異世界で探がす愛の定義と幸せカテゴリー

彦野 うとむ

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妖精の森編

最凶の鉾VS最強の盾④

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 ――神が、神々が見ているのなら、一人で良い。一人で良いから、私の願いを聞き届けて欲しい。守ると約束したんだ。守ると。
 落ちこぼれと蔑まされた私をずっと支えてくれた、たった一人の友人を守ると約束したんだ。
 神様、私の命と引き換えでも構わない。どうか、私の友人を助けて。どうかどうか、助けてください。

 どの世界でも願った通りにはならない。
 奇跡は、”起こらない”から奇跡と言う。
 生きとし生けるものが、人知の及ばぬ意思に、どう足掻いても逆らえぬ理不尽があるように。
 生きとし生けるものには、等しく、平等に、理不尽は訪れる。
 
 世にことわりがある限り、都合の良い世界など初めから存在していない。
 理自体が理不尽の塊なのだから。
 悲劇が生まれようとも、悲劇の結末になろうとも、それは理の一つとして存在する限り変える事はできない。
 
 だからこそ人は願う。救いの手をと。暗闇に僅かな光をと。叶わぬ願いだと知りつつも。

 この世に生を受ける前から決められた悲しき宿命も、この世に生を受けた事を呪ってしまうほどの運命さえも、理も理不尽も何もかも覆す者がいる。
 
 人はそれを『救世主』と呼んだ。
 
 

 「何してんだよ?!」

 その声と共に黒い物体が一陣の風の如く現れ、ソフィーアに襲い掛かる骸骨の顔面に勢いのままケンカキックをお見舞いした。その勢いで転がっていく骸骨。
 ソフィーアもメルロもその後ろ姿が誰か分からなかった。だが、振り向く男の顔を見て初めて大三郎だと気づく。
 大三郎は地面に半分横たわる形で、自分を見上げているソフィーアを気遣うように抱き起こした。

 「大丈夫かソフィー? 何があった?」
 
 ソフィーアは自分を支えてくれている大三郎の袖をキュッと掴み、顔を見てボロボロと涙を零した。そして、口をパクパクと動かし指を指す。大三郎はソフィーアが指を指す方を見るとメルロが骸骨の群れの中に居た。 

 「メ、メルロ」

 大三郎はその光景に一瞬だが言葉を失いそうになった。

 「救世主様!」

 助けて欲しいと願った時、願った通りに颯爽と現れ、助けてくれた人物など初めてだった。嬉しさからか安堵からか、メルロの目に涙が浮かぶ。
 大三郎がどんなに変な服装をしていても、股間をもっこりとさせたピンクのタイツを履いていようとも、涙が浮かぶメルロの目には、幼少の頃から伝え聞いていた、後光が差す伝説の救世主。
 現状を知らない者が今の大三郎を見たら、変な恰好をした変質者が美女に襲い掛かっているように見えるだろう。だが、美化補正というものは恐ろしいもので、メルロの目には、お姫様を攫った悪しきドラゴンを退治し、そのお姫様を優しく抱える物語の主人公のように見えていた。
 メルロの目に映る、とんでもなく美化された大三郎がメルロに問いかける。

 「え? なに、そのオブジェ」
 「オブ、ジェ?」
 
 ソフィーアにしたように優しく心配してくれとまでは言わないが、メルロは予想外の遥か彼方を言われキョトンとしてしまう。

 「い、いや。人の趣味にあーだこーだ言うつもりは無いけどさ。その、なんだ。大量の骸骨を背負ったり、体に巻き付けたりしてまで、何処に運ぼうとしてんの? 買ってきたの?」
 「か、買って、きた?」
 
 何を問いかけられているのか今一分かっていないメルロに、大三郎は戸惑いながらも優しく諭すように話しかける。

 「あ、あのね、いきなり大量の骸骨を持って帰ったらね、流石にパニティー達も嫌がると思うんだ。い、いや、あれだ。もし、もしな、どうしても持って帰りたいって言うんなら、俺からパニティー達に言うから、それまで、な。一応、森の入り口に置いておこう。な? ソフィーも怖がってるみたいだし。な?」
 
