異世界で探がす愛の定義と幸せカテゴリー

彦野 うとむ

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妖精の森編

とあるダメ男の一期一会

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 昼間の妖精の森は桃源郷の様で、夜の妖精の森は幻想的な美しさを見せてくれる。
 妖精の泉の畔。
 可愛い寝顔をし、小さな寝息を立てているパニティーを膝の上に乗せ、大三郎は幻想的な妖精の泉を見ていた。
 幻想的な美しい景色の所為もあってか、今も今までも、全て夢の中の出来事なのではないかと思ってしまう。
 ただ、手の痛みだけが現実だと教えてくれる。

 大三郎の手の怪我に、妖精の癒しも回復魔法も効かなかった。
 今だけかもしれないし、ずっとかもしれない。それとも、何か切っ掛けがあって妖精の癒しや回復魔法が効かないのかもしれないし、フラグを立てなきゃ回復系が効かないのかもしれない。
 
 「なんも分かんねーや……」

 包帯を巻いた手を見てそう呟いた。
 手の怪我に気付いたのは、森に帰って来てから。
 痛みに対して鈍くなっているのか、それとも神々の加護というやつで痛みを和らげてもらっているのか。それも分からない。

 パハミエスは、分からない事が羨ましいと言っていたが、それはものによると大三郎は思った。そして、大好きなファンタジー小説や漫画やゲームなどで、主人公が記憶喪失になるストーリーを思い出す。

 ――こんな感じなのかな……?

 異世界に来たという、『確かなもの』が無い大三郎にとって、記憶を失った主人公のように、この世界の事も自分の事も何も分からない。
 
 ――これがゲームなら、間違いなくクソゲーだな。

 クソゲーあるあるみたいな、パッケージの裏に書かれている大雑把なストーリーの説明しかなく、始まりの場所ですらどこなのか分からない突然の始まり。どこで何をすれば良いのかも分からない。理不尽な世界、鬼畜な設定、唐突な展開、それで最初から理解しろと言う方が無理だろう。
 聞こうとしない大三郎も悪いのだけれど、エスカに聞くとエスカが困るような気がして躊躇していた。何しろ、エスカは大三郎を知るための監視人なのだから、救世主の事をあれやこれやと聞かれても答えられない方が多いだろうと、大三郎はそう思っていた。
 
 妖精の森に戻ってから、あれほど寄って来ていた妖精達がよそよそしくなり、いつの間にか姿さえ現さなくなった。
 大三郎はその原因を聞こうと、森をウロウロして中央の島に立ち寄った時、パニティーがひな壇の前でアウレリア達と話しているのを見かけ、邪魔するのも悪いと思い、話が終わるまで物陰に腰を下ろし待っていた。盗み聞きする気は無かったが話が聞こえてしまった。大体はパニティーの大声だったから、耳を塞いでも聞こえていただろう。
 大三郎は妖精の森の夜空を見ながら話を聞いていた。
 

 話によれば、どうやら俺は闇落ちと言うものをしたらしい。
 記憶が曖昧なのはその所為なんだろう。
 闇落ちは神々に背く行為らしく、妖精王の居る森に何時までも居させる訳にはいかないとアウレリアが言っていた。
 案の定、パニティーは俺のために憤慨してくれていた。
 本当に一生懸命、憤慨しながら俺を庇ってくれていた。

 俺はこの森に居てはいけないらしく、それは俺が闇落ちと言うものをしてしまったからなんだとか。
 妖精の森は、この世界の各地にあるらしく、その中でも妖精王が居るのはこの森だけらしい。
 そして、妖精界の中でも妖精王が居るこの森は『神聖なる森』と呼ばれていると言っていた。
 その妖精王が居る森に、俺が居るのはまずいらしい。

 アウレリアも言っていたが、神々に救世主として認められた俺だからこそ、闇落ちをした俺が何もしないまま、ここに居る事が妖精の森にとって良いとは言い難い。早い話、ここに居る資格、というものが必要と言う事だ。
 その辺の諸々な事情はよく分かる。簡単に言えば、大人の事情。

