異世界で探がす愛の定義と幸せカテゴリー

彦野 うとむ

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妖精の森編

幻想的な森の中で②

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 ――姉様の事で頭が一杯だったとは言え、何故、妖精の森に局長自ら赴く要件を不思議に思わなかったのか……、これは私の失態。それより、半年も前に妖精が斬られた事を知らなかったなんて……、失態どころの話ではありませんわ。ホーデリーフェも知らなかったのかしら? と言うより、プルシラがこんな大事件を知らないはずは……。黙っていた? いいえ、それはあり得ませんわ。妖精を斬った相手を粛清したと事後報告ならいざ知らず、黙っているなんて絶対にありえない。……プルシラも知らなかった? 元とはいえ、参号隊隊長だったプルシラの情報網は今も生きているのにプルシラの耳に入らなかった……。局長は知っていたのかしら? ……こんな大事件、知っていたら全隊を動かしま――ッ!? 
 
 「きゃっ!」
 「あ痛」

 突然、ロシルの顔面に何かがぶつかる。
 
 「い、痛いですわ。何ですの?」
 「い、いや。それ俺の台詞だし」
 「え?」
 
 大三郎の背中に自分から当たりに行ったのだが、考え事をしていてそれに気づかなかった。

 「手を洗える場所ってここだと思う。てか、大丈夫か?」
 「え? ええ。大丈夫ですわ」
 「街灯は無いけど、月明かりとかで結構明るいと思うんだが、見えなかったかな?」
 「ちょ、ちょっと考え事をしていただけですわ」

 二人は神社や寺院などの脇にある、参拝者が身を浄めるために手水を使う、手水舎ちょうずやのような場所で手を洗い始めた。

 「一つ聞きたいのですけど」
 「ん? なに?」
 「先ほどの事ですわ」
 「さきほど?」
 「ええ。妖精が斬られた」
 「ああ」
 「それはあの妖精から聞いたのかしら?」
 「いいや、斬られた話はエスカからだよ」
 「え!? 姉様から?」
 
 ロシルは洗っていた手を止め目を丸くして、それこそ驚愕の表情で大三郎の顔を見る。

 「ああ。妖精の粉を貰う時にね。その時はまだパニティーの妹だって知らなかったんだ。メル達と出会った時に、斬られたのはパニティーの妹だって知ったんだけど、あの時は散々な目に――」
 「ちょ、ちょっと待ってくださいまし。ね、ね、姉様は、斬られた話を聞いて何と仰っていたの?」
 「え? ん~……、そゆ事があったから妖精の粉はすぐに貰えないって……だったかな?」
 「そ、そうではなくて」
 「なに?」
 「妖精が斬られた事に対してですわ!」
 
 鬼気迫るように問いかけてくるロシルに大三郎は少し引き気味になりながらも、空を見上げてあの時の会話を思い出す。
 が、特に斬られた事自体にエスカは余り触れていなかったような気がする。

 「いや、これといって何も……」
 「そんなはずないですわ!」
 「えぇ?」

 自分の言葉に被さるように否定してくるロシルに驚いて一歩後ずさってしまった。

 「妖精が斬られて黙っている姉様ではありませんわ。よく思い出してくださいまし!」
 「そ、そんな事……言われても」
 「あんたは事の重大さを理解してませんの?」
 「い、いや、そりゃあ、パニティーの家族が斬られたんだもの大事件だよ」
 「そうではなくて! 妖精の血が泉に……」
 
 興奮気味に捲し立ててきたロシルが突然黙り込む。

 「ど、どうした?」
 「……。何でもありませんわ」
 「そ、そう?」
 
 ビクビクオドオドしている大三郎をよそに、ロシルは洗っていた自分の手の方を見る。そして、溜息のような小さな息を吐いた。
 泉が湧き出る洗い場の水面に視線を送ると小さな声で呟く。

