異世界で探がす愛の定義と幸せカテゴリー

彦野 うとむ

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妖精の森編

最凶の鉾VS最強の盾⑪

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 四方にある浄化の門が開ききると、門の中から見惚れてしまうほどの神々しい光が溢れだした。
 神々しい光は眩いばかりにカッと輝きを放つと、門の中に吸い込まれるように消え、門の中は底なしの闇に変わる。
 次の瞬間、大気すら吸い込まれて行くのが目に見えてしまうほど、ありとあらゆる不浄なる物を吸い込み始めた。

 大三郎の体が浮き上がる。
 もう、こうなっては、ダルトもエスカ達も成り行きを見守るしかない。
 パハミエスはジッと大三郎を見つめていた。
 
 「スギタ……」

 気づくと、横たわっていたパニティーが、体を引きずりながら大三郎の下へ行こうとしている。
 
 「スギタは……。スギタは、何処にも行かないんだ……。私達の救世主は、何処にも行かないんだ!」

 パニティーは、浄化の門に吸い上げられ、舞い上がる大三郎に向かって力一杯叫んだ。 

 「ぅぉおおおおああああ!!」

 空中に舞い上げられた大三郎は、空を見上げ、両手に握り拳を作り脇を絞め、気合いを入れるように雄たけびを上げると、パシン! と、念疫で作られた仮面のような顔が縦に割れ、胸の部分を中心に黒鋼の肌に幾多もの亀裂が入る。

 「ぅおおれぇええはぁあああ! パニティー達のぉおお、たぁああめぇえにぃいい! おっっっっっぱい揉んでぇええ、世界を救うんじゃぁああああ!!」 

 大三郎が叫ぶとパァーン! と、弾けるように黒鋼の肌が一斉に砕け散る。
 砕け散った念疫は浄化の門に吸い込まれ、大三郎は鳥の糞のようにベチョっと地面に落ちた。

 「そうだぞ。スギタは、エスカのおっぱい揉むんで、世界を救うんだぞ」

 パニティーは涙を流し、とても可愛らしい顔でにこりと微笑む。
 大三郎は親指を立て、「応よ! 任せろ!」と、地面にちょっとめり込んだまま、こもった声で返事をする。
 その時、ゴオォン! と、地響きがするほどの轟音が響く。その音に大三郎はガバッと起き上がり、辺りを見渡すと、四方に出現していた浄化の門が閉まっていた。
 
 「何だ、あのバカデケー門は?」

 大三郎は浄化の門を見て不思議そうな顔をする。
 
 「パニティー、あれ何だ? あんなのあったっけ?」

 そう言いながら、パニティーを見ると、パニティーは肩や額から血を流し草花の中に倒れていた。

 「パ、パニティー!」

 大三郎は慌てて駆け寄るが、傷つき血を流しているパニティーに触れるに触れられず、どうして良いのか分からないままオロオロとしていると、パニティーは「だ、いじょう、ぶ、だよ」と、弱弱しく微笑む。

 「パ、パニティー、パニティー。どうしよう、ああ、どうしよう。ゴッド、ゴッド・フィンガー、ゴッド・フィンガーしよう。駄目だ。ゴッド・フィンガー意味無い! ど、どうしよう」

 軽くパニック状態の大三郎。それを見てパニティーはクスリと弱弱しく笑う。

 「杉田君、落ち着くんだ。ティリスほど得意じゃないけど、僕が回復魔法をするから」
 
 背後から声を掛けられ振り向くと、ダルトが来てくれていた。そして、ダルトはそのままパニティーの前で片膝をついて座る。

 「イケメンキタ。イケメンありがとう。うぅ、ありがとうイケメン」
 「イ、イケメン? 僕はダルトだよ」
 「オルグラージョン・コンプレイタ」

 二人のやり取りを気にする事も無く、パハミエスは完全回復魔法を唱える。
 パハミエスの杖が輝くと同時にパニティーの体を優しい光が包み込んだ。

 「パハミエス、まだ、高位魔法が使えるのかい? 君の魔力はどれだけ桁外れなんだ? もしかして、君の魔力は無尽蔵なのかい?」
 「無尽蔵ではない。浄化の門を後、2、3回召喚する魔力しか残っとらん」
 