 まぁ、そんなに長居する気は最初から無かったし、地球でも社会に出れば似たような事は少なからず体験する、だから、その事については別に何とも思わなかった。
 ただ、パニティーが「スギタはこの森を守ってくれたんだよ! 皆を守ってくれたんだよ!」と、たった一人でアウレリア達に、大声で涙ながらに訴えてくれていた。本当に一生懸命。
 俺は、他の誰かに罵倒されようが、どんなに誤解されようが悪口を言われようが、パニティーの言葉だけで、それだけで十分だった。本当に心打たれてしまった。
 

 大三郎は夜空を見ながら、零れ落ちそうな涙を堪えた。
 
 突然、「分からずや―! バカアホ―! こんな森出てってやる!」と、パニティーが叫んだのが聞こえ、驚いて物陰から見てみると、パニティーが泣きながら飛んで行く姿あった。 
 ひな壇に居る妖精達は驚いた顔で言葉を失っている中、アウレリアは静かな、そして、何とも切ない目で飛んで行くパニティーの後姿を見ていた。

 その後、パニティーを探しに森の中を歩いていると、妖精の泉に辿り着く。
 パニティーは一人、泉の畔で膝を抱えて泣いていた。
 
 泣いている自分の隣にそっと座る大三郎に気付き、涙を両腕でグシグシと拭い、泣いていた事を悟られないように、笑顔を見せる。
 そして、飛び上がり、いつもの元気な姿を見せ、妖精の泉の事を話してくれた。
 
 大三郎の周りを飛び回りながら、「この妖精の泉はな」「それでな」「凄いだろー?」と、笑顔の目を赤くさせ、涙の痕が残る顔で。
 
 大三郎は、顔の前でホバリングをするパニティーをそっと両手で優しく包むと、パニティーは可愛らしい笑顔を見せてくれた。
そしてそのまま、自分の胸元にそっと抱き寄せる。
 
 「えへへ。どうしたスギタ?」

 パニティーに、今の顔は見せられない。
 
 「あ、そうだ。皆な、スギタに感謝してるぞ」

 大三郎は唇をギュッと噤む。

 「スギタは皆を守ってくれたんだもんね。ありがとう、スギタ」

 パニティーはにこりと微笑み、抱き寄せられている胸元に抱き着く。
 
 誰かに必要とされた事は無い。
 誰かに信じてもらった事も無い。
 誰かに自慢してもらった事など一度も無い。
 こんなにも、こんなにも、誰かに優しくしてもらった事も、気を使ってもらった事も無い。
 だから、誰かに心の底から感謝した事など無い。

 神に感謝する事があるなら、それはたった一つ。
 パニティーに会わせてくれて、ありがとう。そう素直に思う。

 大三郎とパニティーには神道の祈りの副作用があるにせよ、それ以上に、言い尽くせないほど、パニティーには感謝の言葉がある。
 大三郎は千の意味を込めて、たった一言だけパニティーに告げる。

 「この世界に来て良かった」
 「本当?」
 「ああ。パニティーが居るから」
 「えへへ。えへへへー」 

 嬉しくて泣いたのはいつ以来だろう。いや、無かったかもしれない。
 人の優しさというものは、こんなにも暖かいものなんだと大三郎は初めて知った。

 他の人には些細な事かもしれない。
 だけど、大三郎にとってパニティーの優しさは、何よりも勝る励みとなる。
 
 自分の胸元にギュっと抱き着いているパニティーの感触は、どんな痛みも忘れさせてくれた。

 地球に居た頃、嫌だな、面倒臭いな、帰りたいな、と思った事は沢山あるが、『ここに来て良かった』なんて、一度も思った事が無かった。
  
 「スギタ? 泣いてるの? どっか痛いのか?」
 
 堪えていた涙が頬を伝い、パニティーに当たってしまった。
 心配そうに大三郎を見上げるパニティーに笑顔で答える。

 「どこも痛くないよ」
 「でも……」
 「大丈夫。本当にどこも痛くないよ」
 
 大三郎の胸元に頬を当て「痛かったらいつでも言って。すぐ、ちんちん治してあげるからね」と言ってくれるパニティーに、大三郎は涙を流しながらクスリと笑い、「ああ、痛くなったら頼むよ」と告げる。

