異世界で探がす愛の定義と幸せカテゴリー

彦野 うとむ

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妖精の森編

相対する美の哲学

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 「申し訳ないんだけどさ、引く訳にも負ける訳にもいかないんだよね」

 素足を出した膝上のマントをなびかせながら、そう言い放つ大三郎。

 「あんたはこの状況で良くそんな事が言えるわね?」
 
 四大精霊の内、風を司るエアリエルの洗礼を受けているロシルの魔法が周囲に風を起こす。

 「まぁ~。正直に言えば戦いたくはないんだけど」
 「だったら素直に引き渡しなさいな!」
 「それが無理だから、引く訳にも負ける訳にもいかないんですよ」
 「たかが妖精一匹に命を捨てると言う訳ね?」
 
 ロシルの非情な言葉に、今まで笑みは絶やさなかったが、困り顔をしていた大三郎がスッと真顔になる。

 「ふん! 愚か者に何を言っても無駄と言うこと。なら――」
 「つるぺったん!!」
 「な!?」
 「つるつるつるぺったん!!」
 「あ、あんたぁ! 私を愚弄する気ぃ!?」
 「うるせー!! 愚弄なまな板!」
 「なっ!!」
 「まな板やつるぺったんにはなー! 巨乳には無い美しさがあるんだよ! 慎ましい美があるんだよ!」
 「あんた! 何が言いたいわけ!?」
 「言うに事を欠いて、たかが妖精一匹だぁ? テメーは巨乳か!? つるぺったんのクセに巨乳発言か!?」
 「なぁっ!!?」

 大三郎のドストレートな言葉に、ショックの余り雷に撃たれた顔をするロシル。
 そんなロシルを尻目に大三郎は容赦なく畳み掛ける。 

 「巨乳はなぁ、そこに夢や希望が詰まってるから大きんだ。逆に言えば、世に居る同性の夢や希望を吸い取っているから大きんだ。その所為で、同性には妬まれたりするが、その反面、異性にどんな発言をしても許される事があるのが巨乳と言う存在だ! だが! お前は、まな板のつるぺったんだ! 決して巨乳ではない! 寧ろ普通でもない!」
 「あ、あ、あん、あんたねぇ」
 「まな板はなぁ……、つるぺったんはなぁ……、人に夢や希望を与えるから小さいんじゃぁああ! 同性にも異性にも夢や希望を与える存在なんじゃぁあああ!! その存在のお前が、たかが妖精一匹とか言うな!!!」
 
 ロシルは大三郎が何を言いたいのか全く分からないでいた。ただ、自分の胸の事を言っている事だけは分かった。いや、寧ろそれだけは分かりたくも無かったのだが、大三郎がロシルの目を見て言っているのではなく、ロシルの慎ましい胸を今にも泣き出しそうな目で凝視しながら叫んでいるので自分の胸の事だと嫌でも分かった。

 「ふ……ふふ……ふふふ」
 
 ロシルは大三郎が凝視している自分の胸を俯き加減で見ながら笑い出した。

 「どうした? つるぺったん?」
 「そう、そうなのね……。あんたは私を馬鹿にしたいだけなのね? そうなんでしょう? ふふふ……」
 
 ロシルは肩を震わせながら、気の弱いものなら卒倒してしまう程の殺気を膨らさせる。が、大三郎は胸の事を熱弁し始めると、殺気など扇風機の弱以下のそよ風程度にしか感じない。
 
 「分かっていない。お前は分かっていない! 何も分かってはいない!!」
 「……へぇ。じゃあ、何だって言うの?」
 「いいか! 巨乳がエロスの最高位なら! 貧乳やつるぺったんは神が与えたもうた最高の美なのだ! 貧乳だからつるぺったんだからと自分を卑下する必要は全くない! 最高の美を手に入れているくせに見っとも無いと捉える己自信を恥じろ! 馬鹿め! そして馬鹿め!」

 ある意味で正論ではあるが、ある意味でとんでもない持論をぶつけられた上、左右の指を交互に差され、馬鹿めと二度言われたロシルは顔を引きつかせながら怒りのオーラを醸し出す。