 大三郎はメルロを説得しようと優しい笑みで言うが、その笑みの中には苦笑いと言うか、困った顔と言うか、複雑さが混じっていた。

 「救世主様は、私に襲い掛かっている骸骨の群れを、どこかの店で買って来たオブジェだと思っているのか? ……ふふ。私にとって命懸けの相手だとしても、救世主様にしてみれば、玩具にもならない飾りに過ぎないのだろうな。ふふ。流石だ。貴方と言う人は。ふふふ……」
 「え? 襲われてる? え? 襲われてるの?」

 大三郎は抱きかかえているソフィーアを見ると、ソフィーアは頷いた。 

 「え? これって……」

 大三郎は、骸骨の模様した全身タイツか何かを着た変態がソフィーアを襲っていると思っていたが、良く見ると、ただの骸骨。そして、大三郎がケンカキックをした顔面は砕けていて、頭蓋骨から灰のように消え去っていった。大三郎はその光景に目を見開き驚く。
 大三郎は抱きかかえているソフィーアを優しく離すと、メルロの方へ目を丸くしたまま歩いて行った。
 そして、ガシャリガシャリと音を立て、メルロのあちこちに抱き着いてモゾモゾと動いている骸骨の腕を握る。すると、ソフィーアがリザードマンの顔になっていた時、頬に触れたあの何とも言えない感触が伝わってきた。
 大三郎はボソリと呟くようにスキルを発動する。

 「スキル発動。ゴッド・フィンガー」

 その瞬間、メルロに群がっていた骸骨が一体残らず一斉に灰となって消えた。
 メルロもソフィーアも、その出来事に開いた口が塞がらないほど驚く。メルロに至っては、腰が抜けたように呆けた顔でその場にへたり込んでしまった。
 大三郎は自分の手を見ながら、手のひらを何度か握ったり開いたりを繰り返した後、へたり込んでいるメルロに手を差し伸べる。

 「メル、大丈夫か? って、お前、すげー傷だらけじゃんかよ?!」

 メルロは大三郎の問いかけに、ハッとした顔で見上げる。 
 
 「早く帰って、パニティー達に治してもらおう。立てるか? 立てなかったらおんぶしてやるぞ?」  
 
 今までの事が無かったかのように、平然とした顔で手を差し伸べる大三郎を呆けた顔で見つめながらボソッと呟く。

 「こ、これが、本気になった救世主様の力……」
 「何が?」
 
 ――これ程の力を持っているのに、人に自慢することなく、恩着せがましく傲慢な態度をとる事もなく、何も無かったように優しく気遣いながら接してくれる。
 
 メルロの中で、とんでもなく美化されている大三郎は、更にエスカ並みの高貴な人物として美化された。
 エスカがこれを知ったら、「杉田様と一緒にしないでください」と、寿命が縮む5秒前のカウントダウンが始まってしまう程の、物凄く恐ろしい目で見られながら言われるだろう。

 「立てないか? んなら、おんぶしてやるよ。ほれ」

 大三郎はそう言うと、メルロに背を向けしゃがむ。
 メルロはゆっくりと大三郎の背中に体を預けた。
 エスカの爆乳ほどではないにしろ、メルロも女性の中では巨乳。その巨乳が大三郎の背中にぽにゅんと当たる。

 ――この二つの感触は、おぱいでございますね。……悔しい! 俺は今、猛烈に悔しい! 何故、俺は、上着を着ているのだ! 脱いでしまおうか。いっそ、全裸になってやろうか! 全裸になっておぱいを堪能してやろうか! できん! ヘタレだから! そして、俺の股間は成長期! おっぱいタイムで成長期! 待て、待つんだ俺の46センチ単装砲ちゃん! 夜まで待て! 今は傷だらけのメルを一刻も早くパニティー達の所まで運ばないと。あぁ、でも、おんぶ・De・おっぱいが俺の羅針盤を狂わせる!