 「……。あんた」
 「な、なに?」
 「……。本当に救世主なのね」
 「え? ま、まぁ、一応、そうだけど。……な、なんで?」
 
 大三郎の問いかけにロシルはすぐに答えなかった。
 大三郎にとっては居た堪れない沈黙の中、ロシルは呟くように話始める。

 「……姉様を守れなかった」
 「え?」
 「私は、姉様を守れなかった。……助けれなかった」
 「な、何から?」
 「姉様を守れない私が……。そうよね」
 「あ。俺は無視ね。はい、慣れてます」
 
 何で本物の救世主だと納得したのか、ロシルは何からエスカを守れなかったのか一切答えてもらえない。
 どうせ無視されるならと、何時もの軽口を叩いて気を紛らわせようと思ったのだが、突然ロシルが大三郎の方に向き直ると真顔で見つめてきた。
 
 「な、なんでショウ?」

 殴られる! 大三郎は反射的にそう思い声が上ずった。
 女性が真顔で自分を見ると反射的にと言うかエスカの調教? で”ぶっ飛ばされる!”と、自分が悪くなくてもパブロフの犬状態にそう思うようになっていた。
 だが、いくら待っても殴られる様子がない。
 
 「あ、あのぉ~」

 恐る恐る声を掛けてみるが、ロシルは怒りでも呆れでもない悲し気と言うか、何かを悟った顔だった。
  
 「いや、マジでどうした?」

 大三郎もロシルの雰囲気が何か違うのを感じ心配になる。
 
 「勇者も英雄も……、特に救世主はこの世界のどの種族でも成れないですわ。姉様があんたを救世主として接し、そんなあんたは妖精の事を……、この世界の事を知らない」

 ロシルが言っている”この世界の事”は、滅亡の事を言っているのではないと大三郎は気づいていた。

 「勇者や英雄程度では姉様は見向きもしないですわ」
 「そうなのか?」
 「ええ。当然ですわ」
 「ふ~ん」
 「何ですの? その気の無い返しは? そうですわね、あんたに特別に教えて差し上げますわ」
 「何を?」
 「姉様の凄さですわ」
 「ん~……、別にいいよ」
 「何でですの!?」
 「エスカが凄いのは身を持って知ってるから」
 「あら? そうですの?」
 「嫌という程ね」
 
 散々身を持って教えられてきた大三郎は、ロシルから目を反らしぼそりと呟き苦笑いで答える。
 
 「あんたに任せますわよ」
 「何を?」
 「姉様の事をですわ」
 「任せられても、ねぇ……」
 「私達は守れませんでしたわ。ですから不本意ではありますけど、救世主のあんたに私の姉様を守る任を任せますわ。でももし、私の姉様に毛ほどの傷や、霧の粒ほどの涙を流させたらただではおきませんことよ。それと、万が一にで――」
 「心配すんな」
 
 大三郎はロシルの言葉を遮るように言葉を被す。

 「何ですの? 人が話している最ちゅ――」
 「心配すんな」
 「あんた、本当に最低のクソ男ですわね。人のはな――」
 「だから、もう泣くな」
 「え?」 
 
 その後、二人の間に沈黙が流れる。
 サァーっと流れる風。
 それに合わせたように葉擦れの音。
 虫達の涼し気な羽音。
 沈黙は周囲の音を鮮明にする。
 人は泣く時、自分が泣いている事に気付く。当り前の話である。
 だが、ロシルは自分が涙を流している事に気付いてはいなかった。
 自分の頬を止めどなく流れる涙に気付くと、先ほどまでの口調ではなく絞り出す震える声になり大三郎に語る。 
 
 「……本当に、本当に申し訳なくて。……私は守れなくて。……何もできなくて。……ずっと、ずっと、悔やんでも悔やみ切れなくて。……あんたなら。……あんたなら。……姉様に何かあった時……救世主なら」

 救世主と納得した後、ロシルのころころ変わる辻綱の合わない話は虚勢を張っていた所為なのだろう。
 人は自分の思いを訴える時、涙を流していたとしても俯くことはしない。出来ないのだ。
 自分の思いを訴える事に精一杯だから。
 
 ソフィーアを助けて欲しいと涙を流しながら訴えてきたメルロもそうだった。
 大三郎の膝を掴み、大三郎の目を見て必死に。

 誰かを救う者は誰かに救ってもらう期待をしてはいけない。
 救う者は救われる者ではないから。 
 誰かを助ける者は誰にも助けてはもらえない。
 助ける者は助けられる者ではないから。
 
