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彦野 うとむ

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妖精の森編

最凶の鉾VS最強の盾①

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 その男はこの場所に似つかわしくない礼服を着ていた。馬子にも衣裳と言う言葉があるが、それを真っ向から全否定するほど全く似合っていない。特に、首元のジャボが、お洒落なよだれ掛けに見えた。
 お世辞にもイケメンとは言えない顔立ち。背丈もそんなに高くない。筋肉質にも見えない。細くはないが、これと言って特徴の無い中肉中背。
 何か特徴は無いのか? と聞かれたら、へらへらと笑う愛想笑いが間の抜けた雰囲気を醸し出し、それが尚更、その男に対し意味も無く叩きたくなる衝動を掻き立てる。
 それは特徴なのか? と聞かれたら、それ以外にその男を例える言葉が無いのだから仕方がない。と、その場にいた者は言うだろう。
 ただ、その男を意味も無く叩きたくなるのは、何も間の抜けた雰囲気だけではなかった。その男の教育係の悪戯心か、はたまたこの世界の正式な礼服なのか、上着の肩章がやたらとごつく横に突き出しているうえ、フリンジの一本一本がモップ糸並みに太く、その所為もあってか、それに反比例するように、ウェストに巻いてある幅が広いサッシュベルトが、コルセットの様にキュッと締まった、何とも不格好な逆三角形を作り出す紺色の燕尾服になっていた。そして、燕尾服の前部分から見える白地のピンタックシャツ。そのシャツのピンタックがやたらと多いのだが、それが裾まで伸びていて、サッシュベルトがあろう事かと言うべきか、見事だと言うべきか、シャツを股間が微妙に見えるミニスカートのように見せていた。
 下は履いていないのか? と思いきや、ズボンではなく、微妙に見える股間をもっこりと強調する、足にピッタリとフィットしたピンクのタイツ。足元はと言うと、CWと書かれていそうなサンダル。
 その男を擁護する訳ではないが、誰が着ても似合わないだろう。寧ろ、着たくもない。
 そんな恰好の男が、へらへら笑いながら近づいて来るのだ。その姿はもう、男の合言葉にもなった一言。「変質者」そのもの。
 その場にいた者は、男を見て固まっている者、一歩後ずさる者と当然の反応を示している。

 「ちょっと良いかな~?」

 尚も近づいて来る男にティリスは「なに? なに? なに?」と一歩、二歩と後ずさる。

 「いや~。何か突然、変な景色になるからさ~。何か知ってないかな~? なんて……。あ、おじさん、変なおじさんじゃないから安心して」

 にこやかに言う男に、ティリスは警戒心を強める。それを見た男は、和ませようとしたのか「変なおじさんったら変なおじさん」と、お笑い界のレジェンドがするあの踊りをし始めた。
 突然現れた変な恰好をした変なおじさんが変な踊りを踊っている。警戒心を緩めようとした行為が逆効果になると思いきや、男が変な踊りをし始めた瞬間は目を丸くしていたティリスがプッと笑った。

 「プッ! ちょっと何? その変な踊り」
 
 男は警戒心が解けたと思い踊るのを止め、にこりとティリスに微笑む。

 「おじさん、杉田って言うんだけど、皆ここで遊んでたのかな? あっちはお友達? お兄ちゃんかな? 邪魔してごめんね。ちょっと聞きたいん――――」
 「あんな奴、友でも兄でもないわよ!!」
 「そ、そうなんだ。ご、ごめん」

 その迫力に大三郎はビクッとなり体を硬直させた。 

 「それよりも貴方、ここからすぐに立ち去りなさい」
 「え? 何で?」
 「良いから、すぐに立ち去りなさい。貴方のためよ」
 
 ここで何が起きていて、その巻き添えを食うかもしれないと説明している暇はない。このままだとリリーだけではなく、無関係のこの男までもピコラの餌食にしようと、いつジュオニカスが気まぐれを起こすか分からない。どうにかしてこの男を遠ざけ、闇魔法の中でも強力なペンバントカースの結界を解き、リリーを逃がさなければとティリスは内心焦っていた。
 だが、何も知らない大三郎は、真顔で言ってくるティリスに小首を傾げながら他の者達を見る。何処にも行こうとはしない大三郎の何気ない仕草に、ティリスは心の中でチッと舌打ちをした。