 「ふ……ふふ、ふふふ。そう、馬鹿にしているのではなく、あんたは私に気を使っている訳だぁ? そうなんでしょう? ねぇ? 死にゆく者」

 普通の者なら死を直感するほどの怒りを溢れさせるが、大三郎は全く気にする様子も無く、寧ろ、ロシルに対し更に憤慨する。

 「こんの、たわけがぁあ!」
 「た、たわけぇ!?」
 「何で俺がお前だけのつるぺったんを賛美するか! この世の全ての貧乳やつるぺったんの美を賛美してんだ! うぉぉお前には分からんのか!?」
 「何がよ!?」
 「エロスの最高位である巨乳ですら絶対に表現できない至高のエロスを、貧乳やつるぺったんだけが表現できる事を! ぅぅうお前は分からんのかぁあー!」
 「は?」
 「思わずガン見してしまう巨乳の谷間を超えた、チラリズムの最高位! 屈んだ時にネックラインから見えそうで見えない小高い山の頭頂部。平原の頭頂部。そう! いただきを! 見られたかも。と言う事に気付き、恥じらう姿を見た世の全ての男は一瞬にして心を奪われ、恥じらうその顔を見た瞬間に心の中で手を合わせ、ありがたやと浄化する」 
 
 大三郎は手を合わせ目を閉じ、我が人生に一片の悔いなしと言うような爽やかな表情で空を見上げる。

 「……あんた。馬鹿でしょ?」
 
 普通の人なら口にしないような事を平然と言い放ち、手を合わせながら目を閉じ空を見上げる大三郎を、ロシルはほうけた顔が混じるあきれた顔で見ながら呟く。

 「馬鹿で何が悪い!? 本当の事を言って馬鹿だと言われるのなら俺は馬鹿で良い! もう一度言うが、無駄に大きくしようとするな! そんな事をするより、貧乳やつるぺったんという美を手に入れている己自身を誇れ! この世の殆どの男は巨乳より貧乳やつるぺったんを愛でている。愛している。決してロリコン枠で愛でているのではない。成人女性の貧乳は美であり、つるぺったんは聖域なのだから!」

 大三郎は握りしめた拳を高らかと上げ、似ても似つかないが敢えて言おうカスであるとな演説をぶちかます。

 「分かったわ……」
 「え?」
 「分かったわ」
 「わ、分かってくれたか!? 流石、夢と希望を与える存在つるぺったんだ!」
 「えぇ、あんたを八つ裂きにしても足りない男だと」
 「良かっ、え?」
 
 ロシルが顔を上げ笑顔で大三郎を見るその目には光が無い。
 
 「今まで私にそこまで言った男はいなかったわ」
 「そ、そうですか」
 「ふふ……えぇ、いなかった。ふふふ……」
 「あは、はは……は」
 
 大三郎は思う。(ハイライトオフってただの死亡フラグじゃないよね。君に決めた的な死亡確定ロックオンフラグだよね)と。 

 「八つ裂きにしたいけど敬意を表してどんなふうに死にたいか、あんたに決めさせてあげる」
 「決めたくないです!」
 「じゃあ、……八つ裂きにしてやるわ!」
 
 ロシルは発した言葉と同時に大三郎に襲い掛かる。と同時に大三郎は羽織っていたマントを両手で勢いよく開く。
 それは見事なまでの変質者そのものだった。

 「!!!!」

 ロシルはコート以外は何も着ていない大三郎に驚いたが、更に男性のソレを初めて見た所為もあり驚きのあまり足がもつれ大三郎に飛び込むだけになった。

 「いたた……。ん?」

 大三郎に飛び込んだロシルは自分の顔に”ぷにん”と触れるほんのり暖かく、今まで感じたことの無い感触に思わずそのぷにんとした柔らかいモノを握った。

 「はうっ!」

 自分の頭の上で大三郎らしき声がすることに気づき、ぷにんとした柔らかいモノから顔を離し見上げると、大三郎が頬を赤らめながら何とも言えない表情で悶えている。
 一瞬、ロシルは大三郎が何故そんな気持ち悪い表情をしているのか分からなかったが、マントを両手で開き仁王立ちしている大三郎の前に、自分が両膝をついた姿勢でいる事と、大三郎の股間辺りに自分の顔がある事に気づく。そして、ゆっくりと自分が何を握っているのかソレを見る。

 「????」
 
 顔の数センチ先にあるかを理解するのには時間は掛からなかった。
 
 「!!!!!」

 ハイライトオフだった目はグルグルと渦を巻く。

 「ぴっ! ぴぴぴぴぃにゃぁあああああああああああ!!」

 ロシルは大三郎の小型ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲めがけビックバンアタックを放つ。

 「うぎぃやぁぁあああああああ!!!!」

 30年以上も守り続けてきた小型ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲にビックバンアタックを喰らい、夢と希望、理性やら恥じらいやら何か色々と吹き飛んだ。