 パハミエスとはここ数年の付き合いだが、アウタル・サクロのメンバーが誰もパハミエスに逆らわない理由が痛いほど分かった。
 
 「パ、パニティーは? パニティーは大丈夫なのか?」
 
 不安な目をしてオロオロしながら聞いてくる大三郎を落ち着かせるように、ダルトは大三郎の肩にポンと手を置く。

 「大丈夫だよ。パハミエスが高位の回復魔法をしてくれたからね。ちょっと待てば完全回復するよ」
 「マ、マジか?」
 
 それを聞いた大三郎は、わなわなと体を震えさせパハミエスを見る。

 「じじぃー!」
 「何だ?」
 「じじぃー!」
 「だから何だ?」
 「ありがとー!」
 「別にこのく――――」
 「じじぃー!!」

 大三郎はパハミエスに抱き着き押し倒す。

 「じじぃー! ありがとー! ありがとー! じじぃー!」
 「放せ。我はまだやる事が、放せ」
 「じじぃー!!」

 大三郎はパハミエスの胸に顔を埋め、顔を左右に振りながら感激している。
 
 「放、せ。纏わりつく、な。ええい、いい加減、離れ、ろ」
 「ええーん。じじぃー! ありがとー!」
 「いいから、離れ、む? 何だこのネバネ――鼻水? むっ! 汚い。離れろ、離れんか!」

 35歳独身男性と60歳代老人男性の寝技攻防を、苦笑いと困った顔で見つめる20代後半のイケメン。

 「救世主様!」
 
 自分を呼ぶ声に顔を上げると、ソフィーアを背負ってメルロが走ってくる。

 「メル! 大丈夫だったか?! なんか、途中からよく分かんなくなっちゃって」

 大三郎はそう言いながら立ち上がる。

 「救世主様こそ、大丈、夫……か……」

 ソフィーアを背負って駆け寄って来ていたメルロが立ち止まる。

 「どうした? あ! じーさんがパニティーを治してくれたんだ。ソフィーの足も――って、どうして後ずさる? おい、どうした? こっち見ろよ」

 大三郎はメルロが挙動不審になっている事に気付き、少し心配になりメルロに向かい歩き出した。

 「本当にどうした? ――もしかして、また何かあったのか?!」
 「待て! 待つんだ救世主様!」
 「どうした? 心配になるだろ? 何があったか言えよ」
 「言えない! 言えないんだ、救世主様!」
 「おい、メル。やめろよ、マジで心配になるだろ」

 メルロに背負われているソフィーアも、メルロの背中に顔を埋めたままピクリともしない。メルロの挙動不審さも相まって大三郎は不安に駆られ、二人に向かい真顔で走り出す。

 「救世主様! 駄目だ! 来てはいけない! ひぃ!」
 「待てよ。ひぃって何だよ? そんで、何で逃げんだよ。待てよ。おい、待てって、メル、ソフィー待―――」
 「ライトニング!」
 「あばばばばばばばば!!」

 突然、エスカのライトニングが大三郎を直撃し、何時もの如く頭から煙を出し、据え置きの看板が倒れるようにパタリと倒れた。そして、大三郎は怒りに震える声でゆっくりと起き上がる。
 
 「……おい、そこのライトニングバカっぱい。なんで、何時も、ホイホイとすぐに電ゲッ――――」
 「ライトニング!!」
 「アンババババババ!!!」

 立ち上がろうとする大三郎にライトニング強を撃ち放つ。
 大三郎は再び由緒正しい感電ポーズで倒れ、そのまま歌いだす。

 「……。バカっぱいはね、エスカって言うんだ、ほんとはね。だけど、バカだから、エスカのこと、バカっぱいって呼ぶんだよ、ぴったりだね、放電女ぁあああ!! いい加減にしろよバカっ――――」
 「ライトニング!」
 「あば! ばば……。あば?」
 