 さぁ行きなさいと言うように、ティリスは大三郎の胸をトンと軽く押し、ピコラ達の方へ振り向くとピコラが変なおじさんを踊っていた。

 「な!? ちょ、やめなさいピコラ! もう! 貴方が変な踊りをするからピコラが真似し――――」
 
 そう言いながら再度大三郎の方を振り向くと、大三郎もキレの良い変なおじさんを踊っていた。
 リズミカルに変なおじさんを踊るピコラ、そのお手本と言わんばかりに、頭を微動だにも動かさず大三郎はキレッキレの変なおじさんを踊る。その光景に流石のティリスも言葉を失った。

 「な、何だ、お、お前? へ、変なや、奴だな」

 ジュオニカスは呆れ顔で大三郎に言った。その途端、キレッキレの変なおじさんダンスをしていた大三郎がピタリと動きを止め、ジュオニカスを横目で見ると、ここで言ってはいけない事を口にする。

 「変な奴に変な奴と言われるのは心外だな」
 「な、なに?!」
 「それとも、同類と思われちゃったか? まさしく、同族嫌悪! なんちゃって。あはははは」
 「き、き、きさ、きさ、貴様!」
 「おいおい、何ガチギレしてんだよ。初対面の年上に向かって、先に失礼な事を言ったのはお前じゃねーか。自分が言われたからってガチギレすんのは筋違いだぞ、ぼーず」
 「ぼ、ぼぼ、坊主?! お、おれ、俺様を、が、ガキあつ、扱い、するな!!」
 
 ジュオニカスは煽るような正論を言われた上に、何やら大三郎は踏んではいけない地雷を踏んだようだ。二人のやり取りを見ていたティリスは、大三郎の死を確信し、眉間にしわを寄せ目を伏せた。
 
 「ピ、ピ、ピコラ! そ、その男も、よ、妖精とい、一緒に、お、鬼ごっこをしてやれ!」
 「妖精? おい、とっつあんぼーや。今、妖精と言ったか?」
 「と、ととと、とっつあんぼ、ぼぼぼ、ぼーやぁ?! む、むぉ、むお、むおあー! あ、頭にきた! こ、ここ、ころ、殺してやるー!」 
 「物騒な事言ってんじゃねーよ、とっつあんぼーや。それより、妖精ってい――――」
 「リリー!!」
 
 大三郎の言葉をかき消すほどの大声で、頭の上に乗っていたマーヤが叫んだ。
 
 「え? リリー? どこ?」
 
 目をキョロキョロさせ周りを見ていると、頭の上に乗っていたマーヤが飛んで行く。その方向に目を細め見ると、道のはずれに小さな妖精が横たわっていた。
 マーヤは横たわる小さな妖精の下まで行くと、涙声で必死に名を呼ぶ。

 「リリー! リリー! お願い目を開けて! リリー!」

 大三郎は只事ではない雰囲気に二人の下へすかさず駆け寄った。見ると、リリーと呼ばれている幼い妖精は、マーヤの必死な呼びかけに答えず、ぐったりとしていた。

 「ス、スギちゃん、どーしよー……、リリーが、リリーが返事しないよぉ」
 
 涙をぼろぼろと零し見つめてくるマーヤ。しかし大三郎は一般人、医療の知識がある訳でもなく、それに妖精と言う、言ってみれば未知の生命体。神々に認められた救世主とはいえ、こんな時には何の役にも立たないゴッド・フィンガーしか使えない。
 その時だった、ティリスが駆け寄って来て、リリーの顔や体を指先で優しく触れる。