 
 拝啓 父上様

 今、僕は異世界で真理の扉について考えています。
 絹ごし豆腐のような繊細な黄金ボールに、エムっぱげの必殺技をピンポイントで放たれ三途の川っぽい所に逝きました。
 そこには扉があり、鎧の本体である弟君が素っ裸で体育座りをしていました。 
 同類を見つけて燥いでいる僕を弟君は頑なに拒絶するばかり。
 埒があかないので、一旦落ち着くため扉について尋ねると、真理の扉だと教えてくれました。
 この扉は女性の心理も教えてくれるのかと尋ねると、素っ裸の弟君は、酔っぱらった上司に絡まれる女性社員のような苦笑いをするばかり。
 仕方が無いので自分で扉を開き女性の心理を教えてもらう事にしました。
 扉は少ししか開かず奥は暗くて見えませんでしたが、沢山の目と手があり、ようこそ、身の程知らずのバカ野郎と言われたので少し開いた扉の中にオシッコしました。殴られました。
 気が付くと扉も弟君もおらず、僕は地面に寝転がり空を見上げていました。
 どこからか聞き覚えのある声がするので、声のする方を見ると、つるぺったんが何やら騒いでいます。
 そろそろつるぺったんの相手をしなければならないので、この辺で失礼します。

 貴方の親愛なる息子より。


 「あ、あ、あ、あんたぁああ!! 私に何を触らせたのよ! 汚らわしい!」
 「汚らわしくはない……。おいなりさんだ」
 「お、おいなりさん?」
 「何を触らせたと聞いただろう?」
 「え、えぇ」
 「私のおいなりさんだ」

 ロシルはおいなりさんという物が何なのか分からなかった。

 「な、何よそれは?」
 「お前、おいなりさんを知らないのか?」
 「知らないわよ! それよりもあんた――」
 
 大三郎はロシルの罵倒に一切耳を傾けず、自分の世界に入ってしまっているように独り言を呟く。

 「そうか……知らないのか。そうか……」
 
 何事も無かったかのように近づいて来る大三郎から距離を取ろうと立ち上がろうとしたが、大三郎のナニを握ってしまった事が、想像よりも遥かに精神的ダメージを受けていたようで足が思うように動かない。要は腰が抜けてしまっていたのだ。

 「あ、足が、うそ、何で? 力が入らない」
 「そうか……知らないのか。そうか……。だったら教えてやろう!!」
 「く、来るな。来るなぁあ!」
 「ロシルと大三郎の未知との遭遇!」
 「い、いや、嫌ぁああ!」
 
 大三郎は両手を後頭部で組み、腰をくねらせながらロシルにゴキブリの如き猛スピードで近づいて行く。
 そして間近に迫った時、大三郎は飛び上がった。

 「必殺! ジャンピングオイナリホールドゥ!!!」
 「ひぃっ!」

 「ライトニング!」

 その刹那、声と共に閃光が迸り轟雷が鳴り響いた。

 「アびバ!!」
 
 大三郎は落雷の直撃を受け、叩き落とされた蠅のようにロシルの前で地面へ激突する。
 何が起きたのか理解できず、煙を出して突っ伏している大三郎を呆然と見ていると、エスカが声を掛けてきた。

 「大丈夫ですか?」
 「ねえさま……? 姉様! ど、どうしてここに居るのです?」
 「どうしてと言われましても。そうですね……、強いて言えばこうなる事が分かっていたから、と言っておきます」
 「こう……なる?」
 「はい」
 
 エスカはそれだけ言うと、煙を出して突っ伏している大三郎の下へと歩いて行く。
 目を離した隙に何かやらかすと思っていたら案の定である。
 大三郎を叩いたらすぐリトットへ向かう予定だったが、エスカは少し予定を変更することにした。

 「杉田様。貴方は救世主ですか? ただの変態ですか?」
 「………」
 「杉田様の目的は何ですか? 世界を救う事ではないのですか? それとも異世界で変質者になる事なのですか?」
 「……頭を踏まれる事ではないとだけ言っておきます」
 「そうですか。では、いい加減、自覚、して、ください」
 「頭を、何度も、踏みつけないで、いただけません、か?」
 「杉田様がロシルにした行為は青星なら即警察沙汰ですよ? 理解してますか? 異世界だから何をしても良いと思っているのですか?」
 「……いえ。思っていません。ですから、頭の上に乗らないでもらえませんか?」
 「口答えですか? 図々しいですね」 
 「……いえ。図々しいとかそんな事ではないと思うんです」
 「では、何ですか?」
 「いい加減、降りろと言う事です」
 「私が降りたら杉田様は立ち上がるではないですか」
 「そうですが何か問題でも?」
 「立ち上がりその小汚い粗末なモノを私に見せる気ですか? 考えただけでも虫唾が走ります」
 「……エスカさん」
 「何ですか?」
 「ヤキモチですか? ヤキモチですね?」
 「は?」
 「俺のネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲DXを他の女性に見せたからヤキモチを妬いておられるのですね? 分かります」