 これが美化された救世主。この世界の救世主。 
 
 一向に立ち上がらない大三郎にメルロは不思議そうな顔をする。
 
 「救世主様? どうかしたのか? 重かったか?」
 
 メルロは申し訳なさそうな顔をして大三郎の背中から離れようとした時、大三郎の両肩にまわしていたメルロの手を大三郎はガシッと掴む。

 「心配するな。重くはない」
 「そ、そうか? 立とうとしないから、てっきり」
 「勃っているから立てないんです」
 「え? 立っているから立てない?」
 「はい。勃っているから立てないので、少々おまちください」
 
 とんちめいた事を言われ、メルロは小首を傾げる。

 「ねぇねぇ、君さぁ」

 その時、何時の間に現れたのかヘンキロが大三郎の目の前に立っていた。
 メルロは驚き、体が硬直してしまう。
 
 ――救世主様が立っているから立てないと言ったのは、こいつが居たからか?!

 そう思うメルロだが、盛大な勘違いである。

 「なぁんで、邪魔するのかなぁ?」

 ヘンキロは腰に手を当て、しゃがんでピクリとも動かない大三郎を、ぐにゃりと体を曲げ覗き込むように話しかける。

 「邪魔?」
 「そぉ。邪魔」
 「俺が何の邪魔をした?」
 
 大三郎の質問を聞いてヘンキロは、腰に当てていた手を左右に広げ、クルクルと周りだし、少し離れた所で体を半身に構えピタリと止まり、今度は腰に片手を当て、もう一方の手で人差し指を立て、上目遣いのように顎を引き「ダンスさ」と一言。

 「ダンス? てか、ピエロさんよ。あんた、誰だ?」
 「僕かい? あー、邪魔されてちょっとだけイラッとして忘れてたよ。自己紹介がまだだったね。僕の名はヘンキロ。とんだ失礼をした。ヒャヒャヒャ!」
 
 ヘンキロは足を軽く交差させ、左手を後ろにまわし、右手を振り下ろすと同時に頭を下げた後、空を見上げ、肩を揺らし声高に笑う。

 「救世主様、気を付けろ! あいつはスケルトンの群れを召喚した程の魔術師だ!」
 
 それを聞いた大三郎は、ゆっくりとメルロを背中から降ろし立ち上がる。

 「ふ~ん。そっか、お前か。メル達を襲ってたの」
 「そうだよぉ。ヒャヒャ……ヒャ。……君さぁ、何で腰を引いて内股なのかなぁ?」
 
 大三郎は真剣な顔とは裏腹に、腰を引いた中腰姿勢で内股になっていた。

 「お前には関係ない」
 「そぉ」

 ヘンキロは気の無い返事をして、大三郎に銃を向けるように親指と人差し指を立てると、指先にボーリングの玉ほどの大きさのある、渦を巻いた黒い球体が現れた。

 「君、邪魔だからさ、僕の舞台から降りてもらうよ。じゃぁ~ねぇ、名も知らぬおバカさん。バン!」

 ヘンキロがバンと言ったと同時に、渦を巻いていた球体が分裂し、まるでホーミング機能があるショットガンの弾丸のように大三郎めがけ飛んでいった。
 
 「アクティブスキル発動! ピエロ!」

 大三郎の叫び声と同時に、ヘンキロが放った弾丸が黒い煙を吐き出しながら全弾命中する。
 後ろに居たメルロは、爆風で2メートルほど転がるように吹き飛んだ後、慌てたように上半身を起こし、青ざめた顔で大三郎を呼ぶ。 

 「救世主様!!」

 黒い煙に包まれ、大三郎の姿が見えない。 

 「ヒャヒャヒャヒャ! 大根役者は退場ぉ~。ヒャヒャヒャ!」
 「あぁ……、きゅ、救世主様ー!!」
 「ヒャ―ヒャヒャヒャ! 跡形も無くなって……ない。え? 何で? え?」
 
