじゃ見たくないの?」
 「そんな事ない! でも、パニティーはそんなキャラじゃないの!」
 「キャラ?」
 「そう! パニティーはね、元気で優しくて、プラス、ソフィーの清楚系に入るの。エスカとは違うの。エスカになら何しても良いけど、パニティーにはダメなの」

 必死にパニティーを説得する大三郎。

 「エスカになら何をしても良いのですか?」
 「あいつになら何したって構やしないさ。美人のクセに女の良い所を全部自分で台無しにしている奴だもの、逆にやってやらなきゃ爆乳からただの牛って言われちゃうって、そんな事はない! 牛なんて言われない!」

 大三郎はパニティーの後ろの開いている窓に目をやり滝のような汗を吹き出す。
 目と目が合う。目と目が合ってはいけない人物とロックオン状態なほど目と目がガッチリ合う。
 その人物はスッと居なくなるが、玄関に向かっているのが分かる。
 玄関のドアが開く音が後方から聞こえ、足音が近づいて来た。
 
 「俺の後ろに牛乳鬼女うしぢちおにおんなが居る。うん、振り向かなくったって手に取るように分かる。ほんと、もう、何だろうね? このタイミングの良さと言うか悪さと言うか、ね。ほんと、今度から確認してから喋ろう。……どうしよう、振り向くのが怖い。う、うう、ううぅ……」

 大三郎は口に手を当て泣き始めた。

 「そうですか。では」

 エスカはそういうと大三郎の頭をガシッと掴み、そのまま頭だけをグリッ&ゴキッと自分の方へ向けた。

 「へケッ!」

 ハムスターのような可愛い声ではなく、ある意味短い断末魔だった。

 涙とよだれと鼻水を垂らし、白目をむいてエスカに頭を捕まれたままぶら下がるようにだらんとする。

 「貴方はパニティーさんに何て事をさせようとしていたのですか?」
 
 監視人と言うよりエクスキューショナーな雰囲気を醸し出すエスカが、これから大三郎に何をするのか分かるパニティーは慌てて止めに入る。

 「エ、エスカ! ち、違うよ!」
 「何がです?」 
 「女の裸が見たいってスギタが言うから、見せてあげるだけだよ!」
 
 大三郎は薄れる意識の中で(パニティー、それフォローじゃない、ただのトドメだ)と、思うのだった。

 「そうですか」

 エスカは怒りを超越した、それはもう見事な恐ろしいほどの冷たい顔になる。

 「だから許してやってよ? スギタは悪くないから」

 必死に止めようとするパニティーを見て、朝まで拷問をしようと考えていたエスカは少し間を置き、「……。分かりました。今回は大目に見ましょう」と怒りを鎮める。それを見て、「良かったぁ~」と、胸をなで下ろすパニティー。
 エスカは大三郎の頭を掴んだまま玄関に向かうと、「ですが、昼食は抜きです」と外へ放り投げ、パニティーに振り向き「躾は大事です」と一言。

 「う、うん」

 パニティーは、エスカに叩かれたり蹴られたりするよりはマシかなと納得し、(後で、果物持ってってあげよう)と思ったその瞬間、外からライトニング以上の落雷の稲光と轟音が鳴り響いた。

 「な、なに?!」

 一同はその稲光と轟音に驚き、外を見ようとした瞬間、今度は特大のキャンプファイヤーの如き炎が立ち上がる。

 「あぢぃいいいい!!!」

 外から大三郎の悲鳴。
 その悲鳴に皆は玄関のドアを開け外を見る者、窓から外を見る者と居る中、今度は火だるまになりながら走り回っていた大三郎が、カキン! と凍り付く。そして、また特大の落雷が直撃する。