 
 その後二人は他愛も無い話をし、気が付くとパニティーは大三郎の膝の上で寝ていた。
 回復魔法で傷は癒えても、体の疲れは残っているのだろう。
 寝ているパニティーに、大分余っているローブを布団のように巻き、妖精の泉を見つめる。


 どのくらいの時間が経ったのか。
 ふと気づくと、泉の上に白銀に輝く一人の妖精がいた。
 (なんか、パニティーみたいだな)と思いながら、膝の上に寝ているパニティーに目を落とす。
 そして、再び泉に視線を移すと、白銀に輝いていた妖精の光が徐々に消え、マリリアンに負けず劣らずな美しい妖精が姿を現した。

 大三郎は、その妖精を黙ったまま見つめていた。
 すると、その妖精は大三郎の下へ、光の粒の尾を引きながら飛んできた。

 「こんにちは」

 美しい妖精は、にこりと微笑みながら挨拶をしてきた。
 大三郎もにこりと微笑み返し、自分の口元に人差し指を立て、”今、寝ている娘がいるから”と言うようにパニティーに視線を移す。
 美しい妖精は、可愛い顔で寝ているパニティーを見て、優しい微笑みを浮かべる。

 「大丈夫よ。お話しても起きないわ」

 大三郎はそう言われたが、寝ているパニティーに優しい目を向けたまま黙っている。
 美しい妖精は、寝ているパニティーに光の粒を降らせた。
 それを見ていた大三郎はキョトンとした顔をする。
 すると突然、美しい妖精がパニティーに向かって「わっ!」と、大声を上げ、ピクリともしないパニティーを見たあと、大三郎の顔を見て「ね」と、可愛らしい笑顔を見せた。

 「何をしたんだい?」
 「ぐっすり眠れるおまじない」
 「へー。そうなんだ」
 
 大三郎はそう言いながら、寝ているパニティーの頭を優しく指で撫でる。

 「私はティターニア。ターニャと呼んで」
 「ターニャか。覚えやすい良い名前だね。俺は杉田大三郎。好きなように呼んでくれて良いよ」
 「じゃあ。だいざぶろー」
 
 地球でも下の名前で呼ばれる事など殆どなかった大三郎は、少し驚いた顔をした。
 
 「あら? ダメだった?」
 「いや。良いよ」

 小首を傾げて見てくるターニャに、大三郎は微笑みを返した。

 「だいざぶろーとね、少しお話がしたくて来たんだ」
 
 ターニャはそう言いながら、パニティーの横に座る。

 「そうなのかい?」
 
 そんなターニャを少し驚いた顔で見る。

 「ええ。迷惑だったかしら?」 
 「いや、迷惑じゃないよ。ただ、他の妖精の娘達は会いに来てくれなくなっちゃったからさ、ちょっとびっくりしただけ。女の子に相手にされないのは慣れてるんだけどね。はは」
  
 大三郎は、ちょっとだけ寂しそうな笑顔を浮かべながら、ターニャにも余っているローブを掛ける。
 
 「あら? ありがとう」
 「妖精の森でも、夜風は風邪を引くから」
 「ふふ。優しいのね」
 「そんな事は無いよ。それより、ターニャは俺と何の話をしたいのかな?」
 
 優しい笑みでターニャを見つめる。
 ターニャも、その美しい顔で微笑みを返す。

 「救世主のお話」
 「救世主の話?」
 「そう」
 「俺のどんな話を聞きたいのかな?」
 「ん~。聞きたいんじゃなくて、お話をしに来たの」
 「え? どゆこと?」