 何かの本で読んだ言葉。
 その時は理解できなかった。
 だが、今なら理解できる。
 自分は救われる事も助けれらる事も望めない。
 自分は救う者で助ける側だから。
 そこに綺麗事なんて無い。都合の良い言葉も無い。 
 自分が救われる事も助けられる事も無いのは、滅亡を決定されたこの世界に綺麗事も都合の良い言葉も用意されてなどいない、それと同じだから。
  
「心配すんな」
 
 今度は遮るような言葉ではなく、”信じろ”と言う意味を込めて力強く言う。
 その言葉にロシルは反射的に反論しようとしてしまう。 

 「信じら――」
 「信じるしかないんだ」

 誰でもそうだ。
 自分から願っておきながら、願った相手の言葉を思わず否定してしまう。
 本当は期待しているのに、信じているのに、どうにかして欲しいと思っているのに、否定してしまう。
 確かなものが無いから、不安で不安で仕方がないから。
 大三郎も地球に居た頃、そんな時があった。だが、上手くいった事も願った通りになった事も無い。
 大抵はそんなものだ。
 だから分かる。信じるしかないんだと。それしか出来ないんだと。
 
 「信じるしかないんだ」

 その言葉を言うに値しない男だと自分自身が一番理解している。
 でも、誰かの願いを叶えてやれる者はこの世界で自分しか居ない。
 叶えてやれる自信も確信も無いが自分しか居ないと理解している。
 だから、自分自身に言い聞かせるようにロシルを真っ直ぐ見つめ、もう一度言った。
 真っ直ぐに見つめて言う大三郎の言葉を受け止めたのか、ロシルは唇をギュッと噤むとくるりと背を向け涙を拭う。そして再び大三郎に向き直る。 

 「姉様の事、任せてもいいのですね?」
 
 ロシルは精一杯の虚勢を張りエスカの真似をして言う。

 「任せろ。二号」
 「二号? 二号って何ですの?」
 「エスカ二号」 
 
 真顔で言う大三郎の言葉にロシルは目を丸くする。
 だが、エスカの二号と言うのは満更でもなく寧ろ嬉しく思う。
 エスカの名をそんな風に使う者などロシルの知る限り居るはずもなく、そして嬉しく思った自分に笑いが込み上げてきた。

 「ぷっ! ね、姉様に知られたら、お、怒られますわよ。ぷふ」
 「あら? ロシルは私の言う事を信じられないと?」

 込み上がる笑いを必死に我慢しているロシルに、大三郎はエスカが何時もする少しはすに構え腕を組む姿勢をしながら顎を少し上げ、見下すようなツンとした表情でエスカの口調を真似をして言う。
 
 「ぶふ!」
 「そうですか。ライトニングですね」
 「ぶはっ!!」

 自分以外の誰かがエスカの真似をするなど考えた事も無かったロシルにとって、案外似ている大三郎のモノマネはツボをつく。
 その時、近くの草むらからガサッと音がした。
 大三郎は飛び跳ねるぐらい驚き、恐る恐る草むらを見ると何かの小動物が去って行くのが見えた。
 
 「ビ、ビビったー。エスカが帰って来たのかと思ったぁ~」
 「わ、私もですわ」
 
 エスカではない事を知った二人は安堵の胸をなで下ろす。
 その安堵感が妙に可笑しくて、また笑いが込み上げてくる。

 「ぷっ! あは、あははは!」
 「あはははは!」

 二人は同時に大笑いした。
 それはもう腹を抱えると言う言葉通りに。
  
 「ロシルちゃん、ちょービビってたな? あはははは!」
 「あ、あんたこそ、あははは! ぴょんて、あははは! 飛び跳ねるなんて、あははは!」
 「マジ怖かった、あははは! でも、俺が真似した姿で立ってたら、あはは、爆笑してたかも、あははは!」
 「ちょっと、あははは! 想像しちゃったじゃない! あははははは!」