 黒い煙が徐々に晴れていく。その中に大三郎が先ほどと同じ中腰姿勢の内股で立っていた。

 「救世主様!」

 大三郎の姿を見たメルロは笑顔のまま涙目になって名を叫ぶ。

 「痛ってーなおい。いきなり何すんだよ」
 「い、痛いって、君、何で生きているんだ?」
 「まぁ、エスカのダーリンのバカスペシャルに比べれば大した事ねーな。スキル発動する必要もなかったわ」
 「え? バカスペシャル? 大したことが無い? 僕の魔弾が? 大した事ない?」

 ヘンキロは両手をだらりと下げ、少し考えている様子だったが、今度は両手で銃を向けるように両手を前に出し、バンと言うと、先ほどの2倍の魔弾が飛んできた。だが、威力は2倍どころではなかった。 
 メルロは咄嗟に伏せ、爆風を避けたが、直撃した大三郎は流石に無事では済まないと誰しもが思った。

 「だから、さっきからいきなり何すんだっての。痛てーだろうが。メル達の事でお前に腹立ってるって―のに。お前、あれだ。もー絶対、許してやんない。あったまきた」
 
 怒り心頭な大三郎を、ヘンキロは黙ったまま見ている。そして、両手をだらりと下げ少し考えている様子だったが、一言、大三郎に質問をする。

 「君、何で無事なんだ?」
 「あ? 何でって?」
 「何で魔弾を喰らって無事なんだ?」
 
 ヘンキロは、先ほどまでのお道化た陽気さが無くなっていた。

 「教えて欲しいのか?」
 「あぁ。頼む」
 「頼むじゃない! お願いします!」
 「……お願いします」
 「素直で宜しい。じゃあ、特別に教えてやる。俺の立ち方を見てみろ」
 「立ち方?」
 「そうだ。この立ち方は、青星の俺流空手の型。Sonチン勃ちだ!」
 「青星? さん、ちん、だち?」
 「そう! この内股こそ、どの角度から見られても、全方向のから完璧に大事な所を守る鉄壁の防御!」
 「な、何と……。から完璧に守る鉄壁の防御……」
 「今の俺には、どんな攻撃も効かん!」

 その言葉を聞いたヘンキロはよろよろと後ずさる。
 魔弾の雨を生身で受け、平然としている大三郎が嘘を言っているようには見えなかった。
 
 嘘ではないが、ハッタリである。本物の三戦立さんちんだちなど知る由も無く、空手漫画を見て恰好良かったから、昔良く真似ていただけ。
 そして、もう一つ良く真似をしていた事をしだした。

 三戦立ちの姿勢から、両手で上下に回し受けをし、そのまま脇を絞める。そして、コォォオオっと息吹の真似事をし、最後に、コッ! と、全身の力を込め息を吐く。

 「……最後に教えてやる」
 
 大三郎は静かな口調で言うと、ヘンキロは無言のままピクリと体を動かす。

 「ピエロ。お前の負けだ」
 「な、なぜ?」
 「これを最後までさせてしまったからだ」
 「これ?」
 「そう。俺は息を吐いたな? それは全身全霊の気を体内に溜めるためだ」 
 「全身全霊の気?」
 「万物を司る爆発的なエネルギーの力を借り、ピエロ、お前の攻撃をそっくりそのままお前に返す事ができる!」
 「なっ?! そ、そんな事ができるはず――――」
 「できないとでも?」