 最初だけビリっときたが、何時もの電撃の威力は無く、肩透かしを食らい大三郎は不思議な顔でエスカを見る。

 「ライトニング!」
 「……」
 
 魔名を唱えるが魔法が発動する事はなかった。魔力が尽きたのだろう。それでもエスカは大三郎を見ずに魔名を唱える。
 
 「ライトニング!」
 「おい」
 「ライトニング!」
 「おいって」
 「ライトニ――――」
 
 大三郎はエスカの手を掴む。

 「どうした?」
 
 大三郎はそう言いながら俯いているエスカの顔を覗き込むと、エスカの頬に涙の痕がくっきりと残っている。そして、脳裏に一瞬だけ混濁した意識の中で見たよぎった。
 パニティーの呼びかけ以外は夢を見ていた感覚。夢と言う現実感の無い現実の中で見たあの顔。
 その顔と今のエスカの顔が重なる。

 はっきりと覚えている記憶と曖昧な記憶、そして今の違い。
 その矛盾に少しずつ気づき始める。
 
 「何かあったんだな?」
 
 エスカは大三郎の質問に答えず、俯いたまま顔を反らす。

 「……俺。途中から記憶が無いっぽいんだ。なんか、すげーブチ切れたのは覚えてる。その後、どうなったのか分からない。ただ、皆が無事だって事だけは分かる。それだけは本当にホッとしてる」
 
 大三郎は掴んでいたエスカの手を離す。

 「何て言うか、凄い嫌な夢を見ていたような。そんで、パニティーの声で起きたような、そんな感じなんだ。気づいたら、パニティーが傷ついてて、じーさんが治してくれて……」

 曖昧な記憶を上手く説明できず言葉が続かない。
 少し間を置き、大三郎はまた話し始めた。
 
 「夢の中でエスカを見た気がする」
 「……。私の夢を見たなら、さぞかし嫌な夢だったでしょうね」
 
 やっと口を開いたかと思えば、何時もの憎まれ口。だが、大三郎はエスカの憎まれ口に何時ものような返しはせず、一つ一つ思い出すように話始める。
 
 「……あったかい光の中にお前が居た。他は真っ暗で、誰も居ないんだけど誰れかに連れて行かれそうな。でも、なんか、怒ってたり、呆れてたり、泣いてたり、笑ってたりするお前が居て、俺を呼ぶお前が居て、頑張んなきゃって、お前のために頑張んなきゃって」

 エスカは唇をギュッと噤む。
 闇落ちをしても、自分の事を思い出してくれていた。忘れずにいてくれた。

 「……分からん。すまん。上手く言えねーや。とりあえず、パニティーの所に行こう」
 
 大三郎は申し訳なさそうな顔と苦笑いが混じった顔でエスカに声を掛けるが、エスカは共に行こうとはせず、顔を背けたまま言葉を返す。

 「いつまで、そんな恰好をしているつもりですか?」
 「そんな恰好?」

 大三郎は下を向き自分を見る。 
 いつの間にかピンクのTバックが無くなっており、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング46センチ単装砲ちゃん、もとい、ポークビッツ砲ちゃんが「任務でありますか!」と、その全貌を惜しげもなく出していた。そう、見事なくらい、要モザイクな全裸である。

 「あれれぇ~? おっかし~ぞぉ~?」
 「おかしいのは杉田様の頭です」
 「だって、あれれぇ~? 何故、エスカ発見! 最大戦速! 我、夜戦二突入ス! に使う、仰角60度、主砲発射準備完了、ヨーソロー! な、俺の――あ、ちょっと待って、置いてかないで」
 
 あれれぇ? までは、体は子供、頭脳は大人以上の大人な声で言った後、エスカ発見からは渋い低めな声でお道化ていたが、そんな大三郎をエスカは見事にスルーして歩き出した。そして、大三郎が「置いて行かないで」と言った瞬間、それに反射するように大声で言い返す。

 「それは私の台詞です!!」
 「なな、な、何が?」

 いきなり大声で怒鳴られるように言われ、大三郎はビクビクオドオドしてしまう。
 背中を見せているエスカは立ち止まり、肩を震わせながら俯いていた。
 意味が分からずドギマギしている大三郎は、(こ、怖い)と思いつつ殴られる心の準備をする。