 ロシルは真面に立っていられないくらい大笑いしていた。

 「そっちの方がエスカも好きだと思うよ」
 「あはは、え?」
 
 笑い涙を流しながら笑っていたロシルは不意な言葉に大三郎の顔を見る。

 「あいつはさ、俺以上に誤解される奴なんだと思う」

 ロシルは大三郎の言葉を黙って聞いていた。

 「表情が乏しいとか感情が無いとか言われた事もあるだろうな。表情豊かで熱い奴なのに。まぁ、中には妬みもあるだろうがね」
 「……どうしてそう思うの?」
 「ん~? そりゃ、一緒に居ればわかるさぁ。誰よりも一生懸命じゃん? あいつ」
 「ええ。そうですわ」
 「でもそれは自分の為じゃない」
 
 ロシルは、エスカの背中を必死に追いかけていたあの頃を思い出し、大三郎の言葉に何も言えない。
 
 手を洗う場所から湧き出る泉の音。 
 幻想的な妖精の森を更に幻想的にさせる、蛍火けいかのような明かりが所々にふわりふわりと浮いている。
 夜の森でもその明かりのお陰で周囲がほど良く見渡せる。
 エスカに連れて来てもらわなければ地球では見る事ができない幻想な景色。
 
 「綺麗だよな」
 「何がですの?」
 「この景色」
 
 大三郎とロシルは幻想的な妖精の森を見渡す。

 「ええ、そうですわね」
 「こんな綺麗な景色があるこの世界の中で笑っていて欲しかっただけなんだろうな。ただそれだけなんだろう」
 「え?」
 「あいつが何時も誰かの為に一生懸命なのはさ」  

 ロシルは、”あんたに言われるまでもなく、そんな事は知ってますわ”と言いたかった。
 だが、何も言えなかった。
 
 『誰かの為に』
 称えられる事を欲した姿など見た事は無い。
 称えられたとしても、笑顔を見せる所など見た事が無い。
 己の進む道が茨の道だとしても臆せず歩み、自分が苦しい時でさえ手を差し伸べ、何時も誰かの為に我が身を顧みず戦い続け高みを目指し続けていた。
 他の者にとってその行為は特別だとしても、エスカにとっては”当たり前”の事だった。
 そんな孤高で高貴なエスカの姿にロシルは憧れ背中を追い続けた。

 「聖騎士長、だっけ?」
 「え?」
 「昔、エスカが就いてた、役職? って言うのかな? 何でも、歴史上初なんだって?」
 「ええ、そうですわ」
 「って事は、生半可な事じゃ聖騎士長に何か成れないって事だろ?」
 「ええ」
 「ロシルちゃんは、何でエスカが聖騎士長を目指し聖騎士長に成ったか知ってる?」
 「え? ……。正直な所、知りませんわ。姉様はそう言った事を余り人に語らない方ですもの」
 「まぁ、色々と理由はあるんだろうけど、あいつの事だ、根本的なものは単純だろう」
 「失礼ですわね。姉様に限って単純な事などありませんわ。きっと何か深い理由があるに決まってますわ」
 「無いよ」
 「何であんたがそんな事を言えますの!?」
 「だって、青星から俺を連れて来るくらいだぜ?」

 大三郎のエスカに対する見方が余りにも軽く感じ反論しようとしたのだが、返ってきた言葉が的を得過ぎていて、ロシルはぐうの音も出ないほど一瞬にして納得してしまった。
 納得し過ぎて石像のように固まっているロシルを見て大三郎はくすりと笑い言葉を続ける。

 「あいつが一生懸命になる理由なんて単純なんだよ。さっきも言ったけど、ロシルちゃん達に、こんな綺麗な景色の中で何時までも笑っていて欲しかっただけなんだろうさ。俺を連れて来たのも、話を聞いてくれた俺ならってだけだろう。んで、神様にさ、俺が救世主として認められなかったとしても、認めてもらうまで私が鍛える! 何て思ってただろう。あいつは、あはは」
 