 大三郎は不敵に微笑みながらヘンキロを見据える。
 
 「じゃ、試して良いかなぁ?」
 「へ?」
 
 ヘンキロはそう言い骸骨を召喚した詠唱を始めると、見る見るうちに骸骨の群れが現れた。 
 そして、一斉に大三郎に襲い掛かる。

 「ちょ、ちょちょちょ! 待って待って待っ――――うおぁ!」

 今、下手に動くと、もっこりタイツからいきり立った象さんがパオーン! している事がバレてしまう。更に、下手にパオーン! に刺激を与えてしまえば、パオーンに成った主砲である46センチ単装砲ちゃんが一斉射してしまう恐れもある。おいそれと、敵機発見! ヨーソローと動く訳にはいかない。
 
 身動きが取れない大三郎に、先頭の骸骨が剣を振り下ろす。大三郎は振り下ろされた剣を咄嗟に真剣白刃取りで受けた。
 
 ――あぶあぶあぶ、危ねぇええ。 

 剣を振り下ろされ危機的状況になった事で、いきり立ったパオーンは涙目なチワワに変化し、空気が抜けた浮き輪のように急速に萎んでいった。
 
 「お見事! 流石、救世主様!」

 中腰の内股姿勢で素早く真剣白刃取りをする姿は、達人的な何かに見え、メルロは目をキラキラさせながら大声で賛美した。 

 「あ、ありがとう」

 もう少しでチビリそうだった大三郎は、メルロの大声に思わず反応して礼を言ったが、この後どうしていいか分からない。骸骨はガチャガチャと骨を鳴らし、尚も剣を押し込んでくる。

 ――すじも、筋肉も、無いのに、どうやって、動い、てん、だよ?!  

  骸骨が押し込んでくる剣を、歯を食いしばり両の手のひらで挟みながら押し返すが、如何せん体勢が悪い。スポーツや格闘技の経験者ならいざ知らず、何も鍛えていない者が中腰のままで居られるはずもなく、その上、大三郎は会社の階段でさえ息を切らせる為体ていたらくぶり、当然の結果として足がガクついてくる。
 限界だと思い一気に押し返そうとするが、足腰に十分な力が入らず、押し込まれる力も加わって、前にではなく自分の後ろに転がる形となった。だが、大三郎の足腰は中腰の姿勢が長かったためか、中腰の形のまま後ろに転んだ事で、柔道の捨て身技の一つ『隅返』のようになり、勢いも合わさり骸骨は見事に投げ飛ばされた。
 
 ガシャン! と、地面に叩きつけられた骸骨はビクビクと体を動かすが、起き上がってくる様子はない。すかさずメルロは骸骨の頭蓋骨を叩き割る。

 「救世主様! 次が来るぞ!」

 両手を万歳のようにし仰向けに寝そべる大三郎は、メルロの言葉に自分の足の方を見ると、骸骨がわらわらと迫って来ていた。
 大三郎は慌てて起き上がりると、その大三郎に骸骨は剣を振るう。
 
 「うわ! あぶね!」

 ヒラリとまではいかないが、振り下ろされた剣をかわす。だが、次々と剣を振るう骸骨の群れ。大三郎は「ほ! は! ひ! は! ほ!」と、妙な掛け声とともに剣をかわしていく。骸骨の群れは、尚もしつこく剣を振り回してくる。その一体が体勢を崩し、大三郎の前に頭をさらけ出す形となり、大三郎は思わずその頭を叩いた。
 ぺシン! と、乾いた音。土産屋にある赤べこのように頭を揺らす骸骨。

 ――あれ? 消えない。何でだ?

 メルロに群がっていた骸骨は、触っただけで灰となって消えたのに、頭を叩いた骸骨は消えない。もう一度叩いてみる。
 ぺシン! と乾いた音。また、赤べこのように頭を揺らす骸骨。

 ――あれ? やっぱ消えない。何で? 