 「…………。気を失っているだけ、死んではいないわ」
 
 それを聞いたマーヤはティリスの指を掴む。

 「リリーは、リリーは死なない? 大丈夫?」

 涙や鼻水やら顔をくしゃくしゃにしながら必死に聞いてくる。 

 「大丈夫と言いたいけど、このままだと……」

 そう言い渋い顔をする。そして、スクッと立ち上がるとジュオニカスをキッと睨み大声で叫ぶ。

 「ジュオニカス! ペンバントカースを解きなさい!」
 「う、うるさい! そ、その、男も、よ、よよ、妖精も、こ、殺してやる!」
  
 一瞬の睨み合いの中、大三郎はリリーを見ながらティリスに声を掛ける。

 「嬢ちゃん」
 「何?」
 「その、ぺん何とかって、リリーと何の関係があるんだ?」
 「……。あいつがこの一帯に掛けた闇魔法の結界よ」
 「闇魔法? ……それで?」
 「闇魔法の結界があると、治癒系の魔法が一切使えないの」
 「そっか。んで、リリーがこうなったのも、あのとっつあんぼーやの所為か?」
 「この結界の中に居るだけで、生命力を吸い取られてしまうのよ。生命力が弱い者だったら十数分と持たないわ。だから、一刻も早くペンバントカースの結界を解かせ、治癒魔法をしないと、このま――――」

 ティリスが言いかけている最中に、大三郎は立ち上がると、スタスタとジュオニカスに近づいて行く。最初は歩く程度が一歩一歩と速度を上げて行き、5,6歩辺りで加速し、その後は物凄い速さでジュオニカスに向かって走り出した。
 その速さに面食らったジュオニカスは、ピコラに命令するどころか身動きすら出来ずに、固まったまま見ているしかなかった。そして、目の前まで迫った時、鬼の形相に成った大三郎は遠投でもするかのようなフォームで、ダッシュ&ジャンピングスーパー拳骨をジュオニカスの頭に振り下ろす。

 ――ゴツン! 「ゲッ!!」

 ジュオニカスは牛蛙の短い鳴き声に似た声を上げ、地面にバタリと倒れた。エスカも見た事の無い大三郎の冷たい真顔。地球でもそんな顔をした事は無いだろう。その冷たい真顔のままジュオニカスを見下ろす。

 「おい小僧。その何とかって言う魔法を解け。今すぐ」

 ジュオニカスは大三郎の問いに何も答えず、地面に突っ伏したままだった。
 大三郎は2,3秒待ち、何も答えないジュオニカスの奥襟を掴み上げた。身長的には小太りな中学生くらいのジュオニカスを、普段の大三郎なら片手で持ち上げる事は出来ないが、人間問わず、思考のある生物は怒りが最高潮に達した際、通常よりも倍の力が出ると言う。奥襟を掴み、片手で持ち上げている今の大三郎ように。
 
 「もう一度言うが、先に行っておくぞ。三度目は無い。今すぐ、魔法を解け」
 
 スーパー拳骨の衝撃で地面に顔から激突した所為か、ジュオニカスは鼻からポタポタと鼻血を垂らし、何やらブツブツと言っている。大三郎は奥襟を掴み上げている手首を返し、ジュオニカスの顔を自分に向けさせた。と同時に、ジュオニカスが奇声を上げる。

 「ウぎゃァあアァアあア!!!」
 
 ホラー映画に出てくる奇怪な赤子の鳴き声みたいな奇声を上げると、金属同士を思いっきり叩きつけた時に出る、耳をつんざく音が響き渡る。それと同時に、大三郎は勢いよく吹き飛んだ。ティリスを始め、その光景を見ていた者は、大三郎の死を確信した。