 「……もう、置いてかないでよ」

 小声で呟く。

 「え? な、なに? 何て言った?」

 大三郎にはエスカの呟く声は聞こえていなかった。

 「何でもありません!」
 「は、はい。すみません」

 エスカの大声にビクッとしながら思わず謝り、何故か身構える大三郎。
 そして、股間を手で隠し、婦警さんに捕まった露出狂のようにエスカの後ろを肩をすぼめついて行く。
 
 
 「……汚い」
 
 パハミエスは、大三郎の鼻水がついたトゥニカとヒマティオンを、ダルトから貰ったハンカチで拭いていた。

 「お呼びでしょうか、パハミエス様」
 
 パハミエスの影の中に黒装束を着た、如何にも忍者っぽい男が頭を垂れ片膝をついて現れた。

 「お主に預けた魔剣の事だが、一つ聞きたい」
 「何でございましょう?」
 「魔剣には確かに妖精の血の匂いがした。お主が斬ったのか?」
 「いえ。私ではありません」
 「では、誰が斬った?」
 「エブルット様の玩具に御座います」
 「玩具?」

 パハミエスはチラリと忍者っぽい男を見る。 
 忍者っぽい男は更に頭を垂れ返答する。

 「エブルット様が何処かで拾った村娘だとか。それ以上は」
 「ふむ。その者が斬ったのか?」
 「はい。妖精を斬ったのは、この目で確認しております」
 「して、何故、その者が魔剣を持つ事になった?」
 「エブルット様が玩具に斬らせるから貸せと」
 「それで貸したのか?」
 「パハミエス様の承諾は得ていると仰せでしたので。……もしかして、承諾はしていないと?」
 「うむ。していない」
 「何と?! 申し訳ございません! 確認不足でした。この不始末、如何様にも」
 
 その言葉を聞いた忍者っぽい男は、思わず顔を上げパハミエスを見るが、すぐさま片膝をついたままの姿勢で片方の手の拳を地面に立て、頭を深々と下げた。
 
 「構わん。それよりも、その者は何処に居る?」
 「エブルット様は用が済んだので放置すると仰せになりましたが、後の報告も兼ねて我らの砦に」
 「ふむ。お主らの砦に居ると言う事は、魔剣に取り込まれたか」
 「処分致しましょうか?」
 「いや。あやつなら何とかできるだろう」
 「あやつ?」
 「その者を転移魔方陣がある部屋に連れて行くよう、砦の者に連絡しろ」
 「は! 直ぐに」

 パハミエスの影に居た忍者っぽい男は、命令を聞くと忍者っぽく姿を消した。
 
 「ふむ。ダルト、そこにエブルットは居るか?」

 パハミエスは言葉に魔力を込め、ヘンキロを迎えに行っていたダルトに話しかける。

 「いや、もうヘンキロが居城に送り帰したよ」
 「そうか」
 「ヒャ? エブルットに何か用があったのかい?」
 「少しな」
 「ヒャ―。早く言ってくれれば良かったのに。あ、でも、結構ボコボコにしたから、喋れるかどうか分からないけどね。ヒャヒャヒャ」
 「そうか。では、日を改めて我から会いに行こう」
 「パハミエス、今からヘンキロを連れてそっちに行くよ」
 「分かった」
 
 会話を終えると、お互いに会話に込めた魔力を消す。

 「ヒャヒャヒャ。ごめんねぇ、ダルト。僕も結構やられちゃったから。ヒャヒャヒャ」
 「直すのが大変だね」
 「怒られちゃうねぇ。ヒャヒャヒャ! ……庇ってね」
 「ふふふ。分かったよ」
 