 大三郎は幻想的な森の景色を見ながら笑う。

 「そ、そんな単純な方では」
 「単純だよ」
 「さっきから何ですの? 私の姉様を単純だのと」
 「単純にもなるさ、自分で全ての責任を負おうとするから。あいつさ、自分の気持ちを人に伝えるのが下手じゃん? 見てて思うんだ、こいつ人に頼った事が無いんだろうなって」
 
 ロシルはその言葉に何も返せない。
 エスカが誰かに頼った姿など見た事が無かった。
 見せてはくれなかった。

 「頼った事が無いから、それこそ人に言えないくらい辛い思いも悔しい思いもしただろうよ。損なんだよな」
 「何がですの……?」
 「何でも一人でこなせる奴って。誰よりも器用だから誰よりも不器用になっちまう。その上、エスカみたいな誰かの為に頑張る奴ってさ、自分の事は不器用になるもんなんだ」
 「どうして……ですの?」
 「何でもこなせるから自分の事は二の次にしちゃうんだ。んで、気づくと……、一人ぼっちになってる。そんな奴ってさ、それでも一生懸命なんだよな。……それこそ馬鹿みたいに。だから余計、本当の理由を知らない奴に自分勝手だのと陰口を叩かれちまう。ま、その辺はロシルちゃんの方が詳しいと思う」

 ロシルは思い出していた。
 わざと聞こえるように陰口を叩かれようが、身に覚えのない誹謗中傷を浴びようが、目指す道を邪魔するあからさまな嫌がらせをされようが、自分を信じてくれる者の為に胸を張り歩き続けたエスカの背中を。

 「だから、笑ってやれよ」
 「笑う? 何がですの?」
 「あいつにさ、エスカに笑ってやりな。作り笑いじゃなく、気を遣った笑顔じゃなく、さっきみたいな笑顔でさ」
 
 優しい目で真っ直ぐ見てくる大三郎の視線から目を反らすようにロシルは俯く。

 「……できませんわ。姉様を助けれなかった私などが……、姉様の前で姉様の真似をして笑うなど」
 「いや、それは駄目だと思うし違うし。俺の言っている意味違うし」
 
 大三郎は珍しく良い事を言ったのに、金メダル級の頓珍漢な受け答えが返ってきてしまい、苦笑いしながらびっくりと呆れが混じったツッコミをした。
 それを見たロシルは自分の勘違いに気付いたのか、耳を赤くさせ必死に誤魔化す。

 「え? な、何ですの? わ、分かって言っただけですわ」
 「本気で勘違いしただろ?」
 「そんな事ありませんわ!」
 「ロシル。勘違いしましたね? 良い訳は聞きません。ライトニングです」
 「ぶふ!!」
 
 今度は大袈裟に真似をする大三郎に吹き出してしまった。

 「それで良いじゃん。あいつはもうロシルちゃん達が憧れた聖騎士長じゃねーんだ。普通に話して笑って笑顔を見せてやる。今度はあいつを慕う後輩や友達としてさ。あいつはそれだけで十分だと思う」
 「そんな……」
 「俺とエスカが世界を救ったら、皆でライトニングじゃねーや、ハイキングにでも行ってのんびりしよーや」 
 「ライトニングとハイキングでは大分違いますわね?」
 「そこはツッコまないでよ」
 
 ロシルの勘違いにツッコんだばかりなのに、今度は大三郎が素で言い間違え耳を赤くする。
 それを見てロシルはくすくすと笑う。
 大三郎もくすくす笑うロシルを見てにこりと微笑んだ。
 
 「さて、そろそろ戻ろうか?」
 「そうですわね」
 
 苦難の道だろうと茨の道だろうと誰にも頼らず、自分に頼る者には手を差し伸べ続け、そして道を示してくれていた孤高で高貴な女聖騎士長。
 エスカを目指す者は居ても、隣に並んでくれる者は居なかった。
 だから必死に背中を追いかけた。
 隣に並びたくて隣で支えたくて。
 ……独りにしたくなくて。

 部屋に戻る大三郎の横にエスカの面影を並べる。
 
 ――もう、一人ではないのですね。

 ロシルはエスカの隣で歩いてくれる者がいる事を知る。
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