 「はぁはぁ、う、うう、い、い、いだい……いだい、いだいいだいだいいだいいだいいだい、痛いよぉおおぉぉぉお!!」
 
 下を向いたまま頭を押さえ、地団駄を踏みながら、まるで聞き分けの無い子供の様に泣き叫ぶジュオニカス。その行為も姿も気味の悪いものだった。
 
 「み、みん、皆、こ、殺して、や、やる……。皆殺し――――ッ!!?」

 そう叫び顔を上げた瞬間、目の前に吹き飛んだはずの大三郎が、目をカッと開き遠投のフォームで、今まさにジュオニカスの頭にスーパー拳骨を再び放つ瞬間だった。

 ――ゴオン!! 「ゲッ!!!」

 鈍い音と共に、再び牛蛙に似た声を上げ地面に突っ伏す。そして「びィヤァあアアア!!」と鳴き声を上げると、もがき苦しむ虫のように手足をばたつかせた。その行為をする姿は人とは思えないほど不気味だった。そして、ばたつかせていた手足を止めると、映像を逆再生しているように、体のどの部分も曲げず、地面から少し浮いた形で立ち上がった。ジュオニカスの右目と左目の眼球は、別の生き物の如くバラバラに動き、頭や上半身、腕や指のあちこちをビクビクガクガクさせている。その姿は、ホラーゲームに出てくる怪異。だが、大三郎はお構いなしに三発目のスーパー拳骨をお見舞いする。勢いよく振り下ろされた拳骨の衝撃で、ジュオニカスは四つん這いの格好になり三度みたび顔面を地面に激突させた。
 それで終わりかと思った矢先、大三郎は低空のロングアッパーのような拳骨を地面に激突しているジュオニカスの頭にお見舞いする。ジュオニカスは牛蛙がひっくり返った様にゴロゴロと転がっていく。

 「普段は馬鹿で良い、助平でも良い、役立たずで良い。いざとなった時、役に立ちゃ良い。俺はそう教えられた。そしてもう一つ教えられた事がある。男としてやっちゃ駄目な事があるってな。男として産まれた以上、どんなにガキであってもだ。俺はそう教えられた。お前にも教えてやる」

 大三郎は転がった先で、車に轢かれた蛙のように地面に倒れているジュオニカスに向かって話す。そして、ジュオニカスの下まで歩きながら大声で叫ぶ。

 「それはな、男として格好悪い事をするなって事だ!!」

 エスカが今の大三郎を見たら、大三郎だと気づかないかもしれない。それ程、真剣な面持ちで言い放っているのだ。

 「自分が楽しむ為だけに、自分より明らかに弱い者をいたぶったり、傷つけたり悲しませたりする奴ぁ男じゃねぇ。ただのクズだ。人間の屑だ! それにお前、自分のコンプレックスを誤魔化す為だけに、自分より明らかに弱い者をいたぶってるだろ? 30年以上も生きてるとな、そんな奴を腐るほど見てくるから分かんだよ。背が低かろうが足が短かろーが、どんなに見た目がブサ男だろーが、人より色々劣ってよーが、不幸の産まれだろーがな、中身が格好良い男はモテんだ! 俺はモテねーけどな! 何でか知らなんがモテねーけどな! 大きなお世話だバカヤロー!」

 怒り心頭の大三郎は、自分自身がコンプレックスの塊だからこそ、コンプレックスの塊の者の心情を理解していた。だからこそ、理解出来ない事もあった。

 『コンプレックスから来る八つ当たり』

 八つ当たりの”八つ”の言葉通り、自分より弱い物を手あたり次第、いたぶる。自分のコンプレックを隠すために、誤魔化すために、自分の劣っている部分から目を反らし、虚栄の優越感に浸りたいがために。
 大三郎には理解できなかった。したくもなかった。

 「コンプレックスだってな、立派な個性なんだよ! この世にたった一人しか居ない自分の、自分だけの個性なんだよ! それすらも分からんで、目を反らして自分より弱い物を虐めて、空しい空っぽの優越感に浸ってる、そんな奴に限って自分の悪事がバレると、この世に嫌われてるだの、周りが悪いだの、被害者は自分だのとすぐ他人の所為にして、自分の我儘を通そうとする。――反吐が出るわ! 結局、自分の面倒も見れない、自分の事は何一つ真面に出来ないって自分で言ってる事にも気づかない、大馬鹿野郎のクズなだけなんだ! 自分の個性すら捨ててる奴が、中身がスッカラカンの自分の為に、他人を犠牲にするのは筋違いなんだよ!」