 不思議そうな顔をする大三郎に、ターニャはクスリと笑う。
 
 「ごめんなさい。言葉が足りなかったわね。前の救世主と今の救世主のお話」
 「前の救世主?」
 「そう」

 大三郎は少し間を置きターニャに謝る。

 「ごめん。俺、前の救世主の話とか知らないんだ」
 「じゃあ、私が教えてあげる。その為に来たのもあるから」
 「そうなの?」
 「ええ」

 大三郎は、高貴が漂う美しいマリリアンと、ミックミクにして欲しいほど美少女のパニティーを足した顔で微笑むターニャを見て、”これで人間サイズだったらエスカに負けず劣らずなハイスペック美女なんだろうな”と、心の中で呟く。
 
 「前の救世主の話ってどんな話?」
 「その前に、この世界は無限に近いほどある世界の中で、唯一、神々の遊び場として存在する世界。その事は知ってる?」
 「ああ。それは聞いた」
 「この世界が遊び場となる前は何だったのかは聞いた?」
 「前? いや、聞いてないけど」
 「この世界が神々の遊び場と言われる前は」
 「うん」
 「失敗作。そう言われてたの」
 「失敗作? 何だよそれ?」
 
 大三郎は驚いた顔でターニャを見る。
 
 「そこで、前の救世主の話になるの」
 「どんな話?」
 「だいざぶろーは、与えられた使命を無事にこなせたら、神様から願いを一つだけ叶えてもらえることは知ってる?」
 「ああ。それは聞いたよ」
 「前の救世主が、神々に願おうとしていた事。この世界を遊び場にしないでほしい。でもそれは、無理な事だった」
 「なん、で?」

 同じ事を願うつもりでいた大三郎は、固まった表情でターニャを見る。
 そんな大三郎を優しい笑みで見つめ返す。
 
 「順を追って話すからそんなに驚かないで」
 「あ、ああ……」
 「神様が世界を作る時、必ず成功すると言う訳じゃないの。この星のように失敗する事もあるの」
 「そうなのか?」
 「だいざぶろーは、青星から来たんでしょ?」
 「そうだよ」
 「青星が存在する宇宙でも、人が住めない星が多いでしょ?」
 「うん、まぁ、そうだね」
 
 大三郎は少し目を上に向け考えるように答える。

 「失敗すると言う事は、生命を宿せない、育めない星と言う事なの」
 「ああ……。そゆことか、寧ろ、失敗する事の方が多いって事なんだ」
 「それもちょっと語弊があるんだけど、生命を育む星の為に存在する星が多いって言った方が良かったかもね」
 「そうなの?」
 「ええ。太陽ってあるでしょ? そう言う星の事。他の星も、青星の人達が知らないだけで、青星の為に存在しているのよ。無から有に。その中で、生命を宿せれ、育める星を作る事の方が奇跡なの。青星でも言わない? 神の奇跡って」
 「ああ、言うね」 
 「でも、神様でも無理な事があるの」
 「なに?」
 「無から有にした時、それが生命を宿せない星だったら、宿せない星のまま。生命を宿せる星には出来ないってこと」
 「そうなの? でも、地球――青星も、最初は生命を宿してなかったはずだけど?」
 
 不思議そうに問いかける大三郎に、ターニャは何食わぬ顔で答える。

 「それはそうよ。青星は生命を宿している星じゃなくて、生命を宿せれる星ですもの」
 「どう違うの?」
 
 今一ピンと来ないターニャの言葉に、さらに不思議そうな顔で聞き返した。

 「生命も一緒に誕生させても、その生命を育めない星だったら意味が無いでしょ? 誕生させたその場で命が絶たれちゃう」
 「あー。そうだね」
 「だから、神様は生命を宿せて、育める星を奇跡で作るの」
 「ん? んん……」
 