 エスカは無言のまま大三郎の頭から降り歩き出した。
 
 「ふふふ、エスカよ。そうならそうと早く言ってくれ、この照れ屋さんめ」

 大三郎はそう言いながら立ち上がろうと片膝をついた時だった。エスカはくるりと大三郎の方へ向き直ると走り出した。

 「さぁ!! エスカよ! 俺の股間を思うぞんバぶミ!!」
 
 走り出したエスカは大三郎の片膝を台にし、真空飛び膝蹴りに近いシャイニングウィザードを顔面へと叩き込む。
 遠のく意識の中、大三郎は思うのだった。

 (エ、エスカ……ガチはダメでしょう……ガチは……)


  
                ◇
 


  大三郎一行は、自分達の為にパニティー達が作ってくれたと言う寝床に来ていてた。
 マリリアンとの謁見後、妖精達が一時間も掛からない内に作れる物だからと、ハンモックや葉っぱを敷き詰めた簡素なベットを想像していたのだが、案内されたのは巨大な大木の中。
 中央の島にある巨大な神木よりは小さいが、それでも巨木の幹の太さは一般住宅並みの太さ。
 更に大三郎達を驚かせたのは、大の大人が余裕で何人も入れる巨木の中に、市販しててもおかしくない木製のちゃんとしたベット、果物や木の実や飲み物が置いてあるテーブルと人数分の椅子、それだけではなく、二階に上がる階段まである。
 これには大三郎達も素直に感動し子供のように燥いだ。

 最初はロシルの要件を済ませようとしたのだが、ロシルの話によるとマリリアンの許可が無いとお目当ての妖精に会う事が出来ないと大三郎は知る。
 森全体の結界や森の生命線とも言える泉の維持のため、常に発動している魔力とは別に、怒り狂ったアウレリアから守り、溺れかけた大三郎を救うため魔力を使い過ぎたマリリアンは回復のため暫く自室から出れない状態だった。
 その事をロシルに告げる。

 「妖精の事は姉様とお会いする口実ですもの別に構いませんわ」

 そう言いながらティーカップを上品に口元へ運ぶ。
 大三郎はその仕草を見て、ソフィーアとは別な種類のお嬢様だと悟る。
 
 「んじゃ、今日は帰ってまたおいでよ」
 「何でですの?」
 
 せんわ。ですの。口調をアニメ以外で初めて聞く大三郎は、込み上げてくる感動を押さえるのに必死だった。が、冷静な時は口癖のように、ですの。口調になるロシルと会話を続ける。ただ聞きたいがために。

 「何でって。今日、エスカが帰って来るとは限らないよ? それでも俺達とここに居る気なのかい?」
 「……。そうですわね。姉様、帰って来ないかもしれませんわね……」

 ロシルは見るからに落ち込んでしまった。それはもう、ズーンという効果音がピッタリなほど。
 その落ち込みようを見た大三郎は、慌てて自分の言葉を訂正するようにロシルを励ます。

 「ま、ま、まぁ、ほら、うん、今日帰って来るかもしれない。ね? エスカって仕事できそうじゃん? パパッと終わらせてくるかもしれないし。な? 元気出せって。甘い物でも食ってさ」
 
 そんな話をしていると、パニティーが二階にあるメルロとソフィーアの寝室から降りて来ていた。
 
 「スギタ、甘いモノが食べたいのか~?」
 
 パニティーはそう言いながら大三郎の下まで飛んで行き肩に腰を掛ける。

 「ああ。何かないかな? 台所があれば俺が何か作るんだけど」
 「スギタって料理できるの?」
 「ちょっとだけな。10年以上、一人暮らしなもんでね……ふふ……ふ」
 「スギタ? 何で泣く?」 
 「目に鼻水が入っただけさ……」
 「スギタは器用だな。あはは。あ、プラームならすぐ持って来れるぞ? 食べるか?」
 「プラーム!? あるのですか?」

 プラームと言う言葉を聞き目を輝かせるロシル。

 「え? うん。人間の女も食べるか?」
 「ええ! 勿論、頂きますわ!」

 
 この後、冒頭に繋がる出来事が起きる事になろうとは、この時点で誰も想像すらしていなかった。
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