 珍しく本気で怒っている大三郎が、リリーの事だけじゃなく、何でそんな事を言うんだ? と、見ていた者は思うはず。
 その理由は、大三郎はジュオニカスが何かをブツブツ言っていた言葉が聞こえていたからだった。

 ”み、皆、ぼ、僕をば、バカにしやがって”その後も言葉も、自分のやっている事を棚に上げ、自分は悪くない、悪いのは全部自分以外の奴。怒られて当り前な事をして、咎めた者を逆恨みする。すぐ他人の所為にする者のお決まりの台詞を言っていた。

 「おい、とっつあんぼーや。お前、何とかって結界で、小さい幼い子をいたぶり殺そうとしてたんだろ? だったら、その結界を解くまで、俺がお前に同じ事をしてやるよ」 

 大三郎はこの世界で救世主だが、漫画や映画に出てくる正義の味方ではない。そう成るつもりもない。成れない事を、大三郎本人が一番知っている。だが、成れたとしても成らないだろう。
 聖騎士長だった頃のエスカの様に、手を差し伸べる事はしない。ソフィーアが声を出せるとしたら、優しく諭すだろう。だが、大三郎は優しく諭す事もしない。やるなら「悪ガキには徹底的に拳骨で教える」ただそれだけ。
 自分にする悪戯なら笑って済ます。誰かに悪戯をして、嫌な思いをさせたのなら説教をする。喧嘩をしたなら、一方だけを怒らず両成敗。だが、遊び半分で命を奪う事をするなら、痛みで教える。

 「う、うう、うるさい……。う、うるさい、うるさい。う、うう、うるさいぃ!! うぃぃいきゃぁああああ!!!」
 
 悲鳴のような奇声を上げると首に巻いていたラフカラーが弾け飛ぶ。弾け飛んだラフカラーの破片が蒸発するように黒い煙になると、ジュオニカスを囲むように破片の数だけソフトボール程の黒い球体が現れた。

 「マイマールの魔弾!?」

 ティリスはそう言うと慌てて防御魔法の詠唱を始めた。しかし、それと同時にマイマールの魔弾が、大三郎やティリス達に襲い掛かる。

 ――間に合わない!

 防御魔法の詠唱が間に合わないと悟ると、リリーとマーヤを庇う様に、高速で飛んでくる魔弾の方に差していたパタゴ傘を向け、内側に身を潜め身構えた。

 「アクティブスキル発動! とっつあんぼーや!」

 大三郎の叫び声と共に、腹に鈍く響くほどの爆発音が数回した。しかし、パタゴ傘には魔弾の衝撃が無い。数秒待ってみたが何も起こらない。ゆっくりとパタゴ傘から顔を出すと、土煙の中、自分達の前に大三郎がクロスアームブロックをし立っていた。
 
 「大丈夫か?」

 大三郎は背を向けたまま問い掛ける。

 「あ、貴方、まさか、生身で魔弾を受けたの?」 
 「魔弾? ああ、今のやつか。そうだよ」
 
 それを聞いたティリスは耳を疑った。しかし、ジュオニカスに吹き飛ばされても、すぐに立ち上がり拳骨を喰らわせていた大三郎を見て、余りにも信じ難い光景に言葉を失っていた事を思い出す。

 「貴方……、一体、何者なの?」
 「杉田大三郎35歳、独身。出身は青星。一応、この世界では強制的に救世主をさせられている者です」
 「きゅ、救世主を、させられてる?」
 
 この世界の者にとって、救世主は特別な存在。それを、”強制的にさせられている”と、さらり言う。
 違う所でそれを言われたら、鼻で笑うか聞き流して無視をするだろう。だがしかし、目の前に居る男は、その言葉を信じさせる程の事をしている。

 「思わず、アクティブスキルって言ってみたけど、ゴッド・フィンガーと同じにスキル発動するんだな。良かった、スキル発動して。とっつあんぼーやを指定して正解だったみたいだし。さて、結界を解除させないとな」

 大三郎はそう言うと、何事も無かったかのようにジュオニカスの方へ歩いて行った。
 ティリスは固まったまま、その後ろ姿を見ていた。
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