 ダルトはクスリと笑い、ヘンキロを背負いパハミエスの所に歩き出した。
 

  
 「……ん、……んん」

 回復魔法が終わり、パニティーが目を覚ます。

 「パニティー!」「パニティー殿!」

 大三郎達の声が聞こえ、パニティーはむくりと起き上がる。

 「パニティーさん、大丈夫ですか?」

 エスカが心配そうにパニティーを見つめる。

 「エスカ? うん、どこも痛くない。……何で? ――はっ! スギタは?! スギタはどこ?!」
 「ここに居るよ」
 
 エスカの後ろから大三郎の声が聞こえ、慌てて飛び上がり大三郎を見る。
 
 「スギタ! ……うぅ。スギタ……。スギタ―――!!」

 パニティーは大三郎を見るや否や、大三郎の顔面に抱き着いた。

 「なんか色々あったみたいで、迷惑かけたね。ごめんな」
 「謝らなくていいよ。ぐす。スギタが無事なら、えっく、それで良いよ」
 「パニティー……」

 大三郎はパニティーの底なしの優しさに泣きそうになりながら、顔面に抱き着いているパニティーをそっと両手で包もうとした。その瞬間、大三郎の手に小枝が飛来する。

 ――ベシン!

 「あ痛!」
 
 何かを叩く音と同時に大三郎の痛がる声が聞こえ、パニティーは驚き、大三郎の顔から離れ見ると、大三郎は手を押さえていた。 

 「ど、どうした? スギタ?」

 何があったのか分からず、心配そうに大三郎を見るが、自分の背後に気配を感じ振り向くと、エスカが小枝を片手に持ち立っていた。

 「痛ってーな! 何すんだよバカっぱい!?」
 
 憤慨する大三郎にエスカは真顔で言い返す。

 「を触った手で、パニティーさんを触ろうとしているのです?」
 「何処って」

 大三郎は下を向き、自分のジャスタウェイを見る。

 「……コレですね。コレですよエスカさん。見てください。ほら、コレの事ですよね? 遠慮なさらず思う存分、直視してご確認してください。何ならお手に取りますか? 私は一向に構いませんよ? ほら? ほらほら?」
 
 大三郎はこれ見よがしに腰を左右に振り、ぺったんぺったんと音を鳴らしながら股間を突き出す。

 ――ベシン!

 「ピゃう!!!」

 エスカは振り払うように、小枝で大三郎のジャスタウェイを力一杯引っ叩く。それと同時に、ムンクが叫ぶ顔になる大三郎。
 
 「き、きた、汚らしい」

 エスカは顔を反らし、頬を少し赤らめながら吐き捨てるように――言いたかったのだが、どもってしまった。

 「ぴょぴょぴょぴょぴょぴょぴょ」

 大三郎はうずくまり、股間を押さえながら、サウンドエフェクト、略してSEのような声を出し小刻みに震えていた。

 「エ、エスカ~。どうしていつもスギタに酷い事するんだよぉ? 頭を踏んづけるくらいにしときなよ」
 
 それを聞いていたパハミエスは、無表情ながら(どっちもどっちだと思うが)と、心の中で呟き、杖の先で大三郎の尻を突き観察をする。

 「そうですね。パニティーさんの言う通りにしましょう」

 と言った瞬間、大三郎の頭を砕く勢いで踏みつけた。

 「ン武ㇷ!」

 「何処を、触った、手で、パニティーさんを、触ろうと、したの、です、か?」

 何度も踏みつけるエスカ。大三郎の尻を杖で突き観察しているパハミエス。大三郎に一生懸命、癒しの光を出しているパニティー。ソフィーアを背負ったままオロオロしているメルロ。

 「な、何をしているんだい? 君達は……?」

 エスカ達にしてみれば何時もの光景だが、その光景に耐性の無いダルトはヘンキロを背負ったまま呆然と立ち尽くす。

 「ダルトー!」

 大三郎はダルトの声を聞き、ゴキブリの如くダルトの足下に近寄りしがみ付く。

 「パニティー以外、皆、僕を虐めるんだ」
 「なっ?! 救世主様! 私は何もしていないぞ!」
 
 メルロは慌てて否定する。

 「スギタ―。大丈夫か?」

 パニティーは大三郎の頭に座り、癒しの光を出している。

 「ダルト。僕の妖精だけ優しいんだ……。うぅ……。メルは何もしないけど、鬼が、鬼が、僕のチンコを小枝で叩いて虐めるんだ。うぅ」

 それを聞いたダルトは目を丸くしてエスカを見る。

 「エ、エスカさん。な、何て事をするんだい? いくら杉田君が全裸だとは言え、男の股間は女性が思っているよりデリケートなんだよ? それを小枝で叩くなんて……。それにパハミエス。君も、人のお尻を突いたりして何をしているんだい?」