 大三郎は不思議そうな顔で口をへの字に曲げた。
 その顔を見たターニャは小首を傾げて大三郎を見る。

 「何か分からない事でもある?」
 「んまぁ。神様が青星みたいな星を作ると奇跡で、奇跡で青星みたいな星を作る? どう言う事かな、って」
 「ふふふ。そうね。説明下手でごめんなさい」
 「い、いや。俺が馬鹿なだけだから気にしないで。あはは」
 「神様の事を説明すると、どうしても生きている人達には理解できない事や、辻褄の合わない不可解な事に聞こえちゃうわね」
 「ごめん、馬鹿で……。はは」
 「そんな事は無いわよ。生きている人達にとって、神様自体が不思議な存在だから。ふふふ」
 
 ターニャは普通にしているとマリリアンのように美しく、笑うとパニティーのような美少女の顔になる。そして、その顔で再び大三郎の顔を見て言葉を続けた。

 「例えば、この世界に居る人は、普通に魔法が使えるでしょ?」
 「俺は使えないけどね」
 「あら? だいざぶろーは使えないの?」 
 
 ターニャは不思議そうな顔で大三郎を見る。

 「うん。俺は普通の人間だから」
 「この世界の人種も、青星の人達と変わらい普通の人間よ」
 「魔法が使えるのに?」
 「そうよ。ま、この世界の事を青星の常識で考えちゃうと、そう思っちゃうわね」
 「んじゃ、この世界の魔法を使える人が青星に行ったら、青星でも魔法を使えるのかい?」
 「使えないわよ? 青星は青星、この世界はこの世界。どっちかの世界に行ったら、自分の意志とは関係なく、その世界の理に従う事になるからね」
 「そうなんだ」
 「ええ。だから、他の星では魔法が使えなかった人も、この世界に来たら魔法が使える。そう言う事よ」
 「へ~」

 大三郎は納得し、感心した顔をする。

 「ちょっと話がズレちゃったけど、ん~、だいざぶろーはこの世界で何が使えるの?」
 「使える……? ゴッド・フィンガーってやつかな?」
 「そう。それじゃ、そのゴッド・フィンガーが青星を作れる技だとするわね」
 「う、うん」
 「その技は、その技を使えない私達から見たら奇跡そのものでしょ? 生命を宿せる星を作れちゃうんだもん」
 「ま、まぁ、そうだね」
 「その奇跡の御技で、生命を育める星を誕生させる奇跡を起こし青星を作る。って事」
 「神様がやる事はなんか奇跡になっちゃうって事だな。何となく分かった」
 
 ターニャは大三郎の言葉を聞いて、クスクスと笑う。

 「でもね、ある時、神様でも予想していなかったことが起きたの」
 「なに?」
 「存在するはずの無い星が出来ちゃったの」
 「ん? 存在するはずが無い星? どゆこと?」
 「失敗作――ん~、語弊ごへいもあるし、言葉も悪いわね。そうだ、生命を育めない星の事を、他の星の為だけに存在する星。と言う事にしましょう。その方が、だいざぶろーも想像しやすいでしょ?」
 「そうだね」
 「幾多ある、他の星の為だけに存在する星の中で、唯一、生命を宿す星があったの。でも、それは、存在するはずがなかった星」
 「え? でも、その星って神様でも無理なんじゃなかった? 生命を宿せない星を宿せれる星にするのって?」
 「そうよ。変えるのは無理。だから、生命を宿せれるはずの無い星に、生命が誕生したのは予想外だったの。神様の意志ではないから」
 「ほう。そんな星があるのか」
 「それがこの世界」
 「え? え?」
 「本来なら存在するずがなかったこの世界。存在自体が不安定で、神様一人ではどうする事も出来ず、他の神々に力を借り、この世界の生命を守っていたの」