 「あ……」

 大三郎を見ていたエスカは何かに気付いた。

 「そう言えば、この宿泊施設から出たら魔法を掛けるように頼んでいました」
 
 さらっと言うエスカをパニティーは目を丸くして見る。

 「ま、これも躾です」と言いながら、パハミエスの攻撃魔法を連続で喰らっている大三郎を気にする事もなく自室に向かう。

 「うぉらぁあー! バカっぱいとじじぃー!」
 
 玄関を見ると、大三郎が凍り付いたアフロヘア―に、体中から煙を出し焦げた匂いをさせながら憤慨している。

 「何ですか?」
 「何ですか? じゃねーよ! バカっぱい!」
 「私は忙しいので要件は短めにお願いします」
 「おう! 短めに言ってやる! 牛乳処女バカ女! テメーぎゃぁああああ!!」

 詰め寄る大三郎の手を取り、合気道などで使われる『小手捻り』に似た関節技を決める。
  
 「何ですか?」
 「何でもないです!! ごめんなさぁあああい!!」
 「ウシヂチなんとかとは誰の事です?」
 「架空の人物です!! フィクションです!」
 
 エスカは、ふんと鼻を鳴らすように関節を決めている手を離し、何時もように頭を踏みつける。

 「さっきの言葉をもう一度言ったら、次は本当に折りま――――ッ!?」

 エスカが話している最中に大三郎は二ヤリとほくそ笑むと、床についているエスカの片方の足の踵を掬い上げるように引っ張り、自分の頭に体重が掛かった瞬間、大三郎は仰向けになるように頭を捻るとエスカはバランスを崩し、尻もちをつく形で転ぶ。
 その刹那、大三郎はエスカのお尻が床につく位置に自分の顔を置き、顔面でエスカのお尻を受け止めた。

 「――――ッッッ!!?」

 目を丸くし、ビクン! と、体を硬直させるエスカ。

 「ゥゥウウウウエスクァアアア!!」

 今度は菊の御門だけではなく、そこに行けばどんな夢も叶うかもしれない、誰も皆、行きたがるが遥かな世界でもある、その場所の名は『言える訳ないよ』なユートピアに、大三郎は追撃の咆哮を上げた。

 何時もならここでエスカの猛攻が始まるのだが、エスカはスクッと立ち上がると大三郎に見向きもしないでパハミエスの所へ行き、外を指さし何やら頼み事をしている。
 パハミエスは外に手を翳し、ブツブツと何かを唱えまた本を読み始めた。
 エスカはパハミエスに軽く一礼をして、大三郎を無造作に掴み外へ出て行った。
 
 メルロは外を見た瞬間、妖精の娘達を部屋の奥へ連れて行き、ヘンキロに手品の続きを見せてくれるように頼み込むとヘンキロは嬉々として手品を見せ始め、ソフィーアは大三郎とエスカが居る方のカーテンをそっと閉めた。 
 
 一部始終を見ているパニティーは、結構大変な治癒の祈りになるなと気合を入れる。
 
 外の大三郎はパハミエスの強固な防御結界の中で、全てにモザイクが入るほどエスカから物理、魔法問わず折檻を受けていた。

 
 その時、無造作に掴まれ外に引きずられて行く時に懐から落ちた神託の紙が人知れず輝き、次のクエストを示していた。


 ”クエスト3 ペイラドワールに居る西の魔女の胸を揉み倒せ”

 ”サブクエスト ソフィーア・パル・ラムダンの声と言う名の愛を取り戻せ”

 ”尚、サブクエストのクリアーがクエスト3の発生条件となります”


 近くに居たパハミエスの頭で遊ぶ妖精の娘がそれに気づきパハミエスに教えると、パハミエスは立ち上がり神託の紙を手に取る。そして、内容を読むと髭を摘まみ摩り「ふむ」と言うと神託の紙をテーブルに置き、また分厚い本を読み始めた。
 再び妖精の娘達はパハミエスの頭で遊び始め、外から絶え間なく魔法が発動する閃光がビカリビカリと窓ガラスを照らす。
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