 事の顛末てんまつを知らないダルトは素で擁護する。

 「教育です」
 「観察だ」

 二人の即答に言葉を失うダルト。

 「救世主の教育にもなると激しいんだねぇ。ヒャヒャヒャ」

 大三郎はヘンキロの声に気付き立ち上がると、ヘンキロはダルトの背中に背負われていた。

 「ピエロ。お前、ダルトに背負われてって、お前、すげーボロボロじゃん?! 何だ? また悪さして、ダルトにやられたのか?」
 「ヒャヒャヒャ。ちょっと違うなぁ」
 「ヘンキロはエブルットと戦ってたんだよ」
 
 大三郎はダルトの言葉に心底驚いた。

 「そう言えば、あのクソぶりットは?」
 「ヘンキロが居城に送り帰したよ」
 「追い払ってくれたのか?」
 「ヒャ? まぁ、そんなところ、かなぁ? ヒャヒャ」
 「マジか。……ピエロ」
 「ヒャ?」

 大三郎は両手に拳を作り、俯きながら体を震えさせる。

 「お前がメル達にした事は許せねーけど。でも……」
 「ヒャ?」
 「途中からあんま覚えてねーから、何があったか分かんねーけど、あいつがメルを殺そうとして、ソフィーを攫おうとした事は、はっきり覚えてる」
 「ヒャ」
 「ピエロがクソぶりットと戦ってくれなかったら、多分、大変な事になっていたんだろう」
 「確かにそうだね。ヘンキロがエブルットと戦ってくれなかったら惨事になっていたかもね」

 大三郎はダルトの言葉を聞き、更に拳をギュッと握り、唇を噛む。

 「ヒャヒャヒャ。僕は僕の役目を果たしただけさぁ、君が気にする事じゃないよぉ。ヒャヒャヒャ」

 ダルトの背中で声高に笑うヘンキロ。
 
 「……。そうだ、ピエロみたいに言わなきゃならないんだ。本当は、俺が……言わなきゃ」
 「ヒャ?」
 
 大まかには合っているにせよ、勘違いも入っている。
 その所為もあり、ヘンキロは大三郎が何を言っているのか、何を言いたいのか分からなかった。
 
 「メル!」
 「な、何だ? 救世主様?」

 突然、大声で名を呼ばれ、驚きながら返事をする。

 「ピエロがメルにした事は許せない。だけど……、だけど……、メルを殺そうとしたクソぶりットと戦って追い払ってくれた事は……」
 「救世主様よ」

 途切れ途切れで話す大三郎の言葉に助け舟を出すように優しく語りかける。

 「そのピエロの骸骨がソフィーを殺そうとした事は私も許せないが、その者だけではなく、命を掛けた戦いなど、私達にしてみれば何時もの事だ」

 メルロの言葉を聞き、大三郎は歯が砕けそうな勢いで歯を食いしばる。
 感謝したいが素直に感謝できない。そんな矛盾した思いが大三郎の中で葛藤する。

 「ヒャ? そこの背負われてる女の子を殺す気なんて最初から無いよ? 僕は背負っている方の女の子とダンスをしたかっただけさ。ヒャヒャヒャ」
 「え?」
 「え?」
 「ヒャ?」
 
 固まる大三郎とメルト、キョトンとするヘンキロ。
 その間に居るダルトが口を開く。

 「何か、お互い勘違いがあったみたいだね」
 
 ダルトの言葉を聞き、ピクリと体を動かす大三郎は俯いたまま、小さく体を震わせる。

 「メルを傷つけた事は、やっぱ、許せない……」
 「謝ったじゃないかぁ~」
 「それでも――――」
 「許そう! ソフィーを殺す気が無いなら、私は別に構わない」
 
 大三郎は、大声でヘンキロを許すと言うメルロを驚いた顔で見る。
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