 大三郎はパニティーの頭を撫でていた指を止め、声も出せないほど驚き過ぎて固まってしまった。
 
 「だけど、神様も個別な存在。神様の力も均等ではないの。だから、自ずとひずみが生まれたの。その歪は神様自ら正す事はできない。また新たな歪が生まれてしまうから。神々は考えた。無から有にする時、理が生まれ、その中で全てが始まる。それが『自然』。森や海などの景色を思い浮かべる事が多いと思うけど、本来は『始まりの姿』を意味するの。その、『始まり』は『時の流れ』を生み。そして、『時の流れ』が生むもの。それは生命。私達。その全ての存在が許されていない私達をどう守るか」

 ターニャは寝ているパニティーの頬をそっと撫で話を続ける。
 
 「だけど、この世界は存在するはずがなかった世界。私達は『アリナイの意志』と呼んでいるんだけど、その『アリナイの意志』が、この世界が生まれる前、無に戻そうとするの」
 「無……って? まさか?」
 「そう。私達を含めたこの世界そのものの存在を消去する。所謂、滅亡させるってこと」

 大三郎は愕然とした。
 滅亡を目論む悪魔的(女性)な何者かのおっぱいを揉んだりして戦ったり、隕石っぽい物の衝突から、おっぱい揉んだ女性の力を借りてこの星を守ったり、天変地異っぽい事をおっぱい揉んだ女性からヒントっぽい事を聞いて防ぐ、そんな様な事だと思っていた。それっぽい感じの事だと思っていた。
 全く違った。違い過ぎた。
 倒すべき敵が居ない。隕石や天変地異などの物理的なものでもなかった。
 
 「この世界の者では、どんなに力がある者でも、神々から加護を受けた者でも、この世界で産まれた『存在を許されていない者』では無を避けられない。だから、存在が許された異世界の人達に、この世界の歪を正してもらうしかないの」

 ターニャはパニティーの頬を優しく撫でながら話す。
 大三郎の太ももに感じるパニティーの軽い重さ、温かいぬもり、そして、息をしている感触。
 その全てが、存在を許されなかった存在。
 大三郎は可愛い寝顔で小さな寝息を立てているパニティーを見る。
 
 「そんな事は無い。存在を許されなかったなんて……、そんな事は無い」
 
 震える声で、全てを否定する。存在が許されなかった存在なんて、認められる訳がない。
 少し息が荒くなる大三郎。怒りではない。ただただ、悲し過ぎた。絶望を感じる方がまだマシだと思えるほど悲しかった。

 「その存在を認めさせるのが、あなたの役目。今の救世主である、あなたの役目」
 
 ターニャの言葉にピクリと体を動かす。 
 
 「……どうすれば良い?」
 「全てが手探り」
 「手探り?」
 「そう。誰にも分からない」
 「……じゃあ、どうしようも……ないじゃん」
 「そのための神託よ」
 「神託? クエストのこと?」
 「そう。神々からの神託。だいざぶろーは神託の紙は貰ってるでしょ?」
 「え? ……あぁ。あの紙ね。……そう言や、どこやったっけ?」
 「目を閉じて、”神託を我が手に”って心で思ってみて」

 ”そんな漫画みたいなこと”と思いつつ、ターニャの言われた通りに目を閉じ、心の中で呟く。
 すると、手に何かの感触が伝わる。
 目を開けて、感触のある手を見てみる。
 
 「マ、ジ、か……よ」

 自分の手に神託の紙がある。
 
 「それは、何をしても何処へやっても無くならないから安心して。救世主の神託は、救世主以外には扱えない代物。もし、救世主の神託を奪う者が居たら、神々の逆鱗に触れる事になるわ」
 「そ、そうなの?」
 「ええ。その神託の紙は、あなた専用。英雄でも勇者でも、あなたからその紙を奪おうとしたら神々の逆鱗に触れ、天罰が下るわ」
 「て、天罰? ち、因みに、どんな、天罰?」
 「知らない方が良いわよ」
 
 にこりと微笑むターニャの顔がエスカ並みの怖ろしさを醸し出す。
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