 不思議がっている大三郎に、頭を揺らしていた骸骨が顔を上げ、剣を下から振り上げた。

 「っうわ! あぶね!」

 顔スレスレでかわし、一歩後ずさった後、思わずだったのだろう、大三郎はスキルを発動する。

 「スキル発動! ゴッド・フィンガー!」

 そう叫びながら、突き飛ばす勢いで骸骨の胸元に掌底をかました。
 すると、骸骨は吹っ飛びながら灰となって消えていく。
 それを見た大三郎は直感で理解した。

 ――スキルを発動するたび、その前のスキルの効果は消える上書き制なんだ。そゆ事か。

 「よし! 理解した! 今なら何とかなる。――うん、多分。……そうだったら良いな」

 大三郎が理解し、骸骨の群れを見たその瞬間、顔面スレスレに剣が振り下ろされた。単装砲ちゃんがポークビッツ砲ちゃんになってしまうほど驚いて、振り下ろされた剣を高所から下を見るように鼻の下を伸ばしながら目だけ動かし、剣先を地面に突き刺している剣を見る。骸骨が再び剣を振り上げようとした瞬間、大三郎は「危ねーな! バカヤロー!」と、一喝しながら骸骨に思いっきりビンタをした。
 ビンタをされた頭蓋骨は、ボフン! と、良い音をさせ灰となって消え、残された体もサラサラと灰となっていく。
 そこで大三郎は気づいた。

 ――あれ? もしかして?

 大三郎は斬りかかる骸骨の剣をガシッと掴むと、その剣も骸骨同様、灰となって消えていく。そして、その剣を持っていた骸骨も灰となって消えていった。

 「……。な~るほどね。どの部分でも俺に触られたら終わりなのね。くっくっく。それも連鎖する。ふふ……、ふははははは! カルシウムの粉にしてやる! さぁ、来い! 骨っ子ども!! いや! 寧ろ、俺から行く!」

 大三郎はそう叫び、骸骨の群れの中に歩いて行く。
 元から異常に頑丈な事も相まって、大三郎に斬りつけても斬れない。

 「ふはははは! 効かん! 効かぬわ! ビビって損した! あははは痛で! あ痛で! ちょ、ちょちょ痛で、痛てーな! 斬られねーけど、思いっきり定規で叩かれてるみ、あ痛で。痛って、ちょ痛い、いた、痛てーつってんだろバカヤロー!」

 大三郎は骸骨の群れの中で憤慨しながらビンタしまくっていく。
 片っ端からビンタされまくった骸骨の群れは全て灰となって消えた。
 
 「きゅ、救世主様。大丈夫か?」
 
 軽く肩で息をする大三郎に、メルロは近寄り心配そうに声を掛ける。
 そんなメルロに大三郎は肩越しに返答する。

 「鎧袖一触よ。心配いらないわ」
 「え?」
 「何でもない。言ってみたかっただけ」
 「そ、そうか」
 「てか、ピエロが居ない」

 周りを見渡すと遠く離れた所にヘンキロが居た。

 「僕の舞台は時間切れの閉幕になっちゃったんだ。楽しかったよぉ。ヒャヒャヒャ」 
 
 遠くの方でそう言いながらヘンキロは大三郎達に手を振っていた。

 「おい、ピエロ!」
 「何だ~い?」
 「メル達にごめんなさいしろ!」
 「え?」
 「傷つけた事を謝れって言ってんだ!」
 
 ヘンキロは大三郎の言葉に驚き過ぎて動きが止まってしまった。そして、遠くの方から「傷つけて、ごめんなさい」と、頭を下げた。
 
 「俺は許さねーけどな!」
 「えぇ?!!」
 
 遠くの方でヘンキロは素で驚いた仕草をしていた。

 「女の子を傷つけて、簡単に許してもらえると思うな!」
 「えぇ?! 謝り損じゃないかぁ」
 「謝る事に損も得も無い! 悪い事をしたら謝る! 分かったか、ピエロ!」
 「わ、分かったよぉ。それよりも、攫われちゃうよぉ」
 「何が?!」
 「後ろ」

 大三郎が後ろを振り向くと、見た事もない男にソフィーアが攫われそうになっていた。大三郎はそれを見た途端、ソフィーアに向かい猛ダッシュして行く。
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